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資料3−3

文化審議会著作権分科会国際小委員会
審議経過の概要




平成14年12月

文化審議会著作権分科会国際小委員会


目  次

  1  検討の内容


  2  検討の結果

    1  海賊版対策
      (1)海賊版流通の実態把握
      (2)重点対象国の絞込み
      (3)海賊版対策を講じる上での留意点
      (4)海賊版についての戦略的対応ー7つの重点施策ー
    
    2  インターネット上の著作権侵害に対する国際裁判管轄及び準拠法
      (1)問題の所在
      (2)国際裁判管轄
      (3)準拠法
      (4)今後の方向性

    3  新たな条約策定等への参画
      (1)条約検討の現状
      (2)今後の基本的な対応
      (3)その他の国際ルール



1  検討の内容

  国際小委員会は,「国際的課題」への対応について検討するため設置された。
  「国際的課題」への対応について,「知的財産戦略大綱」及び「知的財産基本法」には,それぞれ次のような記述がある。

【知的財産戦略大綱】
(海賊版の問題)
  海外における模倣品・海賊版等の知的財産権侵害製品が我が国経済に与える損失は極めて大きく,これを放置した場合,損失は一層拡大するものと懸念される。今後,我が国が知的財産を基礎とした発展を図っていく上で,国際市場における技術,デザイン,ブランド等の模倣や,音楽,映画,放送番組,ゲームソフト等の違法な複製(海賊版)を看過することはできない。その際には,大規模・組織的な工程が必要な模倣品,パソコンさえあれば個人でも製作できる海賊版等,製品ごとの特性を考慮しつつ,権利侵害に対する有効な対策を検討すべきである。
  政府として,侵害の発生している国の中央政府・地方政府に対し,この点に留意しつつ,世界貿易機関(WTO)創設に併せて発効した「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」等で認められた権利を最大限行使し,強力な働きかけを行わなければならない。
  WTO加盟国において,模倣品・海賊版等が大量に製造・流通している場合は,WTOのレビューシステムを最大限活用しつつ,侵害発生国の制度とその運用の監視に努め,併せて,WTO非加盟国に対しても二国間交渉等を通じて知的財産の保護強化を迫るべきである。
  さらに,世界知的所有権機関(WIPO)における知的財産権のエンフォースメントに関する議論に積極的に参画し,国際的な模倣品・海賊版等への対策の強化に努める。
  このような取組に当たっては,各国にある日本大使館・総領事館,日本貿易振興会(JETRO)等の政府関係機関も積極的に活用して,毅然たる態度で二国間交渉,多国間協議に当たり,我が国の産業界,そして国民の利益を守らねばならない。

(国際ルールづくり,途上国支援)
  また,地球規模での競争の激化や情報伝達技術の発展に伴い,知的財産の国際的保護水準の適正化や制度間の調和が求められていることから,二国間・多国間の枠組みを通じた新たな国際ルールづくりや,開発途上国の制度整備支援等の取組を推進すべきである。
(見出しは本小委員会において付加)


【知的財産基本法】
(権利侵害への措置等)   
十六条  国は,国内市場における知的財産権の侵害及び知的財産権を侵害する物品の輸入について,事業者又は事業者団体その他関係団体との緊密な連携協力体制の下,知的財産権を侵害する事犯の取締り,権利を侵害する物品の没収その他必要な措置を講ずるものとする。
  国は,本邦の法令に基づいて設立された法人その他の団体又は日本の国籍を有する者(「本邦法人等」という。次条において同じ。)の有する知的財産が外国において適正に保護されない場合には,当該外国政府,国際機関及び関係団体と状況に応じて連携を図りつつ,知的財産に関する条約に定める権利の的確な行使その他必要な措置を講ずるものとする。

