平成20年7月10日
文化庁著作権課
問1.補償金制度の縮小に関する将来の構想についてはどのように考えているのか。
答.
- 5月8日の文化庁提案は、著作権保護技術が有効に機能している場合は原則として補償金制度による補償の必要性はないとしつつも、著作権保護技術が有効に機能していない音楽CDからの録音及び著作権保護技術は有効に機能するが特別な経緯がある無料デジタル放送からの録画について、当面、補償金制度で対処しようとするものである。
- したがって、例えば、音楽CDに代わる次世代オーディオへの転換やいわゆるダビング10の更なる変更のように権利者の要請等に基づき新たな著作権保護技術が施され、機能するようになってきた際には補償金制度の廃止の条件が整うものと考えられる。
- 更に、文化庁提案では、補償金制度の縮小とともに、「他の方法による解決」を提案している。具体的には、消費者の利便の確保等を前提に、契約により私的録音録画にかかる対価の支払いを実現していこうとするもので、条件が整ったところから、著作権法第30条第1項の範囲の縮小を考慮していこうとするものである。早期に文化庁提案を実現するためには、例えば契約実務の見直しに関する研究会を設けるなど、関係者間の合意形成の場を文化庁が設けることなども考慮する必要があると考える。
- なお、このような条件の整備は、技術の発達、市場の調整、関係者の協議の進捗状況等に委ねられるものであり、現時点において、あらかじめ存続期限を決定するようなことは適切ではないと考えているが、適切なタイミングで制度の有効性について検証することは必要であると考えている。
問2.文化庁提案では、補償金制度の対象とする分野を音楽CDからの録音及び無料デジタル放送からの録画に限定するとしているが、今後拡大するおそれがないといえるのか。
答.
- 録音源録画源については、パッケージソフト、ネット配信及び放送に大別される。
- このうち、パッケージソフトからの録音録画については、録音に関しては、音楽CDはパソコン等に対して著作権保護技術が有効に機能しない実態だが、次世代オーディオに転換する際に補償の必要性がなくなると考えられる。また録画については、もともとパッケージソフトは原則複製禁止であり、今後このビジネスモデルが変更される可能性は少ないし、また仮に変更があるとしても権利者の要請に基づかない著作権保護技術が業界ルールになるとは考えられず、制度の拡大は考えにくい。
- ネット配信のうち、適法配信からの録音録画については、基本的に契約に委ねられる分野であり、中間整理においても、著作権法第30条第1項の適用範囲外にすることが適当とする意見が大勢だったとされている。
- なお、違法パッケージソフト又は違法配信からの録音録画については、中間整理においては、第30条第1項の適用範囲外にすることが適当とする意見が大勢だったとされている。
- 放送については、補償金の対象は、権利者の要請によらない著作権保護技術であるダビング10が施される無料デジタル放送を受信して行う録音録画や、有線放送又はIPマルチキャスト放送を利用した地上デジタル放送の同時再送信であってダビング10が施されているものを受信して録音録画を行う場合(アナログ放送を受信して行う録音録画は補償金の対象)に限定される。有料放送を受信して行う録音録画や当該放送を受信して行う有線放送又はIPマルチキャスト放送を受信して録音録画を行う場合は補償金の対象外である。なお、放送を受信して通常インターネット網で同時再送信し録音録画をするようなビジネスモデルは放送業界で想定されていない。
- 以上の点から、補償金制度の拡大のおそれの懸念は払拭できていると考えられる。
問3.無料デジタル放送からの録画における補償の必要性がなくなる場合とはどのような場合か。
答.
