ファイル交換について
1.ファイル交換とは |
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インターネットを介して不特定多数のコンピュータ間でファイルを交換する行為をいう。技術的には、中央サーバーを設置して、ユーザーの情報やファイルリストを中央サーバーが行い、ファイルの転送のみを利用者間で行う「中央管理型」と中央サーバーを設置せずに全ての情報がバケツリレー式に利用者間を流通する「非中央管理型」がある。
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2.現状認識
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ファイル交換の状況については、90年代後半、アメリカでナップスターが利用された以降、世界中に広まる。当初は、ナップスター(アメリカ)、ファイルローグ(日本)、ソリバダ(韓国)など中央管理型が主流だったが、その後、カザー(アメリカ、オランダ、オーストラリア、カナダ)、グヌーテラ(アメリカ)、モーファイス(アメリカ、カナダ)等の非中央管理型が普及してきており、匿名性や機能性も高まっている。
ファイル交換の特徴としては、クライアントとサーバーの機能的分化により、情報処理や伝達の最適化が図られる一方、匿名性のあるコンテンツの取引のため、著作権の許諾を得ずにファイル掲載することにより、著作権侵害の問題が生じるおそれがある。
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「直接的な侵害」への対応
ファイル交換が盛んになるとともに、先進国を中心としたファイル交換に係る著作権侵害訴訟が提起されている(参考資料参照)。訴訟の形態は民事訴訟が主であるが、ファイル交換のユーザーを被告とする「直接的な侵害」訴訟とファイル交換システムの提供者を被告とする「間接的な侵害」訴訟が挙げられる。
「直接的な侵害」については、ファイルを提供する行為がアップロード行為に当たることから、WCT、WPPTで合意された「利用可能化権」の適用が考えられる。日本、ドイツ等では、ファイル交換の「直接的な侵害」に対しては、利用可能化権が適用されている。一方、利用可能化権を規定していないアメリカ等では、頒布権、複製権等他の支分権が適用されている。また、カナダでは、著作権法に「利用可能化権」が規定されておらず、ファイル交換行為が「私的使用」として権利侵害に当たらないと判断された判例もある。
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ダウンロード行為の違法性
ファイル交換はファイルのアップロード行為とダウンロード行為から成り立つ。我が国では、アップロード行為をとらえて「利用可能化権」を適用することができるが、ダウンロード行為は「私的使用」として権利制限されている。一方、アメリカは、損害額の多寡に応じて、ダウンロード行為についても「フェアユース」の適用により、「複製権」侵害とすることができる。また、ドイツでは、2003年に「ダウンロードを行う場合、違法サイトであることにつき、利用者が悪意である場合には、私的複製行為は違法行為として扱われる」とする著作権法改正を行った。
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「間接的な侵害」への対応
「間接的な侵害」の認定については、各国によって法制度、適用要件が異なる。例えば、アメリカでは、「寄与侵害」や「代位侵害」責任が判例法で認められており、適用要件も訴訟で示されている。近年、ファイル交換システムが「中央管理型」から「非中央管理型」に変化するに従い、システム提供者の「管理可能性」の認定が難しく、「間接的な侵害」責任が認められない判例も生じている(グロックスター事件連邦控訴審判決)。我が国でも、「自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招くこと」として「侵害行為」をとらえている(ファイルローグ事件控訴審判決)が、ファイル交換システムの変化に伴い、「間接的な侵害」責任に関する同様の課題を有する。オランダでも、「非中央管理型」のファイル交換の提供者に対して、侵害責任がないとする判例が示されている(オランダ カザー事件最高裁判決)。また、ファイル交換に関する訴訟上の請求の内容として、損害賠償請求や差止請求が考えられるが、各国の実体法、訴訟法の体系により取扱も異なる。
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原告の挙証責任
ファイル交換は匿名性が高く、また、実際に発生した侵害額の挙証が難しい。我が国では、損害額の挙証責任の軽減の観点から、「損害額の推定」や「相当な損害額の認定」の制度を設けている。一方、アメリカでは、「法定損害賠償制度」を設けており、原告は侵害発生を挙証すれば、原告の選択により、「実額損害賠償制度」と「法定損害賠償制度」を選択することができる。「法定損害賠償制度」を選択すれば、損害額として法定金額(著作物当たり750ドル〜30,000ドル)が認定される。また、カナダでも、同様に「法定損害賠償制度」を設けており、法定損害金額(著作物当たり500カナダドル〜20,000カナダドル)が認められる。
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3.検討事項
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ネットワーク取引への対応の在り方
現在のネットワークの取引には、違法なコンテンツも含まれるファイル交換とDRM等を用いた合法の取引が含まれる。今後、適正な市場環境が整備されるためには、技術、契約、法制度が一体となった取組が求められる。ファイル交換については、違法行為を抑制しつつ、違法行為に対して適切に法的救済措置が図られるよう、法的措置も含めた環境整備が求められるのではないか。
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P2P技術とファイル交換の区分
