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5.司法救済ワーキングチーム


3 外国法からのアプローチ

(1)ドイツ法

 ドイツ著作権法には、同法第97条に差止め及び不作為請求権並びに損害賠償請求権に関する規定が定められている。
 同条1項の規定によれば、著作者の権利その他のドイツ著作権法上の権利を違法に侵害された者は、加害者に対して、侵害の排除を、反復のおそれがあるときは不作為を請求することができるとともに、加害者に故意又は過失があるときは損害賠償を請求できるものと定められている。
 いわゆる「間接侵害」に関しては、同条に基づく請求の相手方という形で議論がなされている。そして、著作権法上の権利侵害について責任を負うのは、権利侵害を自ら行う者か、又はこれに関与する者でその行為と権利侵害との間に相当因果関係が存在する場合であると解するのが一般的である。
 もっとも、こうした責任が第三者に過度に拡大しないように、同条に基づく責任が肯定されるためには、一定の義務違反があったことが前提とされており、最近の判例においても、不作為請求を否定して、同条に基づく請求の相手方の範囲を限界づけたものが見受けられる。
 こうした点を含めて、今後ドイツ法と日本法との比較検討を進めるに当たっては、著作権法のみならず、不法行為に対する民法上の救済方法等、民事救済一般における基本理念を含めた幅広い検討が必要となろう。

(2)フランス法

 フランス知的財産法典には、我が国著作権法第112条のような差止請求権を定めた明文の規定は見られない。そのため、いわゆる「間接侵害」に関しても民事救済の一般原則が参照されることになる。
 フランス法においては、不法行為に対する民事上の救済方法は「現物賠償」が原則と言われており、これには差止めと原状回復が含まれると解されている。こうした点も踏まえつつ、今後フランス法と日本法との比較検討を進めるに当たっては、民事救済一般における基本理念を含めた幅広い検討が必要となろう。

(3)アメリカ法

 アメリカ著作権法は、著作権法第106条から第121条に規定する排他的権利を侵害した者を著作権の侵害者と規定する(第501条(a))。一方、著作権法には、特許法における積極的誘引行為や寄与侵害行為を規制する条文は直接には存在しない注釈113。しかし判例法上、一定の要件の下で、直接の侵害者以外の者に対する侵害責任が肯定されている。すなわち、「代位責任(vicariousliability)」と「寄与侵害(contributoryinfringement)」の法理である。
 「代位責任」とは、1侵害行為を監督する権限と能力を有し、2侵害行為に対して直接の経済的利益を有する者に対して侵害責任を問う法理であり、使用者責任に関する一般的な法理にその根拠を有している注釈114。代位責任においては、侵害行為があることについての認識は必要ない。代位責任の根拠は、侵害者に対する監督権限を最大限行使して侵害状態を抑止すべきであったのにこれをしなかったという点に求められる。
 一方、「寄与侵害」とは、1直接侵害が成立する場合に、2侵害行為があることを知りながら、3他人の侵害行為を惹起し、又は重要な関与を行っていることをいう注釈115
 寄与侵害は、悪意で不法行為に加担した者は有責であるとする不法行為法にその根拠を有している(114)。そのため、寄与侵害の成立には侵害者の「侵害の認識」が必要である。「侵害の認識」とは、実際に知っている場合(actualknowledge)に加えて、知っていると考えるのが合理的である場合(constructiveknowledge、擬制的認識)も含まれる。例えば、侵害にのみ用いられる専用品の提供については「擬制的認識」が認められ、寄与侵害が成立する。一方、「実質的に非侵害用途(substantiallynoninfringinguse)」に適した汎用品や流通商品の提供する行為には「擬制的認識」が認められない 注釈116 注釈117。後者の場合に、寄与侵害を肯定するためには、侵害に寄与した時に特定の侵害を合理的に知っており、かつ侵害を防ぐためにその知識に基づいて行動していないことが証明されなければならない注釈118
 代位責任と寄与侵害は重畳的に成立し得る。いずれも、差止めによる救済が認められるという点で効果は同じである。


