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第5章  司法救済制度小委員会における審議の経過

1  検討の内容

  司法救済制度小委員会は,「司法救済制度」の充実について検討するため設置された。
 「司法救済制度」の充実について,「知的財産戦略大綱」及び「知的財産基本法」には,それぞれ次のような記述がある。

【知的財産戦略大綱】
(訴訟制度の改善)
  実効性を担保しつつ,権利者と利用者の双方にとってバランスのとれた保護を実現するため,有効なセキュリティ技術の開発,訴訟制度の改善,権利処理を円滑にする契約システムの構築等,デジタル・コンテンツの適切な保護の仕組みを確立すべきである。

(損害の認定制度の検討)
  知的財産権の保護を強化し,「侵害し得」の社会からの脱却を目指す観点から,望ましい損害の認定制度の在り方について,2005年度までに検討を行い,結論を得る。

(見出しは本小委員会において付加)

【知的財産基本法】
(訴訟手続の充実及び迅速化等)
十五条  国は,経済社会における知的財産の活用の進展に伴い,知的財産権の保護に関し司法の果たすべき役割がより重要となることにかんがみ,知的財産権に関する事件について,訴訟手続きの一層の充実及び迅速化,裁判所の専門的な処理体制の整備並びに裁判外における紛争処理制度の拡充を図るために必要な施策を講ずるものとする。

  司法救済制度小委員会では,これらに示された政府全体の方針について必要な施策の検討を行うこととし,具体的には次のような事項について検討を行った。

【検討事項】
○「損害額」等関係
侵害者の譲渡数量等に基づく逸失利益の算定ができる制度の導入
「法定賠償制度」「倍額(3倍)賠償制度」の導入
弁護士費用の敗訴者負担の導入

○「裁判手続」関係
積極否認の特則の導入
侵害者が不明な場合の訴訟制度の検討

○「侵害とみなす行為」関係
侵害とみなす行為に係る違法対象行為の見直し

○「間接侵害規定」関係
間接侵害規定の導入の必要性

○「プロバイダ等」関係
プロバイダに対する差止請求制度の必要性
プロバイダに対する発信者情報開示の義務化の必要性

○「技術的保護手段」関係
技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直し

○「罰則」関係
著作者人格権や侵害罪以外の行為に係る罰則への法人重課の導入
刑罰の引き上げ
侵害罪の非親告罪化

○「裁判外紛争解決」関係
裁判外紛争解決等の在り方

2  検討の結果

 司法救済制度小委員会は,平成14年6月26日に第1回を開催し,9回にわたり検討を行った。平成14年度における検討の結果は,次のとおりである。

  損害賠償制度の見直し

(1) 侵害者の譲渡数量等に基づく逸失利益の算定ができる制度の導入

  著作権者等の権利者は,故意又は過失によりその権利を侵害した者に対し,民法第709条の規定に基づき,損害賠償を請求することができる。
  この場合,権利者は侵害行為と相当因果関係のある「損害額」を立証しなければならず,例えば,権利者自身が複製物の販売を行っているような場合を考えると,基本的には,損害額は,「侵害行為によって生じた権利者の販売部数の減少」×「一部当たりの権利者の利益」となる。
  しかし,「侵害行為によって生じた権利者の販売部数の減少」と言った場合に,「侵害行為」と「権利者の販売部数の減少」との相当因果関係を基礎付ける事実を立証することが困難であり,また,それを立証できなかった場合には,結果としてそのような計算による損害額は認められないというオール・オア・ナッシング的な結論となる懸念があるため,民法第709条のみを損害額の根拠とした損害賠償請求の件数は少なくなっている。
  このため,著作権の独占的な性質に鑑み,「侵害行為によって生じた権利者の販売部数の減少」による損害額は,「侵害者の販売部数」×「一部当たりの権利者の利益」と推定することにより立証負担の軽減を図るとともに,侵害者がそのような推定を覆す事実を立証した場合でも,損害額が全く認定されないということではなく,部分的に損害額が認定されるという割合的認定を可能とすることが必要である。
  このため,特許法第102条第1項と同様に,民法第709条の特例として,
1 「侵害者の譲渡数量」に,
2 「権利者の単位当たり利益」を乗じて得た額を,
3 「権利者の販売能力を超えない限度」において,
  権利者の損害額とできることとするとともに,
4 「権利者が全部又は一部の数量を譲渡できない事情」があるときは,損害額の減額を認める
旨の規定を創設し,損害額の算定方法について権利者の選択肢を増やすことが適当である。12(及び3)の要件により,「侵害行為によって生じた権利者の譲渡数量の減少」による損害額は,「侵害者の譲渡数量」×「権利者の単位当たり利益」と推定することとなり,立証負担が軽減されるとともに,4の要件により,「権利者が全部又は一部の数量を譲渡できない事情」を立証した場合には割合的認定がなされることとなる。
  なお,侵害等の行為の形態としては「譲渡」に限定せず,例えば,音楽のネット販売のような「無形的利用」にも規定が適用されるようにすることが適当である。

