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第2章  契約・流通小委員会における審議の経過

1  検討の内容

  契約・流通小委員会は,著作物等の「円滑な流通」の促進について検討するため設置された。
  著作物等の「円滑な流通」の促進について,「知的財産戦略大綱」及び「知的財産基本法」には,それぞれ次のように記述がある。

【知的財産戦略大綱】
(契約システムの問題)
  我が国においては,創作時・利用時における契約システムが十分に機能していない面があるため,著作物の円滑な流通に支障が生じている場合が多い。

(セキュリティ技術、契約システム)
  新たな状況を踏まえ,今後,実効性を担保しつつ,権利者と利用者の双方にとってバランスのとれた保護を実現するため,有効なセキュリティ技術の開発,訴訟制度の改善,権利処理を円滑にする契約システムの構築等,デジタル・コンテンツの適切な保護の仕組みを確立すべきである。

(未活用著作物の流通促進)
  現在活用されていない個人のものも含め,著作物の円滑な流通を促進し,積極的にそれが活用されるよう,契約システムや権利者の意思表示システムの構築を図るべきである。

(流通システム構築支援,ネット上契約システム開発,意思表示システム開発)
  コンテンツの円滑な流通の促進を図るため,2002年度以降,新技術と著作権契約システムを組み合わせたコンテンツの新しい流通システムの構築に向けた取組を支援するとともに,ネット上での著作権契約システムの研究開発 (2004年度までに実施)や,コンテンツの利用可能範囲に関する権利者の意思表示システム(例えば「自由利用マーク」)の開発・普及を行う。
(見出しは本小委員会において付加)

【知的財産基本法】
(知的財産を有効かつ適正に利用できる環境整備)
十九条  国は,事業者が知的財産を活用した新たな事業の創出及び当該事業の円滑な実施を図ることができるよう,知的財産の適正な評価方法の確立,事業者に参考となるべき経営上の指針の策定その他事業者が知的財産を有効かつ適正に活用することができる環境の整備に必要な施策を講ずるものとする。
  契約・流通小委員会では,これらに示された政府全体の方針について必要な施策の検討を行うこととし,具体的には次のような事項について検討を行った。

【検討事項】
○「契約システム」の構築への支援の在り方
    ●「ビジネスモデル」の開発に対する国の支援の在り方
    ●スタンダードとなり得る「契約書例」等の開発
    ●集中管理事業者の活性化の在り方

○権利者による「意思表示」のためのシステムの開発・普及の在り方

○「契約」に関わる法制の改正
    ●契約のシステム・慣行が十分に普及・定着した段階で廃止する方向とすべき規定の検討
    ●新たな契約形態等に対応して新設すべき規定の検討


2  検討の結果

  契約・流通小委員会は,平成14年6月28日に第1回を開催し,7回にわたり検討を行ってきた。平成14年度における検討の結果は,次のとおりである。

  「ビジネスモデル」及び「契約システム」の構築に対する支援の在り方

  我が国では,これまで,産業上意味のある著作物については,著作者が一部の創作活動を職業とする人に限られ,その利用も出版,音楽,放送,映画などの一部の業界が中心であり,かつ,利用方法も限定的である場合が多かったため,欧米諸国と異なり,著作物の利用については書面によらない契約を結ぶことも多く,契約内容を明確にした書面による契約はあまり結ばれない傾向にあった。
  しかし,近年,インターネットをはじめとする情報技術の発達・普及等により,著作物の創作手段・利用手段等が社会全体に普及し,「一億総クリエーター」「一億総ユーザー」とも言うべき時代を迎え,国民誰もが著作物の利用に関する契約の当事者になり得るようになってきたことから,業界慣行を前提とした口頭契約では契約内容があいまいとなり紛争が生じる恐れが高まってきている。そのため,著作物の利用に係る書面契約の重要性が高まっており,最近は,様々な業界で適切な契約を結ぶための取り組みが行われつつあるところであり,現在は書面契約の定着に向けての過渡期にあると考えられる。
  一方,情報化の進展とともに,著作権関係ビジネスへの新規参入が活発化しているが,著作権制度に精通していない事業者による「ビジネスモデル」の中には一般消費者による違法な著作物利用を促しかねないものもあり,権利を保護しつつ著作物の流通を促進する適切な「ビジネスモデル」及びそれに不可欠な「契約システム」の構築が重要となっている。

