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1.権利制限の見直しについて


6 学校教育関係の権利制限について

1  eラーニングが推進できるように、学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く)の授業の過程で使用する目的の場合には、必要と認められる限度で、授業を受ける者に対して著作物を自動公衆送信(送信可能化を含む)することについて

○問題の所在
 授業を直接受けている者がいて、かつ、その授業が別の場所で同時中継される形態で遠隔授業が実施される場合には、その授業を直接受ける者に対して提供・提示等されている著作物については、別の場所で当該授業を同時に受ける者に対し、原則として公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。以下同じ。)をすることができる(第35条第2項)。
 同項が新設されたことにより、同時中継型の授業は、より円滑に展開し得るようになったが、同項の規定は、サーバ内に授業内容をあらかじめ蓄積しておき、任意の時間帯、任意の場所(在宅も含む)で学習できる形態のeラーニングには適用できない。そこで、そのような授業形態のeラーニングを推進するためには、現行第35条第2項は存置したまま、新たに、要件をより厳格化した上で、当該授業を受ける者に対して著作物を公衆送信できるようにすることが適当であるとの要望がある。

○検討結果
 eラーニングの実態を勘案すると、異時送信による利用にも権利制限を及ぼすべきであるとする意見もあった。しかし、履修者の数が大きくなれば、実質的に「著作者の正当な利益を不当に害することとなる場合」に該当してしまうのではないか、著作物が授業を受ける者以外の者に流通し著作権者の利益に悪影響を及ぼすのではないかなどとして、慎重な検討が必要とする意見があった。また、仮に法改正を検討する場合には、恣意的な解釈による運用を回避するために、教育機関の種別や態様に応じたガイドラインを設けるなど明確化を図る措置が併せて講じられるべきとする意見があった。一方、教育現場における著作物の利用に関しては、権利者・教育関係者の間で補償金による権利処理の実験的な取組みが行われているところであり、実態も十分踏まえた上で検討する必要があるとの意見があった。
 したがって、本件については、著作権の保護とのバランスに十分配慮するため、いかに要件を限定しつつ、eラーニングの発展のために必要な措置を組み込むべきかなどについて、教育行政及び学校教育関係者による具体的な提案を待って、検討することが適当である。

2  第35条第1項の規定により複製された著作物については、「当該教育機関の教育の過程」においても使用できるようにする(目的外使用ではないこととする)とともに、教育機関内のサーバに蓄積することについて

○問題の所在
 教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業で使用するために、一定の限度で、著作物を複製することができるとともに(第35条第1項)、当該複製物の譲渡をすることもできる(第47条の3)。しかし、当該複製物は、「その授業の過程」においてのみ使用できることとされており、他の目的に使用することは、原則として許容されていない(第49条)。
 第35条第1項の規定に基づいて授業の過程で使用された複製物について、学内で有効活用し、教育的効果の向上を図るため、当該複製物を「当該教育機関の教育の過程」においても使用できるようにする(目的外使用ではないこととする)とともに、当該教育機関内のサーバに蓄積して、見ることができるようにすることが適当であるとの要望がある。

○検討結果
 授業の質を高めるために、同じ教育機関の内部で情報の交換・相互利用は有意義であり、可能な限り認められるべきだとする意見もあった。しかし、「当該教育機関の教育の過程」の定義が不明確ではないか、教育機関のサーバに蓄積することにより得られる利益に比して目的外使用の危険性がきわめて高いことなど権利者の利益を不当に害することがないかという点の検証が必要ではないか、教育機関(利用者側)のサーバに大量の他人の著作物を蓄積することの意味を明確にする必要があるのではないか、教育機関内で著作物を蓄積して繰り返し使用する必要があるのならば、購入または許諾を得て複製するべきであるなどとして、慎重な検討が必要であるとする意見があった。また、サーバへの情報の蓄積及びその情報の利用に関する詳細なガイドラインを設定することが必要ではないかとの指摘があった。
 以上のことから、本件については、教育行政及び学校教育関係者からの、教育機関におけるサーバ蓄積に係る利用についての具体的な実態を踏まえた運用の指針等を含む具体的な提案を待って、改めて検討することが適当である。

3  同一構内における無線LANについても、有線LAN同様、原則として公衆送信にはあたらないこととすることについて

○問題の所在
 有線LANのように、有線電気通信設備での同一構内における著作物の送信は「公衆送信」としては原則的に位置付けられていない(第2条第1項第7号の2)。これは、従来より同一構内で行われる著作物の有線送信注釈11については、演奏権・上演権等で捉えるべき行為と考えられてきたからである(同条第7項)。一方、無線LAN注釈12を利用した著作物の送信については、無線による送信は一般的に同一構内に限定されるものではなかったことから、有線LANと異なり、法律上は「公衆送信」から除外されていない。
 しかし、技術の発達・無線LANの普及等も踏まえ、安価であること等、利点の多い無線LANについても、有線電気通信設備である有線LANによる場合と同様に、同一構内の端末間の著作物の送信については、原則として公衆送信に当たらないとすることが適当であるとの要望がある。


注釈11 旧第2条第1項第17号(平成9年改正前)「有線送信)公衆によつて直接受信されることを目的として有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信を除く。)を行うことをいう。」
注釈12 有線ケーブルの代わりに、電波を利用することでパソコン同士を接続し、LAN)(Local Area Network)を構築しようとするもの(総務省『―安心して無線LANを使用するために―参考資料』(平成16年)4頁)。


○検討結果

 教育機関においては、普通教室のLAN整備率が全学校種合計で37.2パーセントであり、特に高等学校においては61.2パーセントと、過半数の普通教室で整備されている。また、無線LANは、個人においては17.1パーセント、LANを導入している企業においては62.1パーセントの企業が導入している。
 このように、無線LANの導入は、教育機関のみならず個人や企業等一般社会においても需要が高まっていると考えられ、本件については、教育機関における権利制限としてではなく、一般的な公衆送信の定義に関する問題として検討する必要がある。

 同一構内のLANにおいては、サーバー等に複製したファイル等を同一構内の端末へ送信して利用する形態が多い。ファイル等が著作物に当たる場合には複製について許諾が必要であるが、無線LANの場合、その複製物を送信する場合には公衆送信に該当し、送信に当たって公衆送信権が働き、個別に許諾が必要となる。
 しかし、同一構内で行われる送信については、公衆送信権ではなく、演奏権・上演権等で捉えるべき行為であるため、有線LANによる送信について公衆送信の定義から除かれている。そこで、無線LANについても、送信の機能や技術が有線LANと同等のものになっていると評価できるという観点から、有線LANと同様に、無線設備で「同一の構内」にあるものによる送信については「公衆送信」の定義から除外することが適当であるとする意見があった。
 今後無線LANへの移行が増え続けると考えられるとする意見もあったところであり、本件については、同一構内の無線LANにおけるファイル等の著作物の送信については公衆送信に当たらないとすることが適当である。

【参考:LANの導入状況について】
<学校におけるインターネット及びLANの整備状況(平成15年度)>
 (出典:文部科学省『データから見る日本の教育2005』31頁)
グラフ

【個人の無線LAN導入率(平成17年1月調査実施)】
(出典:「ネットワークと国民生活に関する調査」(ウェブ調査))

グラフ

LAN導入企業の無線LAN導入率(平成17年1月調査実施)】
(出典:総務省編『平成17年版情報通信白書』(ぎょうせい、2005年)88頁)

グラフ


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