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2   著作権法制全般に関する事項

   我が国の著作権法は,昭和45年の現行法制定以来,経済,社会,技術等の変化に対応しつつ必要な改正を行ってきたが,これらは種々の新しい著作物・利用形態の出現等に対応して個別に行われてきたものであって,従来の制度の基本的な部分を見直す必要もあるのではないか,という指摘もある。
   このため,平成13年度の総括小委員会,昨年度の法制問題小委員会においては,その見直しが実際に必要であるかどうかも含め,著作権法制に関する基本的な課題について,改めて整理・検討を行った。
   本年度の法制問題小委員会では,昨年度の法制問題小委員会で引き続き検討が必要という結論を得た,「著作権法の単純化」に関する課題,「『アクセス権』の創設又は実質的保護」について検討を行った。

(1) 著作権法の単純化

   近年,パソコンやインターネットの普及など,「情報化」の進展に伴う創作手段・利用手段の急速な普及により,著作権に関する知識や適切な契約の習慣は,全ての国民にとって必要不可欠のものとなってきており,著作権法そのものについても,できる限りわかりやすいものとすることが極めて重要になってきている。
   昨年度の法制問題小委員会において,
      1著作権法制の全体的な「構造」の単純化
      2「権利」に関する規定の単純化
      3「権利制限」に関する規定の単純化
      4「契約」に関する規定の見直し
      5特定の著作物等のみを対象とした規定の見直し
の5つの諸側面について,必要な場合には協議・調整や条件整備を行いつつ,できるところから著作権法の単純化に着手していくことともに,今後ともこの問題について引き続き検討していくことが適当であるとの結論を得た。
   本年度は,5つの諸側面のうち,契約・流通小委員会との連携を図りつつ,引き続き検討することとされた「4『契約』に関する規定の見直し」について,検討を行った。

○問題の所在

   契約内容が明確な書面による契約が少ないという我が国の著作権に関する契約の実態を踏まえ,著作権法の中には,本来は当事者同士の契約に委ねるべき事項を法定している規定が存在するが,適切な契約を行う習慣の拡大によって,著作物等の創作・利用形態の変化・多様化に対応していくためには,これらの規定を廃止して著作権法を単純化することについて,契約慣行の定着状況を踏まえつつ,検討する必要がある。

「契約」に関する規定の見直し
          (例:次のような規定の廃止)
      1 第61条第2項     (「著作権のすべてを譲渡する」という契約では,「翻訳権・翻案権等」と「二次的著作物の利用に関する権利」は譲渡されていないと推定する規定)
2 第15条   (雇用契約等に著作権に関する規定がない場合には,従業員の著作物について,一定の条件のもとに「雇用者」を「著作者」とする規定)
3 第44条   (放送の許諾を得た著作物について,放送事業者がこれを一時的に録音・録画することができることとする規定)
  第93条   (放送の許諾を得た実演について,放送事業者がこれを録音・録画することができることとする規定)

1第61条第2項の廃止について

○検討結果

   契約で個々の権利の譲渡を明記しない限り,権利が譲渡されないという規定は,著作権法を相当に読み込んでいないとわからない規定であり,著作権法を単純化する観点から廃止すべきであるという意見が多く示された。
   他方,第61条第2項の規定は,著作権の譲渡の際に,著作権者に改めて何を譲渡するのかといった一考を促す意味があることから,規定の廃止については慎重な検討が必要であるとの意見もあった。

2第15条(法人著作)の廃止について

○検討結果

   法人著作の規定を廃止することにより,企業等の法人は,従業員等と個々に契約をする必要があること,契約によって,複製権や譲渡権等の「財産権」は移転できるが,氏名表示権や同一性保持権といった「著作者人格権」を移転することはできないことから,企業活動が円滑に行うことができなくなるという指摘がなされた。また,法人著作の規定を廃止して,個々の契約に委ねることは,一見すると,従業員に有利になるように見えるが,実際上は,雇用の力関係で従業員に不利な契約がされることが予想されるので,法人,従業員の双方が納得し得る契約ルールの構築が前提として必要であるとの指摘がなされ,法人著作の規定は廃止すべきでないとの意見が多く示された。
   法人著作の規定の廃止により,著作権の帰属が法人,従業員双方の契約に委ねられるため,かえって著作権法の適用関係が複雑になることが予想され,現段階では,企業等の法人にとっても,従業員にとっても,法人著作の規定の廃止は適当ではなく,著作権法の単純化という観点だけで検討すべき問題でないと考えられる。

