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資料5

文化審議会著作権分科会
契約・流通小委員会

平成14年10月4日
寺澤幸裕

著作物利用ライセンス契約のライセンシーが有する債権の第三者に対する効力
【米国の法制度の紹介】



第1  第三者対抗関係

  事案0  各事案共通「ライセンス契約」
1   Aは、マンガ家であり、マンガのキャラクターを著作し、現に著作権を有する。
2   Bは、ソフトウェアを開発する会社であり、Aから許諾を得て、キャラクターをデジタル化して素材集のCD―ROMに複製し販売している。
3   A・B間のデジタル化ライセンス契約は、Bがキャラクターをデジタル化し、そのすべての利用を独占的に許諾するものである。
   
  ライセンス契約


  事案1  「二重ライセンス契約」
4   βは、ソフトウェア開発会社であり、Aとの間でデジタル化ライセンス契約(A・B間のそれ(3)と同じ)を締結し、素材集のCD―ROMに複製し販売をしている。
   
  二重ライセンス契約
   
  (米国法による結論)
A・β間の契約が独占的契約かどうかによって若干アプローチは異なる。
A・β間の契約が独占的契約である場合
(1) A・B、A・β間の両契約のうち、先に契約書を締結した方が優先する。但し、後に契約を締結した者に優先するには、後に契約を締結した者が優先する要件((2)参照)を欠いているか、または、先に契約書を締結した契約が次の要件を備えていることが必要である。
(a) 著作権法第205条(c)項に規定される方法によって、契約書が登録されていること
(b) 米国で締結された契約の場合、その契約締結日から1ヶ月以内の登録、米国以外で締結された契約の場合、その契約締結日から2ヶ月以内(これらを以下「グレースピリオド」という)の登録、あるいは後に締結された契約書より先の登録であること。
(2) (1)(a)(b)のいずれの要件も満たされていないときには、後に契約書を締結した方が優先する。但し、以下の要件を備えていることが必要である。
(a) 最初に締結された契約よりも先に登録され、かつ
(b) 善意であり(先に独占的な契約があったことを知らないで登録したこと)又はその旨のノーティスがなかったこと
(c) 相当な対価が支払われているか、ロイヤルティーを支払う拘束力のある約束があること(すなわち、後者が無償の独占契約の場合には、常に先に契約を締結したものが優先する)
   
 

場面

先に契約締結B 後に契約締結β
両方とも登録がない場合 ○(但し、Bがグレースピリオド内に登録せず、かつβがグレースピリオド後に先に登録すれば×) ×(但し、Bがグレースピリオド内に登録せず、かつβがグレースピリオド後に先に登録すれば○)
Bがグレースピリオド内の登録 ×
後者が無償契約であったこと(この場合、登録があってもなくても結論は同じ) ×
後者が前者の独占契約の存在を知っていた又はその旨のノーティスを受けていたこと(この場合、登録があってもなくても結論は同じ) ×
   
 
結論  
  A・B間の契約又はA・β間の契約のうち、劣後する契約は優先する契約に対して対抗できない。従って、優先する契約当事者からクレームをつけられると、劣後するライセンスの権利を行使することができない。この場合、劣後するライセンス契約のライセンシーは、ライセンサーであるAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求、解除権の行使をすることができる。
βがA・β間のライセンス契約を締結するときにBの存在を承知している場合には、βが優先権を主張できないだけであって、Bに対する債権侵害による不法行為は成立しない。
   
  A・β間の契約が非独占的契約である場合
(1) この非独占契約が優先するのは次の場合に限られる(非独占契約が登録されていても登録されていなくても結論は同じ)。
(a) 非独占契約が書面化されており、その書面にライセンスの対象となる権利の権利者又は権利者から正式に権限を与えられた代理人が署名していること、かつ
(b) A・β間非独占契約がA・B間の独占契約とりも先に締結されているか、あるいは、A・B間の独占契約の登録前に、善意で又はその旨のノーティスなくして締結されたこと
(2) 非独占契約が登録されているかどうか、無償契約かどうかは無関係である。
   
  A・β間非独占契約が書面化されていることを前提とすると
場面 A・B間の独占契約 A・β間非独占契約
A・B間の独占契約が先に締結 ○(但し、以下の例外あり) ×(但し、以下の例外あり)
A・β間の非独占契約が後に締結されたが、A・B間の独占契約の登録前に、A・β間非独占契約が善意で又はその旨のノーティスなくして締結された場合 ×
A・β間の非独占契約が後に締結され、A・B間の独占契約登録が先であった場合又はA・β間非独占契約が、A・B間の独占契約の存在について悪意又はその旨のノーティスがありながら締結された場合 ×
A・β間非独占契約が先に締結 ×
   