(国際的な制度の構築等)
十七条  国は,知的財産に関する国際機関その他の国際的な枠組みへの協力を通じて,各国政府と共同して国際的に整合のとれた知的財産に係る制度の構築に努めるとともに,知的財産の保護に関する制度の整備が十分に行われていない国又は地域において,本邦法人等が迅速かつ確実に知的財産権の取得又は行使をすることができる環境が整備されるよう必要な施策を講ずるものとする。

  国際小委員会では,これらに示された政府全体の方針について必要な施策の検討を行うこととし,具体的には次のような事項について検討を行った。

【検討事項】
○海賊版対策
海賊版流通の実態把握
重点対象国の絞込み
権利行使を行う上での問題点の特定と対応
国際的な戦略の構築(国際的フォーラムの活用,先進諸国との協力等)

○国際裁判管轄,準拠法
インターネット時代に対応した国際裁判管轄及び準拠法

○著作権関係条約
国際的動向の適切な把握
新条約の早期策定のために我が国が果たすべき役割


2  検討の結果

  国際小委員会は,平成14年7月2日に第1回を開催し,6回にわたり検討を行った。平成14年度における検討の結果は,次のとおりである。

  海賊版対策

(1) 海賊版流通の実態把握
  アジアを中心とした諸外国においては,我が国著作物の海賊版が広範に流通しており,この現状を危惧して海外における事業展開を踏みとどまっている権利者が多いとの指摘もある。これら海賊版は,その製造,販売行為自体が違法行為であるため,海賊版の流通の現状を把握することは容易ではない。しかしながら,効果的な海賊版対策を講じる上で,包括的ではないにせよ,何らかの手法により侵害の実態を把握することが必要不可欠であり,関係者の協力を得つつ,このための努力を継続していくことが必要である。

(2) 重点対象国の絞込み
  我が国として重点的に海賊版対策を実施すべき国・地域については,我が国の著作物の海賊版が大量に流通している中国,台湾,韓国等を中心とするアジア諸国を重点的に考えていくべきであり,その他の地域については,必要に応じ,その対象を拡大していくことが適当である。

(3) 海賊版対策を講じる上での留意点
  我が国の権利者の中には,主要な収益源が国内にあるため,アジア諸国において事業展開を積極的に行っていない権利者もあり,このことが我が国著作物の海賊版が当該諸国で流通している原因の一つとなっている。このような権利者は, 現状では費用対効果の点から対策には消極的であり,結果として積極的な対策を講ずるに至っていないと考えられる。しかしながら,多くの権利者にとって,アジア諸国は我が国の著作物の有望かつ潜在的な市場であることから,これら権利者においても,当該諸国での事業展開を視野にいれて自ら海賊版対策を行うという意識の変革を図っていくことも望まれる。
  一方,アジア諸国において,既に積極的な事業展開を行っている権利者においては,海賊版の流通は自社の収益に係る問題であるため,自らが現地法人,代理店等を活用することにより著作権,商標権等侵害の実態把握に努めるとともに,権利行使を行っている事例もあり,関係機関はこのような企業等における取り組みを効果的に支援していく必要がある。これらの取り組みとともに,権利者は自らの著作物を保護するため,明確な契約の締結や技術的保護手段の積極的な導入を図ることが重要である。
  なお,アジア諸国において権利を行使する際には,侵害者の特定,被害額の証明等の立証が権利者に求められること,捜査機関のモラルに問題がある場合があること,弁護士費用や調査会社への費用がかさむこと,海賊版の鑑定を大量・迅速に行うことが求められること等制度面,運用面での問題,費用対効果の問題等が存在するとの指摘もあり,これらの側面についても留意した対策を講じていくことが必要である。

(4) 海賊版についての戦略的対応  −7つの重点施策−
  2002年8月にコンテンツ海外流通促進機構が発足する等,現在,官民一体となった海賊版対策が進められているところである。今後は,特に,自ら海賊版対策に積極的に取り組もうとしている権利者等と連携して,相手国における著作権関係の法制度整備・実施状況等に応じた海賊版対策を戦略的に講じていくことが重要である。その際には,以下の7つの施策を官民連携の下,重点的に講じていくことが必要である。

