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2 検討内容

  1. 著作権法と契約法の関係について(いわゆる契約による著作権法のオーバーライド)

  (1)  現行制度

 著作権法は,第2章第3節第5款(第30条以下)に「著作権の制限」を規定しており,私的使用のための複製(第30条),図書館等における複製(第31条),引用等の利用(第32条)等が認められている。制限規定が置かれている趣旨及び目的は,規定ごとに異なる。

(2)  問題の所在

 制限規定に関しては,制限規定により認められる著作物の利用を禁止又は制限する内容の契約が有効かという問題があるとされる。
 この問題は,一般に「契約による制限規定のオーバーライド問題」と呼ばれており,そもそも著作権法制定時から想定可能な問題ではあったが,我が国においては,近年になって,後述する米国におけるProCD事件でシュリンクラップ契約の成立性が肯定されるといった流れの下,UCITA(Uniform Computer Information Transactions Act;統一コンピュータ情報取引法)制定過程での議論,欧州におけるコンピュータ・プログラム指令,データベース指令等を巡る議論等が紹介される中で,制限規定と契約法との関係に関して先行的研究と問題提起がなされている。

(3)  過去の検討

  1  著作権制度審議会答申(昭和41年)

 旧著作権法時代も含めて,制限規定により許される行為を禁止する内容の契約が有効であるか等についての議論はなかったと言ってもよいようである。昭和41年の著作権制度審議会答申及び答申説明書も,制限規定と契約の関係について言及していない。

2  コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議(平成6年)

 「契約による制限規定のオーバーライド問題」については,プログラムの著作物の著作権の制限に関する検討の過程において,平成6年の上記協力者会議において検討された。
 コンピュータ・ソフトウェアは,小売店においてパッケージ製品として販売されるが,製品のパッケージを開封した場合に,購入者はソフトウェアの製造会社と,箱に印刷してある条件について合意したとする,いわゆる「シュリンクラップ契約」の形で,様々な使用条件を付けて提供されている場合が多い。そして,その使用条件には,制限規定によって認められる利用を禁止等する条項,著作権の内容にない行為について使用許諾を与える条項等がしばしば存在する。
 このように,制限規定で認められる利用を行う者に対して,著作権者やソフトウェアの製造業者が,直接契約関係を構築することを求めることが可能になったことを背景に「契約による制限規定のオーバーライド問題」に注目が集まることになったとも言える。
 協力者会議の結論は,この問題は論理的にはプログラムの著作物に限らない問題であること,各制限規定の趣旨,目的及び契約の実態等について詳細な検討を行う必要があること,当面は今後の判例等の蓄積を待つことが適当であることを述べ,法改正につながる結論を出すには至らなかった。
 また,「シュリンクラップ契約」については,「プログラムの使用者と権利者との間の契約が法律上有効に成立しているかどうかについて極めて疑問がある」との意見が有力で,契約条項の有効性の議論以前の問題として,そもそも契約の成立性が問題とされる状況であった。

3  技術的保護手段と制限規定との関係

 制限規定により認められる利用を禁止等することができる有力な方法としては,契約の他に技術的保護手段がある。コピープロテクションと呼ばれる著作物を含む情報一般の複製を規制する技術やアクセスコントロールと呼ばれる情報へのアクセスを規制する技術が一般的である。
 これら技術的保護手段が契約法との関係で重要なのは,技術的保護手段を用いることにより,一般的な技術レベルしか有しないユーザーに対して,契約の締結を強制することが容易になるという事実である。
 確かに,契約によるオーバーライドの問題は,コンピュータ・プログラムが著作権法で保護される前後から検討がなされるなど,従前から存在した。しかしながら,技術的保護手段の問題が登場したこと,加えてインターネットの爆発的な普及により,コンテンツそれ自体の取引が容易になったこと等により,それが一般ユーザーレベルにまで拡張し,問題がより一層顕在化したと指摘できる。

