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3.外国法からのアプローチ

(3) アメリカ法

 
1 著作権侵害に関する規定

 
ア. 著作権侵害の概念
   アメリカ著作権法(1976年法)は,著作権侵害に関して,「何人であれ,第106条ないし第121条の規定する著作権者の排他的権利もしくは第16A条(a)に規定する著作者の排他的権利を侵害し,または第602条に違反してコピーもしくはレコードを合衆国に輸入するものは,それぞれ著作権または著作者の権利の侵害者となる。」と規定する (501条(a)第1文)。
 「著作権侵害」の概念については,特許法(注57)(271条(b),(c))とは異なり,著作権法上に規定は存在しない。しかし,後述のとおり,判例法上,直接侵害のほか,寄与侵害(contributory infringement)および代位侵害(vicarious infringement)がこれに当たる。

(注57)  特許法には,寄与侵害(広義)に関する規定(271条(b),(c))はあるが,代位侵害に関する規定は存在しない。しかし,後述(脚注83)のとおり,特許侵害にも,判例法上,代位侵害責任の成立が認められている。

イ. 著作権侵害に対する救済措置
   著作権法は,「著作権侵害」に対する救済とし,差止命令(502条),侵害品の差押え・処分(503条),損害賠償(504条),訴訟費用・弁護士報酬の回復(505条),刑事処罰(506条)を規定する。
 これらの救済措置のうち,損害賠償(504条)は不法行為(torts)に対するコモン・ロー上(common law / law)の救済であるが,差止命令 (502条)は財産権(property)または保護に値する利益(protectible interest)の侵害に対するエクイティ上(equity)の救済である(注58)。したがって,たとえば,連邦憲法修正7条はコモン・ロー上の救済を求める訴えに陪審(jury trial)を保障しているので,著作権侵害訴訟において,原告がエクイティ上の救済である差止命令だけを求めれば,当事者には陪審の権利はないが,原告がコモン・ロー上の救済である損害賠償を求めれば原告・被告のいずれかの要求により陪審の適用がある(注59)。

(注58)  英米法においては,差止命令は「不法行為」の効果ではない。コモン・ロー上の救済とエクイティ上の救済は,権利・利益の侵害に対して並列して存在する。たとえば,契約違反に対しては,コモン・ロー上の救済として損害賠償が認められ,エクイティ上の救済として特定履行命令(specific performance)が認められる。財産権の侵害に対しては,コモン・ロー上の救済として不法行為に基づく損害賠償が認められ,エクイティ上の救済として差止行命令)が認められる。エクイティ上の救済は,コモン・ロー上の救済では不十分であるときに認められる("obtained when available legal remedies, usually monetary damages, cannot redress the injury." Black's Law's Dictionary 1320 (8th ed. 2004))救済である。
(注59)   3 Nimmer on Copyright, section12.10[A] at 12-178

ウ. 差止命令
   著作権法は,差止命令に関して,「本編に基づき発生する民事訴訟に対して裁判管轄権を有する裁判所は,第28編第1498条(注60)の規定を条件として,著作権侵害を防止しまたは抑制するに相当と考える条件において,一時的差止命令および終局的差止命令を発行することができる。」と規定する(502条(a))。
 差止命令は,エクイティ上の救済であり,「原告は,(1)回復不能の損害(irreparable harm)を被っていること,(2)金銭賠償のようなコモン・ロー上利用可能な救済が当該損害への救済として適当でない(inadequate)こと,(3)原被告間の負担の均衡(balance of hardships)を考慮してエクイティ上の救済が正当と考えられること,および(4)終局的差止めが公共の利益(public interest)を害することがないことを,立証しなければならない」が,この法理は著作権侵害にも適用がある(注61)。
 回復不能の損害の要件は,原則として,著作権侵害の立証により推定される(注62)。コモン・ロー上利用可能な救済が適当ではないとの要件は,差止めがなければ回復不能の損害を生ずるという関係があれば,認められるので(注63),この要件も著作権侵害の証明によって推定される。負担の均衡の要件は,権利侵害認定の可能性の大きさに関係するが,終局的差止めを求める本案では権利侵害を認定するので,この要件を充足する(注64)。公共の利益の要件は,著作権が法律上保護された利益であるので,著作権侵害においては,国家行為に対する差止めでない限り,認められる(注65)。したがって,終局的差止めを認める本案訴訟においては,原告が勝訴する場合には,原則として,差止請求の要件を満たす。
 他方,要件を満たす場合であっても,裁判所は,差止命令を発令するか否かの裁量権を持っている。しかし,過去にも侵害がなかった場合を除き,著作権侵害が認められ,かつ侵害が継続する恐れがある限り,差止命令を発令しないことは原則として裁量権の濫用と考えられる(注66)。
 なお,一時的差止命令には,一般的に,「申立当事者は,回復不能の損害の可能性とともに,(1)本案についての勝訴の蓋然性または(2)本案を維持する相当な根拠となる十分重大な争点がありかつ負担上の均衡において申立当事者に決定的に有利であることを,立証しなければならない」とされている(注67)。

(注60)  合衆国による著作権侵害等に対する訴訟手続を規定する。
(注61)   Ebay Inc. v. Mercexchange, L.L.C., __ U.S. __ (2006/05/15)
(注62)   Ross, Intellectual Property Law Damages and Remedies, section10.03[2] at 10-12; section11.03[1] at 11-24
(注63)  同上section10.03[2] at 10-11; section11.03[2] at 11-26
(注64)  同上section10.03[2] at 10-13
(注65)  同上section10.03[2] at 10-14
(注66)   4 Nimmer on Copyright,section14.06[B] at 14-145: L'Anza Research Int'l, Inc. v. Quality King Distribs., Inc., 98 F.3d 1109(9th Cir. 1996)ほか
(注67)   4 Nimmer on Copyright,section14.06[A] at 14-126

エ. 損害賠償
   著作権法は,損害賠償に関して,原則として,著作権侵害者に対して,著作権者の選択に従って,(1)著作権者が被った現実的損害の額および著作権侵害者が受けた利益の額,または(2)法定賠償額について,支払責任を負わせる(504条(a))。
 著作権法が定める損害賠償責任は,法的性質としては不法行為(torts)責任であるが,著作権侵害についての故意・過失を要件としていない(すなわち,過失責任(négligence)ではなく,いわゆる厳格責任(strict liability)である)。ただし,寄与侵害責任においてはその成立に直接侵害に対する認識が必要とされているので,その限りで厳格責任ではない。
オ. 刑事処罰
   著作権法は,著作権侵害者に対する刑事処罰について,「故意に著作権を侵害する者であって,(1)商業的利益または私的な経済的利得を目的とした者,(2)180日間に,著作権のある1つ以上の著作物のコピーもしくはレコードを一部以上(その総小売価格が1,000ドルを超える場合に限る)複製しもしくは頒布(電子的手段によるものを含む)した者,または(3)商業的頒布を目的として作成された著作物を公衆がアクセス可能なコンピュータ・ネットワーク上にて利用可能にする方法によって頒布した者(当該著作物が商業的頒布を目的として作成されたことを知りもしくは知るべきであった場合に限る)は,合衆国法典第18編第2319条(注68)に基づき処罰される。」と規定する(506条(a))。
 刑事処罰においては,対象者を「主犯(principal)」として独自に定義しているので,寄与侵害者や代位侵害者が直ちに著作権侵害者としてその対象になるのではない。すなわち,同2条は,「主犯」をつぎのように規定する。

「(a) 合衆国に対する罪を犯し,またはその行為を支援,助長,助言,指示,誘起もしくは実現(aids, abets, counsels, commands, induces or procures)する者は,主犯として処罰される。
 (b) 自己または他人が直接行ったならば合衆国に対する罪となるべき行為を,故意を持って(willfully)生じさせる者は,主犯として処罰される。」

(注68)  合衆国法典第18編(犯罪および刑事訴訟)第2319条は,営利目的の著作権侵害の場合には,5年(再犯の場合には10年)以下の禁固もしくは罰金またはその併科,また,一定額以上著作物の複製・頒布の場合には,3年(再犯の場合には6年)以下の禁固もしくは罰金またはその併科を規定する。

