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資料4

海賊版の広告行為に関する論点まとめ(案)

1. 検討の必要性

 現在、インターネットオークション等を利用して、著作権等の権利侵害物品(以下、「海賊版」という。)を販売するための広告行為が行われ、海賊版の取引を助長しているとの指摘がある。現在の著作権法第113条第1項第2号においては、

1  権利を侵害する行為によって作成された物又は輸入物を、情を知って「頒布する行為」
2  さらに、頒布行為を権利侵害行為とみなすだけでは、頒布の相手方の協力がなければ、頒布の相手方等まで特定して立証することが必ずしも容易でないことから、権利の実効性を期するため、頒布の前段階の行為に着目し、(権利を侵害する行為によって作成された物及び輸入物を、情を知って)「頒布の目的をもって所持する行為」

を、権利を侵害する行為とみなしているが、頒布の前段階の行為である譲渡の申出などの海賊版を広告する行為については侵害行為とはみなされていない。

 しかし、インターネットを活用した広告行為は、チラシやカタログの配付、ダイレクトメール等の従来の広告手法と比べて、広告伝達範囲の広さや取引の迅速さなどの面で、権利侵害を助長する程度が高く、対策の必要性が指摘されている。

 また、プロバイダ責任制限法(注1)において、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利を定めているが、適用要件として、「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」が必要となる。しかし、著作権法においては、広告行為それ自体は権利侵害に当たらないため、広告行為は「情報の流通によって権利の侵害があった場合」に該当せず、プロバイダ責任制限法による情報の削除や発信者情報の開示が行われず、海賊版の流通を防止することが困難になっているという実情がある。

 以上の観点から、海賊版の広告行為を権利侵害と位置付ける法的措置を検討する必要がある。

(注1)  特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)

2. 広告行為に対する現行法の対応の可否について

 海賊版の広告行為として想定される行為の基本となる類型としては、次のような場合が考えられる(その他、これらの組み合わせの形態も考えられる)。【次ページ図】

行為類型1: 広告行為者が海賊版を所持し、販売している場合
行為類型2: 広告行為者が海賊版を受注するが、海賊版の所持・販売は別人格が行っている場合
行為類型3: 広告行為者と海賊版所持者が別人格で、海賊版所持者が受注・販売する場合
行為類型4: 広告行為者と海賊版所持者が別人格であるが、両者には特別な関係(例えば、親会社と子会社)があり、海賊版所持者が受注・販売する場合
行為類型5: 広告行為者が発注を受けてから、海賊版を製造・販売する場合

 現行の著作権法第113条第1項第2号の規定による対応の可否については、立証の可否を別とすれば、まず、次のように考えられる。

 行為類型1は、広告行為者が同時に「頒布を目的として所持する行為」を行っている者でもあるため、権利侵害を構成することができる。
 行為類型2は、広告行為者は侵害品を所持していないため、広告行為をしただけでは、権利侵害を構成することができない。ただし、広告行為者が受注して海賊版所持者が販売していることから、広告行為者と海賊版所持者とを共同行為者として構成して権利侵害を追及できる可能性がある。
 行為類型3は、広告行為者は侵害品を所持していないため、広告行為だけでは、権利侵害を構成することができない。また、広告行為者は、広告掲載の依頼を受けて広告を行っているだけであるから、販売の共同行為者としても、せいぜい幇助の可能性があるにとどまるのではないかと考えられる。
 行為類型4は、広告行為者は侵害品を所持していないため、広告行為だけでは、権利侵害を構成することができない。ただし、広告行為者と海賊版所持者が親会社・子会社のように共同して販売行為を行っているととらえられる場合には、広告行為者を共同行為者として構成し、又は同一人格と構成して、権利侵害を追及できる可能性がある。
 行為類型5は、広告行為者は、広告行為をした時点では侵害品を所持しておらず、「頒布を目的として所持する行為」ということができないため、権利侵害を構成することができないと考える。

(参考:行為類型の図(第3回配付資料より))


3. 検討の方向性について

 上記2.で検討したように、広告行為の基本的類型のうちいくつかについては、現在の著作権法で、権利侵害を構成することが可能な場合もあるが、行為類型3(広告行為者と海賊版所持者が別人格で、海賊版所持者が受注・販売する場合)や、行為類型5(広告行為者が発注を受けてから、海賊版を製造・販売する場合)については、現行法では権利侵害を構成することは困難であると考えられる。
 しかし、海賊版の広告行為の実態としては、上記、行為類型3や行為類型5のように、現行法で権利侵害として構成しないものも実際に多々存在すると考えられ、また、インターネットを活用した取引の場合、実際問題として、広告行為の段階では、上記いずれの類型なのか外形上区別がつかないことも考えられる。このため、「頒布」を権利侵害とみなしている現行規定の実効性を確保するためには、頒布の前段階の行為として、「頒布の目的をもって所持する行為」だけではなく、別途、広告行為についても捕捉していくことが必要であると考える。

 したがって、上記行為類型1〜5がいずれも対象となるよう、権利を侵害する行為によって作成された物又は輸入物について、取引の広告を行う行為について、権利侵害を構成するようにすることが適当であると考えるが、どうか。

 なお、その際、以下の点について留意する必要がある。

 いかなる権利侵害を構成するかに関して、広告行為は、著作物等そのものの利用行為ではないため、複製権等と並ぶ新たな支分権の一つとして位置づけるべきものではないと考えるが、どうか。

 広告行為全てについて権利侵害と構成することは、以下の点から問題であり、広告行為について権利侵害と構成する場合には一定の要件を付するべきであると考えるが、どうか。
1  海賊版取引に荷担する意識を持たずに、単に広告行為だけを引き受けただけの者などについても権利侵害を追及することとすると、広告関連業界に萎縮効果を与えるとともに、過大な事前調査義務を課すことになるのではないか。
2  広告行為時点で海賊版か正規品を販売するか明確でないような広告行為まで権利侵害を追及することは、正規品の取引をも萎縮させる効果を与えるのではないか。

 一定の要件を付して限定して、なおかつ、海賊版防止の実効性が失われない要件を設定できるか。また、実効性確保のために併せて講ずべき措置はあるか。


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