 著作権法は,事実を知りながら技術的保護手段の回避を行うことにより私的使用のために著作物を複製することを著作権の制限から外している(第30条第1項第2号)。この前提として,著作権法(第120条の2第1号,第2号)と不正競争防止法(第2条第1項第10号,第11号)によって技術的保護手段の回避を目的とする機器の公衆への提供が規制されている。
 なお,平成9年から平成10年に開催された著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)において,制限規定により認められる利用を技術的保護手段により禁止している場合に,技術的保護手段を回避して当該利用を行うことを著作権侵害とすべきかどうかの検討が行われた。ただし,技術的保護手段により著作権の制限により許される複製等をできないようにすることについては「当然できる」と考えているため検討してはいない。

(4)  検討内容

  1  検討の前提

 「契約による制限規定のオーバーライド問題」は,我が国においては以上に述べたような形で論点として登場したが,その後米国におけるProCD事件においてシュリンクラップ契約の成立性と有効性が承認され,次いで情報取引を規制する新規立法(UCITA)を巡る議論が我が国に紹介される過程において1990年代後半から再び問題提起されている。

 この問題は,換言するならば,著作権法が何らかの形で自由利用を認めている領域について,契約によって当該利用を「規制」することは可能であるかどうか,仮に可能である場合には,その限界をどこに見出すべく法制度の整備を行うのかということである。

 なお,自由利用が認められる領域としては,著作権法が認める制限規定に限定列挙された類型の利用の他,著作権の保護期間が満了した著作物の利用,そもそも著作権が発生しないもの(事実情報などの創作性が否定されるもの)の利用等,様々である。最終的には,契約法との関係について,これら全てを統一的に把握する横断的考察がなされることが望ましいものの,これらの問題についての議論が乏しい我が国においては,自由利用が認められる著作物等の特質ごとに考察を行うことが先決である。統一的な問題分析は,かかる基礎的な作業の後になされるべきものである。そこで,ここでは主として,制限規定により認められる著作物の利用と契約法との関係について検討する。それ以外の自由利用が認められる領域についての詳細な検討は今後に委ねることとする。

 はじめに,平成6年以降の前提となる状況の変化,米国及び欧州における議論を概観し,特に米国における議論が我が国著作権法制との関係でどのような問題として設定されるべきかを検討する。

2  我が国の状況等

 平成6年当時,「契約による制限規定のオーバーライド」が論点となったのは,コンピュータ・ソフトウェアの販売に際してのシュリンクラップ契約の存在が背景にあった。シュリンクラップ契約については,現在においても,一般公衆向けのコンピュータ・ソフトウェアの販売形態として一般的である。加えて,1990年代後半以降インターネットが普及し,インターネット上で著作物等に係る取引が行われており,クリックラップ(クリックオン)契約注釈1と呼ばれる契約形態が登場している。

 当初,その成立性について疑問視されていたシュリンクラップ契約であるが,現在,我が国においては,シュリンクラップ契約やクリックラップ契約の成立の有効性については,経済産業省の「電子商取引等に関する準則」によって,一定の要件を満たしていれば成立を肯定する考え方が示されている。「電子商取引等に関する準則」平成16年6月版経済産業省87頁以下注釈2

 このように,我が国においては平成6年以降現在にいたるまでに,シュリンクラップ契約以外にインターネットの登場とそれを介した著作物等の取引に関してクリックラップ(クリックオン)契約と呼ばれる新たな契約形態が登場したこと,シュリンクラップ契約等の成立性について議論が進展したという2つの状況の変化があった。特にシュリンクラップ契約等の成立性についての議論の進展は,契約内容に関する議論の必要性を更に高めたと言える。

注釈1  クリックラップ(クリックオン)契約とは,例えばコンピュータ・ソフトウェアのインストール途中に画面に現れる利用に係る文書を読み,「同意する」というボタンを押すことをもって,画面に表示された条項に合意したものとする契約をいう。
注釈2  「電子商取引等に関する準則」平成16年6月版 経済産業省87頁以下

