ここからサイトの主なメニューです

資料2−2

平成15年6月30日   大森一男


ライセンス対抗における保護の範囲について


1.    ライセンスの独占性
(論点)
独占的ライセンスの「独占性」は保護すべきか。
(要望)
ライセンスの「独占性」を保護することは適当ではないと考える。
(備考)
1 日本の著作権に関する独占的ライセンスの「独占性」は、著作権法に根拠を持たないライセンサー/ライセンシー間の契約上の約束事(契約により異なりうるが、一般的には「第三者にライセンスをしない/自己利用をしない」というライセンサーの不作為義務。)であり、著作権法上は、独占的ライセンスは非独占的ライセンスと同様に著作物の単なる利用権である(たとえば出版権のような排他性をもたない。)と考えられる。従って、仮にライセンサーがこの不作為義務に違反して第三者にライセンスを許諾しても、ライセンサーが独占的ライセンシーに債務不履行責任(解除/損害賠償)を負うことは格別、第三者に許諾されたライセンス自体は有効と考えられる。
2 ライセンスの対抗制度の一環として、上記のような性格のライセンスの「独占性」を著作権の譲受人との関係でも保護するとすることは、次のような理由から適当ではないと考える。
(イ) 著作権法に基礎をもたないライセンサー/ライセンシー間のライセンスの「独占性」に関する合意(下記(ロ)でも触れるように、契約自由の原則下、この合意の内容等は様々と思われる。)を立法的に保護することの妥当性。
(ロ) 仮に、独占的ライセンスの「ライセンス」の側面のみならず、その「独占性」をも保護するとした場合、著作権の譲渡取引の安全のため、独占的ライセンスの公示(または独占的ライセンスの存在を譲受人として承知していたこと)が必要であると考えられるが、独占的ライセンスの公示を前提としても、契約自由の原則下、独占的ライセンスの具体的内容等は契約ごとに区々であり1 、その確定は各ライセンス契約ごとの解釈を要することから、ライセンス契約の当事者ではない著作権の譲受人としては、ライセンスの「独占性」を理由として負担するなんらかの規制の具体的内容を把握する困難があること。
(ハ) また、ライセンスの「独占性」の保護を理由として仮に対抗制度として「B案(登録方式)」を採用するとしたときは、対抗制度の実効性が失われること(なお、「A案(書面契約方式)」においても、独占的ライセンシーのライセンス自体―著作権法上の利用権―は保護対象)。
3 なお、著作権の譲渡にともない、上記のような性格の独占的ライセンスの「独占性」を非独占的ライセンシーとの関係でも保護しようとすることは、独占的ライセンスの基本的変質を意味するものであり、行うべきではないと考える。

2.    契約期間
(論点)
ライセンスは次のどの期間について保護すべきか。
1 契約の基本期間
2 自動更新期間
3 ライセンシーに延長権のある期間
4 ライセンサー/ライセンシーの別途の合意により延長が可能な期間
(要望)
1から3までの期間は保護すべきである。また、4については、著作権の譲渡前にライセンサー/ライセンシー間ですでに延長の合意があった期間は保護すべきである。
(備考)
1 契約の基本期間は、ライセンスの時間的範囲をとりあえず画する基本事項である。自動更新条項のある場合については、更新の拒絶がなされない限り契約は自動的に継続することから、自動的に更新された期間については、ライセンサーからこのような更新期間も含めた許諾が当初からあったとみることができる。ライセンシーに期間の延長権がある場合も同様で、契約はライセンシーの意思表示によりライセンサーの同意を要せず延長されることから、ライセンサーからは、このような延長期間も含めた許諾が当初からあったといえる。ライセンサー/ライセンシー間の別途の合意により期間の延長が可能な場合については、著作権の譲渡前に延長の合意があったときは、このすでに合意された延長期間は譲受人との関係では契約の基本期間と異ならないが、著作権の譲渡後にライセンサー/ライセンシー間で延長の合意をしたときは、これは著作権を有しない者(譲渡人)によるあらたな(著作権法上の利用許諾の効果を生じない)許諾行為といわざるをえないと思われる。
2 ライセンシーとしては、投資の保護等の観点から、当初意図したライセンスの時間的範囲については、引き続き保護されることが必要である。一方、著作権の譲受人においても、既存ライセンスの存続期間中も著作権の自己利用/第三者への利用許諾は制限されないほか(なお、独占的ライセンスの「独占性」は、上記1.で述べたように保護するのは適当でない。)、著作権の譲渡人の責任を問うこともできることから、上のような時間的範囲で既存ライセンシーの保護がなされたしても、不合理な負担をしいられたことにはならないと思われる。(なお、下記5.で述べる理由から、自動更新条項に付随する更新拒絶権については、その行使を著作権の譲受人にも認めるよう立法的に措置するのが適当と思われる。)
3 以上のことから、上記「要望」欄にある期間については、ライセンシーは保護されるべきと考える。なお、契約によっては、契約終了時の保有在庫等について契約終了後のライセンシーの処分権限を規定したものや、契約期間中に頒布等した許諾製品につきライセンシーが契約終了後も保守等することを認めるものがある。このような場合、契約終了後のライセンシーの行為については、契約の一般的な期間とは別に特別の期間が設けらているとみるべきであり、かつこれらの行為はライセンスにもとづく事業の実効性を担保するため必要であることから、当然に保護されるべきと考える。