(2) 「法定賠償制度」

  デジタル化・ネットワーク化の進展により,侵害行為の発見や損害額の立証が極めて困難になっており,そのために権利者が損害賠償請求を事実上断念する場合もあるとの指摘がある。このため,権利者による損害額の立証負担を軽減するため,法定された金額の範囲内で裁判所が認める金額を損害額とできる,いわゆる「法定賠償制度」を導入すべきであるという意見がある。この制度が導入されれば,権利者は,侵害の成立だけを立証すれば,損害賠償請求を行えることとなる。
  一方で,「法定賠償制度」を導入する場合,著作権等の侵害訴訟においては非常に低額な賠償額が認定される事例もあるため,適切な金額を定めることが困難であることが予想されること,法定する金額が低額に過ぎれば訴訟に必要な費用すら賄うことができないこと,損害額が立証困難な場合については現行の著作権法第114条の4において裁判所が口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定する制度があること,などから慎重な検討が必要であるという意見がある。
  このため,「法定賠償制度」については,これを導入することの得失や具体的な制度の在り方について,引き続き検討を行うことが必要である。

(3) 侵害の数量の推定規定

  著作権等の侵害訴訟においては,権利者が「侵害者の侵害に係る数量」を立証することが困難な場合,実際に侵害したと思われる数量よりも少ない数量に基づいて損害額が認定される場合が少なくないことから,権利者が立証した数量の2倍の数量を基に損害額を推定する規定を導入すべきであるという意見がある。
  この推定規定は,被害者に実際に生じた損害の賠償を請求するために立証負担の軽減を図るものであり,懲罰的損害賠償制度とは異なり我が国の損害賠償制度の基本原則を超えるものではないことから,導入に積極的な意見がある。
  また,権利者が立証した数量を超える侵害行為があったということについて,権利者が合理的な疑いがあることを立証するという要件を加えた上で,このような推定規定を導入することを支持する意見がある。これに対しては,「合理的な疑い」という新たな概念を持ち込むことは不適切であるとの意見がある。
  このような推定規定の導入について,積極的に反対する意見は無かったが,著作権等のあらゆる侵害事件について,実際に侵害行為が行われた数量を2倍と推定することが適当であるかどうかについて検討が必要であること,推定数量については事案ごとに決定すべきであるとの意見もあること,などの理由により,導入の可能性について引き続き検討を行うことが必要である。

(4) 弁護士費用の敗訴者負担

  弁護士報酬の敗訴者負担制度については,平成14年3月19日閣議決定「司法制度改革推進計画」において,不当に訴えの提起を萎縮させないよう,敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取り扱いの在り方,敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等制度設計について検討した上で,一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入することとされている。
  このような制度を導入するに際して著作権等の侵害について特有の事情があるかという観点から検討した。現在の弁護士報酬は,一般に,訴訟の結果依頼者が受ける経済的利益に関連して定められる場合が多いが,著作権等の侵害訴訟については,訴訟における請求額は低額である場合もあり,また,判決の結果が市場における経済活動に大きな影響を与える事例が増えてきていることから,敗訴者に負担させるべき額についてこのような現状を踏まえることが適当であるとの意見が出された。また,「敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲」に著作権等の侵害訴訟を含めるべきではないかという声もあるため慎重な検討が必要であるという意見が出された。
  この問題については,裁判を受けるという国民の権利を実質的に保証するという観点から,司法制度改革推進計画に従って,著作権等の侵害について特有の事情があるかどうか等について,引き続き検討を行うことが必要である。

