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文化審議会

2001/11/02 議事録
文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)議事要旨

文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)議事要旨

平成13年11月2日(金)
14:00〜16:00
三田共用会議所大会議室C・D・E

出席者
委 員 齊藤主査、井上委員、大山委員、児玉委員、大楽委員、道垣内委員、中村委員、山口委員、山本委員、北川会長
事務局 天野審議官、村田国際課長、岡本著作権課長、その他の担当官

1. 開会

2. 文化庁出席者の変更について
事務局の異動について報告があった。

3. 議事

(1)第36回WIPO一般総会について
 事務局から資料に基づき説明があった後、各委員により以下のような意見交換が行われた。

(○:委員 △:事務局)

 視聴覚的実演条約に関しては、どこかの国が推進役にならないと議論が進展しないような印象を持っているが日本はリーダーシップをとるつもりはあるのか。

 本件については、実演家の権利移転の規定をめぐり、フランスを中心とするEUと米国との対立が厳しく、第三者がどのように係わっていくか難しいところがある。日本はWIPO総会の前に、EU及び米国の代表者に視聴覚的実演条約実現の必要性を話し、何らかの打開策を検討すべきではないかとの働きかけを行った。先日マニラで放送条約関係の会議があり、そこに参加していたEU、米国の代表と話したところでは、総会の直後ということもあり、まだ本件に関する話し合いは持っていないということであった。いずれにしても11月には第6回WIPO著作権等常設委員会が予定されており、そのような場で何らかの打開策が生み出せないか各国の参加者と意見交換をして、探っていきたいと考えている。

 知的所有権と遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間委員会におけるフォークロアの議論については、具体的な検討の方向性が示されなかったとの報告であるが、本政府間委員会での議論の中心はフォークロアよりも遺伝資源だったのか。

 フォークロアについては本年4月末に政府間委員会会合があり、そこでは遺伝資源、伝統的知識、フォークロアの3つのテーマごとに議論が行われた。その時の状況としては、経済的な問題と直結して、特に途上国の関心が高い事項というのは遺伝資源や伝統的知識であり、フォークロアについてはフォークロアのイクスプレッションという表現の中に伝統工芸品が含まれるのかどうか確認するという形で、フォークロアのイクスプレッションの中でもそのように製品化されるものについての関心が高かったという印象を受けた。総会においては、どこに比重があるかというような深い議論はなく、全般的にこの3つをそろえて重要性を途上国が指摘したというレベルにとどまったと理解している。

(2)ハーグ国際私法会議第1回外交会議について
 配付資料にある「ホワイトリスト」とはどういうものか。

 配付資料の参考に条約草案の特性として「ホワイトリスト」の解説を載せている。「ホワイトリスト」に該当する条約案第3条から第16条は、裁判管轄を認める義務が締約国に生じるということである。そして、この管轄に基づいて他の締約国の裁判所が下した判決については承認執行を行う義務が生じるというものである。他方、「ブラックリスト」とは、裁判管轄を認めてはならず、かつ仮にその管轄原因に基づく判決が下された場合は承認執行を拒否する義務が締約国に生じるということである。

