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6.裁定制度の在り方について
(著作権分科会契約・流通小委員会)


4 検討結果

(1)著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)

1制度の評価
 この裁定制度については、貴重な著作物を死蔵化せず、世の中に提供し活用させるために有効なものであり、制度は存続すべきである。
 ただし、制度の存続に異論はないものの、制度を有効に活用するためには、制度面や手続面での改善を行う必要があるとの意見があった。

2制度面の問題
ア.特定機関による裁定の実施
 裁定制度を簡便化するため、例えば、氏名表示が無い写真や著作物の複写等のように頻繁な利用ではあるが、小規模な利用分野において、特定の機関に裁定の権限を委ねるような仕組みを求める意見があった。
 これについては、例えば現行制度においても、著作権に関する登録業務を民間の指定登録機関に実施させる仕組みはあるものの(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律第5条)、裁定のように他人の私権を制限し、他人に代って利用者に許諾を与えるような業務について民間の指定機関に運用を任せるというような制度設計は難しいところであり、慎重に検討すべき課題だと考える。

イ.著作権の制限規定での対応
 一旦許諾を受けて利用したものの限定的な再利用(例えばデータベース化)等特別な場合については、裁定制度ではなく、著作権の制限規定で対応すべきという意見があった。
 これについては、現行の著作権制度においても、たとえ著作権者が不明等の著作物であっても、例えば、私的使用(第30条)、教育目的の利用(第33条、第35条等)、図書館等における利用(第31条)、障害者の福祉の増進のための利用(第37条等)等の著作権の制限規定に該当する場合には、著作権者の許諾なしに利用できるのはいうまでもない。
 しかしながら、例えば、著作物の再利用に限定するとはいえ、商業目的の利用も認める著作権の制限規定を新たに創設することは、国際著作権関係条約や制限規定の趣旨に照らし問題が多いと思われるので、慎重な検討を行う必要がある。
 なお、現行制度の枠組では、このような結論はやむを得ないと考えられるが、インターネット時代における著作物の利用促進という面から、将来的には制限規定の導入を積極的に考えた方がよいという意見があった。

3手続面の問題
 次に手続面の改善であるが、この裁定の手続については、厳格すぎて利用しづらいという意見があり、政府の「知的財産推進計画2004」においてもその見直し等が求められたところである。これについては、文化庁で見直しを行い、不明な著作権者を捜すための調査方法を整理した上で、従来新聞広告等を要求していた一般や関係者の協力要請については、インターネットのホームページへの広告掲載でも可とするとともに、併せて、社団法人 著作権情報センター(CRIC)では、不明な著作権者を捜す窓口ホームページを開設したところである。なお、裁定の手続きについては、「著作物利用の裁定申請の手引き」を作成し文化庁ホームページで公開している(https://www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-1/index.html)。
 この裁定制度の手続きの見直しにより、利用者に求められる調査の方法が明確になり、また従来に比べて調査にかかる事務的又は経済的負担も軽減されたと考えるが、今後の利用状況等を踏まえ、より良いシステムの確立に努めるべきである。
 当面はこの手続に従い、裁定事務を行うことで問題はないと考えるが、裁定事務の実施の過程で実務上の問題点が生じた場合、手続の見直しを行い、より利用しやすいシステムの構築を図っていく必要がある。
 なお、個人情報保護法に関連し、不明な著作権者を捜す作業の困難さを懸念する意見もあったが、このことを理由として、著作物を利用しようとする者が通常行うであろう調査方法に足りない方法でよいとすることはできず、例えばインターネット上の尋ね人欄に掲載しただけで調査を尽くしたとすることは難しいと考える。
 ただし、CRICの事例のような著作権者を捜すための手段を提供してくれる仕組みの創設、専門家や問い合わせ先の団体を紹介してくれる窓口等の充実、調査を代行してくれる団体等の設置等により利用者の事務的負担の軽減が図れると思われる。