(5) 「三倍賠償制度」(懲罰的損害賠償制度)

  我が国においては,不法行為に対する損害賠償制度は,著作権侵害の場合だけでなく一般的な原則として,被害者が被った不利益を過不足なく補填して不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的としている。このため,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防というものを目的とするものではないというのが一般的な考え方である。また,我が国においては,加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,基本的な考え方として刑事上・行政上の制裁にゆだねることとされている。このため,不法行為に基づく損害賠償においては,被害者が実際に生じた損害を超えた賠償を受けることはできない(参考 最高裁平成9年7月11日判決・民集51巻6号2573頁・万世工業事件判決)。
  これに対して,知的財産権の侵害に対しては損害賠償が抑止力として効果的であるという見解もあり,「侵害し得」の社会からの脱却,侵害に対する抑止機能の強化といった観点から,立証された損害額の3倍の額を賠償額とする,いわゆる「三倍賠償制度」(懲罰的損害賠償制度)を導入すべきであるという意見がある。
  一方で,この制度の導入については,我が国においては上記のとおり,侵害者に対する制裁や一般予防効果は刑事罰の役割とされてきたこと,このような懲罰的損害賠償制度を導入した場合には,外国において同様の制度に基づく高額の損害賠償を認める判決が出た場合には我が国でも執行しなければならないという解釈に至る可能性が高いこと,他の法領域との比較において特に知的財産権侵害行為のみを「三倍賠償制度」の対象とする理由があるかを検討する必要があること,などの理由により,慎重な検討が必要であるという意見がある。
  「三倍賠償制度」の導入は,損害賠償制度全体に関わる大きな問題であり,民事法制一般や他の法領域との均衡に配慮し,また一方で,知的財産の保護強化の社会的要請が高まっていることも視野に入れつつ,今後さらに広い視野から関係各方面における議論の動向に留意しながら,引き続き検討を行うことが必要である。

  裁判手続きの見直し

(1) 積極否認の特則の導入

  侵害行為の差止請求又は損害賠償請求訴訟を提起する場合には,権利者は,損害額の主張・立証に至る前に,まず侵害行為の存在を主張し,その主張を相手方(被告)が否認する場合には,これを立証しなければならない。侵害行為の主張に対する否認の方法に関しては,著作権法上特段の規定は設けられておらず,民事訴訟規則一般の規定によることとなる。民事訴訟規則第79条第3項においては,「準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には,その理由を記載しなければならない。」と規定されている。
  特許権等の侵害訴訟においては,侵害行為の主張に際し,侵害物又は侵害方法が侵害者の固有の技術によることがあるため,相手方が侵害物についての権利者の主張を単純に否認する場合には,侵害物又は侵害方法の特定が困難である場合が多い。その結果訴訟手続きにおいて,侵害物の特定に長い時間を要し,訴訟を遅延させるという問題があったことから,特許法等において,相手方が権利者の侵害物又は侵害方法についての主張を否認する場合には,自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならないという「積極否認の特則」が導入されている。この制度の導入により,実際の特許権等の侵害訴訟の審理促進が図られている。
  著作権等の侵害訴訟においても,プログラムの著作物などについて,侵害物件の解析が困難な場合があるため,権利者の立証負担を軽減し,審理を促進する観点から,特許法と同様に,侵害行為の特定において,相手方が権利者の主張を否認する場合には,相手方は自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならないこととするとともに,相手方に具体的態様を明らかにすることができない「相当の理由」がある場合は適用除外とする規定(積極否認の特則)を創設することが適当である。

(2) 侵害者が不明な場合の訴訟制度の検討

  訴訟を提起するためには,相手方の氏名及び住所を特定する必要があるが,インターネット上での著作権侵害においては,個々の侵害者の氏名や住所を特定することは困難な場合が少なくない。このため,侵害者が不明な場合でも訴訟を提起できる制度の導入を検討してはどうかという意見がある。
  この問題については,今後の具体的な提案を踏まえて,その可否・必要性等について検討することとされた。

