文化審議会
2001/06/27 議事録
平成13年6月27日(水)
10:30〜13:00
霞山会館会議室「うめ、さくら」
齊藤主査、岡村委員、道垣内委員、土肥委員、中山委員、野村委員、半田委員、山口委員
林長官官房審議官、岡本著作権課長、村田国際課長、尾崎マルチメディア著作権室長、その他の担当官
事務局から委員及び事務局の紹介が行われた。
事務局より、議事及び配付資料の確認が行われた後、審議が行われた。
文化審議会著作権分科会運営規則第3条第3項の規定により当該小委員会に属する委員及び臨時委員の互選により選任することになっており、野村委員より齊藤委員が適任との推薦があり、満場一致で齊藤委員が主査に選任された。
また、文化審議会著作権分科会運営規則第3条第5項の規定に基づき、中山委員が副主査に指名された。
事務局より、本小委員会の設置の趣旨や所掌事務等について説明が行われた。
事務局より、総括小委員会の議事の公開の対応方針について説明が行われ、了承された。
事務局から資料に基づき説明があった後、各委員による以下のような意見交換が行われた。
【委員】
ナップスターだけでなくグヌーテラの事例も著作権法上の送信可能化権でカバーできるのか。
【事務局】
カバーできる。パソコンがネットにつながっており、誰でもアクセス可能な状態であれば権利が及ぶので、ネットにつながっているパソコンであればそのパソコンにデータの蓄積をした時点、データを蓄積したパソコンであればそれをネットにつないだ瞬間に送信可能化権侵害となる。
【委員】
そのように考えると、ホームページにアップロードしていない場合等についてもほとんどの事例において送信可能化権が及ぶということになる。
【事務局】
誰でもアクセス可能であれば権利が及ぶ。上の二つの事例について送信可能化権が及ぶことについては解釈の余地がないと考えている。逆に、ネットにつながっていても誰でもがアクセスできる状態でなければ権利侵害とはならない。
【委員】
ナップスターはサーバが存在するのに対し、グヌーテラは音楽が個人のパソコンに蓄積されており、音楽の提供者と利用者との個人対個人の関係となるので、著作権法上の「公衆」には該当しないのではないか。
【事務局】
著作物そのものは個人のパソコンにあるという点でグヌーテラもナップスターと同じ構造である。誰でもがアクセスできるという点で、法律的には個人のパソコンは業者のサーバと同じと考えられる。
【委員】
誤解を与えるので、送信可能化を「アップロード」という用語で表さない方がよいのではないか。
【事務局】
ご指摘のように、現在の送信の形態として著作物の蓄積を伴わない場合が増えてきている一方で、アップロードという言葉は蓄積を伴っているという印象を与える可能性がある。
【委員】
今回の著作権法改正の内容は、本小委員会のみで審議するのか。それとも他の小委員会でも検討をしているのか。
【事務局】
本小委員会においてご審議いただく。
【委員】
実演家の人格権の中に「自己の声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利」を規定するということは、著作者の人格権と異なる権利とするつもりなのか。
【事務局】
今回の改正の趣旨は条約の批准のための最低限の改正にあり、それ以上の措置は現時点では考えていない。そもそもベルヌ条約とWIPO実演・レコード条約とで同一性保持権の内容が異なっている。著作者人格権については、当時の判断により自己の意に反する改変にも権利を及ぼすことで、ベルヌ条約に規定する客観的な名誉声望保持権より高い水準の保護を与えている。
【委員】
著作者の人格権と内容をそろえる必要はないのか。
【事務局】
実演家の人格権についても条約上の義務を超えた改正を行うべきかどうかはこの場でご審議いただく。
【委員】
条約批准のための最低限の改正を行うということであれば、民法の不法行為で手当てされているという考え方もあり得る。
【事務局】
法制上はあり得る。どこまで著作権法に規定するかという解釈の問題であり、検討課題の一つではある。著作権法に規定すると差止請求権が認められることなども踏まえ検討していく。
【委員】
氏名表示権について、実演家の芸名などは人格権というよりプロダクション等の経済的権利とみることができ、著作者人格権と異なった性質を持っていることにも留意すべきである。
【委員】
レコードの保護期間の始期は、依然としてレコードに音を固定したときと考えてよいか。
【事務局】
その通りである。
【委員】
すると、固定してから40年後ぐらいに発行した場合、その時点から50年の保護があり、あわせて100年近くの保護が与えられるということになるのか。
【事務局】
