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(2)「アクセス権」の創設又は実質的保護

○問題の所在

   著作物は、視覚的・聴覚的な方法等により「知覚」(例えば、本を「読む」こと、放送番組を「見る」こと、音楽を「聴く」こと)されることによってその価値が発揮されるものであり、使用者が複製物の入手等に対価を支払うのも、通常は著作物を知覚するためである。しかし、個々の知覚行為に権利を及ぼしても実効性を確保することができない等の理由により、内外の著作権法制は、知覚の前段階である複製や公衆送信等について権利を及ぼしてきた。
   しかしながら、近年の情報技術の発達により、デジタル化されて流通する著作物について、知覚行為そのものをコントロールすることができるようになってきた。このため、例えば、いわゆる「技術的手段」の回避を防止する制度に関し、複製行為等ではなく「知覚行為」をコントロールするための技術的手段を対象とするかどうかについて、国際的な論争も生じている15
  「知覚行為」そのものをコントロールすることが可能となる一方で、知覚行為をコントロールする技術的手段の回避による影響を踏まえ、1アクセス権の創設、2「暗号解除権」の創設、3「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止等の措置について、検討する必要性が生じている。

○検討結果

   「アクセス権」の創設については、国民の知る権利という憲法上の問題にも関わり、また、著作権制度の根幹にかかわる問題でもあることから、その可否・必要性等について、国際的な動向を踏まえた慎重な検討が必要である。
   「暗号解除権」の創設、「知覚行為」をコントロールするための技術的手段の回避行為の禁止についても、アクセスコントロールの問題として、著作権制度全体に影響を及ぼす問題であるが、米国のデジタル・ミレニアム著作権法16やECディレクティブ17において、「知覚行為」のコントロールに係る規制が導入されていることや、現在、「暗号化された放送」の保護を図る観点から、WIPO(世界知的所有権機関)における「放送機関の保護に関する新条約(仮称)」に向けた議論として検討が行われていることを踏まえつつ、引き続き検討することが必要である。
   なお、「アクセス権」の保護又は実質的保護の検討にあたり、本来アクセスコントロールとして施されているCSSがコピーコントロールとしても機能しているという実態を踏まえその回避の規制を求める問題提起があった。




15    国内においては、平成10年12月にとりまとめられた著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護手段・管理関係)報告書において、回避に係る規制の対象とすべき技術的保護手段について、現行の著作権者等の権利を前提とした技術的保護手段の回避に限定して規制の対象とすることが適当であるとされ、「知覚行為」をコントロールするための技術的保護手段の回避については、現行の著作権法では規制の対象とされていない。
16   1998年デジタルミレニアム著作権法1201条(a)(1)(A)「何人も、本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避してはならない」(CRIC 外国著作権法令集(29)アメリカ編 山本隆史・増田雅子訳)
17   ECディレクティブ6条1「加盟国は、関係する者が、その目的のためであることを知り、または知るべき合理的な理由を有しながら行う、いずれかの効果のある技術的手段の回避に対して、適切な法的保護を与えるものとする。」(CRIC 情報社会における著作権及び関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州会議およびEU理事会のディレクティブ2001/29/EC)



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