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資料5−1


著作権分科会報告用レジュメ

駒田泰土(こまだやすと:群馬大学)


1.はじめに

属地主義は、結局のところ「特権付与という当初の原則(das ursprungliche Prinzip der Privilegierung)」1に由来しており、それが「無反省に(unreflektiert)“書き続けられる”」2ことで現代に存続している、などといわれている→実に怪しい。

インターネット時代に属地主義は維持できるのか→「難しくなった」3、「無効化した」4と考える見解vs.当然に妥当すると考える見解

2.抵触法の基礎理論

知的財産権について抵触法的考察――とくに法の地域的適用範囲(以下、単に「適用範囲」)に焦点を当てた考察――を行うにあたり、抵触法の基本枠組から考えていくことの必要性5

抵触法は何を対象とするか
1「法規」→法規的アプローチ:ある国の法をその領域を越えてどこまで適用できるかという観点から、その適用範囲を画定していく。権利・義務の内容を定める事項規定と適用範囲画定規定を明確に区別しない傾向。



2「法律関係」→サヴィニー型アプローチ:事項規定と適用範囲画定規定を明確に区別する。ある法律関係についてどの国の法がもっとも密接な関係を有し、その適用が妥当かという観点から法の選択を行う(法選択の基準=「連結点」)。各国法中の適用範囲画定規定は、原則として無視される。



抵触法的規律を行うのはどの国か
1内外すべての国の法律について法廷地抵触法→双方主義
2各国の法律についてそれぞれの国の抵触法→一方主義

法規的アプローチは一方主義に傾斜し、サヴィニー型アプローチは双方主義に傾斜する。
法規的アプローチは、ある事実に適用可能な法規を複数認めることになりやすい。
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サヴィニー型アプローチでは、通常、適用法規は一つに絞り込まれる。

抵触法上の「公法」=公権力性の高い法、規律内容の実現に対して国家が極めて強い関心を寄せる法7 →外国法の適用が通常問題にならない。法規的アプローチかつ結果的に一方主義。
各国の国際私法においては、サヴィニー型アプローチをとり、かつ双方主義をとるものが多い(わが国の「法例」も同様)。
国際私法における法規的アプローチ(かつ一方主義)の可能性は、強行法規の特別連結論という場面で検討されることが多いが、それ以外の場面でも(少数説により)主張されることがないわけではない。

3.属地主義はいかなる抵触法ルールであるのか

属地主義とは→「権利効力の領域限定」を核心的命題とする原則(特許権について、BBS特許製品並行輸入事件及びカードリーダ事件両最高裁判決8

「権利効力の領域限定」とは?:実質法上の原則9 ?←批判10 。単純に域外適用否定の法理(抵触法ルール)と考えるとすっきりする。

各国の知的財産法について域外適用否定→法規的アプローチに立つ双方主義的な抵触法ルール?



属地主義の根拠は何か?:知的財産権と産業政策・文化政策との密接な関係?「公法」?知的財産条約?←知的財産権に属地主義が妥当するというのは、目下のところ「そうしたほうがよさそうだ」というくらいのニュアンス。
利用行為地法主義は属地主義ではない←「利用行為地」という連結点の解釈しだいで、各国法上の知的財産権の効力がその領域を越えて及ぶことも考えられる(サヴィニー型アプローチに、「属地主義」という発想はなじまない)。

4.属地主義をインターネットにも適用することの問題性

属地主義は本当に「そうしたほうがよさそう」な法政策か?:インターネット時代には弊害を生むのではないか。
1発信国がcopyright haven(最近はcopyright heavenとも)の場合←日本法の解釈・法改正による対応では十分ではない。
2送信可能化権の空洞化
3BBS事件及びカードリーダ事件両最高裁判決は、著作権については沈黙している。円谷プロ事件最高裁判決11 からも直ちに属地主義を導けるかは疑問。
4著作権分科会の審議経過報告(平成15年1月)は、ベルヌ条約が「保護国法主義」という「準拠法選択ルール」(サヴィニー型アプローチ)を採用していると明記 12

ベルヌ条約5条2項を「準拠法選択ルール」と解すると……各同盟国著作権法の適用範囲を決めるのは同項の規定であって、各同盟国著作権法の規定ではない13 。「保護国」を受信国と解するならば、必然的に権利効力の領域限定命題は否定されうる14

5.ひとまずの結論




1 K. Zweigert / H. -J. Puttfarken, “Zum Kollisionsrecht der Leistungsshutzrechte”, GRUR Int. 1973, S. 574.
2 Ibid.
3 2001年1月30日及び31日にWIPOで開催された国際私法に関するシンポジウム用に国際事務局が配布したバックグラウンドペーパー参照(available at: http://www.wipo.int/pil-forum/en/)。
4 F. Dessemontet, “Internet, la propriete intellectuelle et le droit international prive”, in K. Boele-Woelki and C. Kessedjian (ed.), INTERNET WHICH COURT DECIDES? WHICH LAW APPLIES? QUEL TRIBUNAL DECIDE? QUEL DROIT S’APPLIQUE?, 1998, p. 60.
5 早川吉尚「国際知的財産法の解釈論的基盤」立教法学58号188頁、とくに208頁以下(2001年)参照。
6 佐藤やよひ『ゼミナール国際私法』[法学書院・1998年]8頁。
7 道垣内正人『ポイント国際私法総論』[有斐閣・1999年]71頁、早川・前掲(注5)193頁。
8 最判平9・9・7民集51巻6号2299頁、最判平14・9・26民集56巻7号1551頁。
9 高部眞規子・判批[最判平14・9・26]L&T19号85頁(2003年)及び茶園成樹「知的財産権侵害事件の準拠法―カードリーダー事件判決を中心として―」(第108回国際私法学会報告レジュメ)1頁(2003年)。
10 出口耕自「国際知的財産権侵害と法例11条2項―外国特許権の侵害に基づく損害賠償請求―」(第108回国際私法学会報告レジュメ)1頁(2003年)。
11 最判平13・6・8民集55巻4号727頁。
12 40頁。
13 ベルヌ条約5条2項が著作権(あるいは著作権侵害)の準拠法を定めているとしながらも、同盟国著作権法中の事項規定の解釈によりその適用範囲を論じている見解も見受けられる。ここには混乱があるように思う。
14 保護国を「受信国」と解すると、発信国での公衆送信行為に別の国(受信国)の著作権の効力が及びうることになるが、法的評価の上では、この場合、複数の著作権侵害行為が存在し、各国で生じた損害についてそれぞれの法律を適用して判断していくという構造になるように思う。これは一般の不法行為でもいわゆる「並列型」のそれについて説かれる構造である。道垣内正人『ポイント国際私法各論』[有斐閣・2000年]245-254頁。

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