レアケースであるがその通りである。むしろ通常は固定した1ヶ月後に年を超えて発行するといったことが想定される。
【委員】
内容が一部重なるレコードを発行する場合、レコード毎に保護期間を計算するのか。
【事務局】
保護対象はレコードの原盤なので、通常は曲毎に個別に考えるものである。ただ、複数の曲を収めた原盤が存在すれば、内容が重なるレコードを発行する場合、一方が片方の複製物かという問題は出てくる。
【委員】
現在の権利制限規定がWIPO実演・レコード条約第16条との関係で問題がないかということも、一応検討課題の一つに挙げられるのではないか。
【事務局】
条約の権利制限に関する規定の適用関係については、WIPO著作権条約もWIPO実演・レコード条約も、それぞれベルヌ条約、ローマ条約に基づく既存の義務を免れされるものと解釈してはならない、という規定を置いているので、既存の権利についてはより厳格な方の条約を適用し、ベルヌ条約、ローマ条約に規定されていない権利については、WIPO著作権条約、WIPO実演・レコード条約の権利制限規定に縛られるということになっている。実演家の人格権についてはローマ条約に規定されていないことからWIPO実演・レコード条約の規定が適用されることになるので、権利制限についても改めてスリー・ステップ・テストをかける必要がある。今回の改正は、とりあえず著作者人格権の規定を参考にすることを考えている。
【委員】
権利制限規定については、以前は、ベルヌ条約で複製権のみに関して規定しているのに対し、WIPO実演・レコード条約は複製権以外の権利に関しても明確に規定している点で、WIPO実演・レコード条約の方が厳格と考えられるので、いずれにせよWIPO実演・レコード条約に縛られるということか。
【事務局】
明確に規定することが厳格といえるかということは解釈による。
【委員】
今回音の人格権のみ先に措置して、後から視聴覚的実演に関する条約や放送事業者の権利に関する条約に対する措置をするというのでは、まさにアド・ホックな改正になってしまうのではないか。
【事務局】
本来WIPO著作権条約を締結する際に一緒にWIPO実演・レコード条約も締結することができたのであるが、当時視聴覚的実演に関する条約が成立しそうな動きがあったので、それを待って実演家の人格権をまとめて措置しようとした経緯がある。しかし、実際には視聴覚的実演に関する条約は成立に至らず、これ以上待っていられない状況になったので、今回WIPO実演・レコード条約の方を先に措置することにした。
【委員】
実演家の人格権を創設する際に、形式的に著作者の権利に関する規定をベースに検討するのではなく、著作権と著作隣接権の違いも踏まえ、もう少し個別に検討する必要があるのではないか。
【事務局】
本案件のスケジュールについては、著作権分科会での審議の時間も考えるとあと3回程度で小委員会としての結論をまとめる必要がある。遅くとも本年10月あたりに条文案を固めたいところである。
【委員】
著作権法は中古品問題を対象としていないというのはどういうことか。
【事務局】
現行法を見る限り中古品流通に関する規定はないと考えている、ということである。
【委員】
中古品流通業が広まっているという実態を考慮して、利用者の立場からむしろその流通を促進する方向での検討もあり得るのではないか。例えばネットオークションの商品の紹介などは、必ずしも権利者の利益を害しているとはいえないと考える。
【事務局】
「ネット上での流通」に関する著作権というカテゴリーになろう。つまり、法律上は権利侵害に当たるが、実体上権利者の利益を損ねていない行為についてどのように考えるかという問題である。なお、中古品流通については別に追求権の問題もある。
【委員】
今後著作物の利用の形態が多様化し、迅速に変化していく状況になるので、権利制限についてアメリカのフェア・ユースのような制度を取り入れることも検討に値する。
【事務局】
基本的課題についての今後の検討スケジュールについては特に定めていないが、今年に関しては、次回あたりまでに検討課題の暫定リストができればと思っている。そして次々回以降テーマ毎に順番に検討をお願いしようと思っている。
【委員】
何もない状態から新たに著作権法を作り直すことも、検討課題としてあげていよいのか。
【事務局】
委員が検討をご希望なされば、それも項目の一つに入れる。
【委員】
紛争処理の在り方についても検討課題の一つなのではないか。現在の紛争処理制度の利用状況、国がどこまで関わるべきかを含めて検討する必要がある。
【委員】
WIPO実演・レコード条約批准のための改正を検討する際に、将来できるであろう視聴覚的実演に関する条約の内容も視野に入れるべきである。
事務局から今後の日程について説明があった後、閉会になった。
(文化庁著作権課)