知的財産訴訟に係る立証の容易化のための方策(文書提出命令に係るインカメラ手続の改善等) ○現行制度
著作権法は、民事訴訟法の特則として、侵害行為について立証するため必要な書類等について、提出を拒むことに「正当な理由」がある場合を除いて、提出を命ずることができると定めている。
裁判所は、この正当な理由に該当するか否かを判断するために必要がある場合には、当該文書を提示させることができるが、秘密保護の観点から、当該文書については裁判所(及び所持者)以外の何人も開示を求めることができないとされている(著作権法新第114条の36)。これをインカメラ審理手続という。裁判官以外の何人も文書の開示を求めることができないことから、現行法上、それ以上に秘密保護の規定は設けられていない。
また、憲法第82条は、第1項で裁判の対審及び判決は公開法廷で行う原則を定めている一方、第2項で「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」がある場合に、対審を公開しないことができると定めている。また、裁判所法第70条は、対審を非公開とした場合には、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなくてはならないとするとともに、判決を言い渡すときには、公開しなくてはならないとする。
憲法第82条の趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにあるとされている(最高裁判所平成元年3月8日法廷メモ事件判決)。
なお、尋問の非公開を定めている例に人事訴訟法があるが、特許法や著作権法には特別な定めは置かれていない。
○問題の所在
侵害行為及び損害の立証のためには、より幅広い文書提出義務を認めることが望ましいが、一方で営業秘密を保護することも必要である。現行法では、立証に必要な文書に営業秘密が含まれている場合には、「提出を拒むことについて正当な理由がある」として提出を拒まれる可能性がある。この「正当な理由」の有無については、裁判所がインカメラ審理において判断するが、申立人等について立会い等の手続が保障されておらず、申立人の反論なしに文書提出義務の有無が判断されてしまうという問題があるという意見がある。
また、知的財産訴訟における証人の尋問などについて、特に営業秘密が問題となる場合には、その漏洩が懸念されて証拠の提出ができず、訴訟が円滑に行えないおそれがあるため、非公開審理を導入できる旨を明文化すべきではないかという意見がある。
○検討結果
著作権侵害訴訟においては、著作物が原則として公表されているものであることから、特許権侵害訴訟のように営業秘密が問題となる事例は少ないと思われるが、プログラムの著作物に係るソースコードが審理の対象となる場合には、ソースコードに営業秘密が含まれるとして提出を拒まれる可能性がある。
立証の容易化と営業秘密の保護とのバランスを図る観点からは、文書に営業秘密が含まれている場合には「正当な理由」の有無について、インカメラ審理において判断する制度を維持しつつ、インカメラ審理の参加者の拡大など、インカメラ審理の改善による対応も検討すべきであると考えられるが、特許権侵害訴訟など他の知的財産権侵害訴訟とのバランスも考慮する必要がある。なお、インカメラ審理参加者の拡大を検討する場合には、それに伴って、目的外の使用や第三者への開示を禁止する秘密保持義務を課すとともに義務違反には罰則を科すなど営業秘密に配慮することが必要である。
また、営業秘密を理由とする非公開審理の明文化については、著作権侵害訴訟の場合、非公開でないと審理ができないことが実際上ほとんどないことから、敢えてこれを明文化する必要性は乏しいものと考えられる。
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