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6.裁定制度の在り方について
(著作権分科会契約・流通小委員会)


2 現行制度

(1)著作権者不明等の場合の裁定(第67条)

1制度の内容
 著作権者不明等の理由により、相当な努力を払っても、著作権者に連絡できないときに、文化庁長官の裁定により、補償金を供託し、著作物の適法な利用を可能とする制度である。
 補償金については、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額であり、額の決定については、文化審議会に諮問しなければならない(第71条)。
 なお、裁定を受けて作成した著作物の複製物には、裁定に基づく著作物である旨及び裁定のあった年月日を表示しなければならない(第67条第2項)。

2制度の沿革
 この制度は、公衆の需要があるにも関わらず、著作物の適法な利用手段がないことは、社会公益の見地において適切でないことにより設けられたものである。
 明治32年の旧著作権法制定時に、著作権者不明の未発行又は未興行の著作物を一定の手続を経て、発行又は興行することができる旨の規定が設けられた。その後、昭和9年の改正時に、著作権者の居所不明その他の理由により、著作権者と協議することができないときに、主務大臣に補償金を供託して、著作物を発行又は興行することを可能とする規定が設けられた(旧著作権法第27条)。
 昭和45年の現行法制定時に、この裁定制度の対象となる著作物の範囲が見直された。旧著作権法が公表、未公表の著作物を対象としていたのに対し、現行法では、公表された著作物(「相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは掲示されている事実が明らかである著作物」を含む)のみを対象とした。これは、著作者は公表権を有していることから、未公表の著作物を裁定により利用することは、公表権の侵害となる可能性があるためである。

3制度の運用実績
 現行法の制定以来、現在まで30件の運用実績がある。もっとも多い利用方法は出版であり20件である。また制度発足後しばらくの間は、1件の申請につき、裁定を受ける著作物の数も限られていたが、最近は、国立国会図書館が明治期から昭和初期にかけての所蔵資料のデータベース化を積極的に行っており、多数の著作者の多数の作品のCD-R、DVDの作成やネット配信に係る申請が増えている(国立国会図書館関係5件)。なお、補償金の額については、利用する著作物が1つの場合は、おおむね数千円から数万円の間であるが、著作物が多数である場合は合わせて数十万円から数百万円になることがある。


(2)著作物を放送する場合の裁定制度(第68条)

1制度の内容
 公表された著作物について、放送事業者が著作権者に協議を求めたが、その協議が成立しない又はその協議をすることができないときは、文化庁長官の裁定により、補償金を支払って(又は供託して)著作物の適法な放送を可能とする制度である。
 なお、著作権者がその著作物の放送の許諾を与えないことについてやむを得ない事情があるときには、裁定をしてはならないことになっている(第70条第4項第2号)。
 また、裁定に基づき放送される著作物について、有線放送、受信装置を用いた公の伝達が可能となる。ただし、この場合、有線放送又は伝達を行うものは、通常の使用料の額に相当する額の補償金を支払わなければならない(第68条2項)。
 補償金の額の算定については、著作権者不明等の場合の裁定の場合と同様である(第71条)。

2制度の沿革
 この制度は、昭和6年の旧著作権法の改正時に、放送の公共性を考慮し、著作権者の許諾拒否に正当な理由がない場合に、放送事業者の著作物の放送利用を認めるために設けられた(旧著作権法第22条の5)。立法当時の背景としては、1放送事業者は日本放送協会のみでその公共性が強調されていたこと、2昭和6年改正の前提となったベルヌ条約ローマ会議で決定された規定(ローマ規定第11条の2)に同種の制度が織り込まれていたことがある。
 昭和45年の現行法制定時には、著作権行使の実態及び旧著作権法時代の制度の実績から、制度の維持について議論がなされたが、放送の公共性を考慮し、著作権者の権利濫用に対処するための制度として維持されることとなった。

3制度の運用実績
 現行法の制定から現在まで運用実績はない。


(3)商業用レコードの録音等に関する裁定制度(第69条)

1制度の内容
 商業用レコード(音楽CD等)が国内において発売され、かつその発売日から3年が経過した場合において、そこに録音された音楽の著作物を録音して、他の商業用レコードを作成することについて、その著作権者に協議を求めたが、その協議が成立しない又はその協議ができないときは、文化庁長官の裁定により、補償金を支払い(又は供託して)録音又は譲渡による公衆への提供を可能とする制度である。
 なお、補償金の額の算定については、著作権者不明等の利用の裁定の場合と同様である(第71条)。

2制度の沿革
 この制度は、昭和45年の現行法制定時に新たに設けられた制度である。これは、特定のレコード会社が音楽の著作物の独占的録音権を取得することで(作家専属制)、1レコード業界において特定のレコード会社が独占的な地位を形成することを防止すること、21の独占から派生する著作物の死蔵化や利用の大幅な制限を防止すること、3同制度が欧米諸国において採用されていること等にかんがみ、導入された。

3制度の運用実績
 現行法の制定から現在に至るまで運用実績はない。
 なお、日本音楽著作権協会(JASRAC)の調べによると、第69条の適用を受ける商業用レコードに録音されている音楽の著作物は、これまで約7400曲があったが、同協会の信託契約約款によれば、3年経過毎にJASRAC管理として通常の許諾が行われることになっているので、現時点で対象曲は約70曲までに減っている。
 しかしながら、著作権法附則第11条では、現行法が制定された昭和45年以前に国内で販売された商業用レコードに録音された音楽の著作物には、この制度の適用がないことになっているので、同協会においても、旧著作権法時代の楽曲のうち、約14万曲が現在も専属扱いとされている。


(4)翻訳権の7年強制許諾(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律第5条)

1制度の内容
 我が国が、万国著作権条約に基づき、保護義務を負っている著作物の利用にのみ適用がある制度である。
 具体的には、文書が最初に発行された年の翌年から、7年の間に、権利者の許諾を得て、日本語による翻訳物が発行されていない場合又は発行されたが絶版になっている場合で、1翻訳権を有する者に対し、翻訳し、翻訳物を発行することの許諾を求めたが拒否されたとき、又は2相当な努力を支払ったが、翻訳権を有する者と連絡することができなかったときは、文化庁長官から許可を受けて、公正なかつ国際慣行に合致した額の補償金を払うこと(又は供託)を条件に、日本語により翻訳し発行できることになっている。
 なお、補償金額の算定については、著作権者不明等の利用の裁定の場合と同様である。
 また、上記2の場合については、原著作物の発行者の氏名が掲げられているときはその発行者に対し、及び翻訳権を有する者の国籍が判明しているときはその翻訳権を有する者が国籍を有する国の外交代表又は領事代表又はその国の政府が指定する機関に対し、申請書の写を送付し、かつ、これを送付した旨を文化庁長官に届出なければならないことになっている。

2制度の沿革
 この制度は、万国著作権条約(1952年(昭和27年)成立、我が国は1956年(昭和31年)締結)第5条に基づき、翻訳権の保護の原則の例外的な措置として定められた。

3制度の運用実績
 特例法(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律)が施行された昭和31年4月以降、現在に至るまでの運用実績は1件である。この1件は米国の論文の発行に係るもので、我が国と米国がまだ万国著作権条約による保護関係にあった昭和47年に裁定が行われたものである。



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