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資料3−4

実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約10条・14条における「利用可能化権」の解釈について

平成18年4月27日
文化庁国際課

実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(以下、「WPPT」という)10条・14条は、実演家及びレコード製作者のそれぞれに対し、「利用可能化権」と称して「有線または無線の方法により、公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となるような状態に置くこと」についての排他的許諾権を与えている。他方、WPPT15条では「公衆伝達」について報酬請求権を与えている。(排他的許諾権は要求されていない)。IPマルチキャストやインターネットを通じて放送の同時再送信を行う場合、これらがWPPT10条・14条の「利用可能化」に該当するのか「公衆伝達」に該当するのかが問題となる。具体的には、「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となるような状態に置くこと」の意味が問題となる。

この点について、文献調査及び各国等への聞き取り調査を行ったところ、別添のような調査結果を得ているので、以下にその概要を示す。

(文献調査)
WIPO Treaties 1996」(Reinbothe, von Lewinski著。市販のWPPT/WCT解説書)(全文は別添1

"それぞれが選択する"の要素は、オンデマンド状況を意味し、利用可能化権の対象から、決まった時間に予め確定しているプログラムに基づいて一般公衆が受信するために提供する形での利用を除いている。利用者がプログラムに依存しており、それぞれの個人が特定の実演・レコードにアクセスする時間を選ぶことができない場合は除かれる。オンデマンド状況とは、実演・レコードを、公衆のそれぞれが、サービス提供時間のうちで選んだ時間にいつでも送信、またはダウンロードできるように提供している場合を言う。

(聞き取り調査)
WIPO事務局のブロムクイスト著作権課長からのeメール(全文は別添2

信号の発信者が、ある実演やレコードを含む一連の信号を準備した場合、その実演やレコードが、まさにそれらが発信された時点においてしかアクセスできないとすれば、その実演やレコードは公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能とは言えない。したがって生のインターネット・ストリーミングはWPPT10条14条の「利用可能化」には該当しない。2条(g)で定義される「公衆伝達」は、インターネット・ストリーミングを除外していない

以上の調査結果によると、インターネット・ストリーミングのような入力型のコンピュータネットワーク内送信はWPPTの「利用可能化」には該当せず、「利用可能化」に該当するのはオンデマンド方式のものを言うということとなると思われる。
上記調査以外にも、米国特許庁及び韓国文化観光部著作権課の著作権担当者、並びに香港MPA所属の弁護士からも、上記の理解と同様の回答を口頭で得ている。



(別添1)

WCT/WPPTの解説書の抜粋

Jorg Reinbothe, Silke von Lewinski, the WIPO Treaties 1996 The WIPO Copyright Treaty and the WIPO Performances and Phonograms Treaty Commentary and Legal Analysis (London, 2002)

(以下のWCT/WPPTの規定における利用可能化権の解説は、下線部が異なること以外、同一の説明となっている。)

Article 8 WCT Right of Communication to the Public
P.109 パラ20

著作物は、公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において使用が可能となるような状態に置かれなくてはいけない。
この"それぞれが選択する"の要素は、オンデマンド状況を意味し、利用可能化権の対象から、決まった時間に予め確定しているプログラムに基づいて一般公衆が受信するために提供する形での利用を除いている。
これは例えば、従来型の手段により放送するラジオ番組・テレビ番組、デジタルネットワークを通じた放送するラジオ番組・テレビ番組(「ウェブキャスティング」(オリジナルのケーブルプログラムをウェブで送信すること)や、「サイマルキャスティング」(従来型の放送プログラムを、同時に変更を加えずにデジタル送信すること)、「リアル・オーディオ」や「インターネット・ラジオ」)、ペイTV、ペイ・ラジオ、ペイ・パー・ビュー・サービス、マルチ・チャンネル・サービス、ニア・オン・デマンドサービス(特定の作品を繰り返し放送するもの、例えばミュージック・チャートの音楽を規則的に20分間隔で流しているもの)のことである。
これらの全ての場合において、利用者はプログラムに依存しており、それぞれの個人が特定の著作物にアクセスする時間を選ぶことができない。
ここで描写されているオンデマンド状況の例は、音楽や映画や科学論文その他の一連の著作物を、公衆のそれぞれが、サービス提供時間のうちで選んだ時間にいつでも送信、またはダウンロードできるように提供しているウェブサイトのことを言う。

