ここからサイトの主なメニューです

1.権利制限の見直しについて


2 特許審査手続に係る権利制限について

1  非特許文献注釈1を出願人に送付するための審査官による複製について
2  審査官からの書類提出の求めに応じるための非特許文献の出願人による複製について
3  特許庁への先行技術文献(非特許文献)の提出による情報提供のための複製について
4  非特許文献を出願・審査情報の一環として電子的に保存するための特許庁による複製について


注釈1 非特許文献とは、特許公報に掲載など特許文献以外のすべてのものを指す。具体的には、論文、書籍、パンフレット、マニュアル、新聞等である。


○問題の所在
 著作物は、裁判手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、複製することができる(第42条)。ここにいう「裁判手続」には「行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む」とされ(第40条第1項)、このような準司法手続としては、例えば、特許審判、海難審判あるいは行政不服審査が含まれる。一方、「立法又は行政の目的」のために必要な場合については、「内部資料として必要」と認められる限度においてのみ複製が許容されている(第42条)。
 「特許審判」のうち「拒絶査定不服審判」は、特許審査において特許庁(審査官)から拒絶査定を受けた出願人が、拒絶査定不服審判を請求することにより開始される、特許庁(審判官合議体)が行う審理手続である。他方、「特許審査」は、「拒絶査定不服審判」等の特許審判の前段階にあって、特許出願における新規性・進歩性等の要件について特許庁が行う審査手続である。特許審査は、特許審判とは異なり、それ自体は「裁判に準ずる手続」ではないとされる可能性がある。そうなると、特許審査については、特許審判とは異なり、特許審査の目的のために内部資料として必要と認められる限度においてのみ、複製が許容されることとなる(第42条)。
 この特許審査において特許庁は、出願を拒絶する場合には出願人に対し事前に拒絶理由の通知を行うこととなるが(特許法第50条)、「特許審査手続」は第42条にいう「裁判に準ずる手続」に当たらないとされるのであれば、審査官は、審査手続の一環として位置付けられる「拒絶理由の通知」に際して、先行技術が記載された非特許文献を、出願人に送付するために、無許諾で複製を行うことはできないこととなる。そのため特許庁は、そのような非特許文献があってもその出所を出願人に明示するにとどめており、こうした取扱いは、特許審査全体の的確・迅速な手続を図る上で障害となっている。特許権は排他的独占権という強力な対世的な権利であり、的確・迅速な審査を確保することは公益上不可欠である。このようなことから、拒絶理由の通知に際しての非特許文献の複製を認めてもらいたいとの要望がある。
 また、特許法第194条は、特許庁長官又は審査官は、当事者から必要な書類等の提出を求めることができるとしているが、この場合にも第42条の適用はないとすると、当事者は権利者の許諾なく複写することができず、そのために、的確・迅速な審査に支障を来すおそれがある。そのため、こうした複写に関しても権利制限の対象として欲しいとの要望がある。
 さらに、何人も、特許庁長官に対して、先行技術文献を提出することにより、出願公開がされた特許出願につき特許性が欠けることについて情報を提供することができる(特許法施行規則第13条の2)という法制度となっているが、上記の情報を提供しようとする者が著作権者の許諾を得られないことにより、先行技術文献の特許庁への提出に支障を来し、結果的には、本来新規性・進歩性等を欠き付与されるべきでない特許の付与を招き、一般国民の利益を損なうおそれがあるという理由で、上記情報提供のための複製を認めて欲しいとの要望がある。
 以上のほか、審査の過程で審査官が審査目的で複製した資料については、これを電子化して他の出願書類とともに保存しておけば、将来の審査・審判手続において有効に活用され、手続の迅速化に資することが期待されることから、特許庁がこのような複製を行うことを認めて欲しいとの要望がある。なお、特許出願のみならず、意匠登録出願、商標登録出願、実用新案登録出願、及び特許協力条約に基づく国際特許出願についても、同様な手続について権利制限を認めて欲しいとの要望もある。

【特許審査手続の全体像】 (出典:特許庁)
図

【特許審査における非特許文献の利用状況】 (出典:特許庁)
グラフ


【諸外国の状況】 (出典:特許庁)
1 非特許文献を出願人に送付するための審査官による複製について
国名 拒絶理由通知書等への引用文献の添付 備考
米国 ある 米国著作権法第107条の「フェア・ユース」に該当。
英国 ある 英国著作権法45条において「裁判における手続」における使用のために無償で複製することが許容されており、審査手続きは「裁判における手続」に入ると解釈して運用。
独国 ある 独国著作権法第45条第1項の、「官庁の手続きにおける使用」の規定により無償で複製することが可能。

