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2   検討の結果

   大学における著作権教育の在り方について

   平成15年1月の文化審議会著作権分科会審議経過報告(以下「審議経過報告」という。)では、大学における著作権への関心度が必ずしも高くないことや大学の自主性を尊重することなどに言及した上で、「著作権に対する意識の向上」や「研修の充実」について、著作権教育への支援に当たっての一般的な考え方が報告された。
   本年度は、文化庁としての著作権教育へのより具体的な支援方策を検討するため、大学において望まれる著作権教育の在り方について検討し、大学が著作権教育を行う場合の留意点について次のとおり整理した。

(1)    一定のカリキュラムに基づく著作権教育の必要性
   大学は、教職員、学生など多様な立場の者が所属していることから、例えば著作物の創作においても、大学の著作物(法人著作)に該当するものから、教員・学生等の研究成果物(論文、レポート、芸術作品、コンピュータ・ソフト等)に至るまで、多種多様なものが創作され、利用されている。

   また、大学は教育機関であり、非営利団体でもあることから、著作物等の利用においても、著作権法で権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる場合(例えば、私的使用のための複製(第30条)、図書館等における複製(第31条)、引用(第32条)、教育機関における複製(第35条)、試験問題としての複製(第36条)、非営利・無料の上映・演奏等(第38条)など)に該当する利用形態も多く、権利者に無断で著作物等を利用できる場合とそうでない場合が混在しているという特徴がある。

   このように大学においては、著作物等の創作・利用に関し、複雑な知識を必要とすることから、特に大学が教職員に対して行う著作権教育においては、著作権等に関する複雑な取り扱いについて、わかりやすく教えることができるように工夫された一定のカリキュラムに基づく継続的な教育が必要である。

(2)    大学事務局等による研修等への支援
   大学は教育機関であることから、多様な方法で著作権教育を行うことができる。例えば、教員が学生に対し行う「教養教育」や「専門教育」等の授業や、大学事務局や情報処理センターが教職員・学生などに対して行う研修の中で、著作権教育を行うことが可能である。
   しかし、これらのうち「授業」の中で教員が行う著作権教育については、基本的には教員自身の自主性に任されるものであるため、関係者による大学への支援を考えるに当たっては、大学事務局等が行う教職員・学生に対する研修等を中心として考えるべきである。

(3)    学生に対する著作権教育の工夫
   学生に対する著作権教育は、単独の授業として取り扱われることは難しいので、情報管理教育や法令遵守教育の一環で行うことが効果的である。
   この場合、著作権侵害によって本人や所属する団体等が被るリスクの説明、不適切な著作物等の利用についての身近な事例の紹介、学生自身の論文や研究成果に「コピーOK」など意思表示マーク(自由利用マーク)を試しに付けてみるなど、学生が著作権を身近に感じ、理解しやすい方法で行うことが効果的である。

(4)    著作権教育の核になる人材の養成
   大学において著作権教育を円滑に実施するためには、著作権教育の重要性を認識し、中心となって研修会の企画や関係者への指導を行えるような人材が必要である。
   このような人材を大学単独で養成することは難しい面もあるが、大学によっては知的財産権に詳しい人材を多く有しているところもあり、著作権に対する幅広い知識を持ち、学内において研修会等の企画を行えるような能力を備えた人材を養成するプログラムの開発と早期の実施が必要である。

(5)    契約システムの導入による教職員の資質の向上
   大学においては広報誌、情報誌、紀要、論文集などの作成や共同研究の成果物の取り扱いなどに関し、著作権等に関する契約を結ぶ機会も多く、例えば学内の標準契約書の作成など契約システムを構築する過程で、同時に教職員の資質の向上を図っていくことも考えられる。

   地方自治体・社会教育施設等の公的機関等が実施する著作権教育への支援の在り方について

   「審議経過報告」では、地方自治体・社会教育施設等の公的機関等が実施する著作権教育事業に対する支援の重要性について言及し、これらの機関等が有機的な連携協力を保ち、地域全体として著作権教育事業を展開するため、
   自治体・社会教育施設の職員等を対象とした研修の拡大
   地域において著作権教育事業を企画・実施できる人材の育成
   各地域における著作権教育のための指導法・教材等の開発・提供等
の方策の実施の必要性が報告された。

   本年度は、文化庁としての著作権教育へのより具体的な支援方策を検討するため、地方自治体・社会教育施設等において望まれる著作権教育の在り方や地域社会の中で著作権教育を行う場合の留意点について検討を行ったが、この分野における著作権教育についても、1(3)の視点を除き、大学の場合と基本的に同じであると考えられる。

   特に地域向けの著作権教育は、学校・大学を除いたとしても、行政機関、図書館・博物館・美術館・公民館、地元企業などの職員向けのものから、地域住民のための生涯学習の一環として行われるものまで様々である。したがって、対象者をある程度分類した上で、受講者の関心事項や業務の遂行に当たって要求される著作権知識のレベルなどに配慮した一定のカリキュラムを作成した上で、著作権教育を実施することが望まれる。

   企業等における著作権教育の在り方について

   「審議経過報告」では、「企業関係者を対象とした著作権教育のためのプログラムの開発は遅れており、ニーズの多様性に配慮しつつ、企業関係者向けのプログラムを開発していく必要性がある」と報告されたが、昨年度は充分な検討が行えなかったことから、本年度は、企業等において望まれる著作権教育の在り方について、次のとおりより具体的な検討を行った。

(1)    企業の分類
   著作物等の創作及び利用に着目し、企業の分類を行うと、大きく分けて
      [ア] 中心的な業務として著作物等の創作又は利用を行っている企業
      〈企業例〉    レコード会社、映画製作会社、放送局、新聞社、出版社、広告代理店、ソフト制作会社など
      [イ] 業務の中で付随的に著作物等の創作又は利用を行っている企業
      〈創作・ 利用例〉   会議資料としての著作物のコピー、広報用資料の作成・配布、イベントでの著作物等の利用
の2つに分類される(事業部制などをとっている企業では、事業部ごとに[ア]と[イ]が混在している。)。

(2)    分類ごとの著作権教育の在り方
   企業については、一般に営利目的で著作物等を創作・利用していることから、学校・大学・地方自治体・社会教育施設等のように他人の著作物等を無断で利用できる場合がほとんどないため、著作権教育の内容は比較的単純であると考えられる。しかしながら、業種によって関心のある分野が違うことや、例えば役員等の責任者であるか一般職員であるかなどによっても教育すべき内容が異なることなどから、ある程度、分野や対象者を分けて、教育内容を考える必要がある。

   [ア]に該当する企業については、著作物等の創作・利用が日常的であるため、著作権に関する意識は一般的に高い。このような企業では、一般に継続的な社員教育も行われており、基本的には、個々の企業又は業界団体の責任で、著作権教育を行えばよいと考えられる。

   一方、[イ]に該当する企業についても、法令違反による企業イメージの低下を防ぐため法令遵守教育のひとつとして著作権教育が行われている場合もあるが、多くの企業では、著作権に対する関心は高くなりつつあるものの、どのように著作権教育に取り組んでよいのかわからないというのが現状である。

   [イ]に該当する企業についても、著作権教育の実施主体は原則として個々の企業や業界団体であることはいうまでもないが、著作権教育に関する現状から考えると、個々の企業や業界団体が独自で著作権教育を行うことのできる水準に達するまでは文化庁等の支援が必要と考える。また、その支援の内容については、大学における著作権教育の在り方を参考に、研修カリキュラムの作成や人材養成への支援を中心に考えるべきである。




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