 
結論
非独占的権利が優先する場合、その権利に関する限りで独占的権利のライセンシーは、非独占的権利のライセンシーの権利行使を受忍する義務が生じる。その場合、独占的権利のライセンシーは、ライセンサーであるAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求、解除権の行使をすることができる。
また、独占的権利が優先する場合、劣後する非独占的契約に基づく権利は優先する独占的契約のライセンシーに対して対抗できない。従って、優先する契約当事者からクレームをつけられると、劣後するライセンスの権利を行使することができない。その場合、非独占的権利のライセンシーは、ライセンサーであるAに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求、解除権の行使をすることができる。
βがA・β間のライセンス契約を締結するときにBの存在を承知している場合には、βが優先権を主張できないだけであって、Bに対する債権侵害による不法行為は成立しない。


  事案2  「著作権の譲渡とライセンス契約」
5   Aは、キャラクターの著作権をソフト開発会社αに譲渡した。
 
著作権の譲渡とライセンス契約

  (米国法による結論)
A・β間の契約が独占的契約かどうかによって若干アプローチは異なる。結論、アプローチとも、事案1とまったく同じである(A・B間の契約を「独占的契約」から「譲渡契約」と読み替えればすむ問題である)。
  なお、Aが著作権について、担保を設定している場合、担保権者とソフト開発会社αは、二重譲渡関係となり、同様の対抗問題となる(担保権者は、担保証書を州などのしかるべき機関に登録するのが常態であるが、著作権の担保の場合、さらに担保証書(契約書)を連邦著作権局に登録しないと後の譲渡人に対抗できないことになる)。


  事案3  「著作権者の破産とライセンス契約」
6   Aは、破産し、破産管財人aが選任された。
 
著作権者の破産とライセンス契約

  (米国法による結論)
1. 債務者Aの管財人であるaが知的財産権 に関するライセンス契約の継続を拒絶した場合、ライセンシーには次の選択権が与えられる(Bankruptcy Code §365(n))。
(1) かかる拒絶により、破産法以外の適用法律又は契約に基づく債務不履行により解除することができる状態に至ったとして、契約を解除する。−この場合、損害賠償請求権が発生するが、それは一般無担保債権になるに過ぎない。
(2) これまでどおり(すなわち、契約期間中及び契約により更新が可能とされる期間中)、ライセンス契約の定めるところに従い、当該知的財産権の使用を継続する(これには、独占権である場合の独占権の行使も可能であるが、具体的な行為を要求する権利は含まれない−たとえば、新しいバージョンを提供する権利やメインテナンスを要求する権利が契約書に謳われていたとしても、ライセンシーは管財人に対して継続的にそれを要求していくことはできない。管財人に対して要求できるのは、単に知的財産権を利用することだけである。)

ライセンシーが(2)に基づく使用継続を選択する場合、ライセンシーは破産手続きの中で書面による使用継続要求をすることが必要となる。かかる要求があった場合の、破産管財人a及びライセンシーBの権利義務は次のとおりである。

破産管財人a
ライセンシーにライセンス契約に従った利用をさせなければならない(利用を妨害してはならない)。

ライセンシーB
契約期間中(契約期間後更新する場合にはその期間についても)ライセンス契約で定められたロイヤルティーを契約に従って全額支払わなければならない。
破産によって生じる損害賠償については、将来の使用料と相殺することができないばかりか、その損害賠償請求権については放棄したものとみなされる(たとえば、バージョンアップの利用及びサポートサービスを受けることができないにもかかわらず、全額のロイヤルティー支払義務が発生するため、たとえばロイヤルティーにサポートサービス料も含まれているような場合、サポートサービス料相当分についてはライセンシーの損害となる。また、ライセンシーの破産裁判所への申立費用、弁護士費用についても損害となるが、これも破産管財人に対して請求することは許されない。)

2. 破産管財人がライセンシーによる権利行使を拒絶しない間は、ライセンシーによる書面に基づく要求に基づき、破産管財人は、ライセンス契約に規定している範囲内で
(1) かかるライセンス契約の履行をし、あるいは、
(2) 管財人が有している知的財産権をライセンシーに利用させなければならない。
破産管財人は、かかるライセンス契約にもとづくライセンシーの権利を妨害することは許されない。


(参考) 参考法令


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