3第44条及び第93条の廃止について

○検討結果

   放送番組の二次利用を円滑に行うため,放送の許諾の際に録音録画の許諾の契約を行うべきであり,放送のための一時的固定による録音録画を権利制限する第44条及び第93条等の規定を廃止すべきという積極的な意見があった。
   他方,このような規定を廃止することは,録音録画権と放送権の双方の契約交渉を行わなければならず,現場に混乱を招いたり,現実的に許諾を得られない場合もあることや,「視聴覚的実演の保護に関する新条約(仮称)」が採択されない中で,第93条を廃止することは,放送番組の二次利用が行われる際に,実演家の許諾を得ないで利用されることとなり,実演家の権利の実質的切り下げになるのではないかという慎重な意見があった。
   第44条及び第93条の廃止については,放送番組の二次利用を行う際の契約の実態や,「視聴覚的実演の保護に関する新条約(仮称)」の動向を踏まえつつ,引き続き検討する必要がある。


(2) 「アクセス権」の創設又は実質的保護

○問題の所在

   著作物は,視覚的・聴覚的な方法等により「知覚」(例えば,本を「読む」こと,放送番組を「見る」こと,音楽を「聴く」こと)されることによってその価値が発揮されるものであり,使用者が複製物の入手等に対価を支払うのも,通常は著作物を知覚するためである。しかし,個々の知覚行為に権利を及ぼしても実効性を確保することができない等の理由により,内外の著作権法制は,知覚の前段階である複製や公衆送信等について権利を及ぼしてきた。
   しかしながら,近年の情報技術の発達により,デジタル化されて流通する著作物について,知覚行為そのものをコントロールすることができるようになってきた。このため,例えば,いわゆる「技術的手段」の回避を防止する制度に関し,複製行為等ではなく「知覚行為」をコントロールするための技術的手段を対象とするかどうかについて,国際的な論争も生じている15
   「知覚行為」そのものをコントロールすることが可能となる一方で,知覚行為をコントロールする技術的手段の回避による影響を踏まえ,1アクセス権の創設,2「暗号解除権」の創設,3「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止等の措置について,検討する必要性が生じている。

○検討結果

   「アクセス権」の創設については,国民の知る権利という憲法上の問題にも関わり,また,著作権制度の根幹にかかわる問題でもあることから,その可否・必要性等について,国際的な動向を踏まえた慎重な検討が必要である。
   「暗号解除権」の創設,「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止についても,アクセスコントロールの問題として,著作権制度全体に影響を及ぼす問題であるが,米国のデジタル・ミレニアム著作権法16 やECディレクティブ17において,「知覚行為」のコントロールに係る規制が導入されていることや,現在,「暗号化された放送」の保護を図る観点から,WIPO(世界知的所有権機関)における「放送機関の保護に関する新条約(仮称)」に向けた議論として検討が行われていることを踏まえつつ,引き続き検討することが必要である。
   なお,「アクセス権」の保護又は実質的保護の検討にあたり,本来アクセスコントロールとして施されているCSSがコピーコントロールとしても機能しているという実態を踏まえその回避の規制を求める問題提起があった。



15   国内においては,平成10年12月にとりまとめられた著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護手段・管理関係)報告書において,回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段について,現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とすることが適当であるとされ,「知覚行為」をコントロールするための技術的保護手段の回避については,現行の著作権法では規制の対象とされていない。
16   1998年デジタルミレニアム著作権法1201条(a)(1)(A)「何人も,本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避してはならない」(CRIC   外国著作権法令集(29)アメリカ編   山本隆史・増田雅子訳)
17   ECディレクティブ6条1「加盟国は,関係する者が,その目的のためであることを知り,または知るべき合理的な理由を有しながら行う,いずれかの効果のある技術的手段の回避に対して,適切な法的保護を与えるものとする。」(CRIC   情報社会における著作権及び関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州会議およびEU理事会のディレクティブ2001/29/EC)

 

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