Article 10 WPPT Right of Making Available of Fixed Performances
P.339 パラ14

実演は、公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において使用が可能となるような状態に置かれなくてはいけない。
この"それぞれが選択する"の要素は、オンデマンド状況を意味し、利用可能化権の対象から、決まった時間に予め確定しているプログラムに基づいて一般公衆が受信するために提供する形での利用を除いている。
これは例えば、従来型の手段により放送するラジオ番組、デジタルネットワークを通じて放送するラジオ番組(「ウェブキャスティング」(オリジナルのケーブルプログラムをウェブで送信すること)や、「サイマルキャスティング」(従来型の放送プログラムを、同時に変更を加えずにデジタル送信すること)、「リアル・オーディオ」や「インターネット・ラジオ」)、ペイ・ラジオ、ペイ・パー・リッスン・サービス、マルチ・チャンネル・サービス、ニア・オン・デマンドサービス(特定の作品を繰り返し放送するもの、例えばミュージック・チャートの音楽を規則的に20分間隔で流しているもの)のことである。
これらの全ての場合において、利用者はプログラムに依存しており、それぞれの個人が特定の実演にアクセスする時間を選ぶことができない。
ここで描写されているオンデマンド状況の例は、音楽の実演を、公衆のそれぞれが、サービス提供時間のうちで選んだ時間にいつでも送信、またはダウンロードできるように提供しているウェブサイトのことを言う。

Article 14 WPPT Right of Making Available of Phonograms
P.370 パラ13

レコードは、公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において使用が可能となるような状態に置かれなくてはいけない。この"それぞれが選択する"の要素は、オンデマンド状況を意味し、利用可能化権の対象から、決まった時間に予め確定しているプログラムに基づいて一般公衆が受信するために提供する形での利用を除いている。
これは例えば、従来型の手段により放送するラジオ番組、デジタルネットワークを通じて放送するラジオ番組(「ウェブキャスティング」(オリジナルのケーブルプログラムをウェブで送信すること)や、「サイマルキャスティング」(従来型の放送プログラムを、同時に変更を加えずにデジタル送信すること)、「リアル・オーディオ」や「インターネット・ラジオ」)、ペイ・ラジオ、ペイ・パー・リッスン・サービス、マルチ・チャンネル・サービス、ニア・オン・デマンドサービス(特定の作品を繰り返し放送するもの、例えばミュージック・チャートの音楽を規則的に20分間隔で流しているもの)のことである。
これらの全ての場合において、利用者はプログラムに依存しており、それぞれの個人が特定のレコードにアクセスする時間を選ぶことができない。
ここで描写されているオンデマンド状況の例は、レコードを、公衆のそれぞれが、サービス提供時間のうちで選んだ時間にいつでも送信、またはダウンロードできるように提供しているウェブサイトのことを言う。


(別添2)

(質問概要)
コンピュータネットワーク上の生の送信行為(生のインターネット・ストリーミング、IPマルチキャストによる同時再送信等)は、WPPT10条14条の「利用可能化」に該当するのでしょうか、2条(g)の「公衆への伝達」に該当するのでしょうか。

