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4. 利用許諾契約に基づく許諾者の地位の承継について

○   利用許諾に関し利用者が著作権等の譲受人に対する対抗要件を備えた場合、利用者は利用許諾契約に基づく法律関係を譲受人に主張できることになるが、それとは別に、利用許諾契約に基づく許諾者の地位が当該譲受人に承継されるかどうかが問題となるため、基本的な考え方について次のとおり整理を行った。

(1) 不動産の場合の考え方

○   不動産の譲渡取引においては、建物の賃借人が対抗要件を備えた場合、賃貸借契約上の賃貸人の地位は、法律上明文の規定はないものの、不動産の譲受人がその地位を承継するというのが最高裁の判断である。

○   不動産の賃貸借契約については、定型的な契約が一般的であり、不動産の譲渡取引に伴って賃貸借契約の全内容が不動産の譲受人に承継された方が、賃借人は以前と同様の条件で不動産を使うことができ、また賃貸人も改めて契約することなく賃料を請求できることとなるので、契約関係は安定し双方にとって利点が多いことになる。

(2) 著作権等の場合の考え方の整理

○   著作権制度において対抗要件の制度を設けた場合、利用者保護の観点から、例えば、許諾者の地位の承継について、承継される内容を制限する旨を法律に規定することや、承継されないことを法律に規定するという方法も考えられるが、利用許諾契約の内容は多種多様であり法定すべき内容や範囲を特定するのは困難であることや他の同様の制度との整合性等から適当ではなく、基本的には学説や判例の蓄積により一定の秩序形成を図るべきである。

○   しかしながら、利用許諾に関し利用者が対抗要件を備えた場合、著作権等が第三者に譲渡された際に利用許諾契約がどのように取り扱われるかは、利用者保護の制度を考える場合の重要な視点であることから、基本的な問題点は整理しておく必要がある。問題点等を整理すると次のとおりである。

    1   利用許諾契約から生じる著作物等を独占的に利用することができる権利を保護しようとするならば、著作権等の譲渡に伴い許諾者としての地位が著作権等の譲受人に承継され、この権利も引き継がれると考えれば解決できる。

2   複数の著作権等に係る利用許諾契約に関し、契約の対象となっている著作権等のうち一部が譲渡された場合、著作物等の保守・保証、著作物等の共同開発など利用許諾契約の中に著作権等の譲受人による履行が困難又は不可能な債務が含まれている場合などについては、許諾者の債権・債務が全て譲受人に承継されることとしても、譲受人は債務の履行ができないおそれがあるので、このような場合には、承継されるものとされないものについて何らかの調整をすることが考えられる。なお、この場合、利用許諾契約の中で承継できる事項とできない事項を当事者間であらかじめ詳細に決めておくなどの方法により、調整を容易にしておくことも必要である。

3   クロスライセンス契約の場合、契約当事者が相互に相手方の相当数の知的財産を自由に利用できることとしているため、望まない著作権等の譲受人に利用者の有する知的財産を利用させないため、許諾者としての地位は当該譲受人に承継されないとすべきとの考え方があるが、この場合、例えば、
   ア    著作権等の譲受人は自らの著作物等が利用されているにもかかわらず使用料が請求できないこと、
   著作権等の譲渡人は著作権等を有しないにもかかわらず利用許諾契約から離脱しないため利用許諾契約の履行が困難又は不可能になる可能性があること、
   著作権等の譲渡人が法人である場合であって、当該法人が消滅した場合もイと同様の問題が起こること、
等から利用許諾契約の内容が一切著作権等の譲受人に承継されないという考え方には問題がある。

4   著作権法上、著作物等を利用する権利は、権利者の承諾を得ない限り譲渡することができないこと(第63条第3項)から、クロスライセンス契約の場合、著作権等の譲渡取引に伴い、著作権等の譲渡人が利用許諾契約の相手方から得ている著作物等を利用する権利が当然に譲受人に移転するものではない。

5   例えばプログラムの著作物の利用許諾契約では、当該著作物の改変などに対応して著作者人格権の不行使に同意する条項が見られるが、その法的拘束力の問題は別として、著作者人格権は著作者に与えられた譲渡不可能な権利であるので、この契約関係は著作権等の譲渡人(著作者)に残ると考えざるをえない。

6   著作権等の譲渡取引の際、譲渡人と譲受人の契約により、譲渡した著作権等に関し、譲渡前に締結した利用許諾にかかるサブライセンスを認めることなど、譲受人が債務を引き受けるにあたって一定の条件を付すことは可能と考えられるが、利用許諾に関し利用者が対抗要件を備えた場合には、利用者の継続利用を妨げるような内容の契約はできないと考えられる。

○   以上の点から、許諾者の地位の承継については、不動産の場合における考え方を参考に、許諾者の地位は著作権等の譲受人に承継されることを基本として考えるべきである。なお、利用許諾契約の中に著作権等の譲受人にとって債務の履行が困難又は不可能な契約内容が含まれている場合、クロスライセンス契約のように利用者が著作権等の譲受人による利用者側の著作物等の利用を望んでない場合、著作権等の譲渡人と譲受人又は利用者との間で特別の取り決めがされている場合等については、例えば、利用許諾契約が著作権等の譲渡人、譲受人及び利用者の三者による契約に移行すると考えられないか、その場合契約の変容について利用者の承諾をどのように考えるか等、著作物等の円滑な利用が実現できるよう合理的な解釈が求められるところである。



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