(1)「ビジネスモデル」の開発に対する支援

  開発の場の設定
  「ビジネスモデル」は,民間主導で創造されるものであるが,健全な著作物流通ビジネスの発展のため,文化庁は,著作権制度に関する情報の提供のみならず,事業者等が新たな「ビジネスモデル」を創造する際に,適切な「ビジネスモデル」及び「契約システム」を関係者間で協同して構築するための「場」を事業者等の希望に応じて設け,文化庁がアドバイザーとして様々な情報提供を行うなどの支援策を行うべきである。ただし,この場合において,文化庁は使用料の決定など「ビジネスモデル」の当事者の直接的な利害に関わる調整は行うべきでなく,あくまで「ビジネスモデル」の構築が円滑に行われるための側面的な支援に留めることが必要である。

  契約形態の多様化
  また,著作権の契約については,下図に示すように,1対1,1対N,N対1,N対Nの4つのパターンがある。

契約形態の多様化図

  通常の商取引や契約の形態は「N対N」のパターンであるが,著作権関係ビジネスでは,多数の権利者から集中して権利行使の委託を受け利用の許諾を行う集中管理事業(「1対N」のパターン)が発達してきた。しかし,情報化の進展により全ての人々が著作物の権利者となり利用者となる時代を迎え,集中管理されていない著作物への利用のニーズも高まってきている。そのため,アマチュアを含め多くの人々が権利者又は利用者として著作物の流通に参加できるよう,「N対N」の契約の促進が重要となってきている。
  
  文化庁による研究とノウハウの提供
  「N対N」のパターンの契約を促進する方策は様々であり,多様な「ビジネスモデル」や「契約システム」が民間において研究されることが望まれるが,例えば,埋もれがちなアマチュア等の著作物に容易にアクセスでき,利用に係る契約をネット上で行える「バーチャル著作物マーケット」の研究のように,それ自体では直ちに商業ベースとならず民間では研究が行われにくいものについては,文化庁が研究を行い,そのノウハウや情報を総合的に提供等していくことも必要である。

  集中管理事業の多様化
  一方,「1対N」のパターンである集中管理事業については,平成13年10月1日,文化庁長官の許可を必要とした「著作権に関する仲介業務に関する法律」を廃止し,同法に基づく許可を得た者以外は禁止されていた信託による管理事業も含め,著作権の集中管理事業については原則として自由に行えることとし,事業者が使用料の額を決定するいわゆる「一任型」の集中管理についてのみ文化庁への登録を必要とした「著作権等管理事業法」が施行されている。
  これに伴い,集中管理を行う事業者は,文化庁長官の許可を受けていた4事業者から,平成14年12月1日現在,文化庁に登録されている著作権等管理事業者だけで28事業者(うち事業を実施しているのは20事業者)と大幅に増加しており,非一任型の集中管理事業者を含めて,多様な集中管理事業が行われつつある。集中管理事業は,権利の集中化,許諾手続の簡略化などの面から著作物の円滑な流通に資するものであり,今後の集中管理事業の推移を注視しつつ,必要に応じ,その活性化の在り方について検討を行うべきである。

(2) 「契約システム」の構築に対する支援

  著作物の利用に係る書面契約が十分に浸透していない理由の一つとして,著作権制度に精通していない者は,どのような項目について契約を交わせばいいのか,契約内容がどういう意味を持つのかがわからないことが挙げられる。全ての人々が著作物の権利者となり利用者となる時代においては,このような理由により書面契約が図られないことがこれまで以上に起こり得るため,典型的な利用についてはスタンダードとなり得る「契約書例」が作成され,それを参考に個々の契約書を作成できるようにすることが必要となっている。
  また,契約内容について契約当事者双方が十分に理解していない場合,後日,紛争が生じることもある。そのため,「契約書例」だけでなく,必ずしも法令や契約実務に精通していない人々にも契約書の内容が理解できるよう,「図」などを活用し,法令や正規の契約書と一般人の感覚を結ぶことのできる「契約インターフェイス」も含めた「契約システム」の構築が図られるべきである。
  「契約システム」は,本来民間が主体的に構築するものであり,一部の業界や,権利者団体においてその構築が進められつつあるが,書面契約の定着に向けて過渡期であること,著作権関係ビジネスの新規参入が活性化していることから,文化庁はこれらに関するノウハウや著作権関係情報の提供等により,その構築を支援する必要がある。


  権利者による「意思表示」のためのシステムの開発・普及の在り方

  他人の著作物を利用するためには著作権者の許諾が必要となるが,インターネットのホームページに掲載された著作物の一部の場合など,権利者によっては,一定範囲であれば,「許諾を求めなくても利用して構わない」と考えていることがある。しかし,この権利者の意思が利用者に伝わっていなければ,利用者は,許諾に係るコスト等を勘案し著作物の利用を断念するか,権利者に連絡し利用の許諾を求めることとなるが,権利者が利用しても構わないと考えているものについてまで利用者が許諾を求めることは,利用者・権利者双方にとって不必要なコストが生じることとなる。
  著作物が円滑に利用されるためには,このような不必要なコストを減らすことが重要であり,権利者自らが,「許諾を求めなくても利用して構わない」と考えている場合,そのことを利用者に正しく伝えるような仕組みが必要である。これまでも,インターネットのホームページ上に「著作権フリー」と表示する例や,利用の仕方について文章で記した「著作権ポリシー」のような例はあるが,前者は利用可能な範囲があいまいであること,後者は著作権制度に精通していない人にはわかりづらいことなどの問題があり,著作物の利用に係る権利者の考えを利用者に正確かつ簡単に伝えることのできる標準的な「意思表示システム」が求められている。