2 寄与侵害の法理

 
ア. 概念
   寄与侵害の法理は,特許権の侵害に関するウォレス判決(注69)以降,特許権,著作権および商標権の分野において判例法として発展してきたものである。特許法においては,1952年法の271条(b)と(c)に明文化された(注70)。著作権法には明文化されていないが,判例は終始著作権侵害にも寄与侵害の法理の適用を肯定している(後掲ソニー判決(注71))。なお,著作権法における「寄与侵害」の概念は広義のものであり,特許法における2積極的誘引行為および狭義の寄与侵害行為を含む概念である(注72)。
 「寄与侵害」は,1直接侵害が成立する場合に,「侵害行為について認識を持ちながら」,3「他者の侵害行為についてこれを誘引し,生じさせまたはこれに重大な寄与を行う」者に認められる(後掲ガーシュウィン判決(注73))。

(注69)   Wallace v. Holmes, 29 F.Cas. 74(C.C.D. Conn. 1871)
(注70)  アメリカ特許法(1952年法)は,積極的誘引行為と寄与侵害行為(狭義)を規定する。すなわち,271条(b)は,積極的誘引行為について,「何人も,積極的に特許侵害を誘引した者は侵害者としての責を負う」と規定する。また,271条(c)は,寄与侵害行為(狭義)について,「何人も,特許された機械,製造物,組み合わせ,もしくは混合物の構成部分,または特許された方法を実施するために使用する物質もしくは装置であって当該発明の不可欠な部分を構成するものを,それが当該特許を侵害して使用するための特別に製造されたものであること,又は,特別に変形されたものであって実質的な非侵害の用途に適した汎用品または流通商品でないことを知りながら,合衆国内で販売の申込みをし,もしくは販売し,又は合衆国内にこれらを輸入する者は,寄与侵害者としての責任を負う」と規定する。
(注71)   Sony Corp. v. Universal City Studios, 464 U.S. 417 (1984):「著作権法に[特許法271条(b)(c)]のような明文が存在しないことは,自ら侵害行為を行っていない一定の者に著作権侵害の責任を課すことを排除するものではない。というのは,事実上すべての法分野において代位責任が課されており,また,寄与侵害の概念は,他人行為に対して責任を負うべき状況を特定しようとする,広範な問題の一例でしかないからである。」
(注72)  たとえば,Metro-Goldwyn-Mayer v. Grokster, __ U.S. ___ (2005) は,特許法における積極的誘引行為と寄与侵害行為を含む概念として,「寄与侵害」を使っている。
(注73)   Gershwin Publishing Corp. v. Columbia Artists Management., Inc., 443 F.2d 1159 (2d Cir. 1971); A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001)

イ. 直接侵害の要件
   寄与侵害の成立には,直接侵害が存在することを要する(注74)。
 もっとも,特許法の分野においては,直接侵害の存在の立証については,状況証拠によってなしうるものとされていることから,現実に直接侵害が生じることまでも要求しているのではなく,直接侵害の生ずるおそれが存在することの証明を要求するに止まっているようである(注75)。

(注74)   3 Nimmer on Copyright, section12.04[A][3][a] at 12-91
(注75)   5 Chisum on Patents, section17.03[1]; Nordberg Mfg. Co. v. Jackson Vibrators, Inc., 153 USPQ 777, (N.D. Ill. 1967)

ウ. 寄与行為の要件
   寄与侵害に該当する「重要な寄与」とは,典型的には,直接侵害のために使用しうる「場所や施設(site and facilities)」(後掲チェリー・オークション判決(注76))を提供することである。しかし,これに該当するものの範囲は広い。たとえば,チェリー・オークション判決は,フリーマーケットの出店で海賊版が販売されていたという事案で,出店ブースの提供だけでなく,会場全体のための駐車場,宣伝広告,トイレおよび顧客の提供も重要な寄与と認定している。
 重要性の意義については,チェリー・オークション判決や後掲ネットコム判決(注77)や後掲ナプスター判決(注78)は,被告の行為がなければ直接の侵害が生じなかったという関係のあったことを理由に,他人の侵害行為への「重要な関与」を認めており,侵害との間に因果関係があれば関与の重要性が認められるようである。
 裁判例を整理すると,寄与行為には,1直接侵害の事前に,直接侵害に使用しうる「場所や施設」を提供した行為に責任が認められた事案(後掲ベン・ハー判決(注80),ガーシュウィン判決,ソニー判決,グロックスター判決 )と,2直接侵害の継続中に,直接侵害に使用しうる「場所や施設」を継続して提供した行為に責任が認められた事案(後掲チェリー・オークション判決,ネットコム判決,ナプスター判決)とがある。

(注76)   Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259 (9th Cir. 1966))
(注77)   Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communication Services, Inc., 907 F. Supp. 1361 (N.D. Cal. 1995)
(注78)   A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001)
(注79)   Kalem Co. v. Harper Brothers, 222 U.S. 55 (1911)
(注80)   Metro-Goldwyn-Mayer v. Grokster, __ U.S. ___ (2005)

エ. 認識の要件
   寄与侵害の要件である「侵害の認識」とは,実際に知っている場合のほか,合理的に知りうる場合も含まれる(ガーシュウィン判決,ナプスター判決)。
 (ア)直接侵害の事前に,直接侵害に使用しうる「場所や施設」を提供した行為に責任が認められた事案では,直接侵害に使用しうる「場所や施設」を提供した時点では,直接侵害を生じていない。そこで,直接侵害の発生を予見または予見し得ただけで侵害の認識が認められるのかが問題となるが,単に直接侵害の発生を予見していただけでは,侵害の認識は認められない(ベン・ハー判決,グロックスター判決)。裁判例を整理すると,ベン・ハー判決およびグロックスター判決は,直接侵害を「扇動」したことに,侵害の認識を認めた。ガーシュウィン判決は,直接侵害の発生が確実である場合に,そのことを認識していることに侵害の認識を認めた。ソニー判決は,「実質的に非侵害用途(substantially non infringing use)」のない侵害にのみ用いられる物を提供する場合には,その物の販売自体によって直接侵害の認識が当然に擬制されるとした(同旨:ナプスター判決,グロックスター判決)。
 (イ)直接侵害の継続中に,直接侵害に使用しうる「場所や施設」を継続して提供した行為に責任が認められた事案では,すでに直接侵害を生じている。裁判例(ナプスター判決)によれば,侵害の認識を認めるには,何らかの直接侵害が発生していることについての認識では足りず,特定(specific)の直接侵害の発生を知りまたは合理的に知りうることが必要とされている。チェリー・オークション判決は,現に直接侵害が行われていることを知っており,保安官から各出店者の識別情報の提供を求められていたが,これを無視して放置していた場合に,侵害の認識を認めた。ネットコム判決は,被告が権利者から特定の直接侵害の発生を通知されたが,フェア・ユースの成立する可能性がある場合に,侵害の認識を否定した。ナプスター判決は,被告が権利者から特定(specific)の直接侵害の発生を通知され,フェア・ユースの成立する可能性も考えられない場合に,侵害の認識を認めた。
オ. 寄与侵害の効果
   寄与侵害に対しても,損害賠償(504条)のほか,差止命令(502条)による救済が認められる。
カ. 表見の自由・事前抑制との関係について
   表現の自由と著作権侵害の関係については,基本的には,表現行為を行っているのは直接侵害者であるが,アメリカ著作権法は,アイデアに対する著作権による保護の排除(アイデアと表現の二分法理)および権利制限規定(フェア・ユースの法理)によって表現の自由と調整済みであるから,著作権侵害が成立する場合には表現の自由は問題とならないと考えられている(注81)。また,同様に,寄与侵害者に対する差止め(注82)も,著作権侵害が成立する場合には表現の自由は調整済みであって,表現の自由を害するものではないと考えられている(後掲ネットコム判決,後掲ナプスター判決)。
 また,差止めが事前抑制であるから慎重でなければならず,損害賠償のような事後抑制で足りるかという点に関しては,アメリカ著作権法においては,前述のとおり,著作権侵害の成立と侵害の継続するおそれが認定される限り,原則として差止めが認められ,後掲の裁判例(ベン・ハー判決,ガーシュウィン判決,ナプスター判決)においても寄与侵害に対する差止めが認められている。

