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2. 裁判例からのアプローチ

   以下、本件に関連する主要な裁判例を概観する。

(1)  カラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)関係

  1  侵害主体を著作権法の規律の観点から規範的に捉えるとされるものとして、裁判例上、次のようなカラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)と呼ばれる法理が用いられている。

 〔1〕最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〈クラブ・キャッツアイ事件〉は、スナック等の経営者が、カラオケ装置とカラオケテープとを備え置き、ホステス等の従業員においてカラオケ装置を操作し、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させるなどし、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を上げることを意図しているという事実関係のもとにおいては、ホステス等の従業員が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上記経営者であると判示する。その理由付けとしては、客のみが歌唱する場合でも、客は、上記経営者と無関係に歌唱しているわけではなく、上記経営者の従業員による歌唱の勧誘、上記経営者の備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上記経営者の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上記経営者の管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上記経営者は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであって、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上記経営者による歌唱と同視しうるとする注釈1
 なお、この法廷意見に対しては、客のみが歌唱する場合についてまで、営業主たる上記経営者をもって音楽著作物の利用主体と捉えることは、いささか不自然であり、無理な解釈ではないかとし、この場合には、客の自由意思によって音楽著作物の利用が行われているのであるから、営業主たる上記経営者が主体的に音楽著作物の利用にかかわっているということはできず、これを上記経営者による歌唱と同視するのは、擬制的にすぎて相当でないとする伊藤正己裁判官の意見が付されている。
 上記のカラオケ法理(クラブ・キャッツアイ法理)については、〔2〕最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〈カラオケリース事件(ビデオメイツ事件)〉においても、基本的に再確認されている。

注釈1  そして、本文上記の点から、上記経営者が、権利者の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により上記経営者の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れないとしている。


 このカラオケ法理は、カラオケスナック等の場合だけでなく、カラオケボックスの場合においても、下級審裁判例において踏襲されている。例えば、〔3〕東京地判平成10年8月27日知裁集30巻3号478頁〈カラオケボックス・ビッグエコー事件〉は、カラオケ店舗の経営者が、同店舗の各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払って歌唱し、歌唱する曲目は上記店舗経営者が用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られるという事案につき、顧客による歌唱は、上記店舗経営者の管理の下で行われているというべきであり、また、カラオケボックスの営業の性質上、上記店舗経営者は、顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による著作物の演奏についても、その主体は上記店舗経営者であると判示している。
 また、前記カラオケ法理の適用範囲は、カラオケ関係以外にも拡大されてきている。例えば、〔4〕東京地判平成10年11月20日知裁集30巻4号841頁〈アダージェット・バレエ作品振付け事件〉は、舞踊の著作物の上演の主体につき、実際に舞踊を演じたダンサーに限られず、当該上演を管理し、当該上演による営業上の利益を収受する者も、舞踊の著作物の上演の主体であり、著作権又は著作者人格権の侵害の主体となり得ると判示している。

  2  前記カラオケ法理は、ファイル交換事件関係でも、基本的には踏襲されているもののように見受けられる。

 〔5〕東京地中間判平成15年1月29日判時1810号29頁〈ファイルローグ事件中間判決〉は、ピア・ツー・ピア方式による電子ファイル交換サービスの事案において、同サービスの提供者が、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては、a)同サービス提供者の行為の内容・性質、b)利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度、c)同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきであるとした上で、1)同サービスは、MP3ファイルの交換に係る分野については、利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること、2)同サービスにおいて、送信者がMP3ファイルの自動公衆送信及び送信可能化を行うことは同サービス提供者の管理の下に行われていること、3)同サービス提供者も自己の営業上の利益を図って、送信者に同行為をさせていたことから、同サービス提供者を、侵害の主体であると判示している。ここでは、前記カラオケ法理と基本的に共通するb)、c)の点に加えて、a)の点を考慮要素としている点、また、これらの3つの要素につき、「総合斟酌」するとしている点が注目される。

 なお、同事件の控訴審の〔6〕東京高判平成17年3月31日最高裁HP(平16(ネ)405)注釈2〈ファイルローグ事件控訴審判決〉は、単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず、同電子ファイル交換サービスが、その性質上、具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり、同サービス提供者がそのことを予想しつつ同サービスを提供して、そのような侵害行為を誘発し、しかもそれについての同者の管理があり、同者がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは、同者はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、その責任を問われるべきことは当然であり、同者を侵害の主体と認めることができるというべきであると判示している。その上で、a)同サービスの性質、b)管理性、c)同サービス提供者の利益の存在の各点につき検討し、これら各点を総合考慮すれば、同サービス提供者は、同サービスによる本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体であると認めることができるとしている。

注釈2  東京高判平成17年3月31日最高裁HP(平16(ネ)446)も同旨。


(2)  侵害行為の幇助者に対する差止請求の可否

 〔7〕大阪地判平成15年2月13日判時1842号120頁〈通信カラオケ装置リース事件(ヒットワン事件)〉は、著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解されるが、侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、a)幇助者による幇助行為の内容・性質、b)現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、c)幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接なかかわりを有し、当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるとして、一定の場合において幇助者に対する差止請求を肯定している。

