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資料1−1

平成17年4月28日

図書館関係の権利制限について

常世田 良


(A)  著作権法第31条の「図書館資料」に、他の図書館から借り受けた図書館資料を含めることについて

1 現行制度
 図書館等において著作権者の許諾を得ずに複製を行うことができる図書館資料について、著作権法第31条では「図書館等の図書、記録その他の資料」に限定している。そして、この「図書館等の」という文言から、同条による複製対象となるのは、複製を行う図書館等が所蔵する図書館資料に限定されるという解釈が一般的となっている注釈1。他の図書館から借り受けた図書館資料は、この要件に該当しないため、現行制度上は、他の図書館から借り受けた図書館資料を複写サービスの対象とすることはできないこととなる。
注釈1 加戸守行『著作権法逐条講義 四訂新版』(著作権情報センター、2003年6月)pp.237〜238、文化庁編著『著作権法入門(平成16年版)』(著作権情報センター、2004年12月)p.104、斉藤博『著作権法 第2版』(有斐閣、2004年3月)p.236、渋谷達紀『知的財産法講義II著作権法・意匠法』(有斐閣、2004年10月)、作花文雄『詳説著作権法 第3版』(ぎょうせい、2004年10月)p.329、吉田大輔『改訂著作権が明解になる10章』(出版ニュース社、2003年5月)p.200、など。

2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 公共図書館、大学図書館などの館種を問わず、図書館利用者の多様な情報提供の要求に応えるためには、自館にない資料を他の図書館から借りて提供することのできる相互貸借システムが必須である。このシステムは、長年にわたり図書館業務として広く行われており、図書館利用者の間にも普及したものとなっている。
 ところが、現行制度においては、相互貸借システムにより借り受けた図書館資料を複写サービスの対象とすることができないことから、借り受けた図書館資料のうち必要な箇所を図書館利用者が複写するためには、(1)当該必要な箇所のページ等を図書館利用者が記録し、(2)いったん当該図書館資料を返却し、(3)当該図書館資料を所蔵する図書館に戻ったことを確認した後、(4)当該図書館に改めて複写の申込みを行う、(5)ようやく複写物を入手、という、大変煩瑣な手続を踏まなければならない注釈2
 仮にこのような手続を踏んだところで、入手できる複写物はその場で複写したものとまったく同一であり、現行制度の効果は、結局図書館利用者にこのような手間を掛けさせる結果を生むだけのこととなっている注釈3
 このような事態は、図書館利用者に対する文献の迅速な入手という図書館の重要な機能を十全に果たせないこととなり、また、前述のような煩瑣な手続を踏む間に空費される時間(月単位に及ぶことも想定される)だけ、当該複写物による情報をもとに生産されるであろう知的生産物の完成が遅れることとなり、知的生産物をもって我が国を発展させようという「知的財産立国」の方向性と逆行することとなる。
 なお、先の煩瑣な手続をとった場合には、結局同一の複写物が入手できることになるので、このような現行制度によって保護される著作権者の経済的利益は、まったくないことになる。また、図書館間相互貸借の対象となる図書館資料は、絶版その他の理由により入手困難な資料がほとんどであり、当該図書館資料となっている出版物の売り上げに対する影響は、ほぼ考えられないものと思われる。
注釈2 図書館相互貸借においては、資料管理上の観点から、一般的に館外への持ち出しを認めていない。したがって、通常複写サービスの「抜け道」として行われる、館外のコンビニエンスストア等に設置された文献複写機を用いた図書館利用者自身による複写による複写物の入手ができない。
注釈3 この扱いが「地方を軽視するもの」と誤解した投書が朝日新聞(2004年9月10日付け)の「声」の欄に掲載されたことがある。

