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資料2

国際的なデジタル課題への対応の在り方について


1  問題意識
   近年のデジタル化・ネットワーク化により、著作権を巡る環境が変化している。1996年には、インターネットやデジタル複写の普及に対応して、WCT、WPPTが採択されており、加盟各国の判断により利用可能化権、技術的手段、権利管理情報に関する国内での措置等を講じることとなっている。特に最近はP2P技術(脚注1)や著作権管理技術(DRM)(脚注2)など新たなデジタル技術が出現しており、個人や企業の著作物の利用形態も大きく変化している。

 
脚注1 不特定多数のコンピュータを相互につないで、ファイルなどの情報のやり取りを行うインターネットの利用形態。またはそれを可能にするアプリケーションソフト。
脚注2 デジタルデータの著作権を保護する技術。複製の制限技術や画像ファイルの電子透かしなど。

   こうしたデジタル化による影響としては、財やサービスの提供がより円滑になる一方で、権利侵害を引き起こすおそれも生じる。このため、新たな取引や利用形態に対しては、契約、技術、法制度が一体となって権利侵害に対応することが必要であるが、法制度の対応については、関係者間の契約や技術によりどこまで合法的な活動が確保されるかによって、その在り方が変わってくる。

 P2P技術やDRMの在り方については、現在、WIPOや日米イニシアティブの場で検討が行われている。
 P2P技術は、仲介者、管理者の中央集約的な管理を要しない(ブローカレス)自律的なネットワークを構築する上で重要であるが、P2P技術を用いたファイル交換については、そのかなりの部分が著作権を有するコンテンツの利用(注1)であり、かつ世界的に行われており、権利者の許諾を得ないファイル交換に対する法的措置の在り方が大きな問題となっている。
 また、DRMは、事前に関係者間による契約、技術仕様等による取り決めを行い合法的なサービスの取引を行う上で重要な要素となっているが、コンテンツごとに様々なDRMが開発されており、標準化や相互運用化などの課題がある。両者はいずれもネットワーク上の取引に関わるものであり、密接に関連すると考えられる。

 
注1 OECD Information Technology Outlook 2004, Peer To Peer Networks In OECD Countries参照
「ファイル交換ソフトに関する調査報告書」(2004年6月)によればファイル交換掲載コンテンツのうち約92パーセントが著作物と推定される。

   こうした状況から、本小委員会では、将来の国際的な議論に備えて、近年のデジタル化に伴う新たな著作権の課題として、「ファイル交換とDRMへの対応の在り方」について、各国の産業界の実態や訴訟の状況等も参考にしながら、我が国の対応の在り方について検討を行った。

2.  著作権管理技術(DRM)について
 
(1) 現状認識
 
1  普及の状況
 デジタル・コンテンツは「品質の維持」と「効率的な伝達」というメリットがあるが、情報が傍受されるとデジタル・コンテンツの複製により甚大な被害を生じるデメリットも有する。このため、権利者やコンテンツ産業等の関係者は、セキュアなシステムを構築した上でサービスを提供することを目指すことになる。
 近年、合法的な取引を目指してDRMの開発、利用が急速に進んでいるが、その普及状況はデバイス、ネットワーク、放送など分野によって様々である。
 DVDなどのデバイス分野では、権利者が主体となって、技術仕様や関係者間の規約が定められており、技術仕様・レベルと併せて、従来製品とのコストの差異にも留意しながら、業界横断的な取組がなされている。
 ネットワーク分野では、一部違法と考えられるファイル交換が広まったことから合法的なネットワーク上の取引を行うことが難しい環境であった。しかしながら、近年、iPodや着メロのように適正な価格、操作性、セキュリティを考慮したシステムが構築されることにより、新たな市場が誕生してきている。
 放送分野については、我が国では、将来のデジタル放送に備えて、コンテンツのコピー制御を目的に、BCASを用いた暗号化システムが業界主導で構築された。一方、米国では、コピー制御を目的として連邦法に基づきTV受信機に基準適合義務が課せられている(ブロードキャストフラッグ)。
 また、DRMシステムを構築する上でメタデータや利用履歴データは不可欠な要素である。一方で、ユーザーのコンテンツの利用状況を把握することが可能となることから、メタデータ自体が新たなビジネスの構築の上で価値のある要素となるが、利用者のプライバシー保護の観点からの配慮も必要である。

2  要素技術の状況
 DRMの主たる目的は、価値のあるコンテンツが他者に渡ったり、無断で複製されることを防ぐことにある。このため、暗号化・暗号解除、コピーコントロール機能が付与されている。また、顧客管理の必要性から、顧客の認証、履歴の記録、課金機能が付加されるものもある。さらに、違法行為を事後的にとらえられるよう、電子透かしなど権利管理情報に係る機能も対象になる場合もある。

 このため、DRMの要素技術は、圧縮・解凍技術(情報の伝達速度を速める技術)、暗号化・複合化技術(情報傍受、改ざんを防止する技術)、電子透かし技術(許諾や課金を実現するための権利情報を管理する技術)、相互認証技術(なりすまし、否認を防止する技術)、利用制限技術(回数、日数などコンテンツの利用を制限する技術)、複製防止技術(コピーを禁止・回数制限する技術)、利用者監視技術(無許諾利用をとらえるために追跡調査する技術)など様々なものがある。