(注81)   Sid & Marty Krofft Television v. McDonald's Corp., 562 F.2d 1157 (9th Cir.1977)等
(注82)  後掲ネットコム事件では、被告は、電子掲示板にユーザーが違法複製物をアップロードした場合に,教唆・幇助に対する差止めを認められれば,電子掲示板を運営するプロバイダがそのサービスを萎縮させることになるから,寄与侵害者に対する差止めは表現の自由に反すると主張した。

3 代位侵害の法理

 
ア. 概念
   代位侵害の法理(注83)は,代理法(agency)の法理である「監督者責任(respondeat superior)」の法理から発展したものである(注84)。監督者責任の法理は,「従業員または代理人が雇用または委任の範囲内で行った違法行為に対して使用者または本人に責任を課す法理」(注85)である。
 「代位侵害」は,1直接侵害が成立する場合に,2侵害行為を監督する権限と能力(right and ability to supervise the infringing activity)を有し,3侵害行為に対して直接の経済的利益(direct financial interest)を有する者に認められる。
 代位侵害責任の根拠は,直接侵害者に対する監督権限を最大限に行使して侵害を回避すべきであったのにこれをしなかったという点に求められる(後掲ナプスター判決(注86))。そして,監督権限を最大限に行使して侵害を回避すべき義務を課す根拠は,代位侵害者が直接侵害によって利益を受ける立場にあり,当該義務がなければあえて「著作権侵害の可能性から自らの目を瞑る」(後掲シャピロ判決(注87))おそれのある点に求められているようである。

(注83)  特許法には,代位侵害に関する規定は存在しない。しかし,特許侵害にも,判例法上,代位侵害責任の成立が認められている。たとえば,Baut v. Pethick Const. Co., 262 F.Supp. 350 (D.C. Pa. 1966); Crowell v. Baker Oil Tools, 143 F.2d 1003 (9th Cir. 1944), cert. denied 323 U.S. 760
(注84)   2 Goldstein on Copyright section6.2 at 6:17
(注85)   Black's Law's Dictionary 1338 (8th ed. 2004)
(注86)   A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001)
(注87)   Shapiro, Bernstein & Co., v. H.L.Green Co., 316 F.2d 304 (2d Cir.1963)

イ. 直接侵害の要件
   代位侵害の成立には,直接侵害が存在することを要する(注88)。この要件についての問題状況は,寄与責任に関して前述したところと同じである。

(注88)   3 Nimmer on Copyright, section12.04[A][3][a] at 12-91

ウ. 監督の要件
   代位侵害の成立には,直接侵害行為に対して監督権限のみならず,監督能力があることが必要である(後掲シャピロ判決,ネットコム判決(注89),チェリー・オークション判決(注90),ナプスター判決)。すなわち,事実上,侵害行為をやめさせることができ,かつ,そうすることが法律上も許されることが必要である。
 「代位責任を免れるためには,留保された監視する権限は最大限に行使されなければならない」(ナプスター判決)。では,監視権限のある範囲で生じた直接侵害に対して,事実上,結果責任を負うことになるのか。たとえば,ナプスター判決においては,被告は,そのインデックス・サーバーに掲載された違法複製ファイルのインデックス情報を監視する権限を持っていたが,そこに掲載されたすべての違法複製ファイルについてではなく,権利者から侵害通知のあった違法複製ファイルのインデックス情報についてのみ,監督能力を認めた。すなわち,代位侵害の成立には,侵害行為の認識は要件ではないが,侵害行為の存在を知っているかあるいは合理的に知りうる場合でなければ,侵害行為を監督することが事実上できないからであろう。
 裁判例によれば,「賃借物件上において著作権侵害行為を行う借地人に地主が定額の賃料で貸与する場合」には,占有権限が借り主の手に渡ってしまって(チェリー・オークション判決),貸し主には監督権限・能力が認められないから,地主に代位侵害は認められない(シャピロ判決)。他方,「ダンスホールやミュージックホールを借りたダンスバンドが著作権法に違反して観衆のために著作物を実演し施設所有者や管理者に利益をもたらす場合」には,施設所有者や管理者に代位侵害が認められる(シャピロ判決,ドリームランド・ボールルーム判決(注91))。ダンスホールでの侵害の場合には,直接侵害者へ提供される物が著作権侵害の行われる機会の提供でしかなく,被告には会場所有権に基づく管理権限や出演契約上の指図権限を有するからであろう。
 その中間に立つ事案には,直接侵害者へ提供される物に対する監督権限・能力を検討して,その成立を肯定したものと否定したものの両方がある。レコード販売店の間貸しにおいて借り主の著作権侵害について貸し主に代位侵害責任が問われた事案(シャピロ判決),コンサートの演奏者による著作権侵害についてコンサート・プロモーターに代位侵害責任が問われた事案(ガーシュウィン判決(注92)),フリーマーケットの出店者による著作権侵害についてフリーマーケット運営会社に代位侵害責任が問われた事案(チェリー・オークション判決),および,ピア・ツー・ピアユーザーによる著作権侵害についてインデックス・サービス・プロバイダに代位侵害責任が問われた事案(ナプスター判決)では,代位侵害責任が肯定された。他方,電子掲示板ユーザーによる著作権侵害について接続サービス・プロバイダに代位侵害責任が問われた事案(ネットコム判決)では,代位侵害責任が否定された。

(注89)   Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communication Services, Inc., 907 F. Supp. 1361 (N.D. Cal. 1995)
(注90)   Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259 (9th Cir. 1966))
(注91)   Dreamland Ball Room v. Shapiro, Bernstein & Co., 36 F.2d 354 (7th Cir. 1929)
(注92)   Gershwin Publishing Corp. v. Columbia Artists Management., Inc., 443 F.2d 1159 (2d Cir. 1971)

エ. 利益の要件
   代位侵害者の直接的な経済的利益は,代位侵害者の収入が直接侵害行為に連動する場合(シャピロ判決)のほか,直接侵害行為が代位侵害者の営業のための客寄せになる場合(チェリー・オークション判決,ナプスター判決)にも認められる。
 他方,代位侵害者の収入が直接侵害行為に連動せず定額であり,かつ直接侵害行為が代位侵害者の営業のための客寄せにもならない場合(ネットコム判決)には,直接的な経済的利益は認められない。
オ. 代位侵害の効果
   代位侵害に対しても,損害賠償(504条)のほか,差止命令(502条)による救済が認められる。
 なお,代位責任と寄与侵害は重畳的に成立し得る。

裁判例
【ベン・ハー事件(注93)】
 原告は,小説「ベン・ハー」の著作権者である。被告は,これを無断で映画化した映画の製作会社である。当該映画に対する被告の行為は,当該小説を元に脚本を作成させ,またできた映画の複製物を販売し上映させたことにある。(この事件当時の1909年著作権法上は,小説に対する著作権は,小説の映画化,映画の複製および映画の上映に及んだが,複製物の販売には及ばなかった。)そのため,被告は,著作権侵害に対する寄与侵害責任が問われた。
 連邦最高裁は,以下のように判示して,被告に寄与侵害責任を認めた。

  「通常の商品が販売されるような事案においては,売主が買主によるその後の違法な使用に対して共犯として責任を負うのはどのような場合かという鋭い疑問が生じうる。先例によれば,売主は,買主が酒を違法な用途に使用しようと考えていると,単なる平凡な憶測を持っていたとしても,そのことによって,可能性としてあり得る違法な結果に対して責任を問われることはない(Graves v. Johnson, 179 Mass. 53, 88 Am. St. Rep. 355, 60 N. E. 383)が,その販売が違法な再販売を目的としてなされた場合には,その販売代金の回収は認められない(Graves v. Johnson, 156 Mass. 211, 15 L.R. A. 834, 32 Am. St. Rep. 446, 30 N. E. 818)。しかし,以上のことは本件にズバリ当てはまるものではない。本件の被告は,その広告において,本件映画が当該小説の演劇的複製物として使用されることを単に予測していただけではなく,そうするように扇動した。それが,当該映画の使用されまた当該映画がわざわざ作られた,もっともはっきりした目的であった。被告が侵害に寄与していなければ,自ら侵害する場合を除いて,当該侵害が起こることはなかった。すべての法分野において認められている法理に基づいて,被告は,責任を負うものである(Rupp & W. Co. v. Elliott, 65 C. C. A. 544, 131 Fed. 730, 732; Harper v. Shoppell, 28 Fed. 613. Morgan Envelope Co. v. Albany Perforated Wrapping Paper Co., 38 S. L. ed. 500, 503, 14 Sup. Ct. Rep. 627.)。」