3 著作権法の改正以外による当該問題点の解決策
 図書館資料の大半は出版物であるため、その大半は著作権等管理事業者による許諾業務の対象とはなっておらず、仮に許諾業務の対象となっていたとしても、文献複写に係る著作権許諾システムは、(1)複数存在する著作権管理団体が管理する著作物が網羅的でなく、かつ各団体において明示されてないこと、(2)管理著作物に係る情報提供体制が未整備であること等の理由から、これを用いて個々の許諾事務を行うことは、煩瑣な上網羅的に許諾を得られる担保がないため、困難である。
 このため、図書館利用者が入手を希望する複写物の種類は個々人によってまちまちであることから、仮にこの問題を許諾契約の締結により解決しようとすれば、複写の申込みがあるたびに、(1)著作権者の特定及び所在を確認し、(2)著作権者と交渉し、許諾を得る、という手続を踏む必要が出てくるが、この手続はただちに完了できるものではなく、場合によっては数か月以上必要な場合や、著作権者の特定ができなかったために提供を断る結果となることも十分考えられる。
 このような事態を招くような方策は、「解決策」という名に値しないものと思われる。
 したがって、著作権法の改正以外には当該問題点を解決できないのではないかと考える。

4 その他
 現行の著作権法第31条の下においても、借り受けた図書館資料の複写が認められるとする、以下のような見解も存在する。
  “なお、大学附属図書館の間で相互貸借が行われているが、当該大学の学生が他大学の図書館から貸し出された書籍をその在籍する大学の図書館において複写サービスを受けることができないとすれば、当該図書館の機能を十分に果たすことが困難となり、他方では許容したとしても権利者側の損失が特段に生じるとも思われず、現実的な合理性からみて、このような場合は複写サービスは許容されるものと解すべきではないかと思われる。”注釈4
  2(引用者註:図書館が所蔵している資料を用いるという著作権法第31条の要件を指す)から、利用者の持ち込み資料から複写することはできません。図書館が所蔵している資料であれば、書籍等の紙媒体の資料もCDやビデオなどの視聴覚資料も、CD−ROMのような電子媒体の資料も含まれます。
 この規定は実演家やレコード製作者の権利など著作隣接権にも準用されますから(102条1項)、CDなどに収録された実演家やレコード製作者の許諾を得る必要もないことになります。なお、図書館間の相互貸借で入手した資料も所蔵資料に含めて構いません。”注釈5
注釈4 作花前掲書、同ページ
注釈5 吉田大輔『明解になる著作権201答』(出版ニュース社、2001年9月)p.283.


(B)  図書館等において、調査研究の目的でインターネット上の情報をプリントアウトすることについて

1 現行制度
 図書館等において著作権者の許諾を得ずに複製を行うことができる図書館資料について、著作権法第31条では「図書館等の図書、記録その他の資料」に限定している。そして、この「図書館等の」という文言から、同条による複製対象となるのは、複製を行う図書館等が所蔵する図書館資料に限定されるという解釈が一般的となっている注釈6。インターネット上の情報は、図書館が所蔵している情報ではないから、この要件に該当しないことになる。したがって、現行制度上は、インターネット情報を複写サービスの対象とすることはできないこととなる。
注釈6 作花前掲書、同ページ

2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 インターネットの普及とともに、政府情報をはじめとする重要な情報が、インターネット上に公表され、その情報提供時期の早さから、最も重要な情報源の一つとなりつつある。このため、図書館利用者の情報収集活動においては、インターネット上の情報が必要不可欠となっている。
 このような状況を受け、平成12年11月の文部省生涯学習審議会答申「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」においても提言されているとおり、地域の情報拠点としての機能を十全に発揮するため、図書館では、従来の紙媒体を中心とした図書館資料だけでなく、インターネット上の情報を住民に提供する機能も求められている。
 このような状況から、近年地域の図書館等において、インターネット端末を設置し、住民に利用させるところが増えつつある注釈7
 ところが、現行制度では、インターネット上の情報を複写サービスの対象とすることができないことから、インターネット端末を住民に利用させている図書館であっても、インターネット上の情報をプリントアウトするための機器を設置できない状況となっている。
 このような状況は、図書館の「地域の情報拠点」としての役割を充分に果たせない結果を招いている。
 なお、インターネットに情報を提供するという行為は、黙示的にその情報をプリントアウトすることを承知の上で行っているものと考えられ、また、プリントアウトによって生じる経済的損失もほとんどないものと思われる。
注釈7 平成15年度の社会教育実践研究センターの調査によると、都道府県立図書館の60.4パーセント、市町村立図書館の50.7パーセントが、インターネット端末を設置している。

