(1) | 一定のカリキュラムに基づく継続的な教育の必要性 大学は、教職員、学生など多様な立場の者が所属していることから、例えば著作物の創作の面においても、大学の著作物(法人著作)に該当するものから、教員・学生等の研究成果物(論文、レポート、芸術作品、コンピュータ・ソフト等)に至るまで、多種多様なものが創作されている。 また、大学は教育機関であり、非営利団体でもあることから、著作物等の利用においても、著作権法で権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる場合(例えば、私的使用のための複製(第30条)、図書館等における複製(第31条)、引用(第32条)、教育機関における複製(第35条)、試験問題としての複製(第36条)、非営利・無料の上映・演奏等(第38条)など)に該当する利用形態も多く、権利者に無断で著作物等を利用できる場合とそうでない場合が混在しているという特徴がある。 このように大学においては、著作物等の創作・利用に関し、複雑な知識を必要とすることから、特に大学が教職員に対して行う著作権教育においては、著作権等に関する複雑な取り扱いについて、わかりやすく教えることができるように工夫された一定のカリキュラムに基づく継続的な教育が必要である。 |
(2) | 教職員や学生に対する著作権教育 大学は教育機関であることから、多様な方法で著作権教育を行うことができる。例えば、教員が学生に対して行う「教養教育」や「専門教育」の授業科目における指導や、大学事務局や情報処理センターが教職員や学生に対して行う各種の研修の中で、著作権教育を行うことが可能である。 しかしながら、これらのうち授業科目の中で教員が行う著作権教育については、基本的には教育内容は教員自身の自主性に任されていること、一般に教員自身の著作権教育に関する知識・経験が十分でないことから、当面は、大学当局が行う教職員や学生向けの研修等における著作権教育の充実に力を入れるべきである。 教職員や学生に対する著作権教育に当たっては、著作権侵害によって本人や所属する団体等が被るリスクの説明、不適切な著作物等の利用についての身近な事例を教えるなどにより、受講者が著作権を身近に感じ、理解しやすい方法で行うことが効果的である。 なお、教員による学生への指導においても、授業科目や論文指導の中で必要に応じて著作権教育を行うことが期待されており、そのような教育は大いに効果があると考えられるので、教員向けの研修については学生への指導ということも念頭において行うべきである。また、学生に対する研修等の場合には、これらに加えて、レポート作成の際の「引用」の方法なども教える必要があり、さらに、「コピーOK」マーク*1などの著作者としての意思表示の意義を考えさせるような体験的学習の工夫も必要である。 また、大学においては、広報誌、情報誌、紀要、論文集などの作成や共同研究の成果物の取り扱いなどに関し、著作権等に関する契約を結ぶ機会も多く、例えば、今後文化庁の策定・提供する標準契約書に基づいて大学独自の契約システムを構築する過程で、同時に教職員の資質の向上を図っていくことも考えられる。 さらに、大学における教育研究を公開したり教育資源の開放性が求められるなかで、将来的には、文化庁等の関係者の支援も受けながら、大学が地域社会における著作権教育の核になることも期待されており、例えば、地元企業と連携し職業に直結する著作権教育を行ったり、地域住民向けの著作権講座を開設したりするなどの取組も期待される。 |
(3) | 著作権教育の核になる人材の養成 大学において著作権教育を円滑に実施するためには、著作権教育の重要性を認識し、中心となって研修会の企画や関係者への指導を行えるような人材が必要である。 このような人材を大学単独で養成することは難しい面もあるが、大学によっては知的財産権に詳しい人材を多く有しているところもあり、著作権に対する幅広い知識を持ち、学内において研修会等の企画を行えるような能力を備えた人材を養成するプログラムの開発と早期の実施が必要である。 |
2 | 地方自治体・社会教育施設等の公的機関等が実施する著作権教育の在り方について |
・ | 地方自治体・社会教育施設の職員等を対象とした研修の拡大 |
・ | 地域において著作権教育事業を企画・実施できる人材の育成 |
・ | 各地域における著作権教育のための指導法・教材等の開発・提供等 |
(1) | 一定のカリキュラムに基づく継続的な教育の必要性 |
(2) | 地域住民を対象とした著作権教育 |
(3) | 著作権教育の核になる人材の養成 |
3 | 企業等における著作権教育の在り方について |
(1) | 企業における著作権教育への関心度 企業のなかでも、例えばレコード会社、映画製作者、放送局、新聞社、出版社、ソフト制作会社など著作物等の創作及び利用を事業の柱としているものについては、一般に著作権に対する認識は高く、このような企業の多くは、従来から個々の企業又は事業者団体において、継続的な著作権教育が行われている。 また、業務の中で付随的に著作物等を創作又は利用している企業については、従来は著作権に対する認識が低かったが、情報技術の急速な普及・発展に伴い、業務の一環で著作物等の創作や利用の機会が増加するとともに、企業の社会的責任や法令遵守が厳しく問われる時代になって、著作権教育の必要性が認識されつつある。 |
(2) | 企業における著作権教育の内容・方法 企業においては、大学や地方自治体等とは異なり、一般に営利目的で著作物等を創作・利用していることから、他人の著作物等を無断で利用できる場合がほとんどないため、著作権教育の内容は比較的単純であると考えられる。しかしながら、業種によって関心のある分野が違うことや、例えば役員等の責任者であるか一般職員であるかなどによっても教育すべき内容が異なることなどから、ある程度、分野や対象者を分けて教育の内容や方法を考える必要がある。 著作物の創作・利用を事業の柱としている企業においては、独自の教材を作成するなどして一般に継続的な社員教育も行われており、それぞれの責任において、このような取組が一層推進されることが期待される。 一方、付随的に著作物を創作・利用している企業については、法令違反による企業イメージの低下を防ぐため法令遵守教育のひとつとして著作権教育が行われている場合もあるが、多くの企業では、著作権に対する関心は高くなりつつあるものの、どのように著作権教育に取り組んでよいのかわからないというのが現状である。 このような企業についても、著作権教育の実施主体は原則として個々の企業や事業者団体であることはいうまでもないが、著作権教育に関する現状から考えると、個々の企業や事業者団体が独自で著作権教育を行うことのできる水準に達するまでは文化庁等の支援が必要と考える。また、その支援の内容については、大学における著作権教育の在り方を参考に、研修カリキュラムの作成や人材養成への支援を中心に考えるべきである。 |
*1 | 「コピーOK」マーク 著作物の利用許諾の簡便化を図る観点から、許諾に関する意思をあらかじめ著作権者が表示しておく方法として文化庁が策定した「自由利用マーク」のひとつ。 「自由利用マーク」には「コピーOK」、「障害者OK」、「学校教育OK」の三種類があり、それぞれ一定の目的で、一定の利用行為について著作権者が許諾の意思を表示するもの。詳細については文化庁ホームページ(www.bunka.go.jp/jiyuriyo)に解説されている。 |