(1) |
ソフトウェア
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<ソフトウェアについての契約条項例> |
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第 条 |
(インストール及び使用) |
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本ソフトウェアのコピー1部をパーソナルコンピュータ等の1台のデバイスにインストールして使用することができます。
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第 条 |
(バックアップコピー) |
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本ソフトウェアをインストールした後は、本ソフトウェアが提供されたオリジナルの媒体を、バックアップ又は保存の目的でのみ保管することができます。また、デバイス上で本ソフトウェアを使用するために本ソフトウェアのオリジナルの媒体が必要な場合、本ソフトウェアをバックアップ又は保存する目的でのみ、本ソフトウェアのコピーを1部のみ作成することができます。
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第 条 |
(リバースエンジニアリング等の制限) |
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本ソフトウェアをリバースエンジニアリング、逆コンパイル又は逆アセンブルすることはできません。 |
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ソフトウェアの契約においては、使用するハードの台数やバックアップコピーの部数、リバースエンジニアリング等を制限するような条項がみられる。ソフトウェアの契約については、シュリンクラップ契約という形態の契約の有効性がそもそも議論のあるところであるが、契約が有効に成立するとした場合、私的使用のための複製(第30条)やプログラムの著作物の複製物の所有者による複製(第47条の2)との関係、リバースエンジニアリング等を制限することが認められるかどうかが問題となる。
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私的使用のための複製の制限について
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私的使用のための複製を制限する条項については、ビジネスの観点から一定の合理性が認められるのが通常であり、合理性が認められる限りにおいて、ユーザーに不当な条件を強いるものでない限り、基本的には、このような制限を無効とすべき理由もないと考えられる。
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ただし、ビジネスの観点からの合理性があるかどうか、あるいは、ユーザーに不当な条件を強いるものかどうかの評価にあたっては、個々の複製行為がビジネスに与える影響について考慮する必要がある。
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バックアップコピーの制限について
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法第47条の2との関係で、契約が認める1部以外のバックアップの可否が問題となるが、コピーを使用しているときにはもとのソフトウェアがあり、また、もとのソフトウェアを使用しているときにはバックアップ用のコピーが一部あれば足りると考えられるため、ユーザー側としても2部以上のバックアップは通常は必要なく、基本的には、契約を無効とする理由はないと考えられる。
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リバースエンジニアリング等の制限について |
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リバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブル等を行うこと自体は著作権が働く利用行為ではないものの、これを制限することについて、当事者間で合意をしたのであれば、契約自由の原則に基づき、基本的にはこれを無効とする理由はない。
ただし、特許法では、試験又は研究のためにする特許発明の実施については特許権が及ばないものとされており(特許法第69条)、リバースエンジニアリング等により試験又は研究を行うことが認められている。これは、特許権の効力を試験又は研究にまで及ぼすことは、かえって技術の進歩を阻害するという趣旨によるものである。同様の発想に基づけば、技術的性格の強いプログラムの著作物についても、リバースエンジニアリング等を認めることで技術進歩が促進されるという観点も考えられることから、リバースエンジニアリング等を制限するような契約条項について、場合によっては無効とすべきであるとの考えもありうる。
また、競争法の観点からも、とりわけ相互接続性の確保を目的として行うものについては、リバースエンジニアリング等の制限を無前提に認めるのは問題があると考えられる。
なお、仮に、契約によるリバースエンジニアリング等の制限が不当であり、契約が無効と判断されるべき場合があったとしても、一般に、リバースエンジニアリング等を行う過程には複製及び翻案行為を伴う。このような複製及び翻案行為については、現行著作権法の解釈で一定の範囲で許容されると考えられる一方で、著作権法上の複製権及び翻案権の侵害の責任を問われる可能性もあることから、これに対応するため、必要な範囲で権利制限規定を設けることも考えうるのではないかとの指摘があった。 |
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(2) |
音楽配信
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<音楽配信についての契約条項例> |
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第 条 |
(著作物等の使用) |
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本サイトからダウンロードされた楽曲等の著作物は、会員本人の視聴目的に限り使用できるものとします。会員は当社が個々のデジタルコンテンツごとに指定する複製回数等の利用制限を遵守し、許可のない複製、改変、転載等はできないものとします。 |