(注93)   Kalem Co. v. Harper Brothers, 222 U.S. 55 (1911)

【ドリームランド・ボールルーム事件(注94)】
 原告は,音楽著作物の著作権者である。被告は,ダンスホールの所有者である。被告は,公衆への有料の娯楽施設として,ダンスホールを運営し,オーケストラにそこでの音楽演奏を委託していた。当該オーケストラは,原告が著作権を保有する楽曲を原告の許諾なく無断で演奏していた。
 原告は被告を著作権侵害でインディアナ南部地区(エバンスビル部)連邦地方裁判所(地裁)に提訴した。地裁が被告に対して差止めと250ドルの損害賠償および100ドルの弁護士費用賠償を命じた。被告はこれを不服として,第7巡回区連邦控訴裁判所(控裁)に控訴したが,控裁は,地裁の判決を支持し,控訴を棄却した。
 その判決の中で,控裁は,「代位侵害責任」とは明示していないが,以下のように論じて被告の責任を認めた。

  「リーダーが代表して締結した契約に基づいて,7人からなるオーケストラは,一定の期間,一日につき(午後8時30分から11時30分)37ドルの対価で,音楽を提供した。被告は,アーティストの選択に対して発言しなかったし,演奏者に対して監督権を持っていなかったばかりでなく,一晩の出演中に演奏する楽曲の選択を決定していなければ決定権もなかった,と主張している。被告は,演奏曲の選択を指示していないし,当該オーケストラが演奏する楽曲に著作権があることも知らなかった。被告は,著作権のある楽曲である『…』『…』および『…』の演奏について当該オーケストラが原告から承諾を得ていなかったことも知らなかった。
 被告は,当該オーケストラとの契約上,当該オーケストラは請負人(independent contractor)であり,不法行為については当該オーケストラのみが責任を負うとの理由で,その責任を争っている。この主張は,これまで夥しい数の事件でなされたが,いずれも否認されてつづけてきた。権威ある先例は,著作権のある楽曲が著作権者の権利を侵害して演奏されたダンスホールの所有者は当該演奏が当該ダンスホールの所有者の利益のためになされている場合には責任を負うと判示する点で一致している,と当裁判所は考える。そして,このことは,当該オーケストラが,通常,請負人としており扱われる契約に基づいて,使用される場合であっても,当てはまる。……」

(注94)   Dreamland Ball Room v. Shapiro, Bernstein & Co., 36 F.2d 354 (7th Cir. 1929)

【シャピロ事件(注95)】
 原告は,音楽著作物および録音物に対して著作権を保有していた。被告Jは,これをレコードに無断複製し,被告Gのレコード販売店23店に間借りして当該レコードを販売した。当該販売においては,被告Jの従業員が販売したが,被告Gが売り上げをすべて一旦受け取り,その中から手数料と被告Jの従業員の給料を控除し,残額を被告Jに引き渡したが,被告Jの従業員の給料を直接彼らに支払った。被告Gは,被告Jとの契約上,被告Jの従業員に対して,監督権限を持っていた。
 そこで,原告は,被告らを著作権侵害でニューヨーク南部地区連邦地方裁判所(地裁)に訴えたが,地裁は,被告Gについて寄与侵害の成立を認めなかった。控訴を受けた第2巡回区連邦控訴裁判所(控裁)は,被告Gについて代位侵害責任の成立を認め,地裁の判決を破棄して損害額認定のために差し戻した。
 その判決において,控裁は,代位侵害責任の成立について以下のように判示した。

  「『監督者責任(respondeat superior)』の法理が拠って立つ要素の多くは,形式的な使用者・従業員関係以外の事実状況においても,明らかに存在する(Seavey, Studies in Agency, 145-53(1945)参照)。監督する権限と能力が著作物の利用に対する明らかかつ直接的な経済的利益と結びついている場合には,たとえ著作権の独占権が侵害されようとしていることに対する現実の認識が欠けているとしても(De Acosta v. Brown, 146 F.2d 408(2d Cir. 1944), cert. denied, Hearst Magazines v. De Acosta 325 U.S. 862, 65 S.Ct. 1197, 89 L.Ed. 1983(1945)),著作権法の目的は,当該利用の受益者に責任を課すことによって最も実現される。
 本件に最も近い2種類の先例のうち,1つは,賃借物件上において著作権侵害行為を行う借地人に地主が定額の賃料で貸与する場合に関するものであり,もう1つは,ダンスホールやミュージックホールを借りたダンスバンドが著作権法に違反して観衆のために著作物を実演し施設所有者や管理者に利益をもたらす場合に関するものである。……
 当裁判所は,ダンスホールの事案から抽出される法理が重要であり,本件の事実関係においては適用されるべきものと考える。ダンスホールの事案および本件は,事実関係から見て,地主・借地人の類型よりも使用者・従業員の類型により近い。被告Gは,被告Jに,13年間,多くの事業施設の一部を貸与していた。被告Gは,本件レコード店とその従業員の行為に対して最終的な監督権限を保持していた。被告Jのレコード販売からの総収入に対して一定割合の分配を受けることによって,被告Gは,被告Jによる営業の成功に対してきわめて明確な経済的利益を得ていた。すなわち,『ブートレッグ』であろうが適法物であろうが被告Jが販売したレコードの10パーセントまたは12パーセントが被告Gの金庫に文字通り流れ込んだ。したがって,当裁判所は,本件の具体的事実に基づいて,レコード店の経済的成功に対する強い利害関係とともに,被許諾者の侵害行為に対する被告Gの関係が,『ブートレッグ』レコードの無断販売に対して責任を生じさせるものであると断ずる。……
 ほとんど同じ理由で,本件に代位責任を課すことは過度に厳しいとか不公正であると考えることはできない。被告Gは,出店者である被告Jの行動を注意深く監視する権限を有しているが,当裁判所の判決は,それを効果的に行使することができまたそうすべきである場合に,その権限を行使することを単に奨励するものである。被告Gの負担は,出版社や印刷所や著作物の販売業者にごく普通に課される負担と異なるところはない。……事実,本件の記録によれば,『ブートレッグ』レコードはその外観からして怪しいものであり,取引上の慣習として行われているレーベルやレコード・ジャケット上の製造者の記載がいずれもなされていなかった。さらに,1958年の3月と4月に,原告の社員と弁護士が,著作権侵害訴訟の提起を警告する書面で,特定の『ブートレッグ』レコードに関する情報の提供を求めたが,被告Gはついに回答しなかった。実際,翌月に訴訟が提起された。最後に記述した事実は,被告Gによる著作権侵害に対する当裁判所の認定には決定的ではないけれども,多くの事件において厳格責任を認定される当事者が『主たる』侵害者の行動を監視すべき立場にあるとの当裁判所の結論を,補強するものである。当裁判所がそのように認定しなければ,大型のチェーン・ストアやデパートは『ダミー』の出店者を立てて著作権侵害の可能性から自らの目を瞑ることによって,侵害による利益を得ながら責任を逃れる防波堤を作るであろうという状況(全くあり得ないことではない)が予測される。」

(注95)   Shapiro, Bernstein & Co., v. H.L.Green Co., 316 F.2d 304 (2d Cir.1963)