1 海賊版実態把握の強化
  海賊版流通の実態を把握することは,海賊版対策を講じる上での大前提である。その実態を把握することはその性質上容易ではないが,現地事情に精通した調査会社,先行的に調査を行った実績を有する海外の団体の知識を活用し,侵害発生国の関係行政機関の協力を得つつ,海賊版被害の把握のための海外調査団の派遣等,その被害実態を把握するための取り組みを強化することが必要である。特に,中国,台湾については,2001年末から2002年初頭にかけてWTO加盟国となり,「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の遵守義務が生じていることから,国内的な海賊版流通の実態に変化があるとも考えられ,この観点からの調査も強化することが必要である。

2 二国間協議の実施
  海賊版が流通している国に対しては,相手国との間で直接二国間協議を行い,適切な著作権保護制度の整備及びエンフォースメント強化等について働きかけを行うことが効果的である。このため,特に我が国著作物の海賊版の流通が多く見られる中国等との間で,早急に二国間協議の場を設置し,関係機関等から提供される情報を最大限活用しつつ,我が国著作物の適切な保護についての働きかけを行うことが必要である。

3 国際機関の積極的活用
  現在,世界貿易機関(WTO),世界知的所有権機関(WIPO)等の国際機関においても,著作権のエンフォースメント等についての議論が行われているところである。特に,WTOにおいては,中国等に対してTRIPS法令レビューが行われている最中であり,これらの制度も最大限に活用しつつ,我が国著作物の海賊版が流通している国々に対して,法制度整備,エンフォースメントの強化を働きかけることが必要である。

4 海賊版対策を実施している海外諸国等との戦略的連携
  海賊版が流通しているアジア諸国においては,既に米国等の諸国は二国間の対話を通じた海賊版対策の強化を当該国に要請する等の働きかけを実施している。また,国際レコード産業連盟(IFPI),ビジネスソフトウェアアライアンス(BSA),著作権協会国際連合(CISAC),録音権協会国際事務局(BIEM)等の海外の権利者団体も侵害発生国において現地事務所を設置し,弁護士,調査会社を活用した権利行使を行う等積極的な海賊版対策を実施している。これら海外の政府,団体の有する海賊版対策についての経験,ノウハウ等は我が国が侵害発生国で対策を講じていく上で極めて有用なものであると考えられる。このため,我が国政府及び権利者においても,これら政府,団体と連携し,海賊版対策を行うことが必要である。

5 侵害発生国における「著作権」に対する関係者の意識の向上
  海賊版に対応していく上では,侵害発生国の一般国民の意識を高めていくことが重要であり,その際,「著作権」の制度整備,エンフォースメントなどを行う関係政府機関等は重要な役割を果たすものと考えられることから,当該国の関係政府機関,司法,警察等関係者の「著作権」に関する理解を高めていくことが重要である。このため,侵害発生国において,相手国政府機関等の協力のもと,セミナー・シンポジウムの開催等を通じて,先ず,これら関係者の意識の向上を図ることが必要である。
  また,侵害発生国において一般国民の「著作権」についての意識を高めていくためには,当該国の権利者が自らの権利を行使して適正な対価を得ていくことも有効である。権利を権利者から預かり集中的に行使していく権利管理団体は,このような対価を権利者が得るにあたり重要な役割を果たすことから,当該国における権利管理団体の育成・発展についての協力を行っていくことが必要である。

6 コンテンツ海外流通促進機構を通じた権利者の支援
  2002年8月に設立された「コンテンツ海外流通促進機構」においては,中国に対するミッション派遣,海賊版流通の実態調査等現在積極的な海賊版対策を行っているところである。これらの活動は長期的・継続的に行ってこそ効果があがるものと考えられる。政府においても,「コンテンツ海外流通促進機構」と密接な意見交換を行い,それを踏まえて,権利者の訴訟提起等に役立つよう,各国における権利行使のために必要な調査を行う等,機構の長期的・継続的な活動を最大限支援していくことが必要である。