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音楽配信についての契約には、楽曲の利用を購入者本人の私的使用に限定する条項や、楽曲の複製回数を制限する契約条項が見られる。また、複製回数の制限については、技術的に制限がかけられ、そもそも指定の回数を超えた複製ができないようになっているのが通常である。ここでは、私的使用のための複製(第30条)との関係や、著作物の利用の目的を制限することが認められるかどうかが問題となる。
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複製回数の制限について
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複製回数を制限する条項については、ソフトウェア契約と同様、ビジネスの観点から一定の合理性が認められるのが通常であり、合理性が認められる限りにおいて、ユーザーに不当な条件を強いるものでない限り、基本的には、このような制限を無効とすべき理由がないと考えられる。
なお、ソフトウェアと音楽配信で異なる点として、音楽配信については、契約による制限とあわせて、技術的にも複製が制限されているケースが多いことがあげられる。このことから、契約の有効性が問題となるケースは実際には多くないと考えられるが、仮に技術的に複製が制限されていない場合、あるいは、技術的な制限が効果的に機能しない場合であって、私的複製が技術的には自由にできる場合であっても、契約において複製を制限している条項は、基本的には有効であると考えられる。
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利用目的の制限について
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著作物の利用の目的を制限する条項についても、合理性が認められる限りにおいて、ユーザーに不当な条件を強いるものでない限り、基本的には、無効とすべき理由がないと考えられるが、権利制限規定で認められている範囲の行為を制限する条項については、当該権利制限規定の趣旨等を考慮して個別に判断されるものと考えられる。 |
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(3) |
データベース
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<データベースについての契約条項例> |
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第 条 |
(目的外の利用禁止) |
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会員は、内部使用目的でのみ、本サービスを通じて入手した資料を利用することができるものとし、内部使用目的を超える範囲での資料の複製、公衆送信、出版又は頒布については、当社の許可なく行うことはできません。 |
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データベースの利用契約においては、法令や事実情報など、著作権の対象とならない個々のデータについて、その複製や公衆送信を制限するような条項がみられる。ここでは、そもそも著作権の対象とならないものについて、あたかも著作権があるようにその利用を制限することが認められるかどうかが問題となる。
このような条項については、不正競争の防止という観点から合理性があるものについては、基本的には、有効と考えられる。ただし、当該条項の内容に合理的な理由がない場合や、合理的な理由があったとしても、例えば「表現の自由」等のその他の利益を総合的に勘案して、対象となる情報の使用を制限した場合に損なわれる法益のほうが大きいと判断されるのであれば、無効とすべき場合もあるとの意見が大勢を占めた。
また、そもそも法令等はパブリックドメインに開放されたものであり、データベース提供者によって管理されるべき性質の情報ではないため、利用方法に条件を付すような契約条項は無効であり、仮にデータベース提供者がこれらの情報について何らかのコントロールを及ぼしたいのであれば、データベースへのアクセスの段階のみにおいて課金等を行うべきであるとの意見もあった。
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(4) |
楽譜レンタル
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<楽譜レンタルについての契約条項例> |
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第 条 |
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楽譜の無断複製は禁止されています。 |
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楽譜レンタルの契約においては、あらゆる複製を制限するような条項がみられる。ここでは、あらゆる態様の複製を制限することや、著作権の保護期間を過ぎた著作物の複製を制限することが認められるかどうかが問題となる。
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複製の制限について
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私的使用のための複製や学校教育目的の複製など、権利制限規定により認められるものを含むあらゆる態様の複製を制限するような契約についても、ビジネスの観点から合理性が認められる限りにおいて、ユーザーに不当な条件を強いるものでない限り、基本的には、このような制限を無効とすべき理由がないと考えられる。
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保護期間を過ぎた著作物の複製の制限について
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楽譜レンタルについては、貸し手に楽譜の所有権があり、これに基づき契約が有効に結ばれているケースと考えられるが、所有権や著作権などの具体的な権利の裏付けに基づかない契約条項であっても、当事者間で合意をしたのであれば、契約自由の原則に基づき、基本的にはこれを無効とする理由はない。
なお、著作権法において、パブリックドメインの著作物は自由に使わせるべきであるとの政策判断が含まれるのであれば、情報の囲い込みを行うような契約条項を無効に傾かせる要素となるとの指摘や、ビジネスに影響を与えることのない私的な複製まで禁じるのは過剰ではないかとの指摘があった。 |
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