3 著作権法の改正以外による当該問題点の解決策
 インターネット上の情報は、世界中の人々から提供されていることを考えると、プリントアウトするごとに個別に許諾手続を行うことはほぼ困難であると考えられる。平成15年度の文化審議会著作権分科会の報告書においては、事前の意思表示システムによる対応が提言されたが、事前の意思表示システムという制度の周知が期待できないことから、解決策にはならないものと思われる。
 また、項目(A)と同様に、利用者による複写依頼は個々人によってまちまちであることから、事前に図書館側において許諾手続を済ませるということは困難である。
 したがって、著作権法の改正以外には当該問題点を解決できないものと思われる。

4 その他
 図書館における利用に限らず、一般的にインターネット上の情報のプリントアウトについては、「黙示の許諾」が成立しているため、自由に行い得るという見解が、以下のとおり存在する。この見解に従えば、現行制度上においても要望事項に係る利用は自由に行えることになる。
  “なぜなら、インターネットという環境下で「みんな見てね」と言ってウェブサイトに年賀状を載せるわけですから「これをダウンロードするのは、複製権の侵害だ」等というのは自己矛盾じゃないかなという気がするからです。法的には「年賀状は著作物ではあるが、その個人的な非営利目的の利用については黙示の許諾があるのではないか」というような問題になるわけです。”注釈8
  “アクセス制限やコピープロテクションのかかっていないインターネット上の情報は、技術的にも、キャッシュに複製し、ディスプレイに複製し、ハードコピーに出すところまでは許容しているはずのものであり、ふつうはハードディスクやフロッピーディスク、MOなどへの複製も事実上認めざるを得ないものである。一般に、その複製をアップロードしたり、商業的に利用することは著作権侵害行為として許されない。
 上述のように、WWW上の情報は一般利用者との間では、複製の公衆送信利用には“黙示の許諾(implied license)”が与えられているとの擬制がはたらく。したがって、利用者の館内でのインターネット利用については、ハードコピーを提供してもまず問題はない(これを違法行為とするといっても、世界中に広がる複製行為を現実にチェックする手段はない)。”注釈9
注釈8 宮下佳之「年賀状は著作物?--ウェブサイト上での公開と「黙示の許諾」」松倉秀実、宮下佳之、寺本振透『よくわからん?インターネット時代の法律入門』(インプレス、1999年4月)pp.60-61.
注釈9
	山本順一「デジタル図書館と著作権2


(C)  「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存のため例外的に許諾を得ずに複製することについて

1 現行制度
 現行制度においては、図書館資料の保存のために必要がある場合、当該図書館資料を所蔵する図書館等において複製を行うことができることとされている(著作権法第31条第2号)。しかし、「再生手段」の入手が困難である図書館資料の複製について、同号の「保存のために必要がある場合」に該当するかどうか明確でない。

2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 図書館資料の媒体の多様化により、現在では再生機器の入手が困難になっている図書館資料が存在し、記録のための技術や媒体が急速に変化しつつある現代においては、ますます増加するものとみられる。
 代表的なものにはベータビデオやSPレコードなどがあるが、CD−ROMやDVDといった電子媒体に記録された、いわゆる「パッケージ系電子出版物」の場合には、媒体の劣化や技術的な旧式化といった新たな問題が発生し、例えば劣化によりCDが読めなくなり、また、5インチフロッピーディスクドライブのように読み取り機器自体が存在しなくなるなどという問題が発生している。また、かつて存在した記録形式により記録されたものについては、読み取るためのソフトウェアが存在しない限り、中の情報にアクセスすらできなくなっている。ある調査によれば、現存する電子資料の7割弱について利用に問題があり、古い資料であればあるほど利用可能性が低く、読み取りに問題があったという。
 このような状況は、図書館が果たすべき文化の保存・伝承の機能のうえから問題であり、後世の人々への情報アクセスを阻害することにもつながりかねない。
 このような危機的状況に対応するため、資料を所蔵する図書館においては、今後のアクセスを保障するため、媒体変換を行う必要が出てくるが、1においても触れたとおり、現行著作権法第31条第2号を適用して行うことが可能かどうか不明確なため、実行することが困難となっている。

3 著作権法の改正以外による当該問題の解決策
 項目(A)と同様、許諾契約による解決策が考えられるが、そこで述べたことと同様の難点があり、著作権法の改正以外による解決策は存在しないものと考える。

