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文化審議会

2003年5月27日議事録
国語分科会読書活動等小委員会(第3回)議事要旨

国語分科会読書活動等小委員会(第3回)議事要旨

平成15年   5月27日(火)
14時   〜   16時30分
霞山会館   「霞山の間」

〔出席者〕
    (委員)甲斐主査,舘野副主査,阿刀田,臼井,岡部,勝方,工藤,齋藤,手納,小林各委員(計10名)
  (文部科学省・文化庁)山口国語課長,氏原主任国語調査官,鈴木国語調査官,中神国語調査官ほか関係官

〔配布資料〕
       第2回議事要旨(案)
     市川市における読書活動の取組について

〔参考資料〕
  1−1 読書活動を推進するための取組事例について
  1−2 参照資料(ホームページ,新聞記事 等)
  ヒアリング資料   市川市における読書活動の取組について
  工藤委員提供資料1 子どもたちとの接点を持つ出版社・専門店リスト
  工藤委員提供資料2 子どもの本専門店はたとえばこんな企画をたてている
    工藤委員提供資料3 子どもの本専門店について……5人の店主に聞いたこと……

〔経過概要〕
       事務局から,配布資料の確認があった。

     前回の議事要旨について確認した。

     小林路子氏(市川市教育委員会指導主事)による意見発表があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。

     工藤委員から事例紹介と説明があり,その後,他の委員との間で意見交換が行われた。

     事務局から参考資料1−1,1−2について説明があり,その後,読書活動を定着・発展させるための取組について,協議を行った。

     第4回の小委員会は,6月13日(火)の午前に開催し,その午後には国語教育等小委員会の委員との合同小委員会ないし懇談会を行うことが検討中であることが確認された。

     協議における主な意見は次のとおり。


(1)小林路子氏の意見の要旨
     幼い子に対する絵本の読み聞かせの有効性は,私自身も子育てを通して実感していたが,村上淳子氏の『本を読んで甲子園に行こう!』・河合隼雄氏等の『絵本の力』などの本から,高校生や大人でも絵本の効用があることを知った。そのような経験から,今では市内の中学校の先生に,中学生に対する読み聞かせを勧めている。
     市川市はもともと読書活動が盛んだったが,それは行政サイドの施策によるところが大きい。2代前の教育長は「花いっぱい,歌声いっぱい,読書いっぱい。」のキャッチフレーズで様々な環境整備を行ったが,中でも小学校全部に司書を置くことが読書活動推進のかぎになった。司書は2割が常勤で,その他は学校図書館員という非常勤だが,学校に専任者がいることが大事である。
     また,市川市では学校図書館そのものの市民開放は行っていないが,四つの小学校に学校図書館とつながった構造の市民図書室を併設している。その市民図書館は週3日開館し,大人は市民図書館の部分だけ,子供は両方利用できるようにしている。そこでは1館につき約100人のボランティアが活動しており,貸出業務だけでなく,読み聞かせや人形劇などのサークル活動も行っている。そのボランティアには,保護者や卒業生だけでなく地域の人々も参加してくれている。さらに市川市では,全部の小学校に読書ボランティアを置き,読書活動推進に当たっている。
     学校の図書館に人を配置したことで利用者は増えているが,図書館の広さは限られるので,学習で必要な本をすべて備えることはできない。この不足に対処するために司書や学校図書館員がそれぞれで行っていた本の貸し借りを組織的にする必要を感じ,そこで平成元年から学校間の本の貸し借りや検索を可能にする図書館ネットワークを研究し始めた。
     市川市では本の貸し借りを「物流」と呼んでいる。週2回公立図書館から配送を始め,市内の学校60数か所を一巡した後,教育センターに業務報告を行っている。外部委託業者の軽トラック2台で巡回しているが,小学校をはじめ幼稚園,そして県立高校2校も参加した大きなネットワークになっている。昨年度は約5万冊の本が貸し借りされたが,数は減少している。その原因は,本を総合的な学習の時間に使うため貸出しができなかったり,インターネットや校内LANの充実によって調べ学習に必ずしも本が必要ではない環境が整ったからであろう。しかし,本好きな子を育てないと,調べ学習もインターネットの利用もできないと言うことができる。また,「物流」の配送業務は外部委託しているが,システムができても人がいないとうまく動かないもので,「物流」がうまくいったのも各校に司書が配置されているからこそである。
     探したい本を依頼する際には,書名ではなく,学習内容や活動内容又は行事内容を書くという形を取っている。例えば小学校4年生の総合的な学習で「ごみを減らす」というテーマを設定して依頼する。それを各学校の司書や学校図書館員,更に公共図書館の司書が見て選書するため,様々な角度から選別された本が集まることになる。そして,使って良かった本は,自分たちの学校の図書館にも置くようにするのである。
     読書活動についても各学校で学校図書館を利用した学習の年間指導計画を作成し,それを集約して,どこでいつごろどのような本が必要となるのかを把握して活動を行うようにしている。
     実践例としては,妙典中学校が「保育」の単元で幼稚園児に絵本の読み聞かせを行ったり,鬼高小学校では校舎中を図書館にし,学校として読書を中核に位置付けて本に触れる機会を自然なものにしている。どれも読書と教科がスムーズに連携した活動である。市内全部がこのようにうまくいっているわけではないので,更に広めていきたいと考えている。
   
