資料8 |
インターネット時代の著作権を巡る国際私法上の課題
1.準拠法の問題 |
(1) | 問題の所在 インターネットの普及により著作物が国境を超えて、容易に、瞬時に、大量に、全世界的な範囲で流通するようになったことに伴い、今後、インターネット上の著作権侵害が増大することが予想されている。現行著作権法制度においては、複製権のように「結果」に着目した保護と公衆伝達系の権利のように「行為」に着目した保護の両方を付与している。インターネット上の著作権侵害においては、加害行為地と損害(結果)発生地が異なることが一般的であり、かつ、損害発生地も全世界に及ぶ可能性がある。このため、「行為」「結果」に着目した場合においては、侵害情報をアップロードしたサーバーの所在地、当該サーバーに向けての侵害情報の送信地、侵害情報が提供され現実に権利者の利益が侵害されている地(世界各国)のいずれかの地の準拠法が選択されることとなる。しかしながら、既存の準拠法決定ルールは、インターネットの特性を念頭においた制度ではないことから、このような場合において明確な準拠法選択の基準を提供していない。 |
(2) | 現状
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(3) | 国際的な議論の流れ インターネット上の著作権侵害のように侵害の「行為」と「結果」が国境をまたがるような権利侵害に係る準拠法の問題は、主として、「発信国法主義」、「受信国法主義」等の考え方が関わる問題であるとして国際的な議論が進められている。
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(4) | 検討事項
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2.国際裁判管轄の問題 |
(1) | 問題の所在 インターネット上の著作権侵害の場合、準拠法の問題と同時に、どの国の裁判所で裁判を行うかという国際裁判管轄の問題も生じる。現在、国際裁判管轄についての世界的なルールは存在していないことから、インターネット上の著作権侵害が生じた場合、権利者はいずれの国において訴訟を提起すべきかについては不明確な状態となっている。 |
(2) | 現状
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(3) | 国際的な議論の流れ 現在、WIPO、ハーグ国際私法会議等のフォーラムにおいて国際裁判管轄についての議論が行われてきている。これらの場においては、以下の考え方が提示されている。
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(4) | 検討事項
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「衛星放送」についての考え方
○ | ボグシュ理論 【概要】 衛星放送など国境を越える著作物の放送に対して、どの国の著作権法を適用すべきかという問題について、発信国法を適用すべきとする通説に対して、受信国法を適用すべきとして、1985年から1986年にかけてボグシュ前WIPO事務局長が唱えた理論。 ベルヌ条約第11条の2が「発信」ではなく「公衆への伝達」という概念を用いていることから、衛星放送については衛星の「フットプリント」によってカバーされる全ての国において公衆への伝達が行われていることになり、それぞれの国の著作権法(受信国法)が適用されるべきとしている。 |
○ | EUダイレクティブ(1993年衛星放送・ケーブル再送信に関する指令)
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第1条2項 (b)衛星による公衆への伝達行為は、放送機関の管理と責任の下で、地上から衛星に向けての及び衛星から地上に向けての間断なき情報伝達の連鎖の中に、番組伝送信号が導入される加盟国において専ら行われるものとする。 |
国際裁判管轄に関する最高裁判例
○ | マレーシア航空事件(最判昭56.10.16) 【事件の概要】 同事件は、1977年、ペナン発クアラルンプール行きのマレーシア航空機の墜落事故によって死亡した日本人の遺族が、日本国内の裁判所に同航空会社を訴えたものである。 同航空会社はマレーシア法に基づいて設立され、同国内に主たる事務所を有する。日本人遺族は、当該マレーシア航空会社に対し、同国内の旅客運送契約上の債務不履行を理由とする損害賠償請求訴訟を起こした。 【判決要旨】
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○ | ドイツ自動車預金信託事件(最判平9.11.11) 【事件の概要】 ドイツから自動車等を輸入している日本人Aが、ドイツに居住する日本人Bに対して、自動車の買い付け、預託金の管理、代金の支払い等を内容とする業務を委託する契約を結んだ(契約において、債務履行地や準拠法についての規定はなかった)。その後AはBの預託金管理に不安を感じ、返還を求めたところ、Bがこれに応じなかったため、Aは日本国の裁判所にBに対する債務返還訴訟を起こした。 【判決要旨】
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○ | 円谷プロ事件(最判平13.06.08) 【事件の概要】 タイ在住のタイ人Yは、「ウルトラマン」等のテレビ映画について日本法人Xから独占的利用許諾を受けていると主張して、Xから別途許諾を受けている訴外Aを刑事告訴した。そこで、 ![]() ![]() 【判決要旨】
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準拠法及び国際裁判管轄に係る検討の状況
《WIPO》
1998年12月 | : | WIPO国際私法専門家会合 当初からレポートの採択は予定せず、その成果はあくまでもWIPO事務局の将来の活動に役立てられるという前提で開催。準拠法を中心にベルヌ条約の規定からどこまで読み取れるかという解釈論及び将来に向けて望ましいと考えられる立法論について議論された。 |
2001年 1月 | : | 国際私法及び知的所有権に関するWIPOフォーラム 総合的見地から改めて国際私法問題を考察するために開催。 「準拠法、裁判管轄権及び執行」「電子商取引:国際私法について生じつつある問題とADRの果たすべき役割」「現在進展中の国際的な取り組み」といったテーマに沿って、報告及び議論がなされた。 |
《ヘーグ国際私法会議》
1999年10月 | : | 特別委員会において「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約」準備草案を採択 | |||||||||||
2000年 5月 | : | 一般問題特別委員会において、同条約の採択を目的とする外交会議を二回に分け、第一回目の会議を2001年6月に、第2回目の会議を2001年末又は2002年初頭に開催して、最終的に内容を確定し、採択することを決定 | |||||||||||
2001年 2月 | : | ジュネーブにおいて知的所有権に関する専門家会合を開催 | |||||||||||
2001年 2月 | : | カナダ・オタワにおいて非公式会合を開催 (電子取引・知的所有権の観点からの問題を含めて具体的に検討) |
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2001年 4月 | : | 英国・エジンバラにおいて非公式会合を開催 | |||||||||||
2001年 6月 | : | 第1回外交会議 (コンセンサスは形成されず、今後の外交会議の開催については未定) |
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2002年 4月 | : | 第一委員会を開催 (条約に関する今後の作業の進め方等についての審議)
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ファイル交換サービスに係る著作権侵害訴訟と裁判管轄について