SCCRの「条約テキスト案」ではCalbecasting からComputer Networkによるものを除外しているようであるが、いったいComputer Networkをどう定義するつもりなのか?コンピュータはデジタルCATVで使われるデータ形式であるMPEG-TSを直接受信することもできる(そもそもセットトップボックスはコンピュータである)ので、デジタルCATV網は全てコンピュータ網である。またMPEG2-TSの中にIPパケットを含めて送ることもできる。ほとんど全ての家電製品がコンピュータが内臓されており、特にセットトップボックスはパソコンと内部的に変わるところがないという現状で、CablecastingからComputer Networkを除外することは徒に混乱を招くだけなので、見直してはどうか。次に、「ウェブキャスティングについての作業文書」ではWebcastingなる用語が定義されているが、Such transmissions, when encrypted, shall be considered as“webcasting”と、暗号化をウェブキャスティングであることの条件としている。電波による放送は、暗号化の有無に関わらず放送としていることに比して、これは極めてバランスを欠くし合理的理由はない(電波による暗号化されていない放送は誰でも受信し複合できる)。また、電波による放送にたとえ一部暗号化された放送があったとしても、災害時や試用のための無料視聴の際には暗号化なしでの放送が行われることは、今後も続いていくと思われるが、ウェブキャスティングでも事情は同様であり、技術的には全く必要のない暗号化を条件にしてウェブキャスティングを定義することは避けるべきであろう。
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「我が国の著作権法では、著作隣接権を同時送信の「放送」「有線放送」に対してのみ付与しているため、視聴者のアクセスに応じて個別に送信するウェブキャスティングを条約の保護の主体とすることに対しては、慎重な検討が必要であった。」とあるが後にある「放送形態として技術的に固定されていない放送をそのままインターネットにアップロードする形態(サイマルストリーミング)」は、わが国の著作権法に照らしても疑念の余地無く「放送」「有線放送」であるだけでなく、そのようなサイマルストリーミングによる「有線放送」は非営利無料のため放送局からの許諾が不要な場合の地上波再送信や、衛星放送コンテンツの ADSL による商用再送信が既に行われている現状を、正しく認識すべきである。なお、アップロードとはインターネットからアクセス可能なファイルサーバ等に放送の複製物を固定することを言うので「技術的に固定されていない放送をそのままインターネットにアップロードする」という表現は間違いである。「技術的に固定されていない放送をそのまま(複製を行わない放送サーバから)インターネット経由でアクセス可能にする」などの表現が適切である。また「「再送信権」の形態は「放送」「有線放送」などに限定し、「コンピュータネットワーク上での再送信」は「利用可能化権」の一形態として付与する方が望ましい。」とあるが、既にわが国ではコンピュータネットワーク上での再送信(サイマルストリーミング)が著作権法上の「有線放送」として行われていることから、いまさらの区別は混乱を招くだけであり、また総務省はデジタル放送の普及のためにコンピュータネットワークによる再送信も認めていることから、区別は行われるべきではない。「再送信権の対象として、同時だけではなく、異時も含めることが望ましい。」のはいいが、ネットワーク(インターネットだけではなく、CATVでも VOD は可能である)を利用した場合「異時」には、わが国の著作権法で言う(有線)放送に相当するものと自動公衆送信(いわゆるVOD)があるので、両者をごっちゃにしてはいけない。その違いの本質はSCCRの「ウェブキャスティングについての作業文書」のThe receiver may log in to the program flow at a given point of time and receive what follows but cannot influence the program flow otherwise.という性質にあり、これが満たされている場合は、コンピュータネットワークを使おうがケーブルを使おうが、(有線)放送とされるべきである。
ウェブキャスティングに関しては、欧米からそれぞれ提案がなされてきた。米国は、海賊版対策の必要性から「ウェブキャスティング(インターネット放送)を行う者を放送条約の主体として位置づけるべき。」と主張してきた。また、 EU は、「放送機関が放送と同時にネット上でウェブキャスティングを行う場合には本条約の保護の対象とすべき。」と主張してきた。これに対し、我が国をはじめとする大部分の国は、「ウェブキャスティングは現在まだ実態も事業形態も明確ではないことから、本条約の対象とすることは時期尚早である。」と主張してきた。EUの案が適切だと思います。
1ファイル交換等におけるダウンロード行為について
ファイル交換時においてダウンロードを行う場合、発信側利用者の行為が著作権侵害であることの情を知りながら、その発信を受けてダウンロード(複製)する行為は、私的複製であっても違法とすべきであり、我が国においても、ドイツと同様に、その旨の規定を置く法改正をすべきと考えます。インターネット上には国境がなく、世界中の利用者間でファイル交換等がなされるおそれがあります。いわゆるコピライト・ヘイブンから発信される場合には、ダウンロード側を違法とするしか対策があり得ません。また国際的取組みを強化するとしても、外国に居住する個人がファイル交換の発信側利用者となっている場合に、当該個人の発信者情報を外国プロバイダから取得して訴訟等を提起していくことは、不可能でないにしろ、困難が伴います。ファイル交換等において違法にアップロードされているファイルを、その情を知りながらダウンロードする行為は、本来、対価を支払わなければ取得できない映像・音楽ファイル等を無償で取得する行為であり、通常の利用における対価の支払を免れるものであって、私的使用目的といえども、「通常の利用を妨げる」ものであること、ダウンロード行為は、発信側利用者による権利侵害行為と表裏一体の関係にある行為であること、発信側利用者の権利侵害につき情を知っている場合のみダウンロードを違法とすることにより、違法となる範囲の不当な拡大を防止できること等から、ドイツの立法例をも参考として、「ファイル交換時において違法にアップロードされているファイルを、その情を知りながらダウンロードする行為」は私的複製であっても違法とすべきであると考えます(そのために著作権法 30 条1項を改正し、同項に3号として、「三第二三条に規定する権利を侵害する行為によって送信可能化されている著作物を情を知って自動公衆送信を受けることにより複製する場合」を追加するべきと考えます。)。