(小林路子氏と委員との意見交換/○は委員,□は意見発表者を示す。)
   ここに挙げられているのは,うまく行っている例で力強いが,うまく行っていない所は何が問題なのか。
   
   「長」になる人の方針がはっきりしている必要がある。学校では校長,市町村では教育長の意識が大事である。また,コンピュータ化やデータベース化は進んでも図書館に人がいないと動かないし,人がいても片手間にやってできるものではない。
   
   調べ学習での利用が多いようだが,子供が自分で読みたい本を注文できるのか。
   
   子供の自発的リクエストも受け入れており,学校を通じて公共図書館の本も借りることができるようにして読みたい本が手に入るようにしている。調べる活動では,各学校で取り組む内容が重なる場合もあり,貸し借りできないこともある。一方で,読書祭り,読書週間,読書月間などを設けて読書そのものへの関心を高めるなどの取組も盛んで,むしろ,本は読書そのもののために利用されることの方が多い。
   
   司書の配置についての質問だが,「非常勤」とはどのような形態か。
   
   非常勤は年間150日出勤で,週3〜4日勤務している。
   
   
(2)工藤委員の説明の要旨
     子供の本の専門店といっても,子供の本が中心という書店から子供の本も置いているという書店まであり,千差万別である。特に専門にやっている書店は小規模な所が多く,経営が成り立たない所もある。経営者は女性が多く,書店経験者がいないのが特徴である。それら経営者が書店を始めた動機のほとんどが,子供のころ体験した読書の楽しさを伝えたいというものである。しかし,その2〜3割が3〜5年で閉店しており,ファッション的感覚では長続きしない。資料に挙げた5店は10年を超えて続いているが,もうけは考えず,どうすれば子供に面白がってもらえるかを追求していくことで続いている。このような専門店にとってのネックは,横のつながりがないことと資本的苦労であるが,成功者は,逆に規模の小ささを逆手にとって,お互いの顔が見える良さや手作りの良さを生かした経営を行っている。また,重要なことは,子供自身が本を選ぶことを徹底できているかというところにある。
     資料「子どもの本専門店について……5人の店主に聞いたこと……」に挙げた5店は様々な活動を行っている。例えば,生徒に読書を勧める前に先生に率先して読んでもらい,先生・生徒全体の意識を変える取組。地域の教育長と協力し本の市場を作り,子供が選んだ本を誕生日に村の予算でプレゼントする取組。好きな本を寝転がって読むことができるスペースを作り,読書を新しい遊びにしようとする取組。好きな本を抱えて旅に出る,「本旅プラン」と名付けた取組。母親に読書の楽しさを知ってもらい,そこから読書活動を広げる取組。子供たちが自分の読みたい本を投票で選ぶ選書会を作り,読書活動に活気を生み出す取組などがある。
   
  (工藤委員と委員との意見交換/○は委員,□は意見発表者を示す。)
   この読書活動等小委員会が提案していくことに参考になるものは何か。
   
   学校や図書館,そして地域との結び付きや,活動の場作りである。
   
   本を自由に読める書店であるようだが,万引きや紛失の心配はないのか。
   
   全部目線に入っているのでその心配はない,子供の動きは全部把握している。子供には「汚さないでね。」と言う程度である。
   
   
(3)自由討議における意見の要旨
   この委員会は読書活動を定着・発展させることが目的であるから,読書活動に継続的に取り組めて,子供が自分から本を読むようになる事例を紹介することが大切である。
   