注釈113 アメリカ特許法(1952年法)は、271条(b)において、「何人も、積極的に特許侵害を誘引した者は侵害者としての責を負う」と規定する。また、271条(c)において、「何人も、特許された機械、製造物、組み合わせ、もしくは混合物の構成部分、または特許された方法を実施するために使用する物質もしくは装置であって当該発明の不可欠な部分を構成するものを、それが当該特許を侵害して使用するための特別に製造されたものであること、又は、特別に変形されたものであって実質的な非侵害の用途に適した汎用品または流通商品でないことを知りながら、合衆国内で販売の申込みをし、もしくは販売し、又は合衆国内にこれらを輸入する者は、寄与侵害者としての責任を負う」と規定する。
注釈114 Shapiro, Bernstein & Co., v. H.L.Green Cp., 316 F.2d 304 ( 2d Cir.1963)では、被告から営業のライセンスを得てレコード店を経営していた者が海賊版レコードを販売していたという事案で、被告がレコード店の総売上高の10%ないし12%をライセンス料として徴収しており、ライセンスの合意に基づきレコード店を指揮監督し得る立場にあったことを理由として、代位責任を肯定した。
注釈115 著作権法上の「寄与侵害」には、特許法における侵害の積極的誘引(271条(b))と侵害に不可欠な物品の提供(第271条(c))の双方が含まれている。寄与侵害に該当する「重要な関与」とは、典型的には、直接侵害のための敷地や設備を提供することである。例えば、Fonovisa, Inc. v. Cherry Auction, Inc., 76 F.3d 259(9th Cir. 1966))は、フリーマーケットの店舗で海賊版が販売されていたという事案で、ブースの場所、施設、駐車場、広告を提供している者は重要な寄与があるとし、侵害品の販売につき警察から警告を受けていることから侵害の認識もあったとして、寄与侵害の成立が肯定されている。
注釈116 Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417 (1984)では、Sonyの家庭用ビデオテープレコーダー(VTR)が、一般消費者の違法な録画行為を誘発しているとして、差止め・損害賠償が請求されたが、VTRが実質的に非侵害用途に利用し得ることを理由として、寄与侵害が否定された。
注釈117  A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004(9th Cir.2001)では、中央管理型P2Pファイル交換ソフトの提供業者の行為が寄与侵害になるかどうかが争われた。被告は、Sony判決を援用し、ユーザー間で違法なファイル交換がなされるかもしれないという程度の認識では寄与責任を問うのに不十分だと争ったが、裁判所は、具体的な侵害物がシステム上で利用可能となっているのを知りつつ、これを除去し得るのに放置していた場合には寄与侵害が成立し得るとした(代位責任も肯定されている)。一方、非中央管理型P2Pファイル交換ソフトの提供業者の寄与侵害が問題となった事案で、下級審(MGM Studios, Inc. v. Grokster Ltd., 380 F.3d 1154 (9th Cir. 2004)は侵害を否定したが、ごく最近出された最高裁判決(2005 U.S. LEXIS 5212(U.S. June 27, 2005))は、「著作権侵害のために機器を使用することを促す目的を持って機器を頒布する者は、第三者による侵害行為の結果に対して責任を負う」と結論した上で、控訴審判決を取り消し、事件を差し戻した。
注釈118 A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004, at 1027 (9th Cir.2001).


(4)イギリス法

 イギリス1988年著作権法(CDPA1988)は、著作権者の排他的権利を規定し(第16条第1項(a)〜(f))、これら権利の対象となる行為を著作権者に無断で行うこと、ないし他人がそれを行うことに許諾を与えること注釈119(a person who,without the licence of the copyright owner,does,or authorizes another to do,any of the acts restricted by the copyright)を「一次侵害(primaryinfringement)」としている(第16条第2項)。一次侵害は著作権者の排他権の内容となる行為を著作権者の許諾を得ずに行うものであるため、行為者の侵害の認識の有無に関わらず、差止めによる救済が可能である。
 一方、イギリス著作権法は、一次侵害に加えて、「二次侵害(secondaryinfringement)」を規定している。「二次侵害」は、侵害複製物の取引に関与する行為と、著作権を侵害する複製物の作成や実演に関与する行為とがある(第22条〜第26条、第296条)。本報告の検討対象である侵害の予備的・幇助的行為の規制は、後者である(第24条〜第26条・第296条・第298条)。具体的には、1侵害複製物を作成するために特別に設計され、適応された物品(articles specifically designed or adapted for making infringing copies of that work)の製造等注釈120(第24条第1項)、2著作物の受信者に侵害複製物を作成させるために著作物を公衆送信する行為(第24条第2項)、3文芸・演劇・音楽の著作物を侵害する実演のために公の場所の使用を許可すること(第25条)、4著作権侵害となる実演のために機器・録音物等を提供すること、また建物占有権者が当該建物に当該機器の持込を許可すること(第26条)、5コピープロテクションの回避装置ないし回避情報の提供(第296条)、6著作物の無許諾受信を可能とする機器の製造等(第298条)がある。これらの行為は厳密な意味で著作権の排他的権利の内容に抵触するものではないが、著作権者の実効的な救済を可能とするために侵害行為として差止めによる救済の対象となっている。
 二次侵害では、一次侵害とは異なり、侵害を構成する事実についての侵害者の認識が要求される。「侵害者の認識」とは、「行為者が著作権侵害行為が行われたことを知っているか、もしくはそう信じる合理的な理由があること(knowingorhavingreasontobelieve)」をいう。「侵害の認識」がない場合には、二次侵害は成立しない。


注釈119 「他人に著作権侵害の許諾を与える行為」とは、「直接の侵害者の行為を制御するための一定の権限を有する者(a grantor who has some degree of actual or apparent right to control the relevant actions of the grantee)の行為」をいう。
注釈120 対象となる物品は、打ち抜き型や鋳型など、特定の著作物の複製に用いられるものに限定される。複写機やテープレコーダーなどの汎用品は含まない。


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