2劇場盗み撮りを違法とすべきことについて
(1)ファイル交換ソフトで交換されている映像ファイルには、映画館で盗み撮りしたファイルが多数含まれているため、映画館での盗み撮りは、私的使用目的の複製であっても、複製権侵害とすべきであると考えます。
(2)ファイル交換ソフトでの盗み撮り映像のアップロードを防止するためには、いわば川上(上流)において、映画館での盗み撮り自体を防止する必要があります。この点について映画製作者や映画館等は、懸命に隠し撮りを防止する努力をしているところでありますが、現行法のもとでは、隠し撮りの現場を発見しても、「私的使用目的であった」と言い訳されるケースが生じています。もちろん、ファイル交換ソフトで流通させる目的であれば、「私的使用目的」には当たりませんが、本人が「私的使用目的」であったと強く主張した場合には、現場でそれを覆すことが容易ではないため、著作権法以外の法令によって対処の可能性についてはともかく、著作権侵害の責任を問うことが容易でない状況です。
(3)また、劇場盗み撮り問題は、海外における海賊版問題にも影響を及ぼしています。香港の新聞によれば、「香港の海賊版集団が、日本の映画館に人を送り込み日本の人気映画を盗み撮りして持ち帰り、香港で大量複製し販売している」といった消息筋の話もあり、劇場盗み撮りには国際的な犯罪組織が関与している可能性も否定できない状況です。
(4)映画館での盗み撮りの問題については、実は、現行法制定時においても議論されたことがあり、著作権制度審議会第4章委員会「審議結果報告」(昭和 40 年)では、私的複製に関して、「上映中の映画著作物から複製物を作成することについては、私的使用のためといえども、劇場の管理権等とは別に映画的著作物の著作権で禁止できるようにするのが適当である。」とされたところであります。この報告は、具体的な条文としては結実できませんでしたが、映画館で盗み撮りされ、それがインターネットで配布される事件が現実に発生している今日の社会情勢をかんがみれば、「劇場の管理権等とは別に映画的著作物の著作権で禁止できるようにする」ことの必要性は、当時と比べて格段に高まっています。
(5)諸外国をみても、アメリカ合衆国では、「 Family Entertainment and Copyright Act of 2005 」(Artists’ Rights and Theft Prevention Act of 2005 or ART Act)が2005年4月27日に成立し、 著作権者の許諾なく、映画又はその他の視聴覚著作物を映画館から送信し、又はコピーを作成するために録画機器を故意に使用し、又は使用しようと試みた者は、
・懲役3年以下の懲役若しくは罰金、又はその併科
・再犯の場合には6年以下の懲役若しくは罰金又はその併科
に処せられる。 映画館で録画機器を所持していただけでは有罪とするのに十分でないが、その証拠として考慮される。 合理的な理由があれば、映画館の経営者若しくは従業員等又は映画著作権者の代理人等は、合理的な方法によって、合理的な時間内で、本条に違反したと疑われる人物を、質問するため又は警察官等を呼ぶために引き留めることができ、そうしたことによって民事上又は刑事上の責任を負わない。
という、実効的な対処を可能にする規定が設けられております。また、同法の違反者が逮捕されたケースも報道されております。
香港では、2001年から施行されている知的所有権(雑改正)条例(Intellectual Property (Miscellaneous Amendments)Ordinance 2000)により、映画館、劇場、コンサートホールへのビデオ撮影機器(録音機器を除く)の無断持ち込みが禁止され、違反者のうち初犯者は5,000香港ドル以下の罰金、再犯者は50,000香港ドル以下の罰金及び3ヶ月の禁錮刑に処せられるとされています。
(6)我が国においても、施設管理者の意思に反することの情を知りながら、映画館、劇場、コンサートホール等に録音録画機器を持ち込んで録音・録画することは、私的使用目的であったとしても、許されないとすべきです。このような行為は、映画の著作物についていえば、いまだDVD等の商品が発売される前に、上映中の作品から不公正な方法でその複製物を作成するものであり、劇場公開の数ヶ月後にDVDを発売するという映画の通常のビジネスに大きな悪影響を及ぼし、著作物の通常の利用を妨げるものであります。これを放置するならば、映画著作権者は、多額の資金を投下して映画製作を行っても、十分な対価回収の機会を得ることができず、ひいては映画製作への投資意欲を喪失させ、映画文化の衰退をもたらすことになってしまいます。創作行為を保護し、その保護を通じて創作者・製作者に著作物利用の対価が還元され、それが新たな創作やそれに対する投資につながっていくという、創作のサイクルを維持することが是非とも必要であり、これを破壊してはなりません。そこで、著作権法30条1項を改正し、同項に4号として(3号は上記のとおり追加するとして)、「四著作物が公に上演、演奏又は上映される施設において、著作物を録音又は録画することが当該施設の管理について権限を有する者により禁止されていることを知りながら、上演、演奏又は上映される著作物を録音又は録画する場合」を追加するべきと考えます。