3  米国における議論

  ア. シュリンクラップ契約の有効性の議論
 米国においては,1996年のProCD事件上訴審判決注釈3により,シュリンクラップ契約の成立性と有効性が承認されるに至った。ProCD事件において問題となった点は,事実情報を集積したデータベースの利用行為に関してであり,日本法の文脈で捉えるならば,制限規定の問題が直接に関係するものではない点に留意が必要であるが,契約の成立性が承認されたという点は重要と考えられる。後述するUCITA制定を巡る議論においても,ProCD事件でシュリンクラップ契約の成立が認められたことは少なからぬ影響を与えている。

イ. 米国著作権法
 米国著作権法は,排他的権利の制限として公正使用(Fair Use)の規定(第107条)を置いているが,米国では,制限規定は強行規定かといった議論は一般的には行われていない。注釈4

ウ. UCITAを巡る議論
  (ア)  UCITAの成立経緯
 米国においては,契約法の一般的な規律を行うものとして,UCC(Uniform Commercial Code;統一商事法典)があるが,これは原則として有体物(あるいは有体物と役務の混合)の取引を規整するものである。情報が有体物に化体して取引される以上は,UCCの適用が認められる(現にProCD事件で問題となったのは,統一商事法典の第2編であった)が,情報それ自体が取引の対象となる現代社会において,その法的規整を行う一般的な制定法が必要であるという認識が高まり,当初は,UCCの第2編を改正するという形で立法作業が開始された。
 この改正作業は,NCCUSUL(National Conference of Commission on Uniform States Laws;全米統一州法委員会全国会議)及びALI(American Law Institute;米国法律協会)で検討が進められたが,立法過程は紆余曲折を極め,最終的にはUCCに盛り込むことは断念され,UCCとは独立したUCITA(Uniform Computer Information Transactions Act;統一コンピュータ情報取引法)としてNCCUSULで成立した。現在,州レベルで採択が進みつつある。

(イ)  UCITAにおける論点
 UCITAにおいて興味深いのは,マスマーケット・ライセンス(Mass-Market License)について規定した第209条,そして「基本的な公共政策(Fundamental Public Policy)」に反する契約を無効化することを規定した第105条である。第209条により,契約条件がライセンスの一部にならないと掲げられているところの「非良心的(unconscionable)な契約条件,又は第105条(a)(連邦法による専占(Preemption)の場合)若しくは(b)(基本的な公共政策(Fundamental Public Policy)に反する場合)に基づき実施できない契約条件」が問題となる。
 いかなる契約条項が,有効又は無効とされる可能性があるのかに関し,オフィシャル・コメント注釈5によれば,「マスマーケット取引の場合,複数のコピーを作成すること,商業的な利用を禁止すること,情報にアクセスできる利用者の数を制限することといった条項は有効である。」と説明される。その一方で,リヴァース・エンジニアリング,教育や批評の目的で引用すること,図書館のライセンシーがバックアップコピーを取ることといった行為を禁止する条項は,「通常は(ordinarily)」無効とされると説明する。続けて,多くの領域における公の情報政策は絶え間なく変化しており,広く議論されていると述べ,その後にリヴァース・エンジニアリングに関する制限条項は無効とされるべきという点に関してのコメントが続く構成になっている。この点は,第118条で「互換性(Interoperability)」と共に再度確認されている。

 このように,オフィシャル・コメントにおいては,幾つかの類型について具体的に有効又は無効となる契約条項が列挙されているものの,それらの類型に対しても,「通常の場合には(ordinarily)」という文言が再三に渡って用いられており,常に無効となるとまでは言い切っていない。なお,リヴァース・エンジニアリングに関しては,繰り返し述べられていることから,一般的にそれを制限する契約条項は無効とされるべきなのだろうということは看取し得る。

注釈3  ProCD, Inc. v. Zeidenberg, 86 F.3d 1447 (7th Cir. 1996).
注釈4  この点,米国著作権法第107条が定める公正利用(Fair Use)に倣い,一定の場合には,公正な契約違反(Fair Breach)を認めるべきであるという議論もないわけではないが,一般的な承認を得られる状況にはないと思われる。ここで興味深いのは,ProCD事件における議論において,契約法にとって創造される権利が,連邦著作権法によって専占(preempt)される権利と「等価(equivalent)」なものであるかという議論がなされている点である。これは連邦制という政治システムを有する米国に固有の議論に根を持つという意味で,この議論を直接に日本に持ち込むことはできないが,著作権法と契約法との関係性を考察する上で大変に示唆的であると考えられる。今後の研究が待たれる。
注釈5  NCCUSULによる条文の注釈

