(1) |
損害賠償制度の見直し |
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法定賠償制度について
(積極意見)
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無断インターネット送信については、侵害となる送信の回数の把握が困難であるため、送信可能化権侵害については、損害が逸失利益と直接結びつかない可能性があるため、現行規定では権利の実効性が十分に担保できないとの指摘があり、10万円の損害額を法定すべき。 |
(慎重意見)
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法定する額の根拠が明らかでない。 |
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送信可能化権侵害の「損害」が何なのかを検討すべき。 |
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著作物の種類による「損害額」の違いを「法定額」にどのように反映させるか慎重に検討すべき。 |
(その他)
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複製権等他の著作権侵害にも法定賠償制度を導入する必要はないか。 |
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侵害の数量の推定規定について
(積極意見)
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侵害者による販売数量の把握・立証が困難であるため、原告が立証できた数量の2倍の数量を推定して賠償請求を認めるべき。このようにすれば、被告側も原告が立証した数量と同量の立証(反証)責任を負うため、公平である。 |
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侵害者が立証できない場合には損害の2倍を払う危険を負担することになり、許諾を取った者と取っていない者との公平性の観点を確保できる。 |
(修正意見)
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少なくとも立証された部分を上回る損害があるのではないかと疑わしい状況であることを要するべき。 |
(慎重意見)
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統計的数字を根拠とするのではなく、「公平」の観点から「2倍」とすることについて検討が必要。 |
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3倍賠償制度について
(積極意見)
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権利者側における侵害行為対策費用は膨大であり、損害賠償額として通常の使用料相当額の請求だけでは、その損失を補填することができないことから、通常の3倍の賠償請求を認めるべき。 |
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著作権侵害の量は飛躍的に増加しており、現行の刑事罰規定だけで十分な抑止効果が働いていないことから2倍の賠償請求を認めるべき。 |
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事前に許諾を取る者と侵害した者が同額を支払うのは公平ではない。侵害者は正規のライセンス料より多く支払うべきであり、この2倍又は3倍の賠償請求を認めるべき。 |
(慎重意見)
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侵害対策費用のような恒常的費用は損害賠償で補填すべきものではない。 |
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違法行為の抑止は刑事罰で対応するべきという我が国の法制と相容れない。刑事面にどのような問題点があるかを精査し、その改善ないし運用強化によって対応すべき。 |
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懲罰的損害賠償制度を認める外国判決の承認・執行における影響を考慮すべき。 |
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抑止のために科した金額が権利者に支払われる理由が不明である。 |
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損害賠償制度の見直しに関連し、これらのほか、権利侵害者が得た利益を権利者に還元させるために、不当利得や準事務管理の考え方を用いることを、著作権法第114条第2項(旧第1項)との関係に留意しつつ検討すべき、という意見もあった。 |
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(2) |
権利侵害行為の見直しについて |
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間接侵害規定の導入の必要性
(積極意見)
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演奏会場提供事業者、音源提供事業者、カラオケ機器のリース業者、CDのプレス事業者など、著作権侵害に間接的に関与する者に対して、侵害を予防するための協力を得るため、このような者も侵害者と認める規定を確認的に導入すべき。 |
(修正意見)
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差止請求については、不法行為に基づく請求権が認められていないため、制度改正が必要かもしれないが、その場合でも対象を限定する必要がある。 |
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CDのプレス事業者や書籍の印刷業者など、業務にあたり著作物の内容まで把握しない事業者まで著作権侵害者と認めるのは適切ではないので、主観的要件を求めるなど、対象を限定すべき。 |
(慎重意見)
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損害賠償については、判例によって、間接的に関与する者に対して共同不法行為責任が認められており、現行規定で対応可能である。 |
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演奏会場提供事業者を著作権侵害者とみなすこととすると、表現手段の提供を予め制限することになり、「表現の自由」や「検閲の禁止」など憲法上の権利との関係も問題となるので、その点も踏まえて検討すべき。 |
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侵害とみなす行為の見直し
(積極意見)
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「侵害とみなす行為(著作権法第113条第1項)」の要件である「頒布の目的をもつて」「情を知つて」の主観要件については、実質的根拠がないことから削除するべき。 |
(慎重意見)
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特許や商標のように公示制度がない著作権について、商品の適法性を常に確認しないと購入できないとなると、取引の安全を害することになり、不適切である。 |
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主観要件について、裁判所の認定が厳しいとの指摘があるが、個々のケースに応じて柔軟な判決が出されている。 |
(その他)
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みなし侵害については、事後に頒布の目的が生じた場合、頒布ではなく「上映」を目的として所持した場合、現物ではなくその複製物の頒布を目的として所持した場合などについて、判例が認めている例もあるが、法整備が必要。 |
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(3) |
差止請求制度の見直しについて
(積極意見)
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著作権侵害の差止請求について、起訴後に侵害を停止したとしても、「侵害するおそれがある者」とみなす規定を設けるべき。 |
(慎重意見)
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侵害を任意に停止したからといって、本案訴訟で差し止めの利益が認められないという例は、ほとんどないというのが実態である。 |
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この問題は著作権や知的財産固有の問題ではないため、民事訴訟全体の問題として検討すべき。 |
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「おそれがない」のに認められた請求権は法的にどのような意味を持つのか不明である。 |
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権利者側の立場だけでなく、被告側の視点に立った検討も必要である。 |
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(4) |
罰則の強化について
懲役刑・罰金刑の引き上げについて
(積極意見)
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著作権侵害には悪質なケースもあることから、刑罰の引き上げを検討すべき。 |
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「業として」行うもののみを侵害とする特許法との並びを考えても、営利目的などに限定して引き上げることは検討すべき。新たな類型を設けることで、実務における意識が変わり、重い罰が科されるようになるかもしれない。 |
(慎重意見)
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過去2度に渡って罰金額が引き上げられたが、実際に科されている罰金額はほとんど変わっていない。上限額を引き上げたとしても、実際に科される金額が変わらないのであれば、抑止効果には疑問がある。 |
(その他)
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略式起訴によって50万円以下しか科されないことが問題なのであるから、むしろ上限を定めるより下限を引き上げることを検討すべき。 |
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懲役と罰金の併科について
(積極意見)
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懲役刑でも執行猶予が付いた場合には、侵害者にはなんの罰則も与えられないこととなり、略式手続によって罰金刑が科される者より実質的に軽い処分となることから、懲役の場合でも罰金を併科できるようにすべき。 |
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懲罰的効果、抑止的効果が民事の役割ではなく刑事の役割とされている我が国において、刑事に抑止効果を期待するしかない。罰則規定の引き上げによる効果が期待できないことから併科には賛成である。 |
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