 補足的に説明を行いたい。この条約の特徴はホワイトリストとブラックリストとの間に条約による規律を受けず、各国法に委ねられるグレイエリアを残しておくというところにある。最大の対立は、一定の要件のもとにactivity-based管轄をホワイトリストに加えるかどうかと活動に関係しない事件についてまで管轄を認める普通裁判轄とし、このactivity-based管轄をブラックリストに入れるか否かというところにある。被告の活動に着目して直接生じている請求権に限ってホワイトリストに加えることを主張しているのが米国であり、日本はこの点は受け入れられると思うがEUはそうはいかないと主張している。他方、普通裁判轄としてのactivity-based管轄、いわゆるdoing business管轄については、日本、EUとも過剰管轄であるとしており、米国と対立している。
 著作権については、本条約上の適用除外にするか、それとも条約の対象として何らかの制限を加えるか、または10条及び12条から除外するかの選択が考えられる。どのように違うかというと、全て適用除外とすると現状と全く同じ、なんのメリットもデメリットもないと言うことである。条約の適用の範囲内に入れておいて、いくつかの条文に取り上げるとすると、例えば被告の普通裁判籍で行われた裁判は著作権の事件でも承認執行義務が生じるので、条約上にのってくる。難しいのは不法行為の損害発生地の管轄をどうするか、インターネットの場合はどうなるかというところだが、ここはホワイトリストには入れず、グレイエリアとして各国がそれぞれ対応すればよいという調整ができる。こうして条約条文をどれぐらい小さくすればコンセンサスを得られるかというのが現在の問題であり、全体の動きとして先回会合では、各国が言いたいことを全部言ったため極めて大きな条文になってしまい、これをどうやって小さな条文にしていくか課題となっている。難しいところはとりあえずグレイエリアに落として、今後ホワイトリスト、ブラックリストを増やしていけばいいと考える。とりあえずは、控えめな条約にしたらどうかということを多くの国が考えているが、どれくらいの小ささにするかについて意見が分かれている。米国は、国内的にいろいろな意見が出すぎて、著作権や特許の問題については業界ごとに意見が違うため、米国の立場は言えない状況になっており、合意管轄だけの条約にしたらどうかとまで言っている。しかし他の国からみるとそれでは全く意味がないことであり、doing businessに関して何も決めないとなると合意管轄については現状不都合はないので、米国の企業が全て米国の裁判所で裁判を行うとの合意管轄条項を置かせるだけではないかとの反発がある。他方ヨーロッパは、EUの影響力が強くなってきており、国際私法についての条約交渉権限まで欧州委員会に移ってきているが、本条約の検討はそうした状況になる以前から行ってきたので、特別の扱いをするということになっているようである。しかし、EUとしては加盟15ヶ国のコンセンサスを得なければならないので、各国が合意しているラインまでしか主張できない状況である。EU加盟国の中には、米国を本条約の締結国とするために譲歩してもいいと考えているところもあるようだが、そうはいかないとの声が多い。現在得ている情報では、EUは米国抜きでも条約作りを行ってはどうかということまで考えているようである。日本はまだそこまで検討されていない。本条約に関しては、今後数ヶ月の内に方向を決める会合を控えて、現在各国が非公式にバイで会合を持っているところである。最後は米国をとるかそれ以外の国をとるかということを迫られるのではないかと考える。その際に、本国際小委員会としては、著作権を条約の対象とすべきか否かを議論して方向を示してほしいと思う。

 欠陥商品の責任に関する不法行為地の解釈には、商品を作ったところと、事故が起きたところと2説あるようだが、本条約10条の議論は、そうした以前からある議論とどう違うのか。なぜインターネットの話が特出されるのか。法律的には飛行機事故などの際の不法行為地の解釈と同じなのではないか。

 現在の10条では、加害行為地と損害発生地と両方に管轄があると書かれており、それは製造物責任を念頭において議論して、それでよいということになっている。有体物であれば市場があり、そこで事故でおきれば保険もかけられるし、事故を起こしてしまったらそこで訴えられても仕方がないであろうということになる。しかし、インターネットを通じた著作権侵害や名誉毀損については、一般の市民が世界中で損害を与えるかもしれない。故意に行う場合はともかく、まともなビジネスをやってるつもりだったのに、商標や著作権侵害であると思ってもみない国の当事者から提訴された場合は、そのビジネスをやっている人に多大な負担を強いるということとなりよくないのではないかという事である。解決策については、必ずしもあるわけではない。不法行為地の考え方を条文から削除すればいいかというとグレイエリアになるだけであり、そうなると損害を与えた国で訴訟を起こされても止めようがなくなる。

 日本としては、将来この問題についてどのように対応していくのかということの判断を迫られる事となるので、ある時期に論点の整理を出していただければ幸いである。

(3)著作権にかかる日米間の対話について
 米国の要望事項の中に「一時的複製」の禁止の明確化というのがあるが、米国が意図しているところは何か。

 本件は昨年度の日米規制緩和対話でも米国からの要望に含まれていいた事項である。米国の基本的な考え方としては、過去の著作権審議会時代の古い報告書による、ラムへの蓄積というものは、瞬間的、一時的な性格なものなのでこれについては複製権で保護するものとして該当しないというような解釈を踏まえ、日本ではラムへの蓄積は複製権の対象外なのではないかという事である。最近の技術の発展に伴ってラムに経常的にプログラムが蓄積され、実体的に複製とみなしても仕方がないようなケースも生じているわけで、日本の解釈というものを変えて、基本的にはそのような複製についても権利の対象とすべきではないかということが米国の考え方である。これについては情報小委員会複製ワーキング・グループにおいて、米国のBSAから具体的にどのような問題について困っているのかについてのプレゼンテーションが行われた。それを踏まえて、今回複製ワーキング・グループ報告書が出されているが、その中では過去の審議会報告書の考え方を若干修正するような記述があると認識している。