4 その他
 この項目については、平成15年に出された文化審議会著作権分科会「審議経過報告」において「法改正を行う方向とすべき事項」とされたところである。
 また、この分科会での検討の前段階に行われた権利者側と図書館側との検討において、1複製部数は1部に限定すること、2複製したものの無許諾譲渡は認められないこと、3旧形式の著作物の廃棄は求めないこと、4「再生手段」の入手が困難とは、新品市場で入手し得ないことを意味すること、5当該著作物について新形式の複製物が存在しないこと、との留意事項のもと、合意がなされているところである。


(D)  図書館における、官公庁作成広報資料及び報告書等の全部分の複写による提供について

1 現行制度
 図書館等における複製物の提供については、官公庁作成広報資料、報告書等においても一般の著作物と同様の扱いとなっており、一部分のみの提供しかなし得ない。

2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 現行法においては、公的機関が作成した広報資料、調査統計資料、報告書のように、たとえ一般に周知させることを目的として作成された公的著作物であったとしても、作成者である国、地方自治体、独立行政法人等(以下「国等」という。)から個別に許諾を得ないとその一部分しか複写ができない。
 このことは、現在ウェブ上においてこれらの著作物を気軽にダウンロードやプリントアウトすることができることや、情報公開制度により原則として著作物全文の開示が可能であることを鑑みると、著しく不合理なことではないかと思われる。
 図書館は、政府出版物を一般公衆に提供するための施設としての機能を有している。このことは、図書館法(昭和25年法律第118号)第9条において、都道府県立図書館への政府刊行物の提供義務及び公共機関出版物の図書館への寄贈が規定されていることからも明らかである。
 図書館がこのような機能を十全に発揮するためには、官公庁作成広報資料、報告書等を自由に複製し、また、必要に応じ、ファクシミリ等の手段を用いて利用者に提供することが認められる必要がある。
 なお、図書館によりこのような資料が自由に複写されて利用者に提供されたとしても、もともと情報公開制度のもとでは複写物の提供義務を負っていることから考えても、国等に生じさせる経済的利益の損失は存在しないものと思われる。

3 著作権法の改正以外による当該問題点の解決策
 国等との許諾契約を締結するという解決策が考えられるが、すべての国及び地方自治体と許諾契約を締結するのは現実的には困難である。

4 その他
 アメリカ合衆国の場合、連邦が著作権を有する著作物については、自由利用が認められている。


(E)  著作権法第37条第3項について、複製の方法を録音に限定しないこと、利用者を視覚障害者に限定しないこと、対象施設を視覚障害者福祉施設に限定しないこと、視覚障害者を含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された著作物の公衆送信等を認めることについて

1 現行制度
 現行の著作権法第37条第3項においては、録音図書の作成者を視覚障害者福祉施設に限定するとともに、録音図書の貸出対象者を視覚障害者のみに限定している。また、録音データの公衆送信を権利制限の範囲に含めていない。

2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 図書館は「国民の教育と文化の発展に寄与する」ことを目的に、「資料を収集し、一般公衆の利用に供する」ために設置されている(図書館法第1条及び第3条)。ここにいう「一般公衆」には、障害のある人も当然含まれている。そして、障害のある人には、その人が利用できる形態の資料を収集し、あるいは利用できる形態に換えて資料を提供することによって、図書館法に掲げる当該目的を実現することになる。
 現行の著作権法第37条は、昭和45年の現行法制定に伴い追加されたものであるが、当時は公共図書館等における障害者サービスの実施館はほとんどなく、法制定以降に発展したものである。現在では公共図書館等における障害者サービス抜きに、障害者への情報保障は考えられないまでになっている。
 ところが、現行制度では、視覚障害者福祉施設とは言えない公共図書館、大学図書館、国立国会図書館等においては、視覚障害者向けの録音であっても無許諾ではできず、また、視覚障害者福祉施設であっても、視覚障害以外の利用者に対して録音資料を無許諾で提供できない。また、障害者への情報提供の迅速化と安定的な供給の確保のために不可欠な録音のマスターの保存についても問題を抱えている。
 また、現行著作権法では、録音資料の利用者を視覚障害者に限定しているが、録音資料は上肢障害でページをめくれない人や高齢で活字図書が読めない人、ディスレクシア(難読・不読症)、知的障害者等に対しても有効な読書手段であり、図書館に対しても提供を求める声が少なくない。
 さらに最近では、テキストデータを活用したデジタル媒体による読書をする障害者も増えている。また通常の文字の大きさでは読めない弱視者等のための拡大文字資料、触る絵本や読みやすくリライトされた図書、多様な読書障害者が利用できる国際標準規格のDAISY資料など様々な資料が求められているが、いずれも現行著作権法の規定により自由に製作、複製、提供ができないこととされている。
 さらに、一部の公共図書館、点字図書館では、視覚障害者等に対して、著作権者の許諾を得た音訳データのインターネット配信を実施している。ブロードバンド時代を迎え、各種障害者にとってインターネットを活用してのデータ作成や、情報提供は大きな役割を果たすものと考えられるが、著作権許諾が壁となって大きく進展できないでいる。時代の趨勢にあわせて公衆送信の送信データ内容、送信対象、そして公衆送信できる施設等の範囲を拡大し、多様な障害者の情報環境の改善を図ることが必要ではないかと考える。このような、時代の進展に応じた情報提供手段(情報障害者が利用できる形への変換)を法的に認めていかなければ、情報化社会における障害者の情報環境はこれまで以上に厳しいものとなるのではないかと考える。