   三点ある。一つ目は,読み聞かせは子供が自力で読めるようになったらやめるべきなのか,続けるべきなのかということ。二つ目は,読む本や絵本もある時期を過ぎると,子供から大人へのステップアップが大事ではないのかということ。三つ目は,家庭で眠っている子供の本の保管や活用を意識的に行うことは大切ではないかということ。この3点目で言うと,広島県のフェニックスプランは良い試みである。
   
   読み聞かせは,小中高それぞれ必要であり,絵本は小学校高学年や中学生にも喜ばれている。ステップアップの時期についても読み聞かせと同時並行的に考え,ある時期から大人のものも入れていくことが必要ではないか。
   
   時期については,親や学校の先生が線引きをしてこの本は何歳までとしてしまっている。線引きをするのではなく,是非,混合という形で考えたい。また,良書を選定して与えるのではなく,自分で本を選び失敗してしまった体験がある方が本を好きになれる。
   
   並行的に進むことに賛成である。読み聞かせは大人にも楽しいものだ。問題は,小学生のころ本を読んでいた子供が,成長すると読まなくなってしまうことにある。その溝を埋めることが大事である。教科書に収録してある分量では本が読めるようにならず,教科書も徹底的に見直す必要があるのではないか。総ルビを振れば小学生も読みたくなる作品があり,また,著名な作家の作品に慣れさせることも重要である。副読本という形で大人が読む作品を小中学校に取り入れていくことを提案したい。
   
   今回事務局から紹介された様々な読書活動の取組事例は,先進的なものである。しかし,それを参考にし,保育園,幼稚園,小学校,中学校と広がりを持った取組をしないとただの事例で終わってしまう。「長」が自覚した上で実践し,行政指導なども必要である。高校生になると本を読まなくなるというが,受験が絡む段階からそうなるようで,中学校の中間ごろ,あるいは高校のころから極端に読まなくなることに対する突破口をどうするかが問題である。
     国語教育等小委員会でも,成長のそれぞれの段階でどのような能力が大事なのかの位置付けを議論している。ここでも発達段階と読書の方法や読む本の内容を関連付けていけると良いのではないか。
   
   毎日新聞の調査で,高校生の5月1か月の読書量を尋ねたものがあるが,高校生の言語生活について全体的な調査が欲しい。
   
   高校生が読まないのは当然で,一つは忙しいからである。雑誌など関心のあるものは読んでおり,大学生も同様である。本を読めと言っても,時間がないので無理ではないのか。第一,本を読んで何が良くなるのかが大人に答えられるのか。押し付けると逆に遠ざかるものである。古典を読めと言っても,子供にとって面白いものではなく,かえって気分が暗くなるのではないか。漫画の方が明るく前向きで,元気が生まれる。
   学校教育の中では,子供が読みたいものと,子供に読ませたいものにはずれがある。そもそも子供の読みたいという気持ちに教科書がこたえているのか。そこに根本的な問題がある。
   
   例えば小学生と高校生とどちらが新聞を読んでいるのか。親の姿を見て子は育つというが,大人,特に子供の保護者が本を読んでいるのか。そのような調査も欲しい。本を読むようにするには,最初の入口は聞かせることにあると考えられるのだから読み聞かせを重要視すべきである。
  「長」の問題としては,学校教育や社会教育においても子供が読書にかかわるような行事を増やしていくことが必要である。単に読みなさいではなく,他の要素も加えて,興味を持って自ら読みたいという気持ちにさせることが大事である。議論だけではなく,機会や行事を増やし実際にやっていくべきで,どうすれば地域で活力を持って行えるのかを議論する必要がある。
   
   読み,書きは車の両輪である。テーマを与えられても書けないとなれば,そのテーマについてもっと知ろうとして読書に向かうものである。作文や論文,手紙などを書く必要に迫られると自然と読書をするようになるので,表現させることで読むことにつながると考える。
   
   茨城県教育委員会の「みんなにすすめたい一冊の本」という取組は評価できる。教師から本を押し付けては失敗する。私は大学生同士でブックリストを作らせ他人に紹介することによって,全員が本を読むようになった経験を持っている。10分程度の時間の中で,大学生同士が一人当たり5〜6人と本の紹介をし合うのだが,友人が薦める本は読む気になるようで,読書活動には効果的である。本を紹介する形式を整えて,それに気に入った本の一文を選んで書いてもらい,みんなに薦めたい一冊の本のリストを作っていく方法が良いのではないか。
  また,大人自身が本を読む姿勢を見せることが必要で,「長」や教師の「お薦めの本リスト」を定期的に公表させるようにしても良いのではないか。
   