 この問題は以前にユネスコの会合で話し合われた。その際、一時的複製は複製ではないとしていたのは日本だけであり、少数意見であった。複製権の対象とし、制限をつけて権利のかからないものとすればよいと考える。

 以前は少数意見であったが、現在は孤立気味である。

 一時的、過渡的蓄積は複製にあたるということは共通の認識であるが、その一時的、過渡的の概念については、各国において異なることがあるということを確認した上で日本は最近の条約には賛成したという経緯があるので、そこの解釈の幅はまだ国際条約上も認められているという認識をもって交渉に望むつもりである。

(4)国際小委員会の審議経過のとりまとめについて
 準拠法及び国際裁判管轄に関する記述の冒頭で「インターネットを通じた」との限定が付されているが、インターネットを通じていなくとも現状では国際的な共通な理解はない。本記述を削除するか「特に」として強調するかした方が良い。さらに統一されたルールが存在しないという点に関し、準拠法については、ベルヌ条約のいくつかの規定にみられるのであるが、その解釈については統一されたルールがないと言うことである。一方、裁判管轄については元々ルールがないので、そういったことも踏まえた表現ぶりを工夫してほしい。もう一点は、次回の会合について「来年初頭に」としているが延期される可能性があり、「数ヶ月の内に」というような表現にしておいた方が良い。

 「インターネットを通じた」という箇所については削除し、「統一されたルールがない」という点については「解釈やルールがない」とし、「来年初頭」については「今後数ヶ月の内に」というような表現に変えたい。

 放送機関の保護に関する記述について、検討している委員会が本委員会とは違うと思うが、この点についてもう少し詳しく教えてほしい。また、我が国から提案した「放送機関に関する条約」案は入手できるのか。

 「放送機関に関する条約」案についてはWIPOホームページにのっている。放送機関については、著作権分科会の中の放送小委員会において基本的にはデジタル化・ネットワーク化に対応した新しい放送機関の権利の保護について議論が行われている。そこの中で、大きな議論となっているのは、放送前信号の取り扱いである。過去の考え方では、放送自体については、放送行為そのものを保護する事となっているが放送前信号については、大衆へ放送が送信されているわけではないので、基本的にはローマ条約上の保護される放送に該当しない。しかし、例えば、サッカーの中継所からキー局へ電波が送信される際、その電波がインターセプトされて別の形で放送に使われているというような実態があるので、そうした場合の保護の在り方をいかに考えていくのかということについて放送小委員会で議論していると承知している。その他、暗号解除権についても基本的には同様であり、現在の著作権法や国際条約上では技術的手段の回避に関する義務というものは規定されているが、その対象は条約上に規定されている権利の行使に関する場合とされており、暗号解除権は国際条約の中で規定されていないので、これについて改めて権利を付与するのかどうか検討が行われている。

 放送条約については、各国の利害の対立がみられると予想されるのか。

 現在、WIPO著作権等常設委員会に条約案が提出されているのは、スイスやアルゼンチン、日本であり、11月末に開かれる第6回会合ではEUより提案がなされる予定である。その他まだ米国が具体的な提案を行ってきていない状況であり、どういった事項が争点になるか現時点では予測が難しいが、これまで出ているところによると、放送前信号を著作隣接権の枠組みの中で保護するのかどうか、スクランブル放送を解除する事についての防止策を著作隣接権の枠組みの中で与えていくのかどうかということが問題となっている。さらに、放送の範囲として、有線放送を含めるか、ウェブキャスティングと言われるインターネット放送を保護の対象に加えていくかどうか今後の議論となると認識している