- 総務省の情報通信審議会第4次中間答申によれば、今回のダビング10の実施については、あくまでも暫定的なルールとして位置付けられており、将来における見直しの可能性を示唆している。
- 無料デジタル放送における著作権保護技術のあり方については、典型的な業界ルールであり、将来の見直しにあたっても、権利者を含めた関係者の話し合いによって、新たなルールが定められるものと思われる。
- その際、本小委員会において文化庁提案に沿った合意が成立すれば、権利者側の要請は補償金制度を前提としないものとなるところから、当該要請又は権利者側も含めた関係者の自由意思による合意に基づく新たなルールが決定すれば、当該ルールの内容を問わず補償金の必要性はなくなると考えられる。
- なお、文化庁提案では、補償金制度を前提としたルールの合意の成立を否定してはおらず、仮に権利者以外の関係者が補償金制度を前提としたルールを提案し、そのような合意が成立した場合は、補償金制度は存続することになる。
問4.業界ルールと個別ビジネスモデルの仕分けはどうするのか。
答.
- 業界ルールというのは、同一の利用形態について、個々の権利者の選択権が確保されているかどうかにかかわらず、業界が定めた統一的なルールに基づき著作権保護技術が決まっていることを指す。次世代オーディオや無料デジタル放送の場合が典型的な例である。
- 個別ビジネスモデルというのは、著作物等の提供事業者ごとに独自の著作権保護技術を用いて事業を実施している場合をいい、ネット配信の業界が典型的な例である。
- 個別ビジネスモデルと業界ルールとの関係については、例えば、ある事業者の個別ビジネスモデルが多くの関係者の賛同を得、ある業界の標準的なルールに事実上なった場合についてどのように考えるのかなど、関係者から様々な指摘があることは承知しているが、仮に適法配信を受信して行う録音録画が、権利制限規定の対象外になった場合は補償金制度の対象外となるので、両者の関係を厳格に整理する必要はないものと考える。
- なお、前述の例示の場合は権利者の要請に基づく業界ルールとは言わないが、個別ビジネスモデルの考え方に基づき、補償の必要性はないと考える。
問5.業界ルールについて、権利者の要請がない場合とはどのような場合か。
答.
- 次世代オーディオや無料デジタル放送における著作権保護技術のあり方に代表されるように、いわゆる業界ルールの策定にあたって、権利者の要請がない場合は想定しにくい。いわゆるダビング10の場合は、無料デジタル放送は公共性がより高い分野であり、しかも既存の技術を変更してまでも政策的な判断として緩和を求められた分野であり、例外的措置といえる。
- 文化庁提案においても、業界ルール策定の際の「権利者」については、コンテンツの利活用を管理しているコンテンツホルダーである権利者又はその団体としているところから、コンテンツに利用されている権利者又はその団体が関与していないことはあっても、コンテンツホルダーである権利者又はその団体が業界ルールの策定に関与しないことはあり得ないのではないかと考えている。
問6.いわゆる技術的保護手段を認める権利者の意思と文化庁提案の「権利者の要請」との関係はどのようになっているのか。
問7.いわゆる技術的保護手段を認める権利者の意思は、私的複製の許諾の意思ではないのか。
答.
- 中間整理では、技術的保護手段を認める権利者の意思は、「あくまで一定の著作物等の提供にあたり利用者が利用可能な範囲を技術的に限定する意図であり、その範囲内の録音録画について無償利用を認める意思まで含まれているとはいえない」としている。
- これは、私的使用のための複製については、著作権法第30条第1項により、権利者の権利行使が強制的に制限され、権利者は許諾の対価である使用料の支払い請求ができないことから、権利制限規定を前提とする領域においては、権利者の利用許諾の意思があるとまではいえないという考え方に基づくものである。
- 「著作権法逐条講義 五訂新版」(加戸守行著)における、「著作権者は技術的保護手段を用いることで、家庭内で行われる私的な複製に対しても許諾権を及ぼせることになりました」という記述は、許諾権の内容の一つである著作物の無断利用を禁止するということが、技術的保護手段により物理的に実現できるようになったことを指しているものであり、当該技術の範囲内の利用について、利用の許諾があることまで説明しているとは考えていない。
【参照条文】
(定義)
第二条 |
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
- 二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、又は送信する方式によるものをいう。
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問9.当面の暫定措置である補償金制度における補償金額並びに補償料率は趨勢的に減少していくものと理解しているが、文化庁の考え方はどうか。
答.
