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資料12

ユネスコ「文化多様性条約」策定に向けた動き

九州大学 河野俊行

 これまでの文化多様性条約起草専門家会議の概要

 当会議は、2003年12月17〜20日、2004年3月30日〜4月4日、及び5月28〜31日の3回、いずれもユネスコ本部で開催された。
第2回会議に先立って、各専門家に条約試案の起草依頼があった。5日間の議論の結果、オプションは含みながらも、なんとか条約の体裁をとる試案が出来上がり、第3回会議でさらに詳細が議論され、ユネスコ事務局がそれをドラフティングに反映させることとなった。
 なお6月中旬にユネスコ事務局が草案をもってWTOを訪問する由であり、それまでに各専門家への案のフィードバック・コメント要請があるものと思われる。7月中旬にはユネスコ加盟国に草案が配布される段取りである。

 専門家会合における個別論点について

(1) 目的・原則
(2) 文化的財・サービスの特殊性
(3) 他条約との関係
(4) 主な定義
1) Cultural goods and services
2) Cultural Policy
(5) 国家の権利義務
1) 国内における国家の権利・義務
2) 国際レベルにおける国家の権利・義務
(6) 知的所有権について
(7) 条約の機構
(8) 紛争解決機関
(9) 国際協力
(10) Coordinationについて
(11) Clearing houseについて
(12) Cultural capitalについて
(13) その他、追加すべき点

 政府間会合に向けて

 今回の会合で改めて確認できたことは、純粋の貿易の論理では議論はかみ合わないということである。推進派の意図は、WTOルールとの関係では問題がでることを知りつつ、クオータ・補助金・preferential treatment等を導入し、文化多様性について判断する独自のフォーラムをユネスコに作り、そこでケース・ローを積み上げてWTO等他の機関が参照するように方向付けたい、ということにある。そこでは「cultural goods and services」の特殊性を強調することで貿易とは異なる土俵に議論を持ち込んだ上で、独自の論理を構築しようとしている。これに対して貿易の論理を正面からもってきても議論はかみ合わず、貿易の論理をもって来るとしても、それが文化にとって意味があるのだという形で、文化の土俵で通じる議論に変容させて持ち込む必要がある。アメリカの専門家が1,2回目の会議で展開しようとしたのはまさにそれであった。彼の論理は自由競争こそが文化的goods/servicesの質を高め、文化の多様性を推進するのだ、ということにあった。しかしそれは反米主義もあいまって、他の専門家を説得するにはいたらなかった。筆者も、今回、IT,適用範囲の明確化、人権といった貿易とは別の論理での議論をこころみたが、今後わが国が貿易の論理を主張する場合、以上の点に配慮した戦略が必要である。
 そこで必要となるのが、貿易の論理とは別に、文化の面からする検討である。我が国にとっても、抽象的に、文化多様性を国内外で実現していくという哲学について異論はないと思われるが、それを我が国の文化政策の中にどう位置づけていくのか、この条約をどのように戦略的にいかしていくのか等、についての基本スタンスを確立する必要があるように思われる。


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