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著作権法上の技術的保護手段は、「権利者の意思」に基づき用いられるものであることが要件である(第2条第1項第20号)。ある録音録画制限手段を施したシステムに権利者が著作物等を提供するということは、当該要件を満たす限りにおいて、権利者は、当該技術的保護手段の下でどのような録音録画が可能かについて一定の予見は可能である(注3)。 |
○ |
ただし、この「権利者の意思」はあくまで技術的保護手段の内容を決める意思であるので、「許諾の意思」すなわち「無償で著作物等の利用を認める意思」とは異なる。利用者の録音録画が第30条の範囲内であり、権利者と利用者の間で利用許諾に関する契約を結べず、使用料の徴収ができないということであれば、技術的保護手段の内容等に照らし、経済的不利益の有無を考えていく必要がある。 |
○ |
この点について、次のとおり類型ごとに整理した。
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権利者が録音録画禁止を選択した場合、経済的不利益はないものと考えられる。 |
イ |
録音録画回数等に一定の制限があるものの、その範囲内の録音録画は認める場合 |
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一定の範囲内で私的録音録画を認めることは権利者も支持、許容するものであり、著作権保護技術の多くは、私的録音録画自体を制限するというより、通常の利用者の必要とする利便性は確保しつつ、デジタル録音録画された高品質の録音録画物が第30条の範囲を超えて私的領域外へ流出するのを抑制するという意味が強い。 |
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○ |
イの場合について、どのような場合に経済的不利益が生じ、どのような場合に生じないのかについて、意見が分かれている。関係者の意見を整理すると以下のとおりである。
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著作権保護技術の現状では通常の利用者が必要とする第30条の範囲内の録音録画はできるので、3(1)の基準に戻って権利者の経済的不利益及び補償の必要性は判断すべきであるという意見 |
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著作権保護技術は録音録画回数等の上限を決めるものであり、その範囲内の録音録画は第30条に基づき行われるので、オーバーライド契約により私的録音録画の対価を徴収できる場合は別として、補償措置が不要であるという議論に直ちにつながるものではない。また、現状では権利者が主体的に、かつ自由に著作権保護技術を選択できる場合は少ないので、著作権保護技術が施されていれば、権利者はその範囲内の録音録画から補償を求めるべきでないとするのは不適切である。 |
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権利者は提供された著作物等がどのような範囲で録音録画されるかを承知の上(著作権保護技術の内容により想定できる)で提供しているので、重大な経済的不利益はなく、補償の必要性はないとする意見 |
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著作物等が暗号化されたうえで録音録画されているパッケージ商品、デジタル放送、ネット配信サービスなどは、著作権保護技術により利用者の録音録画が想定されており、また当該信号等は権利者の意思に従い付されているので、録音録画の制限回数に係わらず権利者に重大な不利益は与えていない。 |
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○ |
上記のとおり、著作権保護技術と権利者が被る経済的不利益の関係については、意見の相違が見られるところであるが、仮に の見解に立ち、現状では補償の必要性があると判断したとしても、著作権保護技術は変化しうるものであり、その内容いかんでは補償が不要となることも考えられる。試案として次のような整理が提案されている。
) |
著作権保護技術の効果により私的録音録画の総体が減少し、一定の水準を下回ったとき(→私的録音録画が著作権保護技術によって厳しく制限されれば、権利者の不利益も少なくなるため) |
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具体的には、利用者に許された録音録画回数等(例えば権利者の不利益が少ないといわれるプレイスシフト、タイムシフトのための回数が一つの目安と思われる)が厳しく制限される著作権保護技術が広く普及した場合である。 |
) |
著作権保護技術の内容について権利者の選択肢が広がり、コンテンツごとに関係権利者の総意として権利者側が選択権を行使できるようになり、そのような実態が普及したとき(→権利者がその意思に基づき私的録音録画をコントロールできる場合には、その結果として生じた録音録画は権利者にとって不利益を生じさせないため) |
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○ |
権利者が録音録画回数等について自由な選択権を持つか、 )のような厳しい制限を含むいくつかの選択肢から選択できる場合である。厳しい利用制限も含めて選択できたにもかかわらずそうしなかった場合、権利者に経済的不利益が生じるかもしれないが、それは権利者の受忍限度内であり重大なものではなく、補償の必要性があるとまではいえない。 |
○ |
なお、この考え方に対しては、
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私的録音録画が行われれば原則として補償の必要性があるとする意見 |
・ |
厳しい利用制限の選択肢があるとしても市場がこの方法を受け入れなければ権利者はそうした選択ができないこと、著作物等の提供者の優越的地位により、権利者に自由な選択肢が確保されない場合も想定されるので、権利者の意思のみに補償の要否を委ねるのは問題とする意見 |
があった。 |
) |
著作権保護技術と契約の組み合わせにより、利用者の便を損なうことなく個別徴収が可能となり、そのような実態が普及したとき(→録音録画の対価を確保できる状況となるため) |
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著作物等の提供者と利用者の契約によって処理されるケースが主要となり、それによって経済的利益を確保できるようになった場合である。 |
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○ |
なお、著作権保護技術と補償金制度が併存する状態であったとしても、著作権保護技術の影響度を補償金額や、場合によっては対象機器等の特定に反映することについては、おおむね異論はないものと思われる。 |