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資料   3−2


文化審議会著作権分科会審議経過報告(平成15年1月)(抄)


2   検討の結果

1   損害賠償制度の見直し
(2) 「法定賠償制度」
   デジタル化・ネットワーク化の進展により,侵害行為の発見や損害額の立証が極めて困難になっており,そのために権利者が損害賠償請求を事実上断念する場合もあるとの指摘がある。このため,権利者による損害額の立証負担を軽減するため,法定された金額の範囲内で裁判所が認める金額を損害額とできる,いわゆる「法定賠償制度」を導入すべきであるという意見がある。この制度が導入されれば,権利者は,侵害の成立だけを立証すれば,損害賠償請求を行えることとなる。
   一方で,「法定賠償制度」を導入する場合,著作権等の侵害訴訟においては非常に低額な賠償額が認定される事例もあるため,適切な金額を定めることが困難であることが予想されること,法定する金額が低額に過ぎれば訴訟に必要な費用すら賄うことができないこと,損害額が立証困難な場合については現行の著作権法第114条の4において裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定する制度があること,などから慎重な検討が必要であるという意見がある。
   このため,「法定賠償制度」については,これを導入することの得失や具体的な制度の在り方について,引き続き検討を行うことが必要である。

(3) 侵害の数量の推定規定
   著作権等の侵害訴訟においては,権利者が「侵害者の侵害に係る数量」を立証することが困難な場合,実際に侵害したと思われる数量よりも少ない数量に基づいて損害額が認定される場合が少なくないことから,権利者が立証した数量の2倍の数量を基に損害額を推定する規定を導入すべきであるという意見がある。
   この推定規定は,被害者に実際に生じた損害の賠償を請求するために立証負担の軽減を図るものであり,懲罰的損害賠償制度とは異なり我が国の損害賠償制度の基本原則を超えるものではないことから,導入に積極的な意見がある。
   また,権利者が立証した数量を超える侵害行為があったということについて,権利者が合理的な疑いがあることを立証するという要件を加えた上で,このような推定規定を導入することを支持する意見がある。これに対しては,「合理的な疑い」という新たな概念を持ち込むことは不適切であるとの意見がある。
   このような推定規定の導入について,積極的に反対する意見は無かったが,著作権等のあらゆる侵害事件について,実際に侵害行為が行われた数量を2倍と推定することが適当であるかどうかについて検討が必要であること,推定数量については事案ごとに決定すべきであるとの意見もあること,などの理由により,導入の可能性について引き続き検討を行うことが必要である。

(5) 「三倍賠償制度」(懲罰的損害賠償制度)
   我が国においては,不法行為に対する損害賠償制度は,著作権侵害の場合だけでなく一般的な原則として,被害者が被った不利益を過不足なく補填して不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的としている。このため,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防というものを目的とするものではないというのが一般的な考え方である。また,我が国においては,加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,基本的な考え方として刑事上・行政上の制裁にゆだねることとされている。このため,不法行為に基づく損害賠償においては,被害者が実際に生じた損害を超えた賠償を受けることはできない(参考 最高裁平成9年7月11日判決・民集51巻6号2573頁・万世工業事件判決)。
   これに対して,知的財産権の侵害に対しては損害賠償が抑止力として効果的であるという見解もあり,「侵害し得」の社会からの脱却,侵害に対する抑止機能の強化といった観点から,立証された損害額の3倍の額を賠償額とする,いわゆる「三倍賠償制度」(懲罰的損害賠償制度)を導入すべきであるという意見がある。
   一方で,この制度の導入については,我が国においては上記のとおり,侵害者に対する制裁や一般予防効果は刑事罰の役割とされてきたこと,このような懲罰的損害賠償制度を導入した場合には,外国において同様の制度に基づく高額の損害賠償を認める判決が出た場合には我が国でも執行しなければならないという解釈に至る可能性が高いこと,他の法領域との比較において特に知的財産権侵害行為のみを「三倍賠償制度」の対象とする理由があるかを検討する必要があること,などの理由により,慎重な検討が必要であるという意見がある。
   「三倍賠償制度」の導入は,損害賠償制度全体に関わる大きな問題であり,民事法制一般や他の法領域との均衡に配慮し,また一方で,知的財産の保護強化の社会的要請が高まっていることも視野に入れつつ,今後さらに広い視野から関係各方面における議論の動向に留意しながら,引き続き検討を行うことが必要である。

 

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