3 著作権法の改正以外による当該問題の解決策
 許諾契約による解決策が考えられるが、これによる場合、項目(A)の中で記した煩瑣な手続が必要となる。その結果、健常者よりも不利な状況に立たされている障害者が、情報アクセスにおいても、この手続に要する時間だけ更に不利な状況に立たされることになり、更にいえば、著作権者の特定や所在が確認できなかった場合、事実上障害者の情報アクセスの機会を剥奪することになる。
 したがって、著作権法の改正以外には当該問題の解決策は存在しないものと考える。

4 その他
 現在、日本図書館協会と日本文藝家協会との間で協定を結び、文藝家協会所属の作家の作品については、事前登録した図書館においては個々の許諾事務が不要となるシステムが立ち上がっている。しかし、図書館における録音は文学作品だけではなく、あらゆる分野に及んでおり、さらに翻訳書も考えると、このシステムだけでは到底対応できないものと考える。
 なお、アメリカ合衆国、スウェーデン、韓国等においては、本項見出しに掲げた内容の法整備がなされている。


(F)  ファクシミリ、インターネット等を使用して、図書館間で著作物の複製物を送付することについて

1 現行制度
 著作権法第31条においては、図書館等に一定の要件の下で著作権者の許諾を得ずに複製物を作成できることとしているが、作成した複製物を公衆送信することまではこの規定によりカバーされていない。

2 当該制度に関する著作権に係る問題点
 図書館は、情報を迅速に図書館利用者に提供することが使命であり、情報の利用を促進し、ひいては情報から新たな知的生産物を生むことを促進することにもつながる。
 ところが現行制度においては複写物を郵送等の物理的な手段による配送は可能となっているが、現在発達普及してきたファクシミリやインターネット等を用いた配送は許諾が必要となる。
 出版物に係る許諾手続は、項目(A)でも触れたとおり非常に煩瑣であり、なおかつ時間がかかるものである。これでは先に述べた図書館の機能を十全に果たすことが困難となる。
 なお、著作権者に及ぼす経済的利益の損失は、複写物を郵送等により配送する場合と同等であり、このことにより著作権者の経済的利益に不当な損失を及ぼすものではないものと考える。

3 著作権法の改正以外による当該問題点の解決策
 項目(A)と同様、許諾契約による解決策が考えられるが、そこに記したのと同様な難点があり、著作権法の改正以外による解決策は存在しないものと考える。

4 その他
 郵送の代替手段として複製物をファクシミリ等で送付することを認めるべきとする以下のような見解が存在する。
  “複製物の提供は、伝統的な郵送等に限る必要はなく、ファックスにて送付することも含めてよいように思う。”注釈10
  “利用者の手元の受信機側でコピーがプリントアウトされるが、これは図書館が複製主体となる複写サービスであり、その間の電話線による送信行為は、当該複製に伴う作業過程上の行為に過ぎず、権利が及ぶ独自の行為と捉えるべきではないとの考え方もあり得ると思われる。また、このネットワーク時代において、結果として作成される複製物が同程度のものであるなら、利用者にわざわざ来館してもらう必要はないとの意見もあると思われる。”注釈11
注釈10 斉藤博前掲書p.239.
注釈11 作花文雄前掲書p.332.
以上


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