  権利侵害の対象となる行為の見直し

(1) 侵害とみなす行為に係る違法対象行為の見直し

  著作権法第113条第1項においては,著作者人格権,著作権,出版権,実演家人格権又は著作隣接権の侵害行為には該当しないが,著作者の人格的利益又は著作権者,出版権者若しくは著作隣接権者の経済的利益を害することとなる行為を,これらの権利を侵害する行為とみなすことを規定している。
  同項第2号においては,いわゆる海賊版を「頒布の目的をもって所持する行為」を侵害とみなすと定めているが,これに加えて,海賊版ビデオソフトなどの上映権侵害事件における立証負担を軽減する観点から,「当該複製物により公衆に提示する目的で所持する行為」を侵害とみなすべきではないかという意見がある。
  この問題については,本条は上記のとおり著作権等の侵害に該当しない行為を「侵害とみなす」ために定められた規定であること,過去の海賊版ビデオの上映に関する事例においては個々の上映行為を捕捉できている場合には上映権侵害として立件され海賊版ビデオソフトは押収されていること,などから,上映権侵害の実態の変化などを踏まえつつ,その必要性について引き続き検討することが必要である。
  また,同項第1号においては,頒布目的での海賊版の輸入行為,第2項においては海賊版の頒布目的所持を侵害とみなしているが,これらを合わせ読む場合に,「頒布目的なく輸入された海賊版を後に頒布目的で所持する行為」を侵害とみなすことができることを明確化すべきであるという意見がある。
  これに関連して,そもそも同項第1号及び第2号における「頒布目的」や「情を知って」という要件について,このような主観的要件がなくとも,善意で頒布した流通業者は,差止請求はされても,故意・過失が無ければ損害賠償を請求されることはないため,このような主観的要件は不要とすべきであるという意見がある。
  一方で,主観的要件は,海賊版であることを知らない善意の流通業者の頒布行為が権利侵害とならないように設けられたものであり,これを削除した場合,損害賠償は請求されないとしても,一般の流通業者が,日常の商行為を行う中で知らず知らずのうちに違法行為を行っている状態に置かれるような制度は適当ではないという意見がある。
  これらの問題については,各条文の立法趣旨やその適用状況を踏まえつつ,引き続き検討を行うことが必要である。

(2) 間接侵害規定の導入の必要性

  権利の実行性を確保するため,権利侵害を行う者に対して当該行為の場所や手段を提供する者に関し,差止請求や損害賠償請求の対象となることを明確にする間接侵害規定の導入が必要であるという意見がある。具体的には,1差止請求権を定めた著作権法第112条第1項の「侵害する者又は侵害するおそれのある者」に「侵害の教唆者又は幇助者」も含まれる旨を明確化すること,2「専ら著作物の○○のみに使用される機器を製造・販売する行為」を侵害とする旨を規定すること,という意見がある。
  一方で,1については,損害賠償請求訴訟の判例において教唆者又は幇助者に対する責任が認められており,特に新たな規定を設けなくとも解決できるという意見もあること,また,差止請求の場合にのみ条文に書き込むことが他の条文では教唆者又は幇助者は対象にならないという反対解釈を導くおそれもあることから,その必要性等について検討すべきという意見がある。2については,「専ら著作物の○○のみに使用される機器を製造・販売する行為」を侵害とすることについては,「改変」の事例について人格権侵害を認めた判例があるが,一般的な規定の創設を行うことについては,今後の判例の蓄積を踏まえ,具体的にどのような行為や技術が問題となるかを見定めてから検討すべきという意見がある。
  このように,間接侵害の考え方については,その実態には様々なケースがあり,また,司法の場において判例が蓄積されつつあるところであるが,これらを踏まえつつ,著作権法に間接侵害一般に関する規定を導入することの可否・必要性等について,引き続き検討を行うことが必要である。