7 在外公館等の積極的活用
  海賊版対策を講じるにあたっては,現地の事情に精通しており,また,現地の行政機関とも関係の深い各国にある日本大使館,日本貿易振興会等とも密接に連携し,我が国権利者の保護という観点から,海賊版対策と模倣品対策を一体とした対策を講じていくことが必要である。
  また,権利者においても,現地に代理店あるいは事務所等がある場合は,それらを活用した実際の訴訟提起を行う等積極的な権利行使をすることが望まれる。また,海外展開に積極的に取り組んでいる企業等において,単独で海外拠点を設置することが経済的に困難な場合においては,複数の企業等で連携し,共同の現地事務所の設置,現地の弁護士,調査会社の活用を図る等積極的な権利行使も望まれる。

  インターネット上の著作権侵害に対する国際裁判管轄及び準拠法

(1) 問題の所在
  インターネットの普及により,著作物が国境を越えて容易に,瞬時に,大量に,全世界的な範囲で流通するようになったことに伴い,インターネット上の著作権侵害が増大している。国境を越えた権利侵害が生じた場合,どの国の裁判所が裁判を行うかという国際裁判管轄の問題,どのような法律を適用するかという準拠法の問題が生じる。従来,これらの国際裁判管轄及び準拠法を決定する基準として,「加害行為地」や「損害発生地」が考えられてきた。しかしながら,インターネット上の著作権侵害の場合には,「加害行為地」や「損害発生地」が必ずしも明確でなく,特に「損害発生地」は世界中に広がる可能性がある。このような問題意識に基づき,本小委員会においては,インターネット上の著作権侵害にかかる国際裁判管轄及び準拠法についての検討を行った。

(2) 国際裁判管轄

  インターネット上の著作権侵害に対する国際裁判管轄については,以下のような意見があった。

管轄原因について
  管轄原因として,「被侵害権利の所在国,普通裁判籍,応訴・合意管轄」とすべきであるとの意見があった。合意管轄については,これを管轄原因として採用することが適当であることについては概ね合意が得られたものの,契約の一方当事者が弱い立場にある場合,当該当事者が不利な立場に置かれ得ることについて懸念が表明された。

インターネット上の名誉毀損の場合等との整合性について
  インターネット上の著作権侵害に対する裁判管轄についても,国境を越えて生じた名誉毀損やプライバシーの侵害等の一般の不法行為における裁判管轄の決定と本質的な差異はないため,これらの事案における法的評価との整合性を確保することが必要であるとの意見があった。

長期的視野に立った検討の重要性について
  インターネット時代に対応した国際裁判管轄については,現在国際的にも十分な議論がされていないため,ハーグ国際私法会議等の動きも見守りつつ慎重に検討を進めるべきであるとの意見があった。

(3) 準拠法

  インターネット上の著作権侵害に適用する準拠法については,以下のような意見があった。

ベルヌ条約における「保護国法主義」の明確化について
  準拠法選択ルールとしてベルヌ条約が採用している「保護国法主義」が,インターネット環境下における著作権侵害に如何に適用されるかは明確ではなく,この点の明確化を国際的に働きかけていくべきであるとの意見があった。

インターネット上の著作権侵害に適用する準拠法について
  国境を越えた違法な公衆送信が行われた場合,このような侵害行為は,それぞれの国において別個の法的評価を受けるべきであるとの意見があった。より具体的には,A国からB国に公衆送信が行われた場合,A国内ではA国著作権法を侵害し,B国内ではB国著作権法を侵害すると考え,当該国法に従って法的評価が行われるべきであるとの意見があった。
これに対し,このような送信行為に対し単一の行為・結果としてまず準拠法を確定する国際的な統一ルールを策定し,それに基づき権利関係を確定すべきであるとの意見もあった。
  なお,著作権侵害に適用する準拠法については属地主義の原則に基づいて決定すべきという考え方も存在することから,新たな準拠法選択ルールにおいて他国法が準拠法とされた場合においても,当該国法が現地法に優先して適用されることを疑問視する意見があった。