【ガーシュウィン事件(注96)】
 この事案は,<著作権侵害に使用しうるものを提供する事前行為>について,責任が問われたものである。
 原告は,音楽著作物の著作権者である。被告は,コンサート・アーティストのマネージメントを行うとともに,地方でのコンサートの企画・運営を行った。すなわち,所属アーティストで構成するコミュニティ・アーティスト協会を各地方ごとにコンサートのために設立し,他方で,各地方ごとにチケット購入者を集めて,コミュニティ・アーティスト協会が主催者としてコンサートを実施させた。コンサートに際しては,被告は,アーティストから演奏曲目を入手して,コンサートプログラムを作成して,コミュニティ・アーティスト協会に有償で提供した。被告は,当該演奏曲目について権利処理の必要性を認識していたが,自己の責任とは考えなかったので放置していた。なお,被告は,チケット購入者を組織したことの対価として,コミュニティ・アーティスト協会からその総収入の25パーセントを取得するとともに,所属アーティストからマネージメント料として収入の15パーセントを取得した。
 原告は,ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所(地裁)に提訴した。第2巡回区連邦控訴裁判所(控裁)は,地裁を支持して,被告に著作権侵害に対する代位侵害および寄与侵害を認定した。
 その判決において,控裁は,代位侵害の法理および寄与侵害の法理について,以下のように判示した。

  「【著作権】法は侵害へのどのような種類または程度の関与が違法となるかを格別規定していないが,保護される楽曲を自分自身が演奏したわけでなくとも著作権侵害責任に問われうることは,これまで永く判示されてきたところである。たとえば,演奏者の侵害行為を助長または誘引した者は,たとえ著作権の独占権が侵害されようとしていることに対する現実の認識が欠けているとしても,『代位』侵害者として連帯して責任を負うと判示されている。Shapiro, Bernstein & Co., v. H.L.Green Co., 316 F.2d 304(2d Cir.1963)……
 同様に,他人の侵害行為を認識しながら,これを誘引し,生じさせまたはこれに重要な寄与を行う(with knowledge of the infringing activity, induces, causes, or materially contributes)者は,『寄与』侵害者として責任を負うことがある。たとえば,Screen Gems-Columbia Music, Inc. v. Mark Fi Records, Inc., 256 F.Supp. 399(S.D.N.Y. 1966)において,地裁は,侵害レコードの販売のために非侵害広告を掲載した広告代理店,当該広告を放送したラジオ局および侵害レコードを発送した梱包業者はいずれも,当該レコードの侵害的性質を知っていたかまたは知るべき理由があったと立証された場合には,『寄与』侵害者として責任を負うと,判示した。彼らの潜在的責任は,『不法な行為を知って関与しまたは幇助した者は主たる不法行為者と連帯して責任を負うというコモンローの法理』に基礎づけられていた。
 地裁は,被告が『代位』および『寄与』の侵害者として責任を負うと適切に認定した。アーティストたちがその演奏において著作権のある楽曲を含めていることを知りながら,被告は,当該アーティストたちのための市場として本件ポート・ワシントンの観客を集めた。当該協会の形成およびこれへの指示ならびに実演される楽曲のプログラム作成への被告による深い関与は,『被告が著作権侵害を生じさせた』との地裁の認定を十分根拠づけている。…被告は当該協会にも被告がエージェントをつとめたアーティストにも公式の監督権限を持っていなかったが,当該協会はこのような事柄に対して被告に依存していたこと,被告はアーティストの侵害行為に対して監視する立場にあったことおよび被告が主たる侵害者の行為から実質的な経済的利得を得ていたことは,明白である。被告は,著作権のある楽曲が本件ポート・ワシントン・コンサートで演奏されるであろうことおよび当該協会もアーティストも著作権の使用許諾を得ていないことを知っていた。したがって,被告は,主位的侵害者の侵害行為の結果に対して責任があり,代わって責任を負うものである。」

(注96)   Gershwin Publishing Corp. v. Columbia Artists Management., Inc., 443 F.2d 1159 (2d Cir. 1971)

【ソニー事件(注97)】
 被告は,ビデオテープレコーダー(VTR)を製造・販売した。原告は,テレビで放映されているプログラムのおよそ10パーセントについて著作権を保有していたところ,被告によるVTRの販売が原告著作権の寄与侵害(contributory infringement)であるとして,被告をカリフォルニア中部地区連邦地方裁判所に訴えた。
 連邦最高裁は,先例(注98)を引用しつつ,つぎのように論じて,著作権法にも寄与侵害の法理の適用があると判示した。

  「現行著作権法には,ある者が犯した侵害に対して他の者が責任を負わせることを明示していない。対照的に,現行特許法は,明示的に,『特許の侵害を積極的に引き起こした者』を侵害者と位置づけており(合衆国法典35編271条(b)),またさらに『寄与』侵害者と位置づけられる一定の個人に責任を課している(同(c))。著作権法にこのような明文が存在しないことは,自ら侵害行為を行っていない一定の者に著作権侵害の責任を課すことを排除するものではない。というのは,事実上すべての法分野において代位責任が課されており,また,寄与侵害の概念は,他人行為に対して責任を負うべき状況を特定しようとする,広範な問題の一例でしかないからである。」

 そして,連邦最高裁は,つぎのように論じて,特許侵害について寄与侵害を定める特許法271条(c)項が明らかにする汎用品の法理(staple article doctrine)は,著作権法にも妥当すると判示した。

  「特許法においては,侵害の概念と寄与侵害の概念の両方が法律に明記されている。寄与侵害として禁止されているのは,特定の特許に関する使用のために特別に作成された部品を情を知って販売することに限定されている。法律のどこにも,ある特許権者が他人の特許に関して使用される製品の販売を拒絶できると解釈する根拠となる規定は,存在しない。さらに,特許法は,『実質的な非侵害的用途に適する汎用品または一般商品』の販売は寄与侵害にならないことを明記している(合衆国法典35編271条(c))。
 汎用商品の購入者がこれを特許の侵害に使用したことによって当該汎用品の販売に寄与侵害の責任が課されるとすれば,必然的に,当該汎用商品を入手することに対する公衆の利益に影響を与える。当然,寄与侵害の認定は,その商品を市場から除去するものではないが,特許権者に当該商品の販売に対する有効な支配権を与えることとなる。すなわち,寄与侵害の認定は,通常,係争商品が特許権者に与えられた独占権の範囲内であるとの判断に,機能的には等しい。……
 当裁判所は,特許法と著作権法との間に実質的な違いのあることを認識している。しかし,どちらの法領域においても,寄与侵害の法理は,独占権の適切な保護のために裁判所が,場合によっては,装置や出版物の複製自体ではなくてもこのような複製を可能にする製品や行為に目を向けることを必要とするとの現実認識に基づいている。汎用品の法理は,著作権者の有する法律上の独占権に,単に形式的保護ではなく実効性のある保護を与える必要性と,他人が実質的に無関係の取引分野において自由に行為する権利との,バランスをとったものでなければならない。したがって,他の商品の販売と同様に複製機器の販売は,当該商品が合法的で不当でない目的のために広く使用されるものであるならば,寄与侵害を構成しない。すなわち,実質的な非侵害的使用が可能であるということだけで十分である。」

 そのうえで,連邦最高裁は,被告のVTRは原告らが著作権を持っていない番組の録画および原告らが著作権を持っている番組であってもフェア・ユースの成立する録画に使用でき,このような使用は実質的な非侵害的使用出あると認定して,寄与侵害は否定されると判示した。

(注97)   Sony Corp. v. Universal City Studios, 464 U.S. 417 (1984)
(注98)   Kalem Co. v. Harper Brothers, 222 U.S. 55 (1911)