3  産業界の動向
 DRMについては、産業界がデジタルコンテンツの円滑な流通を目指して自主的な開発、生産を行っている。現状では、コンテンツの特性、権利者の意向、利用形態などから、映像、音楽、テキスト等のコンテンツ分野ごとに様々なDRMシステムが開発、利用されているが、今後、技術・システムの標準化、統合が進むと考えられる。特に、インターネット配信の分野では、MPEGを開発したグループ、WMRMを開発したMicrosoftグループ、iTUNESを進めているAppleグループなどが世界的な開発競争を行っており、今後、システムの統合や互換性の確保が課題となると考えられる。

4  米国におけるDRM規制の状況
 米国著作権法では、アクセスコントロールに関して、技術的保護手段の回避行為規制と回避機器規制が定められている。これらの法的措置は著作権保護の趣旨を超えて情報保護やコンテンツ事業者の保護を重視していると考える。昨年スカイリンク訴訟やレックスマーク訴訟で、権利者のアクセス回避規制の濫用が問題とされ、連邦控訴裁判所では権利者の主張は認められなかったが、今後も同様の権利濫用の問題が生じるおそれがある。
 アクセスコントロールに関して、我が国では、不正競争防止法によりアクセス回避に用いられる専用機器のみが規制されている。一方、米国では、著作権法により規制がなされているが、その規制の対象は明確ではない。また、リバースエンジニアリングや暗号化研究などが規制の例外として除外されているが、必ずしも明確ではない。
 このため、米国の利用者からは、権利者と利用者の利益のバランスを考慮してDRMの法的規制を見直すべきであるとの要望も挙がっていると言われる。

(2) 検討事項
 
1  総論
 デジタルコンテンツに対する過度の法的保護は、権利者と利用者の利益のバランスを失するおそれがある。また、DRMの標準化や機器規制等は将来の産業界の技術開発を妨げるおそれもある。今後、技術開発が進展する中で、DRMシステムの仕様について、関係者間の協議が進められることが期待されることから、現時点では、著作権制度においてDRMに関して新たな法的措置を講じることは慎重に検討することが必要である。
 その際、官民の役割分担の観点から、技術と契約で担保できる部分は、関係者の自主的な取組に委ね、技術や契約では賄えない、たとえば違法行為を取り締まる必要性などがあれば、具体的な法的措置について検討する必要があるのではないか。

2  著作権制度に関する課題
 今後、DRMを用いたネットワーク上のコンテンツの取引がさらに盛んになることが想定される。権利者やコンテンツ産業などの関係者は、技術や契約により、コンテンツが外部に流出しないよう、自ら対策を講じることが期待される。
 一方、デジタルコンテンツは一旦外部に流出すると重大な被害を生じるおそれがある。このため、諸外国におけるDRMに関連する法制度や訴訟等の状況を参考にしながら、以下のような我が国の現行法制度上の課題について、検討する必要があるのではないか。

  (著作権関連条約への加盟)
 現行著作権制度では、WCT等の著作権関連条約の合意により、加盟各国の判断により、技術的手段に関する措置、権利管理情報に関する措置を講じることとされている。DRMの保護を世界的に達成していくために、WCT等の著作権関連条約への各国の加盟の促進に努めることが重要ではないか。

(裁判管轄と準拠法)
 DRM技術の普及は、国境を越えたネットワーク上の取引を増大させることになるが、技術的保護手段の回避について、どの国の法律を適用するか等が問題となる。国際的議論の方向や我が国国内の「国際私法の現代化について」等の検討状況を参考にしながら、我が国における裁判管轄と準拠法の問題を検討していく必要があるのではないか。

(標準化、互換性における政府の役割)
 DRM技術の普及に当たって、国際的な規格の標準化や相互運用性の確保といった問題が顕在化している。DRMの在り方はコンテンツの性質、利用形態によって様々であることから、DRMの技術や契約については、権利者や産業界など関係者間で検討されることが望ましい。産業界においては、こうした問題について自主的な取組を行っており、産業間連携が進んでいるので、当面、政府としては、産業界の自主的な取組を尊重することが適当と考える。しかし、産業界の自主的な取組によりDRM技術・システムが向上し、市場の寡占化が進めば、市場へのアクセスが制限されるおそれも生じる。その場合、市場へのアクセスを確保する観点から、技術の標準化や相互運用性の確保について政府として何らかの関わりが必要か。

(DRMによる保護と制限規定との関係)
 法制度上、例外的に権利制限されている行為でさえも、DRMによる保護措置により、技術的に使用が制限されてしまったり、パブリックドメインとなっている著作物についても、自由に使用できなくなってしまうおそれがある。今後、利用者の利便性を阻害することがないようDRMの制度設計を行う必要があるのではないか。

(アクセスコントロール)
 米国においては、アクセスコントロールにかかる規定について、定期的に見直しを行っているが、利用者からは様々な問題が指摘されていると言われている。アクセスコントロールについて著作権法上の取り扱いについては、議論があるところである。今後、暗号化されたコンテンツを無断で傍受する行為に対する法的措置のあり方を検討することが求められる。本措置は必ずしも著作権制度の趣旨には合わないとも考えられるが、アクセスコントロールに対する法的措置の必要性、許容性をどのように考えるべきか。

(DRMと私的録音録画補償金制度)
 先進国を中心に導入されている「私的録音録画補償金制度」は、デジタル機器・媒体が普及し、私的複製が増えることにより生ずる「権利者の経済的損失」を補償するための制度である。将来的には、DRMの普及により、権利者の意向で具体的なコンテンツの利用行為を管理することができるようになれば、「私的録音録画補償金制度」のあり方についても検討が必要となるのではないか。


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