インターネット上の名誉毀損の場合等との整合性について
  インターネット上の著作権侵害に適用する準拠法についても,国境を越えて生じた名誉毀損やプライバシーの侵害等の一般の不法行為における準拠法の決定と本質的な差異はないことから,これらの事案における法的評価との整合性を確保する必要があるとの意見があった。

(4) 今後の方向性

  現時点での対応として,理論的なアプローチに基づいて我が国としての方針を確定した上で国際社会への浸透を図るべきとの意見がある一方,権利者の権利行使を容易にするように,侵害者の行為に重点をおいて,準拠法・裁判管轄を検討するなど現実的な対応を行うべきとの意見もあった。
  インターネット上の著作権侵害に対しては,現在,我が国を含めた多くの国において,既存の国内法に基づいて裁判管轄,準拠法の決定が行われており,法的予見可能性が低い状況にある。このため,現実的に機能する法秩序を早急に確立する必要があるが,当面は問題の所在を見極めつつ,ベルヌ条約の「保護国法主義」の明確化等の国際的な働きかけを積極的に行っていくべきである。
  また,裁判管轄の問題については,著作物等のライセンス契約や約款に合意管轄条項を盛り込むことにより,予め侵害が起きた際の管轄裁判所を決めておくことが可能である。このような権利者と利用者の合意による裁判管轄の決定は,管轄合意以外の管轄原因に基づく他の裁判管轄ルールよりも予見可能性が高いため,権利者,利用者双方が契約等の中にこのような合意管轄条項を予め盛り込んでおくことは,裁判管轄についての不確実性を除去する観点からは有効であると考えられる。
  なお,権利者が訴訟を提起する際,当該権利者に自由度の高い裁判管轄の選択肢が認められることにより,訴訟を提起された側が過度の訴訟負担を負い,国境を越えた事業活動に対する萎縮効果等の弊害が生じることも予想されることから,こうした問題に対処するため,引き続き検討を進めていくべきである。

  新たな条約策定等への参画

  現在,世界知的所有権機関(WIPO)においては,ベルヌ条約,実演家等保護条約において著作者,著作隣接権者に付与している権利を近年のデジタル化・ネットワーク化に即したものに対応させる作業が進行中である。
  このうち,著作者の権利にかかる「著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)」については1996年に採択,2002年3月に発効しており,レコード製作者及び音の実演家にかかる「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」についても1996年に採択,2002年5月に発効したところである。しかしながら,視聴覚的実演及び放送機関に関する条約については,現在もWIPOにおいて検討が継続されているところである。

(1) 条約検討の現状

  本小委員会において整理した「視聴覚的実演の保護」及び「放送機関の保護」に関する新条約についての検討状況は以下のとおりである。

1 視聴覚的実演の保護
  視聴覚的実演の保護についての外交会議は2000年12月にジュネーブで開催され,実体規定全20条のうち19の条文についての暫定合意が得られたものの,映画製作者への実演家の権利の移転問題をめぐってECと米国の間で合意を得ることができず,結果として条約採択は見送られた。これに加え,国内で徴収する私的録音録画補償金等の外国実演家への配分が「内国民待遇」との関連で新たな論点となっており,今後の議論は,「権利移転」及び「内国民待遇」の取扱いが中心になると考えられる。

2 放送機関の保護
  放送機関に関する新条約の検討は1998年以降,WIPO著作権等常設委員会の場で検討が進められている。我が国は2001年5月に開催された第5回委員会において条約形式の提案を行っている。その後,EC及び米国も条約形式の提案を,それぞれ2001年11月開催の第6回委員会,2002年11月開催の第8回委員会において提出しており,これにより主要国からの提案が出揃うこととなった。WIPOにおける今後の検討にあたっては,特に,いわゆる「インターネット放送」を新たに保護の対象とするか否か,公衆に送信される前の放送信号の保護,無許諾の暗号解除行為からの放送の保護等が重要な論点になると考えられる。