4  欧州の動向

 欧州においては,1991年のコンピュータ・プログラム指令,1996年のデータベース指令等が,それらの法が認める一定の利用行為に反対する契約は無効である(null and void)と説く(例えば,前者においては,リヴァース・エンジニアリングの際に問題となる逆コンパイルがそれに当たる(コンピュータ・プログラム指令第6条))が,各国が国内法化する過程において対応に違いが生じているようである。
 この点,データベース指令に対応する形で改正がなされたベルギー著作権法が,教育目的や科学研究,行政手続や司法手続等での複製等について強行性を認める対応を行っている点が注目される(第23条の2)。その他,ドイツ著作権法が,「独立して作成されたコンピュータ・プログラムと他のプログラムとの互換性を確保するために不可欠な情報を得るためには」という条件つきで,逆コンパイルを許容する立法を行っている(第69e条)。

(5)  検討結果

 米国における議論を概観したかぎり,特定の類型が無効となるという一義的指針を得ることはできず,この問題を我が国において議論するに当たって,我が国著作権法の制限規定は強行規定か否かという問題設定を行うことには困難も予想される。もっとも,欧州におけるコンピュータ・プログラム指令,データベース指令における議論では,ある特定の類型が強行性を有すると規定されるケースも見受けられ,米国における議論だけが普遍的であると考えるのには留保が必要である。
 現段階で重要なことは,米国における議論にせよ,ヨーロッパにおける議論にせよ,かかる議論が本格的になされていない我が国においては,以下に述べる作業を着実に行うことであると思われる。その過程において,ある特定の利用類型について強行規定とすべきと考えられるならば,その旨を立法することで対応すべきである。

 今後,検討しなければならない点は,著作物の利用に関し,ある種の契約は無効としなければならないのではないか,その要素としてはどのようなものが考えられるかということである。米国では,UCITA第105条に,契約成立の有効性に関する一般条項があり,これにより無効となる契約の類型を,著作権法の考え方も1つの判断要素として議論している。以下,これらの諸問題を3つの段階に分けて論じることとする。

 第1に,この問題を「制限規定が強行規定か否かという問題」として議論した場合,結論としてある制限規定が強行規定であるという場合には,契約における他の要素を一切考慮することなく,当該強行規定に反する契約は無効となるのだが,果たしてどのような場合にあっても絶対に無効であると言えるような制限規定が著作権法に果たしてあるだろうかという点である。注釈6とりわけ欧州の議論から伺えるように,制限規定について個別に検討し,強行規定である制限規定を抽出する作業を行うことも可能である点は前述のとおりであるが,この洗い出し作業を行うには,さらなる検討が必要である。注釈7

 第2に,本問題の大前提として,著作物の利用に関して,ある種の契約は無効となるべきではないかという問題意識が存在するのであり,従ってこの問題は,制限規定も一つの契約無効を判断する要素としつつ,いくつかの要素から判断して「一般的に」無効となると考えるべき契約としてどのようなものがあるか,また,制限規定以外の判断要素としてどのようなものが考えられるかという点について検討がなされるべきである。

 第3に,これらの諸要素を確定させた上で,契約無効の導管についての立法的対応が必要か(民法第90条,あるいは消費者契約法第10条で対応するのか,それだけでは足りないとして著作権法に契約無効に関する何らかの一般条項を置くのか)を検討すべきである。

 なお,制限規定との関係を直接的な要素とはしないものの,保護期間の満了した著作物,非著作物の利用契約についても,今後の作業の見通しのために若干記述する。
 保護期間の満了した著作物が契約によって流通する形態は,現在においても,保護期間の満了した映画や音楽の複製物等の流通や絵画等のアーカイヴといった領域で見受けられるところであり,また非著作物に関しても一般に契約を通じた利用がなされていることから,このような情報等の利用に関する法的規整について検討することも必要であると思われる。なお,データベース等を通じた利用がなされているという場合には,個々の情報の利用に関する法的規整の検討に加えてデータベースの法的保護との関係といった問題も念頭に置いた検討がなされるべきである注釈8