4その他(著作物を裁定で利用した旨の表示)
 第67条第2項では、裁定を受け作成した著作物の複製物に、裁定で作成した複製物である旨等の表示を義務づけている。最近では著作物のデータベース化にかかる裁定の申請が増えているが、送信された著作物が裁定で利用された旨を周知させるために、当該著作物の画面表示やプリンターで印刷した際にその旨の表示がされるよう、文化庁は制度の運用を考慮する必要がある。


(2)著作物を放送する場合の裁定制度(第68条)

1制度の評価
 この裁定制度は、旧著作権法の時代の昭和6年に創設され、現行法の制定の際にその存続について検討されたが、放送の公共性を考慮し、著作権者の権利濫用に対処するための制度として、制度が維持されたものである。
 この制度は、現行法の制定以来35年経ったが、裁定の実績はない。これは、著作物の放送上の利用について、一般に、著作権者や著作権等管理事業者との契約で対応できていること、また現行法の引用(第32条)、政治上の演説等の利用(第40条)、時事の事件の報道のための利用(第41条)等の著作権の制限規定の適用により利用できる場合も多いこと等から、著作権者との協議不成立等の場合に裁定制度を利用してまで放送しなければならない場合がなかったこと等が原因と考えられる。
 したがって、この制度については制度が利用されていないことを理由に廃止を考慮すべきであるとの考え方もあるが、公共性の強い放送において、著作物を公衆に伝える最後の手段として制度の存続を望む意見も強いことから、あえて制度を廃止する必要はないものと考えられる。

2その他
 民間放送事業者の場合、全国放送を行うためには、キー局から配信を受けネット局が放送を行うことが通常であるが、この場合、キー局と多数のネット局が同一の申請をしなければならないという指摘があったが、例えばキー局が全ネット局の代理人としてまとめて申請を行えば足りるので、特に問題はないと考えられる。


(3)商業用レコードへの録音等に関する裁定制度(第69条)

 この裁定制度については、現行法制定時に当該制度を設けたことにより、レコード会社と作詞家、作曲家の専属契約の慣行が見直され、著作物の利用が促進されることになった。
 また、この制度は対象が商業レコードに録音された著作物の録音等に限定されているが、当該制度の波及的効果と思われることとして、ビデオ等の映像ソフトに関しても専属契約等による弊害の事例が生じてないことから、この制度の制定は、著作物の円滑な利用に貢献しているものと考えられる。
 このようなことから、この制度の利用実績はないが、引き続き専属契約による弊害の改善を図り、現行法制定当時の状況に後戻りしないためにも、一定の利用秩序の形成に貢献しているこの制度をあえて廃止する必要はないものと考えられる。


(4)翻訳権の7年強制許諾(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律第5条)

 万国著作権条約が適用される国は現在ではごくわずかであり、この制度が使われる可能性はあまりないと考えられるものの、対象国がある限りにおいては適用される可能性は皆無ではないことから、直ちに廃止する理由はないと考えられる。


(5)新たな裁定制度の創設について(実演家の権利に関する裁定制度)

 放送事業者が制作する放送番組については、近年、二次利用の要望が強いものの、通常、番組を制作する際に俳優等の実演家から録音・録画の許諾を得ていないことから、当該番組を二次利用する際は改めて実演家の許諾が必要となる。この場合、古い番組については出演していた実演家を捜すことが非常に困難な場合があり、二次利用できないケースがあることから、権利者不明時等の裁定制度に準じた裁定制度の創設を求める意見が出された。
 これについては、我が国が加盟している実演家等保護条約では、強制許諾については、条約に根拠のあるごく限られた特別な場合には認められるが、それ以外は認められていないところである(同条約第15条:P.179参照)。 
 また、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約では、実演等に関する制限及び例外について、著作権保護について国内法令に定めるものと同一の種類の制限又は例外を定めることができる規定になっているものの、実演家等保護条約の締約国については、同条約の義務を免れないこととされている(同条約第16条、第1条(1))。
 このようなことから、裁定制度を、実演の利用について創設することは、国際条約との関係で整理すべき問題点が多いと考えられ、慎重に検討する必要があると考えられる。



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