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4    フォークロアの保護について

   「フォークロア」とは、地域固有の共同体において確認されない人々によって代々創作、保存、開発された一国の文化遺産に属する著作物を意味する。1982年にWIPO・UNESCO共同で作成された「不法利用及びその他の侵害行為からフォーロアの表現を保護する国内立法のためのモデル規定」(以下「モデル規定」という。)によると、無形のものとして、民話、フォークソング、フォークダンス、演劇、儀式等が、有形のものとして描画、絵画、彫刻、彫像、楽器等が例示として挙げられている。
   フォークロア等の保護の問題は近年ますます注目を集めている。途上国からの条約制定への強い要請もあり、WIPOでの議論も進展することが予想される。

(1)WIPO政府間委員会におけるこれまでの議論について

   2001年4月、ジュネーブにおいて第1回WIPO遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会(IGC)が開催された。我が国は、総論として「伝統的知識に関しては中身や所有者の定義を明確化する必要があり、事例収集や既存制度の適用関係の検討が先決である。フォークロアについても各国の事例収集に基づく専門的議論を期待する」と主張した。また、フォークロアに関する活動計画について、「まずモデル規定を採用している国の履行に関する事例、保護の効果、実行上の問題点のとりまとめと分析から始めるべきであり、その際、ユネスコにおける無形文化財の保護に関する最近の動向も考慮すべきである」と主張した。

   同年12月、同地にて第2回IGCが開催された。主に途上国の取組についての情報提供等がなされ、フォークロアの保護について各国の現状調査に基づいた報告書が作成された。

   2003年7月に開催された第5回IGCにおいては、IGCの今後の展開について議論がなされた。「条約等、法的拘束力のある取り決めを目指して関係国で検討する」旨合意したい途上国と、「本件は知的財産の観点から専門的かつ実質的な議論を行うべきであり、既存の知的財産制度の保護水準を引き下げることに繋がる拙速なルールメイキング(条約作成等)を行う旨合意するべきではない」と主張する先進国が対立し、委員会としての結論を得ることができなかった。

   そして、同年9月のWIPO一般総会で、IGCの今後の展開について議論が行われた。各グループ代表による非公式の検討が進められ、最終的には、今後の取組のあり方として、「引き続き、調査・研究を進める。その際には、将来の国際的な枠組(international instruments)の可能性も排除しない」旨の合意がなされた。

(2)我が国の今後の対応について

   我が国の本件に対する方針は、「フォークロアも知的財産として、専門的かつ実質的な議論を行う。このため、IGCにおける基本的な議論をまず活性化する。まずは、フォークロア等の保護に関するガイドラインへと発展させるための基礎とすべく、WIPOにおいて政策オプションを作成するなどの具体的目標を設定することが求められる」というもの。我が国においても、具体的な課題として、「以前から存在していた文化遺産や伝統文化」と「現在において創作された文学や芸術作品」との区別・定義のあり方、異なる地域において同じフォークロアを有する場合の取扱等について、検討を進める必要がある。



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