- 制度改正後の補償金の額がどの程度になるかについては、問8のとおりであるが、その後の補償金額の推移については、補償金の対象機器等(注)の発展・普及の動向等に左右されることになるが、文化庁では、当該機器等の発展・普及動向が予想できず、現状では明確な回答はできない。
- (注) 私的録音録画補償金制度の具体的制度設計について(案)(平成20年5月8日)で補償金の対象とされている分離型専用機器と専用記録媒体及び録音録画機能が附属機能でない機器のうち記録媒体を内蔵した一体型のもののことを指す
- なお、景気等の要因により対象機器等の購入が進まない場合、録音録画機器等の発展・普及動向の変化により、補償金の対象機器等の使用割合が相対的に低下する場合等は、補償金額の減少を招く要因として考えられる。
問10.評価機関の運営方法と権限はどのようなものか。
答.
- 評価機関の任務は文化庁提案のとおりであるが、対象機器等や補償金額の決定について現行法の仕組みを維持する場合、評価機関を何らかの処分権限を有するものとして制度上位置付けることは法制上の制約が多く困難と考えているが、例えば文化審議会著作権分科会の一機関と位置付けることなどにより、評価機関の関与を制度上明らかにすることは可能と考えている。
- また、評価機関は新しい制度の円滑な実施のために関係者のコンセンサスを形成する重要な機関と考えており、例えば本小委員会での合意によって運営等のあり方をあらかじめ決めておくことなどにより、関係者のコンセンサス形成と迅速性を重視した適切な運営がなされるようにしていきたい。
問11.主たる用途の要件の明確化や一体型機器の対象化によって補償金制度の対象機器等が広がるおそれがないといえるのか。
問12.プレイスシフト・タイムシフトの評価を明確にすべきではないか。
答.
- プレイスシフト・タイムシフト自体の評価については、中間整理でも記述されているように関係者間で意見の相違があるところである。
- しかしながら、同時に中間整理では、プレイスシフト・タイムシフトによる経済的不利益が充分立証されていないとしても、利用者が行う私的録音録画は一般に特定の利用形態に限定されているわけではないことから、「一人の利用者が行う私的録音録画の全体に着目すれば経済的不利益を生じさせていることについてはおおむね共通理解がある」としている。
- また、中間整理では、「プレイスシフト・タイムシフトなどの要素は補償金額の決定に当たって反映させるべきであるとすることについてもおおむね異論はなかった」とし、プレイスシフト・タイムシフトが権利者に与える経済的不利益は、他の利用に比べて小さいとの合意が得られている。
- 以上の点から、プレイスシフト・タイムシフト自体の評価について明確にすることが望ましいことは言うまでもないが、このことを明確にできなくても、録音録画の実態から補償の必要性については一定の関係者の合意が形成されていると考えている。
問13.一体型機器はプレイスシフトやタイムシフトしか用途がないのではないか。
答.
- 例えば、記録媒体を内蔵した録音機器は、一般的に、自ら購入した音楽CDのみならず、レンタルCDや友人・図書館等から借りたCDからの録音等にも利用されることも多いと考えられ、一体型機器がプレイスシフトの用途に限定されるわけではない。なお、HDDやメモリが大容量化している現状を踏まえれば、一つの一体型機器に対して多くの録音源から多様な録音が行われる傾向が強まることになると考えられる。
- また、録画媒体を内蔵した録画機器についても、一般的に、単純に時間をずらして視聴するだけでなく、長期的に保存して繰り返し視聴したりするための録画等に利用されることも多いと考えられ、一体型機器がタイムシフトの用途に限定されるわけではない。なお、HDDが大容量化している現状を考えれば、記録媒体に録画するまでもなくHDD内に保存目的で録画しておくといった利用方法が今後ますます増加すると考えられる。
- 以上のことから、一体型機器であっても、プレイスシフトやタイムシフト以外の用途にも充分利用されるものと考えられ、中間整理において整理されたプレイスシフト・タイムシフトの評価は、一体型の機器等の場合においても同様に当てはまると考えられる。