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2.    罰則の強化について

○現行制度


   著作権侵害に係る罰則は、自然人については、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人については、1億円以下の罰金が原則となっている。

罰則の対象 懲役刑 罰金刑
自然人 法人
119 著作権・著作隣接権・出版権侵害 3年以下 300万円以下 1億円以下
著作者人格権・実演家人格権侵害 3年以下 300万円以下 300万円以下
自動複製機器を著作権等の侵害となる複製に営利目的で使用させること 3年以下 300万円以下 300万円以下
120 著作者又は実演家が存しなくなった後における人格権侵害 300万円以下 300万円以下
120-2 技術的保護手段の回避を目的とする装置・プログラムの譲渡・貸与・製造・輸入・所持・公衆の使用に供すること、公衆送信・送信可能化 1年以下 100万円以下 100万円以下
業として公衆からの求めに応じて行う技術的保護手段回避 1年以下 100万円以下 100万円以下
営利目的による権利管理情報の改変等によるみなし著作権・著作隣接権・著作者人格権・実演家人格権侵害 1年以下 100万円以下 100万円以下
121 著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物の頒布 1年以下 100万円以下 100万円以下
121-2 商業用レコードの複製及び複製物の頒布若しくは頒布目的所持 1年以下 100万円以下 100万円以下
122 出所明示義務違反 30万円以下 30万円以下

これまでの改正経緯>

昭和45年(現行法制定時)
   旧法の2年以下の懲役又は5万円以下の罰金より3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に引上げ。

昭和59年
   著作権法制定より14年を経過しており、この間に消費者物価は約2.6倍となっていること、被害額の大きい権利侵害行為も増え、著作権、著作隣接権の保護を強化する必要があること等に鑑み、罰金額の上限を引き上げ。
   30万円以下    →    100万円以下
   10万円以下 30万円以下
   1万円以下 10万円以下

平成8年
   情報化の進展に伴い、著作権に関する法的紛争が多様化・複雑化するとともに、著作権等の侵害事例が増加しており、著作権保護の実効性を高める必要があるため、特許法等他の知的財産権法との整合性を踏まえ、著作権等の場合に適用される罰金額の上限を引き上げ。
   100万円以下    →    300万円以下
   30万円以下 100万円以下
   10万円以下 30万円以下

平成12年
   上映権侵害事件などのように法人の業務として侵害が行われているケースや、企業内違法コピーなど企業ぐるみで行われるケースが多く、法人業務主に対して十分な抑止力のある罰金を課すため、法人に対する罰金額の上限を引き上げ。
   300万円以下    →    1億円以下


○著作権侵害事件の検挙数と起訴数

   平成9年〜13年の著作権等の侵害事件については、警察白書によると、毎年80人〜170人の著作権侵害犯が検挙されている。

平成 検挙件数 検挙人数 起訴件数
  うち略式
9 433 171 145 (100)
10 588 138 116 (91)
11 296 142 112 (77)
12 304 136 146 (87)
13 187 82 75 (59)
合計 1808 669 594 (414)
※検挙数は警察白書、起訴数は検察統計年報より

○諸外国の罰則規定

   諸外国の罰則規定の概要は以下の通りであり、自由刑や罰金刑の定め4は様々だが、両者の併科を認めている例が多い。

  自由刑 罰金刑 併科
日本 〜3年以下 300万円以下 ×
アメリカ 〜5年以下 25万ドル以下
イギリス 〜2年以下 (上下限の規定なし)
フランス 2年 100万フラン
ドイツ 〜3年以下(営利目的の場合5年) (上下限の規定なし) ×
イタリア 6ヶ月〜3年 10万〜3,000万リラ以下
中国 〜3年以下(悪質な場合は3〜7年) (上下限の規定なし)
韓国 〜5年以下 5,000万ウォン以下
台湾 〜5年以下 20万〜200万台湾ドル
最も基本的な著作権侵害(複製権侵害等)に対する各国の罰則を比較したもの。

(1)   罰金刑・懲役刑の引き上げ

   (本日の議論を踏まえ追記)

(2)   懲役刑と罰金刑の併科

○問題の所在

   現行制度では、著作権侵害には懲役刑「又は」罰金刑が科されることとされているが、重大な侵害であって懲役刑が言い渡される場合でも、執行猶予が付いた場合には、略式手続によって罰金刑が科される者より実質的に軽い処分となり、制裁として十分でないことから、懲役の場合でも罰金を併科できるようにすべきであるという意見がある。

<刑事通常第一審における著作権法違反事件>

   平成10年〜14年の5年間で、刑事通常第一審において85名が懲役刑を言い渡されているが、執行猶予が付されるケースがほとんどで、実刑判決は8名にとどまっている。

平成 懲役刑
2年〜3年 1年〜2年 6月〜1年 6月未満
実刑(執行猶予)
10 0(0) 0(9) 0(3) 0(0)
11 0(1) 2(10) 1(1) 0(0)
12 0(3) 1(14) 1(3) 0(0)
13 0(1) 2(15) 1(5) 0(0)
14 0(3) 0(8) 0(1) 0(0)
合計 0(8) 5(56) 3(13) 0(0)
            ※最高裁判所より聴取

○検討結果

   懲役刑と罰金刑の併科については、特許法等他の知的財産関係法には例がないが、その他の法律については多数の例があり、諸外国においても、著作権侵害について併科を認める例が複数あるところである。
   悪質なケースに執行猶予つきの懲役のみで、制裁が十分でないことがある現状において、抑止効果を期待する観点からも併科を認める意義は大きいものと考えられることから、導入すべきである。




【用語説明】

4 平成15年10月現在の為替レートは、米ドル:111円、ユーロ:130円、仏フラン:約19.7円、伊リラ:約0.07円、韓国ウォン:0.01円、台湾ドル:3.3円。




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