【ネットコム事件(注99)】
 原告は,S教会の創設者Hの著作物について著作権を保有している。S教会の元牧師である被告Eは,被告Kが運営する電子掲示板(BBS)に,S協会を批判するメッセージを掲載した。被告Nは,インターネット・アクセス・プロバイダーであるが,被告Kが運営するBBSへの接続サービスを提供した。原告は,被告EがそのメッセージにHの著作物に複製したこと,被告KがそのBBSのコンピュータに当該メッセージを蓄積したこと,被告Nがそのコンピュータに当該メッセージを蓄積したことをもって,著作権侵害の直接侵害,寄与侵害および代位侵害を主張し,カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所に訴えを提起した。
 その訴訟手続において,被告Kおよび被告Nは,請求棄却の事実審理省略判決を申し立て,また原告は,被告Kおよび被告Nに対する予備的差止命令を申し立てた。事実審理省略判決の申立に対して,裁判所は,複製行為を被告Eに認め,被告Kおよび被告Nによる直接侵害を否定したが,寄与侵害および代位侵害については,事実審理によって事実認定すべき事実上の争点があると判示して,原被告双方の申立を却下した。
 その判決の中で,裁判所は,被告Nへの寄与侵害の法理の適用について,つぎのように判示した。

  「被告Nは,原告の著作物を直接に侵害していないということで責任がないというわけではなく,なおも寄与侵害者として責任を負いうる。……Sony Corp. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 435(1984)(footnote omitted).侵害への関与に対する責任は,被告が『他人の侵害行為を知りつつ,当該侵害行為を誘引し,生じさせまたはこれに重要な寄与を行う(with knowledge of the infringing activity, induces, causes, or materially contributes)』場合に,成立する。Gershwin Publishing Corp. v. Columbia Artists Management, Inc., 443 F.2d 1159, 1162(2d Cir. 1971)

 そして,侵害の認識(knowledge)の要件について,次のように認定した。

  「被告Eによる侵害と主張される行為について【原告からの】通知書受領後の被告Nの認識は,著作権登録が有効であるかまた当該使用がフェア・ユースにあたるかという問題を判断することの困難性に鑑みれば,あまりに心許ないものであった。著作権者による裏付け証拠のない侵害の主張が直ちに侵害行為に対する被告の認識があるということはできないけれど,責任が一目瞭然であることを要するとの被告Nの主張も支持できない。……当裁判所は,少なくともフェア・ユースというもっともらしい主張がある場合には当該使用が侵害でないか否かを速やかにかつ公平に判断することはBBS運営者の能力を超えている,との議論がより説得力を持つと考える。BBS運営者が合理的に侵害の主張を確認できない場合には,その理由がフェア・ユースの抗弁の成立する可能性であれ,複製物に著作権表示を欠いていることであれ,著作権者が著作権侵害を疎明する必要書類を提出しないためであっても,BBS運営者における主観的要件の欠如は合理的なものと認定され,そのシステムによって著作物の頒布を継続させたことについて寄与責任を生ずることはないであろう。
 被告Nは被告Eが侵害行為を完了してしまう前に侵害の通知を受けていたのであるから,このような行為が侵害に当たると知りまたは知るべきであったか否かの事実について,【事実審理を要する】争点が存在しうる。」

 つぎに,実質的な関与(substantial participation)の要件について,次のように認定した。

  「被告Nは,被告Eの侵害文を自己のシステムに存置し,さらにこれを世界中のユーズネット・サーバに配信することを可能にしている。地主の場合と異なり,自己のシステムがどのように使用されるのかに対する支配権を完全に譲り渡しているわけではない。したがって,被告Nが被告Eによる侵害物のアップロードを認識しておりながらこれを公衆に頒布するという被告Eの目的の達成を幇助しつづけている場合,被告Nが原告の著作物に対するさらなる損害を防止するために措置を執ることができるのであれば,被告Nが寄与侵害の責任を負わせることが妥当である。」

 また,その判決の中で,裁判所は,被告Nへの代位侵害の法理の適用について,つぎのように判示した。

  「たとえ原告が侵害行為への関与について被告Nに寄与侵害責任を立証できない場合であっても,原告はなおも被告Nの被告Eに対する関係に基づいて代位侵害を立証しようとすることが可能である。被告は,(1)侵害者の行為を支配する権原と能力(right and ability to control)を保持しており,かつ(2)当該侵害行為から直接の経済的利得(direct financial benefit)を得ている場合には,主たる侵害者の行為に対して代位責任を負う。Bernstein & Co. v. H.L. Green Co., 316 F.2d 304, 306(2d Cir. 1963)。寄与侵害と違い,認識は代位責任の要件ではない。」

 そして,支配する権原と能力の要件について,裁判所は,証拠上「被告Nが加入者の行為を監督する権原と能力(right and ability to supervise)を保有していること」について,事実審理を要する争点が存在すると認定した。しかし,直接の経済的利得の要件について,加入料は定額で侵害行為による加入料収入の増加や宣伝効果による事業成功に結びつくような事情がないと認定して,直接の経済的利益を否定した。
 また,裁判所は,表現の自由(連邦憲法修正第1条)との関係について,つぎのように判示した。

  「原告の責任理論によれば,ユーザーがユーズネットのニュース・グループに侵害物をアップロードすればアクセス・プロバイダやユーザーが責任を負うことになるのでインターネットの使用を萎縮させることを理由に,原告の責任理論は連邦憲法修正第1条に抵触すると,被告Nは主張する。当裁判所は,広すぎる差止めは修正第1条を損なうことには同意する(In re Capital Cities/ABC, Inc., 918 F.2d 140, 144(11th Cir. 1990)参照)が,修正第1条の問題以外の点で妥当であれば,侵害行為に責任を課すことは,必ずしも修正第1条の問題を提起するものではない。アイデアと表現の二分法理およびフェア・ユースの抗弁という著作権法上の概念は,重大な修正第1条の権利を『科学と有用な技芸の発展を促進するための』(連邦憲法1条8項8号)憲法上の権原とバランスさせるものである(1 NIMMER ON COPYRIGHT SS 1.10 [B], at 1-71 to -83)。」

(注99)   Religious Technology Center v. Netcom On-Line Communication Services, Inc., 907 F. Supp. 1361 (N.D. Cal. 1995)

【チェリー・オークション事件(注100)】
 原告は,録音物に対して著作権者である。被告は,フリーマーケット(flea market)の運営会社とその管理人たちである。被告のフリーマーケットへの出店者が違法複製レコードを販売していた。警察当局(保安官sheriff)の捜索によって38,000枚の違法複製レコードが押収されたこともあり,その後も警察当局からなおも違法複製レコードの販売が続いているので協力するよう求められてもいた。なお,被告は,出店者からは定額の出店料を得ていたほか,入場者から入場料を取っていた。
 原告は,カリフォルニア東部地区連邦地方裁判所(地裁)に被告を著作権侵害および商標権侵害で訴えたが,地裁は原告の主張自体が失当であるとして請求を却下した。控訴を受けた第9巡回区連邦控訴裁判所(控裁)は,著作権侵害に対する代位侵害および寄与侵害ならびに商標権侵害に対する寄与侵害を認め,地裁判決を破棄し差し戻した。
 その判決において,控裁は,著作権侵害に対する代位侵害について,以下のように判示した。

  「地裁の見解によれば,監督と経済的利得の両方の要件に関して,被告は,貸与物件に対する占有権を借地人に渡した不在地主と同じ地位にある。この不在地主のアナロジーは,地裁で主張された事実(当裁判所は控訴においてこれを前提にしなければならない)にそぐわない。主張によれば,出店者は施設内に小さなブースを占有していたが,被告はその施設内を監督し巡回していた。訴状によれば,被告は,理由の如何を問わず販売を停止する権限を有しており,また,その権限によって施設内の出店者の行為を監督する能力を持っていた。また,被告は当該フリーマーケットを宣伝し,顧客の来場を監督していた。監督の点からいえば,本件における主張は,シャピロ事件やガーシュウィン事件のそれと顕著な類似性を有している。……したがって,原告が十分な監督の事実を主張しなかったとの根拠に基づいて,地裁が本件における代位責任の請求を却下したのは正当ではない。
 つぎに,当裁判所は,経済的利得の争点を検討する。……しかし,原告が主張した事実は,被告が入場料,売店売り上げおよび駐車場料金から実質的な経済的利得を得ており,そのすべては,特売場価格で偽造レコードを買いに来る顧客から直接流れ込むものである。原告は,十分に直接的な経済的利得を主張している。
 ダンス・ホールの事案に始まる一連の裁判例は,著作権を侵害する実演が潜在的顧客を引きつける手段を強化するものである場合に事業運営者に代位責任を課すものであるが,当裁判所の結論はこれによって補強される。……本件においては,被告のフリーマーケットで海賊版レコードが販売されることは,ダンスホール事件とそれに続く事件における違法音楽の演奏と同じように客「寄せ」である。原告は著作権の代位侵害の請求事実を主張している。」