2 審査官からの書類提出の求めに応じるための非特許文献の出願人による複製について
国名 著作権侵害とならないか 備考
米国 ある ・この点についての判例は見つかっていない。
・元米国特許商標庁幹部の回答の要旨:米国著作権法第107条の「フェア・ユース」に該当する。
英国 不明 ・この点についての判例は見つかっていない。
・日本と違い、審査官は出願人に文献の提出を命令する権限を持たない。
独国 ある ・この点についての判例は見つかっていない。
・ドイツ著作権法のコンメンタールには、ドイツ著作権法第45条により複製が許される者に、「関与する当事者」が含まれる点、また官庁の命令は必要でない点が示されている。なお、独国の弁護士からも同様に、出願人、異議申立人、代理人等が複製を行う場合、求められて行うか自発的に行うかに関わらず、ドイツ著作権法第45条第1項における「官庁の手続きにおける使用」のために無償で複製することは許される旨の回答をいただいている。

3 特許庁への先行技術文献(非特許文献)の提出による情報提供のための複製について
国名 著作権侵害とならないか 備考
米国 ある ・この点についての判例は見つかっていない。
・米国の弁護士の回答の要旨:複製の目的や性質、著作物の価値への影響を勘案すると、米国著作権法第107条の「フェア・ユース」に該当する。
英国 不明 ・この点についての判例は見つかっていない。
独国 ある ・この点についての判例は見つかっていない。
・ドイツ著作権法のコンメンタールには、ドイツ著作権法第45条により複製が許される者に、「関与する当事者」が含まれる点、また官庁の命令は必要でない点が示されている。なお、独国の弁護士からも同様に、出願人、異議申立人、代理人等が複製を行う場合、求められて行うか自発的に行うかに関わらず、ドイツ著作権法第45条第1項における「官庁の手続きにおける使用」のために無償で複製することは許される旨の回答をいただいている。

4 非特許文献を出願・審査情報の一環として電子的に保存するための特許庁による複製について
国名 電子化の有無 備考
米国 ある ・この点についての判例は見つかっていない。
・元米国特許商標庁幹部の回答の要旨:「フェア・ユース」に該当する。
英国 ない ・電子化されていない。
独国 ない ・電子化されていない。
※なお、フランスは無審査主義のため調査の対象としていない

○検討結果
 要望の1及び2については、知的財産法の柱である特許法において、特許要件を満たしたものでなければ特許を与えないという非常に強い公益的な要請があり、的確・迅速な審査手続の確保の観点から非特許文献の複製について、権利制限を行うことが適当である。
 要望の3は、情報提供の主体が広範に及び複製の量も大きくなるおそれがあることから、補償金制度の導入についても検討すべきとの意見も一部にはあるが、これは、特許の保護要件である新規性・進歩性等の審査をより完全なものとすることにより、本来付与されるべきでない特許の付与を回避するものであって、将来の紛争防止につながる公益性の極めて高い重要な手続であることから、特許庁長官に提出する非特許文献の複製について、1及び2と同様の扱いとすべきとの意見が多かった。
 要望の4についても、権利制限の対象とすべきであるとの意見が多かった。これは、第42条の「行政の目的のための内部資料として必要と認められる場合」に該当するため、現行法でも可能と考えられるとする意見が多かったが、他方、出願・審査書類は閲覧等の対象となり得るために、行政の内部資料目的の複製とみるには困難性があるとの疑義もなくはないので、このような疑義を払拭すべく、上記の電子的保存のための複製が権利制限の対象となることを立法的に明示すべきであるとの意見もあった。

 なお、要望の3については、情報提供の主体が広範に及び複製の量も大きくなるおそれがあることから、補償金制度の導入についても検討すべきとの意見もあった。
 しかし、非特許文献については入手困難なものも多く、色々な著作物が対象となるのであれば、現在の管理事業者等の著作物を用いて対応することは限界があり、提出先・利用目的が非常に限定的であるため、仮に要望の1から4の権利制限を行ったとしても、権利者の正当な利益を不当に害しないと考えるのが適当である。
 ただし、権利制限を行うに当たっては、制限規定に基づいて作成された複製物が関係手続外で利用されることがないような配慮が必要であるとの意見があった。

 また、特許法のみならず、実用新案法、意匠法、商標法及び特許協力条約に基づく国際特許出願についても、基本的に同様の規定があるものについては注釈2、特許審査手続の場合と同様に考える必要があるとの意見があった。

 なお、法改正を行うことになった場合、権利制限規定を置く際には、対象となる手続を著作権法に列挙するのではなく、一般に「行政手続のために必要と認められる場合」を制限規定として加え、具体的には政令で個別の根拠規定を列挙するという方法を検討することが適当であるとの意見があった。


注釈2 実用新案法第55条、意匠法第68条、商標法第77条、特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律第9条参照




前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