(3) 技術的保護手段の回避等に係る違法対象行為の見直し

  著作権者等が著作権等を侵害する行為の防止又は抑止を目的として音楽CDなど著作物等に施す技術的保護手段について,これを回避する方法が書籍,雑誌及びインターネット等により多数公表されていることから,技術的保護手段の回避を助長することを専らの目的とする情報を公衆に提供する行為を刑事罰の対象とすべきという意見がある。
  一方で,刑事罰の対象とする情報提供行為の範囲をどう画するのか,言論の自由等との抵触についてどう考えるか,技術的保護手段の技術レベルの適正化により解決できるのではないか,といった観点から幅広い検討が必要であり,導入に慎重な意見がある。
  この問題については,言論の自由など他の基本的価値や,刑法や不正競争防止法など他の法制とのバランスを図る必要があることを踏まえつつ,導入の可否・必要性について,引き続き検討を行うことが必要である。
  なお,音楽CDのコピープロテクションの問題については,法制問題小委員会における「『私的使用のための複製』に伴うオリジナルの中古市場への流通への対応」の課題の中での検討においては,いわゆるコピーコントロールCD(CCCD)の導入の拡大が必要であり,また,音楽CDのコピープロテクション技術をより効果的なものとするためには,DVDで採用されているような強力な技術の導入を権利者自身が早急に検討することが必要であるとの方向性が出されており,同小委員会との連携を図りつつ,検討を行うことが必要である。

(4) プロバイダに対する差止請求制度の必要性,発信者情報開示制度の在り方について

  本年5月,いわゆる「プロバイダ責任法」が施行されたが,プロバイダによる著作権侵害の有無の判断は困難な場合が多く,その判断を誤ると訴訟を提起されるおそれがあるため,侵害の通知があった場合にはプロバイダに直ちに削除義務を認めるなどプロバイダの判断リスクを除去することが情報社会の発展には必要であるとの意見がある。また,著作権侵害について直接の利害関係者である権利者と利用者が直接紛争を解決でき,プロバイダが訴訟に巻き込まれる訴訟リスクを除去するために,プロバイダによる発信者情報の開示制度から侵害明白性の要件を取り除くことなどが必要であるという意見がある。
  一方で,現行法でもプロバイダに対する差止請求が認められる余地がかなりあると考えられるという意見がある。
  この問題については,プロバイダ責任法は施行されて間もないことから,今後の実務を踏まえて,引き続き検討を行うことが必要である。

  罰則の見直し

(1) 著作者人格権や侵害罪以外の行為に係る罰則への法人重課の導入

  著作権法第124条においては,法人の代表者の犯罪行為又は法人等の代理人,使用人その他の従業者の犯罪行為がその法人等の業務上の行為であるときは,行為者を処罰するほか,その法人等に対し罰金刑を科する旨の規定(いわゆる両罰規定)を定めているが,平成12年の法改正により,この場合に法人に対する罰金額の上限を自然人に対する罰金額の上限より高くする「法人重課」が導入されている。
  同条においては,著作権,出版権又は著作隣接権を侵害した場合について「法人重課」が導入されているが,著作者人格権又は実演家人格権の侵害や侵害罪以外の行為,技術的保護手段の回避や権利管理情報の改変等を行った者への罰則については「法人重課」が導入されていない。
  著作者人格権又は実演家人格権の侵害や侵害罪以外の行為に係る法人重課については,現時点において法人重課が必要とされるような実態があるかどうかが明らかでないこと,また,平成11年に導入された技術的保護手段の回避や権利管理情報の改変等を行った者への罰則についてはその運用状況を踏まえた検討を行う必要があることから,今後の違反実態を踏まえ,十分な抑止効果の在り方について,引き続き検討を行うことが必要である。

(2) 刑罰の引き上げ

  著作権法においては,著作者人格権,著作権,出版権,実演家人格権又は著作隣接権の侵害等については,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金,技術的保護手段の回避や権利管理情報の改変等を行った者への罰則等については1年以下の懲役又は100万円以下の罰金という刑罰が定められている。
  これらの刑罰の引き上げについては,著作権等の保護の重要性に対する意識の高まりや特許法及び商標法における刑罰とのバランスから,刑罰を引き上げるべきであるという意見が出された。
  ただし,法益としての重大性を変更する状況の変化をさらに検討することが必要であること,言い渡し刑の実態と懲役刑の引き上げの必要性の関係について検討が必要であることから,今後の刑罰の適用状況や他の知的財産権法制とのバランスを踏まえつつ,引き続き検討する必要がある。