 また,控裁は,著作権侵害に対する寄与侵害について,以下のように判示した。

  「寄与侵害は,不法行為法に起源を有し,他人の侵害行為に直接寄与したものは責任を負うべきであるとの観念に由来する。……
 原告が本件における認識の要件を適正に主張したことに疑問の余地はない。議論のある争点は,被告が侵害行為に重要な寄与を行ったことを原告が適正に主張したか否かである。当裁判所は,本件における主張が侵害行為に対する重要な寄与を示すに十分であると認定するのに,ほとんど困難がない。実際,万一当該フリーマーケットが当該サポート・サービスを提供していなければ,当該侵害行為が大量に生じることは困難であったと思われる。これらのサービスは,とりわけ,場所,電気電話等,駐車場,宣伝広告,トイレおよび顧客の提供を含む。……
 明らかに,地裁は,侵害に対する寄与は被告が『偽造製品の販売を明確に促進もしくは奨励しまたは何らかの方法で侵害者の身元を隠した』場合のような状況に限られるべきであるとの見解を取った。…地元の保安官が適法に被告にその出店者についての基本的身元情報を収集提供するよう求めたが被告がこれに従わなかったとの主張があるので,被告は,地裁自身の立てた基準の最後の部分(侵害者の身元を隠す場合に責任を認める)にぴったりと当てはまるように見える。さらに,当裁判所は,侵害行為を知って場所や施設(site and facilities)を提供することは寄与侵害責任の成立に十分であるという,Columbia Pictures Industries, Inc. v. Aveco, Inc., 800 F.2d 59(3rd Cir. 1986)事件における第3巡回区の分析に賛成である。」

(注100)   Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259(9th Cir. 1996))

【ナプスター事件(注101)】
 原告らは,アメリカ・レコード協会の主要レコード会社である。被告は,ユーザー間でのMP3ファイル交換を可能にするNapsterシステムを公衆に提供した。すなわち,ユーザーが交換したいファイルの検索を可能にするインデックスを作成しまた検索を可能にするサーバを設置するとともに,これに対応したユーザー用ソフトウエアを公衆に配付した。その結果,被告のシステムを通じて交換されたファイルの約9割は著作権侵害物であり,7割は原告らが著作権を保有しているものであった。そこで,原告らは,著作権侵害に対する寄与侵害責任および代位責任を根拠に,被告をカリフォルニア北部地区連邦地方裁判所に提訴した。
 連邦地裁は,原告らの主張を認めて,被告に対して,「著作権のある音楽作品を複製,ダウンロード,アップロード,送信または頒布させてはならない」旨の予備的差止命令を下した。被告は,第9巡回区連邦控訴裁判所に控訴した。連邦控裁は,予備的差止命令の対象を原告らが被告に対して侵害通知を行った音楽作品に限定するよう修正した上で,予備的差止命令を認めた。
 その判決の中で,連邦控裁は,寄与侵害の法理の適用について,以下のように論じた。

  「当裁判所は,まず,被告が寄与侵害責任を負うとする原告の主張を検討する。伝統的に,『他人の侵害行為を知りつつ,当該侵害行為を誘引し,生じさせまたはこれに重要な寄与を行う(with knowledge of the infringing activity, induces, causes, or materially contributes)者は,『寄与』侵害者として責任を負いうる。』Gershwin Publ'g Corp. v. Columbia Artists Mgmt., Inc., 443 F.2d 1159, 1162(2d Cir. 1971)。また,Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259, 264(9th Cir. 1996)を参照。換言すれば,被告が『侵害を助長または支援する個人的行為』を行えば,責任が発生する。Matthew Bender & Co. v. West Publ'g Co., 158 F.3d 693, 706(2d Cir. 1998).

 そして,侵害の認識(knowledge)の要件について,次のように認定した。

  「寄与責任には,二次的侵害者が直接侵害を「知りまたは知るべき理由があった」ことが必要である。Cable/Home Communication Corp. Network Prods., Inc., 902 F.2d 829, 845 & 846 n.29(11th Cir. 1990); Religious Tech Ctr. v. Netcom On-Line Communication Servs., Inc., 907 F. Supp. 1361, 1373-74(N.D. Cal. 1995)(争点を侵害にあたる行為を「Netcomが知りまたは知るべき理由があったか」と構成する)。……
 当裁判所はソニー判決に従う必要があるところ,ピア・ツー・ピア方式のファイル・シェアリング技術が原告の著作権を侵害しうるというだけで,被告が寄与責任を負うに必要なレベルの認識を有していると擬制することはしない。464 U.S. at 436(「侵害行為を達成する『手段』」を提供しさえすれば責任を負わせることができるという主張を退ける)を参照。……
 当裁判所は,コンピュータ・システム運営者が侵害にあたる特定の素材がシステム上で使用可能になっていることを知りながら,これをシステムから除去しなかった場合には,運営者は直接侵害について認識しておりこれに寄与しているとすることに同意する。Netcom, 907 F. Supp. at 1374を参照。逆に,侵害にあたる行為を特定する具体的な情報がなければ,システムの構造が著作権のある素材の交換を可能にするからといって,コンピュータ・システム運営者が寄与侵害責任を負うとはいえない。Sony, 464 U.S. at 436, 442-43. コンピュータ・ネットワークが侵害にあたる使用を可能にするからといって差止めを行うことは,ソニー判決の判例法理に反するものであり,侵害にあたる使用とは関係のない行為をも制限する可能性がある。
 しかし,当裁判所は,被告システムの侵害的使用として示されたものとの関連においては,被告に寄与責任を負わせるに十分な認識があったと結論付ける。……侵害にあたる特定の素材が被告システムを介して使用可能となっていること,侵害にあたる素材の提供者によるシステムへのアクセスを遮断することができたこと,および侵害にあたる素材を削除しなかったことについて,被告が現実の認識を有していたとする地方裁判所の事実認定は,記録が裏付けるものである。」

 つぎに,重要な寄与(material contribution)の要件について,次のように認定した。

  「地方裁判所が認定した事実によると,被告は,侵害行為に重要な寄与を行っている。地方裁判所は,Fonovisa判決に依拠して,『被告が提供するサポート・サービスがなければ,被告ユーザーは,被告が公言するほど容易には欲しい楽曲を見つけてダウンロードすることはできない。』と結論付けた。Napster, 114 F. Supp. 2d at 919-20(「被告は,ユーザーがMP3音楽ファイルを検索しダウンロードすることができるよう設計された統合サービスである。」). 当裁判所は,被告が直接侵害のための『場所や設備』を提供していることに同意する。」

 また,その判決の中で,連邦控裁は,代位侵害の法理の適用について,つぎのように判示した。

  「代位侵害責任は,代位責任の「派生物」である。Fonovisa, 76 F.2d at 262. 著作権法においては,代位責任は,雇用関係の範囲を超えて,被告が「侵害行為を監督する権限および能力(right and ability to supervise)を有し,また,かかる行為に対して直接の経済的利害(direct financial interest)を有している」場合にも適用される。Id.(Gershwin, 443 F.2d at 1162を引用)。また,Polygram Int'l Publ'g, Inc. v. Nevada/TIG, Inc., 855 F. Supp. 1314, 1325-26(D. Mass. 1994)(代位責任をリスク配分の一形態と述べる)を参照。この争点についての検討に移る前に,ソニー判決における「汎用商品」の分析は,被告の代位侵害責任の可能性には適用されないことを付記する。」