   「読み聞かせ」という言葉は,子供に「聞かせる」という使役の形に取られがちで,目線が上から下であり良くない。私としては,一緒にやろうという姿勢で「読みっこ大会」などとして大人も子供も同じように読書活動を行うのが良いのではないかと思う。読書活動は各地で様々な事例があるが,それらのノウハウはなかなかほかには伝わらず,ほかでどうやっているのか知りたいという要望もある。それをキャッチフレーズを付けるなど分かりやすく伝えるネットワークができないのか。
   
   読書活動には的確なキャッチフレーズが必要だ。また,文部科学省も「指導」ではなく「活動」としており,できるだけ使役の形は避ける言葉を使うべきである。
   
   文化庁内に読書活動のホームページを作ることは可能か。読書好きな人が書き込みをできたり,具体的な工夫を載せたりしたホームページなどがあれば良い。
   
   国語分科会としてホームページを一つ立ち上げて,いろいろな情報を入れていけば,読書活動が広がるのではないか。
   
   文章を書く側からの見方も必要で,民間の出版社の企画ででも,著名な作家30名ほどに各自の読書経験を書いてもらい公表するというのはどうか。私の場合は,落語の「ちはやぶる」が原点にある。小5のころに読んだがとても面白く,それから百人一首,古典,源氏物語へと幅が広がっていった。教師も副読本等を使って多彩な試みをし,子供に興味を持たせるようにすべきで,良い指導者がいれば読書活動は進んでいくはずだから,子供を指導できる人がいることが大切である。教科書に載せる作品については,時代に対して少し後向きでも良いのではないか。
    テレビと読書の関係も忘れてはならない。子供だけでなく大人も含めて読書に与える影響は大きいはずである。もともと活字を排する形で出てきたテレビであるが,読書がそれとどうかかわるかを考えていくべきである。テレビに出たことにより売れた本もあり,若者文化や知識吸収に多大な影響があるテレビとどう折り合いを付けるかは重要な問題である。
   
   国語教育等小委員会で,テレビを見ても前頭前野は働かないので,3歳まではテレビばかり見せないで母親の語り掛けを重視すべきであると聞いた。活字で考えることと映像がどう絡むのかについて考える必要がある。
    市川市の事例で,読書活動には場の提供や本の貸し借りという「物流」が必要なのは理解できた。ただ,本は総合的な学習で利用されている場合が多いようで,個人の読書や成長という本来の読書活動とのかかわりは余り出てこなかったように感じられた。
    国語教育等小委員会では,情緒や思考,知識の形成について,発達段階別に考えるような方向に行っている。この委員会も発達段階と結び付けた具体的議論に踏み込むべきである。
   
   この委員会は,まずは「読む」という行為に力点を置いて進んでいる。そして最終的には,本を読んだ,それにより国語力が身に付くという方向に持っていくのが良いであろう。
   
   二つ問題がある。一つは,小中高とそれぞれに発達段階があるので,それに応じて読書の仕方や読む本も違ってくるのではないかということ。もう一つは,この委員会で取り上げている読書活動とは,思索・文化・教養を深める自国の文化を継承していく読書だけを指すのかということ。そうすると,調査研究や課題解決のために本を読むことを読書活動とは言わないのかという疑問である。調査研究のための本読みも読書活動として位置付けてほしい。
   
   調べる活動から入る方が,言葉が頭に入りやすい。両方とも読書活動として位置付けるべきである。
   
   私は調べるために本を読むということは切り捨てなくてもよいが,読書としては例外で,楽しんで読んで日本語を理解する活動が本来の読書活動だと考える。基礎はそういう読書にあり,7割はそちらの方を考えたい。本当に必要になった時に読めるために若いうちの読書が必要である。
   
   やはり調べる読書は別に考えるべきである。
   
   この小委員会では,文学や小説を薦めるのではなく,いかに国語力を高めるかを考えることが大切である。論理的思考力や理解力を育て,意見を述べる力を身に付けるためには,調べる学習は重要である。塾で忙しい今の中学生や高校生に小説を読まない子がいても,調べる読書で論理力が高まれば,国語力が付いたということになるのではないか。


(文化庁文化部国語課)

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