P2P技術は、ファイル交換に用いられているが、複数のコンピュータ間の分散処理や複数のデータベース間の並列検索など民生用途にも用いられる。将来、ネットワーク技術の開発や民生用途の活動が阻害されることがないよう、民生用途のP2P技術の開発と違法のファイル交換行為への方策を区分してとらえるべきではないか。
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ファイル交換への対応の在り方
ファイル交換への対応については、侵害行為の捉え方によって、著作権制度の範疇にとどまらず、民事法など各国法体系全般の趣旨も踏まえながら、対応することが求められるのではないか。我が国においても、各国の動向も踏まえつつ、民事法など我が国の法体系との整合性を考慮しながら、侵害行為に対して適切に権利行使がなされるよう、法的措置の在り方を検討する必要があるのではないか。
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(2) 我が国の課題と国際的な議論への対応の在り方 |
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各国のファイル交換に関する利用状況や法制度の状況に鑑み、以下の点について、我が国としてどのような課題を有し、また、WIPOやTRIPS等の多国間協議、APEC(エイペック)等の地域間協議、日米等の二国間協議の場でファイル交換について議論がなされた場合に我が国としてはいかなる対応をすべきか。
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侵害行為の捉え方
ファイル交換に関する「侵害行為」をどのようにとらえるべきか。「直接的な侵害行為」として、無許諾の著作物のファイル交換を行う行為や、「間接的な侵害行為」として、ファイル交換システムを提供する行為が考えられるが、「侵害行為」の範囲をどのようにとらえるべきか。
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「直接的な侵害」への対応の在り方
無許諾の著作物をファイル交換に用いる「直接的な侵害」に対してはどのような法的措置が考えられるか。現行著作権法では、「利用可能化権」の適用が考えられるが、これで必要十分といえるか。ファイル交換の高度化により、例えば、アップロード行為とダウンロード行為が分離して行われる場合、現行制度で十分な対応が可能か。
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ダウンロード行為の違法性
デジタル化・ネットワーク化に伴い、私的使用が適用される場面が増える傾向にある。現行制度において、私的使用と見なされている「ダウンロード行為」の法的位置づけについても見直す必要があるのか。
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「間接的な侵害」への対応の在り方
各国において、ファイル交換システムを提供する者の法的責任の在り方について検討がなされている。ファイル交換システムの提供の「間接的な侵害」については、著作権制度の範疇にとどまらず、民事法など各国法体系を踏まえた対応が求められる。ファイル交換の匿名性が高まり、また、管理可能性が低下する中で、我が国は現行制度において、「間接的な侵害」に対して、どのような法的措置を講じるべきか、また、新たな法的措置を講じる必要があるのか。さらに、損害賠償請求や差止請求など訴訟上の請求に分けて検討する必要があるのか。
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原告の挙証責任の在り方
ネットワークでの侵害の実態を把握することが難しくなっており、権利者の挙証責任を軽減する観点から、さらなる方策を検討する必要があるのか。具体的には、さらなる「損害額の推定」制度が考えられるか。また、一部の国で導入されている「法定損害賠償制度」については、「実損額を補填する」制度と異なることから慎重な対応が求められるが、どのように考えるべきか。
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国境を越えた侵害行為への対応の在り方
ファイル交換はインターネットを通じて国境を超えた侵害を引き起こすおそれがある。その際、適用される法律はどのようになるのか、準拠法の問題が考えられる。例えば、A国からB国に他人の著作物が無断で公衆送信された場合にどの国の法律を適用すべきか。不法行為に対しては、法例第11条で「不法行為地法主義」が採られているが、不法行為地についても「加害行為地説」と「結果発生地説」が考えられる。今後、著作権の侵害行為についてどのように対応すべきか。
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国内の啓蒙普及策の在り方
違法なファイル交換が行われる理由としては、使い勝手の良さだけではなく、違法行為の意識が低いことが考えられる。ファイル交換の利用者の大部分は若年層で占められている(注2)が、上記の法的措置と合わせて利用者に対していかなる啓蒙普及活動が効果的か。その際には、官民の役割分担にも留意しながら検討する必要があるのではないか。
(注2) |
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「ファイル交換ソフトに関する調査報告書」(2004年6月)によればファイル交換の経験率は男女とも20代が最も高い。 |
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海外への啓蒙普及策の在り方
今後、FTAやEPA等の機会を通じて、アジア諸国等との対話が進められる。ファイル交換は国境を越えた活動であり、我が国の著作物を保護する観点からも、アジア諸国の著作権関係者に対して、どのような啓蒙普及活動を行っていくべきか。 |
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