 これに対して、〔8〕東京地判平成16年3月11日最高裁HP(平15(ワ)15526)〈2ちゃんねる小学館事件第一審判決〉は、著作権法112条1項は、著作権の行使を完全ならしめるために、権利の円満な支配状態が現に侵害され、あるいは侵害されようとする場合において、侵害者に対し侵害の停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって、いわゆる物権的な権利である著作権について、物権的請求権に相当する権利を定めたものであるが、同条に規定する差止請求の相手方は、現に侵害行為を行う主体となっているか、あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するのが相当であるとして、特許法101条や商標法37条のような規定を要するまでもなく、権利侵害を教唆、幇助し、あるいはその手段を提供する行為に対して、一般的に差止請求権を行使し得るものと解することはできないと判示する注釈3注釈4
 また、現に著作権等の侵害が行われている場合、あるいは行われるおそれの高い場合に、権利を侵害された者において侵害行為を行った主体に対する差止請求を行うことが容易ではない一方で、幇助者の行為が著作権等の侵害行為に密接な関わりを有し、かつ幇助者が被害の拡大を容易に防止することができる立場にあるような場合には、当該幇助行為を行う者は著作権等の侵害主体に準ずる者として、著作権法112条1項に基づく差止請求の相手方になり得るという前記大阪地判の立論とほぼ同様の主張については、採用することができないと明確に判示している注釈5

注釈3  なお、「もっとも、発言者からの削除要請があるにもかかわらず、ことさら電子掲示板の設置者が、この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には、電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて、電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが、そのような事情の存在しない本件において、被告に対する差止請求を認める余地はない。」とも判示する。

注釈4  なお、上記のような差止請求のほか、損害賠償請求については、作為義務も過失も否定されるとして否定している。

注釈5  特許法に関するものではあるが、〔9〕東京地裁平成16年8月17日判時1873号153頁〈切削オーバーレイ工法事件〉は、「特許法100条は、特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが、同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは、自ら特許発明の実施(特許法2条3項)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい、それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。」として同旨を明確に判示する。


(3)  その他

 前記〔8〕事件の控訴審である〔10〕東京高判平成17年3月3日最高裁HP(平16(ネ)2067)〈2ちゃんねる小学館事件控訴審判決〉は、前記〔8〕地裁判決とは逆に、差止めと損害賠償の双方を肯定している。この〔10〕高裁判決は、「自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は、これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには、そのような発言の提供の場を設けた者として、その侵害行為を放置している場合には、その侵害態様、著作権者からの申し入れの態様、さらには発言者の対応いかんによっては、その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。」等とした上で、掲示板運営者は、著作権法112条にいう「著作者、著作権者、出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当するとして、掲示板運営者に対する差止請求を肯定している。
 この〔10〕判決については必ずしも判然としない面もあるが、上記判示部分からすると侵害行為の放置自体をもって著作権侵害行為と評価すべきものとしているようであり注釈6、少なくとも、カラオケ法理に立脚して侵害行為主体性を肯定したものとは言い難く、また、掲示板運営者を侵害行為の幇助者と位置付けた上で幇助者に対する差止請求を肯定したものとは言い難いように見受けられる。上記判断においては、掲示板ないしその運営者の特殊性が重要性を有しているように窺われる注釈7注釈8
 なお、不法行為に基づく損害賠償請求権に関するものではあるが、〔15〕最判平成13年2月13日民集55巻1号87頁〈ときめきメモリアル事件〉は、専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置いた者は、他人の使用により、ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、ゲームソフトの著作者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判示している注釈9。ちなみに、これも不法行為に基づく損害賠償請求権に関するものではあるが、前記の〔2〕最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〈カラオケリース事件(ビデオメイツ事件)〉は、カラオケ装置のリース業者は、カラオケ装置のリース契約を締結した場合において、当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは、リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、同相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うと判示して、カラオケ装置のリース業者に対する損害賠償請求権を肯定している。

注釈6  ちなみに、この視点自体は、前記〔8〕地裁判決も示唆していたところではあるといえよう。前掲注3参照。

注釈7  ちなみに、本文上記の掲示板とは全く異なる事案についてであるが、〔11〕東京地決平成17年5月31日(平16(モ)15793)〈録画ネット事件仮処分異議決定〉は、「録画ネット」という名称で運営している放送番組の複製・送信サービスにおいて、同サービスの利用者と同サービスの提供者が、当該放送の複製を共同行為者として行っているとして、同提供者への差止めを肯定している(原決定認可)。なお、同事件の原仮処分決定である〔12〕東京地決平成16年10月7日(平16(ヨ)22093)〈録画ネット事件仮処分決定〉においては、同サービスにおける複製の主体は、同サービスの提供者であるとして、同者への差止めを肯定していた。

注釈8  なお、商標法に関するものではあるが、〔13〕大阪地判平成2年3月15日判時1359号128頁〈小僧寿し事件(大阪)〉は、フランチャイジーが商標権侵害をした場合において、その指導をしているフランチャイザーを被告として、フランチャイジーに商標権侵害をさせないように求める請求について、当該フランチャイザーは、フランチャイジーの商号、商標の使用に関し指導、監督し得る法的地位を有しており、実際にも、当該フランチャイザーは、フランチャイザーとして、各フランチャイジーに対し店舗店頭の正面看板等の表示の仕方について指導していることに鑑みると、当該フランチャイザーには、フランチャイジーをして、商標権侵害をさせないようにする義務があるとして、上記請求を認めている。〔14〕高知地判平成4年3月23日判タ789号226頁〈小僧寿し事件(高知)〉も、同種の事案につき、基本的に同様の理由から、当該フランチャイザーには、フランチャイジーをして、商標権侵害をしないように指導する義務があるとして、上記と同様の請求を認めている。

注釈9  〔16〕東京高判平成16年3月31日判時1864号158頁〈DEAD OR ALIVE事件控訴審判決〉も、上記〔15〕最判を引用して、専らゲームソフトの改変のみを目的とする編集ツールプログラム収録したCD-ROMを販売し、他人の使用を意図して流通に置いた者は、他人の使用により、ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、ゲームソフトの著作者に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと判示している(〔17〕東京地判平成14年8月30日判時1808号111頁〈DEAD OR ALIVE事件第一審判決〉も同旨)。

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