  マークによる意思表示の明確化
  「意思表示システム」については,どのような利用であれば「許諾を求めなくても利用してかまわない」と考えるかは権利者一人一人異なることから,多様な権利者の意思を正確に利用者に伝えられるシステムであることが望ましいが,その反面,誰でも簡単に使えるわかりやすいものであることが必要である。そのため,当初は,権利者が細かな条件を付すのではなく,予め定められた範囲の利用を認めるシンプルな「著作物の利用に関して権利者が意思表示できるマーク」を策定し,その後権利者の多様なニーズに対応できる「著作物の利用に関する権利者の意思を詳細に表示できるシステム」を検討していくことが適当と考えられる。
  どのような範囲の利用を認めるマークを策定するかについては,意味のわかりやすさ等を勘案し,例えば,名誉・声望を害さないこと,料金を徴収しないこと,加工を行わないことなどの条件を適切に付しつつ,
    ・ あらゆる利用を認めることを示すマーク
    ・ コピー・配布など一部の利用を認めることを示すマーク
    ・ 障害者のための利用を認めることを示すマーク
    ・ 学校教育のための利用を認めることを示すマーク
などについて,段階的に策定・普及していくことが適当である。
  本小委員会においては,当該マークの策定に当たっては,マークを付す権利者及びマークの付された著作物の利用者双方に誤解の生じることのないよう,マークの意味,マークを付す際の権利者の注意事項,マークの付された著作物を利用する際の利用者の注意事項,マークの表示の法的有効性などについても整理することとした。
  さらに,今後は,当該マークの普及状況等を踏まえつつ,「著作物の利用に関する権利者の意思を詳細に表示できるシステム」の在り方について検討する必要がある。
  なお,様々な権利者が当該マークに合致する「意思」を有している場合には,当該マークを付すことにより著作物の円滑な利用が図られるよう,文化庁は,関係者の協力を得つつ,積極的に周知活動を行うことが必要である。


3  「契約」に関わる法制の改正

(1) ライセンス契約におけるライセンシーの保護

  情報化の進展等による権利者及び利用者の拡大や著作物の利用方法の多様化等に伴い,著作権に関するライセンス契約(利用許諾契約)が増加している。著作権法においては,ライセンス契約のライセンシー(利用者)は,著作権が第三者に譲渡された場合や著作権者が破産した場合,引き続き著作物を利用することについて,著作権の譲受人や破産管財人に対して対抗できず,ライセンシーの地位が不安定となっているため,その保護について検討することが必要である。

著作権が第三者に譲渡されたケース

  ライセンシーの保護に関しては,ライセンシーの立場・利益をどこまで保護すべきか(保護の範囲),どのようなランセンシーを保護対象とすべきか(保護対象を特定する方法・方式)の両面から検討を行った。

  ライセンシーの保護の範囲
  保護の範囲については,独占性,契約期間,特約条項を中心に以下のような検討を行った。
  1 独占性(独占的なライセンス契約において,引き続き独占状態となるところまで保護すべきか)については,独占性まで保護するのは譲受人保護の観点から適当ではないという意見があった。これに対し,放送番組など一部のライセンス契約は独占でなければ価値のなくなるものもあるので独占性まで保護すべきとの意見もあった。
  2 契約期間(長期契約や自動更新条項等が含まれる契約についてどこまで保護すべきか)については,契約期間は譲受人の権利保護の観点から重要な問題であるとの意見があった。
  3 保守・保証義務などの特約条項については,利用者は多大な投資をしていることが多く全ての契約条項について保護すべきとの意見があった。これに対し,当事者間の債権債務を第三者である譲受人に被らせるのは重大な問題であり,円滑な流通の阻害となりうるとの意見や,譲受人は保守・保証等の履行能力がない場合が多いので義務化すべきでないとの意見もあった。
なお,契約当事者が相互に相手方の著作物を利用できることを内容とする,いわゆる「クロスライセンス契約」については,一方の権利者が著作権を第三者に譲渡した場合,クロスライセンス契約の債権・債務を譲受人が全て引き継ぐとすることは,他方の権利者が自らの著作物を当初想定していない者に利用させることとなるため,問題であるなどの意見もあった。

