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2. 利用者保護に対する関係者の意見

○   利用者保護の在り方等に関する法制度上の問題を検討する前に、著作物等の利用者側から見た望ましい保護の在り方について、意見を整理した。

(1)制度整備の必要性

○   まず、制度整備の必要性である。現状においては、著作権等の譲渡契約に伴い利用許諾契約に基づく利用者の継続的利用を合意するなど、一定の契約秩序の中で利用者の地位が守られている場合が多いこと、破産時においても破産管財人やその後の譲受人が既存の利用許諾契約を尊重することで制度の運用が行われる場合が多いことから、現在利用者の継続的利用について重大な支障は生じていないと考えられる。また、例えば破産法第59条第1項2の双方未履行契約の範囲を限定的に解することにより破産管財人の解除権の適用を制限しようとする考え方や、第三者による債権侵害の法理の柔軟な適用により、著作権等の譲渡の状況によっては著作権等の譲受人から利用者を保護することができるとする考え方など、現行法の適用によって、ある程度利用者の保護を図ることができるとする考え方もある。

○   しかしながら、著作物等の流通の促進に伴い、今後著作権等の譲渡取引等はますます多くなってくると思われるので、この流通の促進を図り、かつ利用者が安心して利用許諾契約を締結できるよう、流通と利用の秩序に関する基盤整備の一環として制度上の整備を望む意見が多かった。

(2)制度整備の範囲

○   次に、制度整備の範囲についてである。利用者保護の問題は、破産時と著作権等の譲渡時の問題に分けられるが、問題提起の発端は権利者の破産時に利用者をどう保護するかであった。後述するように現在、対抗要件が付与されていれば破産管財人の解除権は制限されるという破産法の改正方針が示されているので、破産時の対処ということであれば、対抗要件の付与以外の方法による利用者の保護制度は考えられないことになる。したがって、制度整備に当たっては、破産法の改正に限定的に対処するためのものとするかどうかの問題があるが、これについては、著作権等の譲渡取引時を含めた制度整備を行うべきであるとの意見が多かった。

(3)望ましい保護の在り方

○   望ましい保護の在り方については、業界の実情や利用許諾契約の実態等によって様々な意見があるが、関係者の意見を総合的に整理すると、おおむね次のようである。

1 比較的単純で定型的な利用許諾契約が一般的な場合

○   放送番組、レコード、映像ソフト等の作品を主に利用(公衆送信、複製など)している業界では、当該作品の製作者から作品の提供を受け、利用許諾契約の期間中はそれを独占的に利用することを事業の前提としている場合が多く、作品を非独占的にしか利用できないのであればそもそも契約しないというのが一般的な状況である(ただし、作品に使われている音楽等の著作物は、非独占的な契約が一般的である)。

○   この作品を独占的に利用することができる権利というのは、著作権者と出版者の間で出版権(第79条)が設定される場合を除き、あくまでも契約から生じる債権に過ぎないが、利用者側からは、著作権等が第三者に譲渡された場合においても、当該第三者との関係において、作品の利用の独占性が保証されるとともに、使用料の支払を含め引続き譲渡前と同様の条件で継続して利用できることが望ましいとする意見が多かった。

8 複雑で非定型的な利用許諾契約が一般的な場合

○   例えば、コンピュータ・プログラムを取り扱う工業製品の製造業界では、一つの利用許諾契約の中で、特許発明、著作物、営業秘密などの種類の異なる知的財産の利用等を一括して許諾するなど契約の内容は複雑である。ちなみに契約条項の内容として、例えば次のようなものがある。
      ・クロスライセンス条項
                   相互に、様々な知的財産の利用を認め合う契約。契約当事者の双方が権利者でありかつ利用者となる。大企業間では特定の製品、事業範囲について、権利を特定せずに相互に自由に利用を認め合う実態がある。このような場合、対象に含まれる権利は特許だけで数万件に及ぶことがある。
   共同開発契約や技術提携契約においても、その目的のため相互にプログラムの利用を許諾し合う。
      ・保守・保証等の条項
     バージョンアップ・バグ修正といった保守、品質・性能・許諾権限・第三者権利非侵害に関する保証等を内容とする。
      ・サブライセンス条項
     権利者から著作物等の利用許諾を受けた利用者が、更に第三者に利用の許諾をすることができることを内容とする。
      ・契約の準拠法に係る条項
    国際的な取引が多く、外国法を準拠法とする場合が多い。

○   このような契約は、クロスライセンス契約に代表されるように、多数の知的財産について、その内容を相互に開示することになるので、契約の相手方は経営戦略上の特別な存在であり、相手方は誰でもよいということではない。

○   したがって、このような契約実態が一般的な場合は、著作権等が第三者に譲渡されたときも、当該第三者が利用許諾契約の当事者になることは望ましいことではなく、多少の不都合があっても、当該契約に基づく許諾者の地位は譲受人に承継されることなく、利用者は引続き適法に当該著作物等の利用が継続できる方法を望む意見が多かった。



2破産法第59条第1項   双務契約ニ付破産者及其ノ相手方カ破産宣告ノ当時未タ共ニ其ノ履行ヲ完了セサルトキハ破産管財人ハ其ノ選択ニ従ヒ契約ノ解除ヲ為シ又ハ破産者ノ債務ヲ履行シテ相手方ノ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得



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