 そして,経済的利得(financial benefit)の要件について,裁判所は,つぎのように認定した。

  「経済的利得は,侵害にあたる素材が使用可能になっていることが「顧客に対する『客寄せ』の役割を果たす」場合に存在する。Fonovisa, 76 F.2d at 263-64(「侵害にあたる実演がそのサイトの集客力を高める場合」に経済的利得が認められうると述べる)。被告の将来の収入が「ユーザー層の増加」に直接依存しているとの地方裁判所の認定を十分な証拠が裏付けている。「使用可能な楽曲の質および量が増加する」につれて,より多くのユーザーが被告システムに登録する。114 F. Supp. 2d at 902。当裁判所は,保護される著作物がシステム上で使用可能であることから被告が経済的な利得を受けていると地方裁判所が判断したことについて,誤りはなかったと結論付ける。」

また,監督(supervision)の要件について,裁判所は,つぎのように認定した。

  「本件においては,原告は,被告がシステムへのアクセスをコントロールする権限を留保していることを証明した。被告は,そのウェブサイト上に,「ユーザーの行為が適用ある法律に違反していると被告が信じる場合を含むがこれに限らない……または被告の独自の裁量においていかなる理由であっても,理由の有無を問わず,サービスの提供を拒否しまたアカウントを削除する権限」を明示的に留保していることを述べる,権限留保に関する明示的な方針を掲載している。
 代位責任を免れるためには,留保された監視する権限は最大限に行使されなければならない。探知しうる侵害行為を利益のために見逃す場合には,責任が発生する。たとえば,Fonovisa, 76 F.3d at 261(「本控訴審において,売主が録音物の海賊版をフリーマーケットで販売していたことをチェリー・オークションおよびその運営者が認識していたことについては,争いはない。」を参照。……
 地方裁判所は,被告がそのシステムを監視する権限および能力を有しており,著作権のある素材の交換を防止する権限の行使を怠ったと,正しく判断した。しかし,地方裁判所は,被告が「コントロールし巡回する」対象となるシステムの範囲が制限されたものであることを認めなかった。……換言すれば,被告が留保した監視する「権限および能力」は,システムの現在の仕組みの範囲に制限されている。記録が明らかにするとおり,被告システムは,リストに掲載されたファイルの内容を,適切なMP3形式であることを確認する以外に「読む」ことはしないのである。)

 そのうえで,「侵害にあたるコンテンツにアクセスできなくする義務を被告が負う前に,原告が,著作権のある著作物およびこれらを収録したファイルであって被告システム上で使用可能にされているものについて被告に通知する責任を負う」と判示して,代位侵害に基づく差止命令の範囲を,原告が被告に通知したファイルについて,ファイル名インデックスで検索しうるものに限定した。
 さらに,裁判所は,表現の自由(連邦憲法修正第1条)との関係について,つぎのように判示した。

  「被告は,地方裁判所の差止命令は必要以上に広汎であることから憲法修正第1条に違反すると主張する。被告は,(1)被告が「ディレクトリ」(ここでは検索インデックス)を発行する権利および(2)ユーザーが情報を交換する権利という,言論の自由に基づく二つの異なる権利を主張する。著作権法における憲法修正第1条上の利益は,フェア・ユースの法理の存在によって緩和されている。17 U.S.C. セクション107を参照。Nihon Keizai Shimbun v. Comline Business Data, Inc., 166 F.3d 65, 74(2d Cir. 1999), Netcom, 923 F. Supp. at 1258(著作権法は,憲法修正第1条上の利益と著作権者の権利との衡量を行うものであると述べる)を全般的に参照。本件においては,被告ユーザーはフェア・ユースを行う者でないと予備的に判断されている。著作権のある素材の使用のうち,フェア・ユースにあたらないものについては,正当に差し止められうる。Dr. Seuss Enters. v. Penguin3 Books USA, Inc., 109 F.3d 1394, 1403(9th Cir. 1997)(差止命令が憲法修正第1条に違反する事前抑制にあたるとする被告の主張を却下する)を参照。」

(注101)   A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001)

【グロックスター事件(注102)】
 原告らは,多数の作詞家,音楽出版社および映画会社であり,米国内の大半の音楽および映画の著作権を保有している。被告らは,非中央管理型ファイル・シェアリング・システムであるGroksterおよびMorpheusのプログラムを配付する会社2社である。原告らの調査によれば,被告らのプログラムを使ったファイル・シェアリング・システムによって交換されているファイルのうち90パーセント以上が著作権侵害物であり,うち70パーセントについて原告らが著作権を保有しているものであった。そこで,原告らは,被告らのプログラムの利用者による著作権侵害について,被告らが寄与侵害責任および代位侵害責任を負うと主張して,カリフォルニア中部地区連邦地方裁判所に,著作権侵害訴訟を提起した。
 被告らが寄与侵害責任および代位侵害責任の不成立を認める事実審理省略判決を申し立てたのに対して,連邦地裁は,被告らの主張を認めて,寄与侵害責任および代位侵害責任は成立しないと判示した。また,原告らは,第9巡回区連邦控訴裁判所に控訴したが,連邦控裁は,連邦地裁の判断を正当として,改めて寄与侵害責任および代位侵害責任は成立しないと判示した。これに対して,連邦最高裁は,寄与責任についての連邦控裁の解釈を誤りであると判示し,事件を連邦控裁に差し戻した。
 その中で,連邦最高裁は,以下のように,実質的な非侵害用途のある物を頒布する者は,侵害を扇動する意図で行うときには,具体的侵害について認識がなくても,寄与侵害責任の成立に必要な「認識」の要件を満たす,と判示した。

  「ソニー判決の法理は,頒布された製品の性質または用途から,法律上,不法の意図を擬製する場合を限定したものである。しかし,ソニー判決は,そのような意図が存在する場合にこれを無視することを裁判所に要求するものではないし,コモンローに由来する帰責事由に基づく責任の法理を排除しようとしたものではない。……したがって,侵害の用途に使われうるという製品の性質や認識を越える証拠があり,かつ侵害の促進に向けた表現や行動の証拠がある場合には,ソニー判決の汎用製品の法理は責任を排除しない。
 違法な目的の直接証拠の古典的な事例は,宣伝広告などによって,ある者が他の者による侵害行為を教唆する場合,言い換えれば『他の者を誘惑もしくは説得して』侵害させる場合(Black's Law's Dictionary 790(8th ed. 2004)である。したがって,コモンロー上,『広告によって侵害的使用を予見しただけではなく扇動した』著作権や特許権事件の被告は,『あらゆる法分野において認められてきた法理に基づいて』侵害に対する責任が課された。……
 古い事件において発展した侵害誘引の法理は,こんにち何ら変わりがあるものではない(footnote: 教唆は特許法に条文化されている。)。『直接侵害を助長するために取られた…積極的措置』の証拠,たとえば侵害的使用を宣伝広告することや侵害的使用に利用する方法を説明することは,当該製品が侵害に使用されるべきとの肯定的意図を証明するものであり,また,侵害が助長されたとの証明は,被告が適法な用途にも使用しうる商品を販売しただけでの場合に責任を認めることに対する法の躊躇を,打ち破る。……
 ソニー判決が特許法の汎用製品法理を著作権の責任制限法理のモデルとして採用したのと同じ理由に基づいて,侵害誘引の法理も著作権に当てはまる法理である。当裁判所は,これをここに採用し,著作権を侵害する使用を扇動する目的(侵害を扇動するために採られた明白な表現や積極的な行動によって示されるような)をもって装置を頒布する者はその結果生じる第三者による侵害行為に対して責任を負うことを判示する。もちろん,当裁判所は,通常の商取引を害することや潜在的に適法にも違法にも使用しうる技術の発展を妨げることのないよう注意する必要がある。したがって,VTRが侵害に使用しうるとの認識をその製造者が持っていてもソニー判決がこれと意図的な誘引と認定しなかったように,潜在的な侵害的使用や現実の侵害的使用を単に認識していることは,その頒布者に責任を課すには十分ではない。また,顧客に技術的サポートや製品の更新サービスを提供することのような,製品の頒布に付随する通常の行為は,それ自体では責任の根拠とはならない。他方,侵害誘引の法理は,意図的な違法な表現や行為に責任を課すものであり,したがって,合法的な商取引を傷つけたり適法な用途の可能性のある発明を妨げることはない。」(引用判例省略)

(注102)   Metro-Goldwyn-Mayer v. Grokster, __ U.S. ___ (2005)

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