3.    保守・保証義務等
(論点)
保守・保証義務等(ライセンシーからみれば権利)は保護すべきか。
(要望)
保護すべきでない。
(備考)
1 ライセンサーの保守義務(許諾ソフトのバグ修正/バージョンアップソフトの提供等)および保証義務等(許諾権限、品質/性能、第三者権利非侵害の保証や権利侵害主張が第三者からなされたときのライセンサーの免責義務など)については、これらの義務がその履行のために必要な人的・物的資源の存在を前提するものであること、著作権の譲渡取引は多様な文脈の中で行われうること等から、単なる著作権の譲受人にこれらの義務を当然に負担させるのは困難であるとともに合理性にも欠けると考えられる。ライセンシーとしては、ライセンサーとの契約時にソースコードの預託(エスクロー)等のリスク軽減措置を求めるほか、ライセンサーの責任を問うてゆくのが現実的な選択肢と思われる。なお、譲受人がライセンサーの事業とともに著作権を譲受けた場合において、ランセンシーを含む関係者間の合意にもとづき、契約関係も著作権の譲受人に承継されることがあることは別論である。
2 著作権の流通(著作権を資金調達の用に供することを含む。)という観点からも、仮に著作権の譲渡に保守・保証義務等が当然に付随するとした場合には、大きな萎縮効果が生じると思われる。従って、著作権の譲渡にともない保守・保証義務等は保護すべきでないと考える。

4.    サブライセンス権
(論点)
サブライセンス権は保護すべきか。
(要望)
保護すべきである。
(備考)
1 情報財のライセンス取引においては、ライセンシーの子会社に対するサブライセンス権(すなわち、ライセンシーが子会社にサブライセンスを許諾する権利)2が許諾されるのが通例であり、また許諾ソフトの流通態様を考慮したサブライセンス権の許諾(たとえば、ライセンシーがそのデイストリビュータに対しサブライセンスを許諾する権利の許諾)も行われる。これらのサブライセンス権は、ライセンシーにとってはライセンスの目的を達成するために必要であるほか、その性格もライセンシーに許諾されたライセンスに依拠したものであること等から、ライセンシーが対抗力のあるライセンスを保有している限り、そのサブライセンス権も保護されるとするのが適当であると考える3
2 著作権の譲受人としても、サブライセンス権の継続を認めることにより著作権の自己利用や第三者への利用許諾を制限されることはなく、また何らかの作為義務を負担させられるわけでもない。従って、サブライセンス権は保護すべきと考える。
3 なお、このサブライセンス権にもとづき実際に許諾されたサブライセンスは、ライセンサーの承諾にもとづき許諾されたものであることから、著作権法上の利用権として著作権の譲受人との関係でも当然に保護されるべきである(それ自体が対抗要件をそなえることを条件として)。