  保護すべきライセンシーの特定
  どのようなライセンシーを保護対象とすべきか(保護対象を特定する方法・方式)については,
    1 ライセンス契約が書面(電子契約を含む)によりなされているときは,当該ライセンスは著作権及び出版権をその後に取得した者に対し対抗できるとする案
    2 ライセンス許諾の登録がされている場合には,その著作権又はその著作権についての出版権をその後に取得した者に対して,その効力を生ずるとする案
    3 譲受人が,ライセンス契約を承知している場合には,ライセンス契約を承継させる(譲受人が善意無過失でライセンス契約を承知していない場合には譲受人はライセンス契約を承継せず,譲受人に軽過失があってライセンス契約を承知していない場合には譲受人はライセンス契約を承継するものの独占性については承継せず,譲受人に故意又は重過失がある場合には譲受人は独占性を含め承継する。)という案
    4 ライセンス契約に基づいて事業を行っている事実をもって,第三者に対抗できるとする案
について検討を行ったが,ライセンス契約が公示されない場合の譲受人の地位の不安定さ,登録の際の契約の秘密性,過失の有無や事業を行っていることの判断基準など更に検討すべき課題があることから結論に至らなかった。

  破産法との関係について
  ライセンサーが破産した場合,ライセンサーの著作権は破産管財人の管理下となるが,破産管財人は未履行の双務契約については破産法第59条により契約を解除することができることから,ライセンシーの立場が不安定となっており,その保護についても検討を行った。
  保護の在り方については,著作権が譲渡された場合と同様に,ライセンシーの保護の範囲を明確にし,保護すべきライセンシーを特定する必要があるが,これらは譲渡時の検討結果を受けて考えるべきであり,まずは著作権が譲渡された場合について検討し,その上で破産時のライセンシーの保護の在り方について検討することとした。
  また,ライセンシーの保護の在り方については,法務省において行っている破産法等の改正の検討を踏まえつつ,検討する必要がある。

  今後の検討について
  著作物の円滑な利用の促進のためには,一定の条件の下にライセンシーがライセンサーの権利譲渡又は破産後も引き続き著作物を利用できるように,ライセンシーを保護するための法制度は必要なものと考えられるが,その検討に当たっては,まず,必要な保護の範囲自体を明確にすべきであり,この点については産業界等においても,さらなる検討が必要である。
  また,保護対象を特定する方法・方式については,個々の案の利点を活かしつつ複数の案を組み合わせた案を検討していくべきである。
  ライセンシーの保護については,債権的なライセンス契約を物権の譲渡に優先させるという法構成上大きな課題を有しており,物権と債権の関係,破産法との関係,ライセンシー間の優先順位等を整理しつつ,実効性の高い最善の方策を慎重に検討する必要がある。

(2) 契約のシステム・慣行が十分に定着した段階で廃止する方向とすべき規定の検討

  「契約システム」の構築は,基本的には当事者同士の努力に委ねられるべきものであるが,法律による契約秩序の構築が図られているものとして,「著作権等管理事業法」などの例がある。著作権法においても,契約に関する特別の規定があるが,著作物の利用形態の急速な多様化,契約による自助努力や「選択と自己責任」の考え方の普及等に対応し,契約関係に関わる規定の在り方について検討する必要がある。
  そのため,本年度は,以下の検討を行った。
  1   著作権法第61条第2項(翻訳権・翻案権等,二次的著作物の利用に関する原著作者の権利の留保の推定)
     本項については,「全ての著作権を譲渡する」という契約を結んでも第27条,第28条の権利は譲渡されていないと推定されるため,契約書の文言と実態が乖離してしまい,書面による契約慣行の定着の妨げとなる恐れがあるとの意見や,どのような権利が譲渡されるかについては本来契約書に書き込むべきものであり,本項を廃止しても特段の問題はないとする意見があった。
  2   第15条(職務上作成する著作物の著作者)
     本条については,法人とその業務に従事する者の間に契約がないことを前提としており,将来的には廃止もあり得るものの,同条の廃止は使用者と従業者の間の契約秩序を変えるものであり,慎重に検討する必要があるとの意見があった。
  3   第44条(放送事業者等による一時的固定),第93条(放送のための固定),第94条(放送のための固定物等による放送)
     第44条に関しては,放送関係事業者同士においては一定の契約秩序が形成されているが,それ以外の人との契約時には問題が生じることが考えられること,第93条及び第94条については,録画物に関する実演家の権利の確立を待って検討すべきであるとの意見があった。
  「契約」に関わる法制については,法制問題小委員会でも,著作権法の単純化の観点から議論を進めているところであり,契約慣行の定着状況も踏まえつつ,今後とも,必要に応じて,同小委員会とも連携し検討することとする。

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