(和訳)
WPPT10条14条についてのご質問について回答いたします。

この問題を扱ったWIPOの文書は見つかっておりませんが、答えはWPPTの文言にあると考えます。条約は「利用可能化」の定義規定を置いてはいませんが、実演/レコードが「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能となるような状態に置」かれる場合ついて保護を与えています。信号の発信者が、ある実演やレコードを含む一連の信号を準備した場合、その実演やレコードが、まさにそれらが発信された時点においてしかアクセスできないとすれば、その実演やレコードは公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において利用が可能とは言えません。したがって生のインターネット・ストリーミングはWPPT10条14条に該当しないというのが私の見解です。

2条(g)については、インターネット・ストリーミングを除外していないことに注意すべきです。同条項は放送を除外していますが、これは別途2条(f)に無線発信として定義されています。インターネット上の発信は、そのかなりの部分において有線発信です。確かに衛星発信その他の無線発信も関係しますが、プロバイダーから受信者まで全く完全に無線のインターネットというものは存在しないのではないかと思います。さらに言うと、放送を除外していること以外は、2条(g)は「あらゆる媒体による」公衆への伝達をカバーしています。したがって、条約の文言には、この定義からインターネットのようなコンピュータネットワーク上の送信を除外する根拠はありません。

貴殿が言及している反対の立場を私が正しく理解しているとすれば、その見解は発信された個々の実演やレコードよりも、発信されたコンテンツ一般を強調する立場なのではないでしょうか。私は、その見解はWPPT10条14条の文言と整合性を取ることが困難であると考えます。たとえば10条で言うと、同条は「実演家」に対し、公衆が「それらの実演」を「利用することができる」時点における利用権を与えます。この文言が、個々の実演についてではなくて、一連の信号により伝達されているおよそあらゆるコンテンツを指しているものであると理解することは困難です。ましてや、サーバーを通じてアクセスされるという点をもって、インターネットストリーミングが、留守電機能を持ったループ状のテープで流され続ける音楽に電話回線でアクセスする行為とどのように区別されるのかも理解できません。後者の行為は従来、実演家権利団体により公衆への伝達として許諾が与えられています。

(原文 英語)

I refer to your e-mail - regarding the interpretation of Articles 10 and 14 of the WPPT.

I have not been able to identify WIPO documents which address the problem, but I think that the answer is given in the wording of the WPPT. The Treaty does not as such define the term "make available to the public", but it grants protection for cases where the performances/phonograms are "made available to the public in such a way that members of the public may access the performances from a place and at a time individually chosen by them." If the originator of a transmission prepares a signal stream including, among others, a given performance or phonogram, but that performance or phonogram can only be accessed at the very moment of its transmission, then that performance or phonogram cannot be accessed at a time individually chosen by a member of the public. Therefore, in my view, live Internet streaming is not covered by Articles 10 or 14 of the WPPT.

As regards Article 2(g) it should be noted that it does not exclude streaming over the Internet. It excludes broadcasting, but that is defined in Article 2(f) as wireless transmissions. Internet transmissions are to a significant extent transmissions by wire. Both fixed service satellite transmissions and other wireless transmissions are also involved, but I do not think any Internet transmission is exclusively wireless from content provider to recipient. Furthermore, apart from the exclusion of broadcasting, Article 2(g) covers transmission to the public "by any medium". Therefore, there is no basis in the text of that definition to exclude transmissions over computer networks, such as the Internet.

If I understand correctly the opposite view, which you refer to, it lays the emphasis on the transmitted content in general, rather than the individual performance or phonogram. In my opinion, that view is difficult to reconcile with the wording of Articles 10 and 14 of the WPPT. To use Article 10 as the example, it grants "[p]erformers" rights to the use of "their performances" when members of the public may "access them". I cannot see how that wording can be interpreted as referring to whatever content in general that is carried by a signal stream, rather than the individual performances. Neither can I see how the reference to the accessability through connecting to a server differentiates live Internet streaming from connecting through a telephone line to the music played by the continuous tape loop of an answering machine, a phenomenon which traditionally is licensed as communication to the public by performing rights societies.
 Thus, in conclusion, I agree with your interpretation of these provision of the WPPT.



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