(3) 侵害罪の非親告罪化

  著作権法においては,著作者人格権,著作権,出版権,実演家人格権又は著作隣接権の侵害等については親告罪とされている。特許権等の侵害罪については,平成10年の法改正において,従来の親告罪を非親告罪とする改正が行われている。特許権等については,現在ではほとんどの権利者が法人であると考えてもよい状況にあること,研究開発成果の保護のため,特許権等を他の一般財産権よりも手厚く保護しなければならないという強い社会的要請があること,また,特許の流通市場の創設や特許権等の担保化等の進展により,特許権等の保護は私益の保護であるとしても公的性格が高まりつつあることを踏まえると,あえて「被害者である権利者が不問に付することを希望する」場合を想定して,親告罪としておく必然性が失われているという事情が考慮されたものである。
  著作権等の侵害罪の非親告罪化については,権利者自らの告訴のみならず,第三者の告発によって法の執行機関が捜査権限を有することにより,権利侵害に対する抑止力が高まること,権利者が告訴の努力をしない限り侵害が放置されるのは適切ではないと考えられること,親告罪であることにより犯人を知ったときから6月以内に告訴することが必要になるが,この告訴期間の経過により権利者が告訴できないという事態を避ける必要があること,などから積極的な意見が多数出された。
  ただし,著作権等の侵害については,著作権等についての意識が十分でないことから日常的な活動の中で生じることも少なくないため,非親告罪化した場合に第三者による告発の濫発の恐れがあること,非親告罪化により検挙件数が増加した場合に権利者側が対応できるかという懸念もあること,などから,非親告罪化については,今後の侵害行為の態様等の状況を踏まえつつ,引き続き検討する必要がある。

  裁判外紛争解決等の在り方

  種々の情報技術の発達・普及等に伴い,著作物等の創作手段・利用手段の普及・多様化が急速に進んだことにより,従来の著作権関係業界(出版,レコード,放送,映画等)の人々に限らず,すべての人々が創作者・利用者となる時代を迎えている。これに伴い,著作権に関する紛争も,今後は,産業に重大な影響を及ぼすような侵害事例から,日常生活において無意識に他人の著作物を使ってしまったような場合まで,紛争の量的拡大と多様化が急速に進むことが予想される。
  このため,高度な専門性による解決が必要とされる紛争から,日常的な相談業務等によって解決できる紛争まで,多様なレベルの紛争の内容に即した解決手段が全国的に用意される必要がある。
  裁判所での紛争解決については,特許権等については,その専門技術性に鑑み,審理の方法に精通した裁判官等が必要であることから,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所への専属管轄化が議論されているが,著作権の場合は,プログラムの著作物については同様に専門技術性の要請があるものの,一般の著作物については,誰もが著作物の創作者・利用者となる状況を踏まえ,専属管轄化せずに全国各地で裁判を受けることができることが必要である。
  また,厳格な裁判手続きと異なり,簡易・迅速かつ廉価で,法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解決を図ることができるなどの観点から,いわゆる裁判外の紛争解決手段(ADR)に対する期待が高まっており,「司法制度改革推進計画」(平成14年3月19日閣議決定)においても,裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化を図るための措置等を講ずることとされ,現在,司法制度改革推進本部の下で具体的な検討が進められている。著作権法には,第105条以下に「あっせん」に関する規定があり,日本知的財産仲裁センターやWIPO仲裁・調停センターにおいても著作権に関する紛争を取り扱うこととされているが,これらの紛争解決手段の利用は少数に止まっており,今後とも,司法制度改革推進本部での検討状況を踏まえつつ,その活性化の在り方を検討することが必要である。
  さらに,日常生活において発生するトラブルについて当事者同士の話合いの間に入ることや,トラブルを発生させないための事前相談などについては,今後,全国の専門家の協力を得ることやネット上での対応の可能性など,簡便な手続きで迅速に対応できる方法について検討することが必要である。


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