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3.司法制度改革推進本部における検討事項について

   政府の司法制度改革推進本部においては、司法制度改革に必要な法律案の立案等の作業のため、学者、実務家、有識者等から成る各種の検討会を設置して検討を行っている。本小委員会においては、本部において検討中の事項のうち、著作権制度と関連の深い、1立証の容易化のための方策について(文書提出命令に係るインカメラ手続の改善等)、2弁護士費用の敗訴者負担制度の取扱い、3裁判外紛争解決等の在り方の3点について検討を行った。

(1)    知的財産訴訟に係る立証の容易化のための方策(文書提出命令に係るインカメラ手続の改善等)

○現行制度

   著作権法は、民事訴訟法の特則として、侵害行為について立証するため必要な書類等について、提出を拒むことに「正当な理由」がある場合を除いて、提出を命ずることができると定めている。
   裁判所は、この正当な理由に該当するか否かを判断するために必要がある場合には、当該文書を提示させることができるが、秘密保護の観点から、当該文書については裁判所(及び所持者)以外の何人も開示を求めることができないとされている(著作権法新第114条の36)。これをインカメラ審理手続という。裁判官以外の何人も文書の開示を求めることができないことから、現行法上、それ以上に秘密保護の規定は設けられていない。
   また、憲法第82条は、第1項で裁判の対審及び判決は公開法廷で行う原則を定めている一方、第2項で「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」がある場合に、対審を公開しないことができると定めている。また、裁判所法第70条は、対審を非公開とした場合には、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなくてはならないとするとともに、判決を言い渡すときには、公開しなくてはならないとする。
   憲法第82条の趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにあるとされている(最高裁判所平成元年3月8日法廷メモ事件判決)。
   なお、尋問の非公開を定めている例に人事訴訟法があるが、特許法や著作権法には特別な定めは置かれていない。

○問題の所在

   侵害行為及び損害の立証のためには、より幅広い文書提出義務を認めることが望ましいが、一方で営業秘密を保護することも必要である。現行法では、立証に必要な文書に営業秘密が含まれている場合には、「提出を拒むことについて正当な理由がある」として提出を拒まれる可能性がある。この「正当な理由」の有無については、裁判所がインカメラ審理において判断するが、申立人等について立会い等の手続が保障されておらず、申立人の反論なしに文書提出義務の有無が判断されてしまうという問題があるという意見がある。
   また、知的財産訴訟における証人の尋問などについて、特に営業秘密が問題となる場合には、その漏洩が懸念されて証拠の提出ができず、訴訟が円滑に行えないおそれがあるため、非公開審理を導入できる旨を明文化すべきではないかという意見がある。

○検討結果

   著作権侵害訴訟においては、著作物が原則として公表されているものであることから、特許権侵害訴訟のように営業秘密が問題となる事例は少ないと思われるが、プログラムの著作物に係るソースコードが審理の対象となる場合には、ソースコードに営業秘密が含まれるとして提出を拒まれる可能性がある。
   立証の容易化と営業秘密の保護とのバランスを図る観点からは、文書に営業秘密が含まれている場合には「正当な理由」の有無について、インカメラ審理において判断する制度を維持しつつ、インカメラ審理の参加者の拡大など、インカメラ審理の改善による対応も検討すべきであると考えられるが、特許権侵害訴訟など他の知的財産権侵害訴訟とのバランスも考慮する必要がある。なお、インカメラ審理参加者の拡大を検討する場合には、それに伴って、目的外の使用や第三者への開示を禁止する秘密保持義務を課すとともに義務違反には罰則を科すなど営業秘密に配慮することが必要である。
   また、営業秘密を理由とする非公開審理の明文化については、著作権侵害訴訟の場合、非公開でないと審理ができないことが実際上ほとんどないことから、敢えてこれを明文化する必要性は乏しいものと考えられる。

(2)    弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い

○問題の所在

   勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下、弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入することについて、司法制度改革推進本部において、検討が進められている。

○検討結果

   著作権侵害訴訟について、不当に訴えの提起を萎縮させないとの観点から、弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入しない特有の事情があるかどうか、検討が行われた。
   著作権侵害訴訟についても、個人が事業者に対して行う訴訟類型など、敗訴者負担になじまないと考えられるものもあるが、この問題は、著作権侵害訴訟特有の問題ではなく、訴訟全般の横断的事項として検討すべき事項であると考えられる。

(3)

   裁判外紛争解決の在り方

○問題の所在

   厳格な裁判手続と異なり、簡易・迅速かつ廉価で、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることができるなどの観点から、いわゆる裁判外の紛争解決手段(ADR)に対する期待が高まっている。「司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)」においても、ADRの拡充・活性化を図るための措置等を講ずることとされ、総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律案を提出することについて、司法制度改革推進本部において、検討が進められている。

○検討結果

   著作権は時期による価値の変動が大きいため、紛争を早急に解決すべきニーズが高いこと、許諾料についての争いなど、権利義務の形成効果を期待される類型の紛争があることなどから、ADRを積極的に活用する意義は少なくないため、基本的な枠組みを規定する法律案の検討を積極的に進める必要があると考えられる。
   ADRの基本的な枠組みを規定する法律案の内容として検討されている特例的事項のうち、1時効の完成を懸念することなくADRによる紛争解決を試みることのできるよう、ADRにより時効が中断する旨の民法の特例を設けること(時効中断効の付与)、2ADRと訴訟手続が並行する場合において、一定の場合に裁判所の裁量によって訴訟手続を中止できるようにすること(訴訟手続の中止)の2点については、著作権紛争に係るADRについても、制度の導入に一定の意義があると考えられる。
   なお、法律案全体の構成や、どのような機関が行うADRに特例的事項の効力を認めるべきか、時効中断効の効力発生をいつから認めるべきか、時効中断効ではなく、ADRを利用している間時効を停止させることについてはどうか、といった制度設計については、著作権侵害訴訟特有の問題ではなく、紛争全般の横断的事項として検討すべき事項であると考えられる。




6   特許法等他の知的財産権法にも同様の規定が設けられている。

 

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