(2) 今後の基本的な対応

  視聴覚的実演に関する実演家及び放送機関の権利を近年のデジタル化・ネットワーク化に即したものに対応させていくことは我が国にとって喫緊の課題であるとの認識の下,両条約の早期締結に向けた外交努力を継続することが必要である。視聴覚的実演の保護については,条約の早期採択を優先する観点から,現在問題となっている米・EC間の調整に,我が国も積極的な役割を果たすことが必要である。また,放送機関の保護については,「インターネット放送」,「放送前信号」及び「暗号解除行為」等について我が国の立場を明確にするための検討を行うことが必要である。なお,これら条約の検討を進めるに当たっては,条約の国内的な実施のあり方についても留意すべきである。

(3) その他の国際ルール

  WIPOにおいては,その他,フォークロアの表現の保護,創作性のないデータベースの保護についての議論が行われているところであるが,これら事項については,国内的にも保護の要望が必ずしも明確に存在しないことから,WIPOにおける諸外国の動向を踏まえつつ,長期的な課題として検討することが適当である。



(参考)

1.文化審議会著作権分科会契約・流通小委員会委員名簿

     石  井  亮  平    日本放送協会マルチメディア局著作権センター副部長
     今  川  祐  之    (社)全日本テレビ番組製作社連盟専務理事(平成14.11.20〜)
     (秋  田      完      前(社)全日本テレビ番組製作社連盟専務理事  〜平成14.11.19)
     入  江      観    (社)日本美術家連盟理事
     上  原  伸  一    (社)日本民間放送連盟著作権委員会著作権専門部会法制部会主査
     大  森  一  男    (社)電子情報技術産業協会法務・知的財産権総合委員会委員
     加  藤     衛    (社)日本音楽著作権協会常務理事
     金  原      優    (社)日本書籍出版協会副理事長
     久保田      裕    (社)コンピュータ・ソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長
     児  玉  昭  義    (社)日本映像ソフト協会専務理事・事務局長
     佐々木  隆  一    (株)ミュージック・シーオー・ジェーピー取締役会長
     渋  谷  達  紀    東京都立大学教授
     寺  島  アキ子    (協)日本脚本家連盟常務理事
     土  肥  一  史    一橋大学教授
     生  野  秀  年    (社)日本レコード協会常務理事・事務局長
     橋  元      淳    (社)日本芸能実演家団体協議会実演家著作隣接権センター事務局長
     橋  本  太  郎    ソフトバンク・ブロードバンドメディア(株)代表取締役
主査代理    半  田  正  夫    青山学院大学学長
     松  田  政  行    弁護士・弁理士
     村  上  重  美    (社)日本新聞協会専務理事・事務局長
主査    紋  谷  暢  男    成蹊大学教授
(計20名)


2.文化審議会著作権分科会契約・流通小委員会審議経過

第1回会議   平成14年7月  2日     ・著作権に係わる国際的動向等について(自由討議)

第2回会議   7月24日
    ・「知的財産戦略大綱」等について
    ・海賊版対策について(論点の整理)
    ・ インターネット時代に対応した国際裁判管轄及び準拠法について(論点の整理)

第3回会議   9月3日
    ・海賊版対策について(委員からのヒアリング)
    ・ インターネット時代に対応した国際裁判管轄及び準拠法について(委員からのヒアリング)

第4回会議   10月24日
    ・海賊版対策について(委員からのヒアリング)
    ・ インターネット時代に対応した国際裁判管轄及び準拠法について(委員からのヒアリング)

第5回会議   11月25日
    ・審議経過の概要(案)の審議
    ・ 新条約の早期策定のために我が国が果たすべき役割について(WIPOにおける検討状況の報告)

第6回会議   12月20日     ・審議経過の概要(案)の審議


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