注釈6  例えば,裁判所が契約無効の判決する場合,強行規定(民法第91条)違反だけを理由とすることはほとんどなく,様々な理由を挙げて,公序良俗違反(民法第90条)を用いて無効とすることが一般的である。
注釈7  コンピュータ・プログラムにおけるリヴァース・エンジニアリングに関しては,一定の類型(例えば,互換性確保の目的)に限定し強行性を有すると規定する可能性が残されていることは,米国,欧州の議論からも伺えるところである。
注釈7  米国においてシュリンクラップ契約の成立が認められたProCD事件で問題となったのは,事実情報を集積したデータベースの利用行為に関してであったという事実は示唆的であろう。この問題は,本来,不正競争法(米国での不正領得法理(Misappropriation))との関連性も深く,総合的な視野に立った考察が必要である。



(参考資料)

○コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書

─既存プログラムの調査・解析等について─ 平成6年5月文化庁
2  権利制限規定の性格
  (1)  問題の所在
 著作権法第47条の2をはじめとする著作権法上の各種の権利制限規定について,当該規定によって許容されている行為を契約により禁止することができるかどうかという問題がある。
 特に,パッケージ・プログラムの場合,いわゆるシュリンク・ラップ・アグリーメントの形式で提供されているケースが多いが,その中には著作権法上の権利制限規定によって許容されている行為を禁止するような条項が盛り込まれている場合があり,その場合の権利制限規定との関係が問題になるとの指摘がある。

(2)  略

(3)  権利制限規定の性格についての考え方
この問題については,次のような意見があった。
  ア.  著作権法の権利制限規定によって許されている行為を禁止する契約は有効である。もっとも,この契約に反する行為は著作権侵害となるわけではなく,契約違反となるにとどまると解する。[また,契約に関する一般法理により,その内容が公序良俗に反する場合は無効となることもあり得る。]
(理由)  著作権法上の権利制限規定によって許される行為であっても,当事者が合意したのであれば契約により禁止することに問題はない。規定に反する契約が無効であるとするには,相当な公益上の合理的理由が必要であるが,著作権法上の権利制限にそこまでの合理的理由は認められない。なお,契約に反する行為は著作権侵害ではないとすれば,刑事罰の適用において法的安定性を欠くという問題も生じない。

イ.  著作権法の権利制限規定によって許されている行為を禁止する契約はその限りにおいて無効である。
(理由)  権利制限規定は著作物の公正な利用という観点から設けられるものであり,それに反する契約は無効とすべきである。規定に反する契約が有効であるとした場合は,結局,契約に縛られることとなるので,規定の意味がなくなってしまう。

ウ.  著作権法の権利制限規定によって許されている行為を禁止する契約の効力については,規定の設けられている趣旨,著作物の性格,利用の態様等に応じて判断されるべきである。
(理由)  権利制限規定は,各規定ごとにその趣旨が異なるものであり,また,同じ規定であっても適用される著作物の性格によって許容される範囲が異なるものである。したがって,規定に反する契約の効力については,このような様々な要素を考慮して具体的なケースに応じて判断すべきである。
 なお,パッケージ・プログラムのシュリンク・ラップ・アグリーメントについては,そもそもこれにより使用者と権利者との間の契約が法律上有効に成立しているかどうかについて極めて疑問があるとの意見が多かった。また,仮にシュリンク・ラップ・アグリーメントが契約として有効に成立しているとした場合でも,プログラムに係る著作権法上の権利ではないその使用に関する契約上の権利と著作権法上の権利とを明確に区別していない等,その内容についての問題点が指摘された。