 「日米の著作権制度における課題」として、米国よりインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の法的責任の明確化という提案があるが、本件に関する法案が現在国会で審議中かと思うが、それは米国からの提案事項に応じたものなのか。また、著作権法以外の法的利益に関係してくるものを著作権法だけで対処すべきものなのか、あるいは今回のISPに関する法案のように一般的に名誉毀損やその他も全てカバーするような形で対処すべきものなのかという考え方の違いがあるかと思うが、米国から要望されているのは著作権法で対処すべきというものなのか。

 現在開催されている国会に、ISPに関する法案が提出されている。本件については、前回の日米規制緩和対話でも米国より指摘されているのだが、前回については、早急にきちんとした法整備をすべしという内容であったのだが、今回は米国の要望が具体的にどのような形で出されるのかまだ明らかにされていない。また2つ目の質問については、米国の制度でいえば、デジタル・ミレニアム・著作権法でISPの問題を取り上げているが、前回までの米国のスタンスとしては、必ずしも著作権分野で同種のものを整備をしろというわけではなく、日本には日本のやり方があるのであれば、そのような横断的な法の枠組みの中でしかるべき著作権も含めていろいろな権利者の権利が保全され、ISPも安心してビジネスができるという法的枠組みを整備してほしいということであると理解している。

 「途上国との連携協力に関すること」について、「我が国の著作物等の複製物」とあり、その後に「我が国著作物等に対する侵害防止」との記述があるが、この中の「等」とは何を意味しているのか。特に後者の方は、権利者が我が国の国民である著作物等が当該国の著作権法違反となることをいっているのであろうが、そうすると表現ぶりを工夫した方が良いのではないか。

 通常「著作物等」とした場合の「等」は実演及びレコードを含む概念である。また「我が国著作物等」というのは我が国を本国とする著作物等という意味であり、我が国を本国としている、我が国の著作物であって、条約に基づき当該国の著作権法で保護されている物という意味であろう。

 主旨は指摘の通りであり、表現ぶりについては工夫したい。

 この審議経過報告全体で、「情報技術」や「インターネット」、「デジタル化・ネットワーク化」、「デジタル環境」というような言葉が多用されているが本当にそれらが必要な表現であるかどうか精査する必要があるのではないか。インターネットの発達により影響が及ぼされたというものではないものにまでこうした表現が付されているように思う。デジタル化するか否かによって放送機関の権利保護に影響を及ぼすこととなるのか。「インターネットの発達」や「デジタル化・ネットワーク化」という表現に本質的な違いがあるのか、検討した方が良い。本質的な意味があるものと、枕詞的なものと区別が十分ついていない面があるかと思う。

 事務局で全体を精査して、主査と相談の上、表現を確定させたい。

 「視聴覚的実演の保護」の内容にある「映像」の表現は「影像」ではないか。

 一般的に「映像」としているケースが多く、本報告でもこの表現ぶりとした。

 基本的には前回の報告書の表現ぶりを参考に、最終的に表現を決めたい。

 「日米の著作権制度における課題」に関する注の書きぶりとして、「日本側提案事項」としているが、この日米経済パートナーシップというものが、ある1つの議題についてお互いに議論しようという場なのか、あるいは相手方に要求する場なのかにもよるが、単に「提案事項」と書かれると日本としてもその事項については困っているのだというようにも読めてしまう。日本は対応済みだが米国は未対応であり問題であるということがはっきりとわかった方が良い。

 ここの主旨は日本は対応済みであるが、米国は未対応で問題であるという事である。「提案事項」という表現は「要望事項」という形に表現ぶりを改めたい。

 裁判管轄の問題は、長期的に検討してほしい。国際私法の専門家が無体物である著作物の特性について必ずしも精通している場合が多いわけではない。その逆もしかりである。この領域の進むべき方向や解釈については、日本だけではなく国際的にも早くはっきりしてほしいという要望があるであろう。早いうちに、腰を据えて検討をした方がいい。検討の場に関する枠組み作りについては事務局に任せたい。

 技術的用語については一般の人々にわかりやすく解説する等の工夫をしてほしい。

 技術的用語については、その整合性を再度確認してほしい。

 国際小委員会の審議経過の概要(案)については、本日出された意見等に基づく修正について主査に一任することとし、了承された。

4. 次回日程
次回日程については、事務局から日程調整等がつき次第、後日連絡する旨の発言があった。

5. 閉会

(文化庁長官官房国際課)

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