5.    ライセンス対抗の具体的な意味合いについて (付記)
(論点)
著作権の譲渡があった場合、対抗力のあるライセンスを規定した契約関係も著作権の譲受人に承継されると考えるのか。
(要望)
契約関係は承継されない形で、ライセンスの対抗理論は構築されるべきである。
(備考)
1 著作権のライセンスを著作権の譲受人に対抗できることの具体的な意味については、民法第605条(不動産賃貸借の対抗要件)に関するような説明(すなわち、著作権の譲渡にともないライセンス契約は著作権の譲受人に当然に承継され、ライセンサーは契約関係から離脱するという考え方―ライセンシーはかかる契約の承継を拒むこともできるが、その場合は自己のライセンスは保護されない。)は、次のような理由からとるべきでない(かつとりえない)と考える。
(イ) 情報財のライセンス取引は、いわゆるライセンス契約のみならず、技術提携契約(クロスを含む。)、共同開発契約、開発委託契約等の様々な契約の重要な一部として行われる。一方の当事者による著作権の第三者への譲渡にともない、これらの契約関係も第三者に当然に承継されるとすることは、元の契約の相手方のみならず(これらの契約には、通常、契約譲渡の禁止規定が含まれる。)、著作権を譲受けようとする者の通常の期待にも反すると思われる。
(ロ) ライセンスの対価という点に着目しても、ライセンシーが単にロイヤルテイをライセンサーに支払うという単純な形態のものにととまらず、ライセンスの対価としてライセンシーがその株式等をライセンサーに発行・譲渡するもの、またはライセンシーがその情報財等の利用をライセンサーに許諾するもの(クロスライセンス)等、情報財のライセンス取引は多様な形態をとる。ライセンサーがその情報財を第三者に譲渡した場合に、ライセンシーが自己のライセンスを保護(対抗)するため、ラインセンシーが本来意図しなかった相手である譲受人に自己の株式等を発行・譲渡し、または自己の情報財等の利用を認める必要があるとしたときは、ライセンス対抗制度の実効性は決定的に毀損されると考える。ライセンスの対価(クロスの場合はライセンシーの保有する著作権にもとづくライセンスの許諾)をうける権利は、それがライセンサーから譲受人に適法に(例えばライセンシーを含む関係者間の合意により)譲渡された場合を除き、ライセンサー(譲渡人)にとどまるべきであり、譲受人の救済は、譲受人とライセンサー(譲渡人)との間で図られるべきと考える。
(ハ) 情報財に関するライセンス取引においては、著作権の利用許諾に関連して、著作者人格権の不行使等の取り決めがなされることが多い。財産権である著作権は譲渡可能であるが、著作者人格権は譲渡不能のため、著作権の譲渡にともない契約関係も承継されるとした場合、この人格権の処理に支障を来すと思われる。
(ニ) 情報財に関するライセンス契約のうち重要なものの多くは外国契約であり、これらの外国契約の準拠法は外国法であることが通例である。日本の著作権の譲渡によりこれらの外国契約も当然に譲受人に承継されるとすることは、無理があるように思われる。
(ホ) 情報財に関するライセンス取引においては、日本のみならず日本以外の著作権も利用許諾されるのが通例である。ライセンス対抗の理論構成については、外国法との整合性がとれたものであることが望ましい(ちなみに、米国著作権のライセンス対抗はライセンス契約の承継を前提としていないと思われる)。
2 なお、著作権の譲渡はライセンサーの破産等にともなうことが多いと思われる。従って、ライセンス対抗の理論構成においては、上記1の点に加え、ライセンサーが破産等を理由として解散した場合においても、対抗力のあるライセンスは影響を受けない構成(すなわち、ライセンサーが破産して著作権は管財人により第三者に売却されたが、元のライセンス契約はクロスライセンスのため第三者に承継されないまま、ライセンサーは解散した場合等においても、ライセンシーが保護されうる構成)がとられるべきと考える4

以上




【用語説明】
   たとえば、ライセンス契約の中には、「ライセンサーは非独占的ライセンスをライセンシーに許諾する。ただし、ライセンサーは契約締結日から一定期間は第三者に同様のライセンスを許諾しない。」というような構成をとるものがある。この場合、この「一定期間」については、「ライセンサーは第三者にライセンスを許諾しない」という内容の「独占的」ライセンスが許諾されたことと何ら異ならない。
サブライセンス権については著作権法に明文の規定はないが、広く行われている契約慣行であり、認められるべきである。
因みに、対抗力を備えた不動産の賃貸借の場合においても、転貸承諾の特約は保護されうる。
ちなみに、上のような事情は、著作権ライセンスの領域にとどまらず、特許ライセンスにおいてその対象である日本特許が譲渡された場合においても同様であると考える。

ページの先頭へ