(4)  結論
 本協力者会議においては,この問題はプログラムに固有の問題ではなく著作物一般に関する問題であり,各権利制限規定の趣旨,目的及び契約の実態等について詳細な検討を行う必要があり,当面は今後の判例等の蓄積を待つことが適当と考える。
 なお,シュリンク・ラップ・アグリーメントについては,実務関係者において,契約法上の見地から現在の内容を調査し,適切な契約の在り方を検討することを期待する。


○著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)

報告書 平成10年12月10日
第5節  規制の対象とすべき行為
  4. 権利制限規定との関係
 現行の著作権法は,著作権者等に複製権等の排他的権利を付与する一方で,権利制限規定を設け,著作物等の公正利用等様々な観点から,私的使用のための複製,図書館や教育機関での複製,引用等,一定の場合には,著作権等を制限し,著作権者等の許諾がなくとも複製等の利用を行うことを適法としている。
 このため,技術的保護手段が施されている著作物等について,技術的保護手段の回避を伴って利用を行うことも,権利制限規定の範囲内とすることが適当かどうかという問題がある。
 権利制限規定は,著作物等の公正な利用を図るという観点から設けられているが,その趣旨は様々であり,(a)著作物等の利用の性質からして著作権等が及ぶものとすることが妥当でないもの,(b)公益上の理由から著作権等を制限する必要があると認められるもの,(c)他の権利との調整のため著作権等を制限する必要のあるもの,(d)社会慣行として行われており,著作権等を制限しても著作権者等の経済的利益を不当に害しないと認められるもの,というような趣旨に基づいて設けられていると考えられる。
 このうち,私的使用のための複製については,次のように考えられ,技術的保護手段の回避を伴ってまで行われる複製についてはこれを適法な複製として認めることは適当ではないと考えられる。
 そもそも私的使用のための複製を認めている趣旨は,上記(a)に該当し,個人や家庭内のような範囲で行われる零細な複製であって,著作権者等の経済的利益を害しないという理由によるものと考えられる。一方,技術的保護手段が施されている著作物等については,その技術的保護手段により制限されている複製が不可能であるという前提で著作権者等が市場に提供しているものであり,技術的保護手段を回避することによりこのような前提が否定され,著作権者等が予期しない複製が自由に,かつ,社会全体として大量に行われることを可能にすることは,著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると考えられるため,このような,回避を伴うという形態の複製までも,私的使用のための複製として認めることは適当ではないと考えられる。なお,現行著作権法においても,公衆用自動複製機器を用いて行う複製については,社会全体として大量の複製を可能ならしめ,著作権者等の経済的利益を著しく害する形態の複製であるとして,私的使用のための適法な複製から除外されているところである。一方,私的使用のための複製については,幅広い観点から,デジタル化・ネットワーク化の進展とそれに伴う著作物等の利用形態の変化をふまえ,権利者と利用者のバランスを考慮した全体的な見直しが必要であるとの意見,回避を伴う複製を規制することについてのコンセンサスが必ずしも社会一般に形成されているに至っていないとの意見等もあったところである。
 図書館等における複製や教育機関における複製等公益上の理由から認められている権利制限規定に基づく利用については,当該規定が設けられている趣旨が,原則として,公益を著作権者等の意思に優先させているものと考えられることから,また,引用等社会慣行として行われており,著作権等を制限しても著作権者等の経済的利益を不当に害しないとして認められている権利制限規定に基づく利用については,技術的保護手段の回避を伴う利用であっても,著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあるとまでは現状では言えないと考えられることから,それぞれ規制の対象とすることは適当でないと考えられる。一方,これらの場合においても利用実態をよく見極めた上で公益性そのものの見直しを行うべきとの意見もあったところである。
 なお,上記(a)の趣旨に該当する権利制限規定には,プログラムの著作物の複製物の所有者によるバックアップやバージョンアップ等のための複製等も該当するとも考えられるが,この場合の複製等は利用に必要と認められる限度において認められるものであり,例えばゲームソフトのバックアップ等のような複製はこれに該当しないと考えられていること,所有者自身の複製等の行為であること等から見て,必ずしも著作権者等の経済的利益を著しく害するとは言えず,規制の対象とすることは適当ではないと考える。

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