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文化審議会

2001/10/03 議事録

文化審議会第12回総会議事要旨

文化審議会第12回総会議事要旨

1.日時

平成13年10月3日(水)10時00分〜12時00分

2.場所

霞が関東京會舘シルバースタールーム

3.出席者

(委員)

高階会長、市川、内舘、岡田、川村、齊藤、富沢、乳井、野村、藤原、黛、の各委員

(文部科学省・文化庁)

池坊大臣政務官、銭谷文化庁次長、天野長官官房審議官、遠藤文化部長、鈴木文化財鑑査官、高塩文化庁政策課長ほか関係者

4.概要

(1)  配付資料についての確認があり、前回議事要旨については、意見がある場合は1週間以内に事務局に連絡することとされた。

(2)  事務局より、諮問に対する主な意見の整理(案)について説明があった。

(3)  その後、次のような意見交換が行われた。

  •   「文化はその国の人間を規定するもの」(p13、2つめ○)であり、さらには「自己のアイデンティティという軸がしっかりしなければ、無秩序に他の文化を受け入れ、自文化を放棄することにもなる」(p13、5つめ○)という視点は極めて重要である。この視点を個別の法律レベルのみではなく、我が国の基本を定める憲法の前文や条文に新たに盛り込むことも含め、その重要性について広く議論していくことが大切である。我が国の憲法には主権在民や三権分立の理念など普遍的な内容しか盛り込まれておらず、日本人のアイデンティティとして我が国固有の文化や伝統を大切にしていくという視点に欠けている。自国の文化の尊重について憲法上に規定を設けている諸外国の例は数多く、議論を投げかけていくことは意義があることと思われる。
  •   憲法の内容や位置付けは国によって異なってくるものであり、一概に諸外国と比較することは難しい。大切なことは理念を現実に生かすことであり、そのための施策を講じていくことがまずは求められるのではないか。
  •   現実的な課題として、教育基本法に日本の文化、伝統の尊重についての規定を盛り込んでいくことが考えられる。
  •   自国の文化に対する理解のための教育が不十分であり、日本人としての軸がしっかりしていない。これが我が国が世界から高い尊敬を得られていないことにもつながっているのではないか。文化振興のための具体的な政策を充実させていくことは当然重要であるが、憲法についての議論をすることは、文化について国民的に議論をしていく端緒となるものであり、意義を有する。
  •   文化はその国の人間を規定するものであり、国民のアイデンティティの拠り所として重要であるが、同時に、国内において多様な文化を尊重し、育んでいくことも大切である。文化とは誰のために何故必要なのかをしっかり議論していくことが必要である。
  •   文章中「文化的観点」とあるが(p14、6つめ○)、これは従来の政治・経済などだけでなく、自己のアイデンティティなど、価値観に関するものを大切にすることだと理解している。
      個人からいっきに世界へ行くのではなく、その中間の共同体としての地域社会、家庭の役割が重要である。
  •   グローバル化時代にあっては、自国の言葉を大切にするとともに、自分の存在についての軸をしっかりと持たなければならない。
  •   日本の文化を積極的かつ戦略的に世界に発信していくことは重要であるが、日本の文化を支えているのは個々の日本人であり、その前提として、自立した個人の存在が不可欠である。また、個々人が自立していることは、社会の中で他者と共存していく上でも大切なことである。豊かな人間性を備えた自立した人間の育成が重要な課題であり、そのためには、子どものみならず大人にとっても、知識偏重の教育ではなく、幅広い教養を大切にした教育が必要である。
  •   海外へ旅行に行く日本人は増加しているが、旅先において日本人だけで固まり、相手国の人々との交流がなく、相手国のことを理解せず、自国についても相手に発信しないままに帰国する傾向が強い。また、企業についても、世界へ展開しても日本企業同士で交流が完結してしまっているとよく指摘されている。このように我が国は世界に対し内向きであり、自国について発信する機会は十分持ちながら、その機会を逃してしまっているのである。これが我が国を世界から見て理解しにくい国としているのであり、今後、開かれた交流が必要である。しかし、日本人のメンタリティーに関わる問題でもあり、難しい課題である。
  •   文化を大切にする社会の構築のために重点的に行っていくべき具体的な事項についての整理を行う必要がある。
      1国の基本姿勢として文化を大切にしていくということの明確化について、憲法に新たに規定することについて議論すべきという話は大変刺激的である。2文化を大切にしていくことは結局は個人の価値観によるところが大きく、子どものときからの文化性の涵養が必要であり、そのために、学校教育の文化化への具体策が必要である。3100年後は日本人の人口が半分になり、また、異なる文化を有する人々の流入などにより、日本の社会は今後大きく変容していくと思われ、日本語や日本の伝統的な文化の継承について、長期的な観点に立つことが必要。4日本の国際的な存在感を高めるために日本文化の積極的な発信が必要であり、そのため、日本が世界に見えるよう、世界水準のトップアーティストの育成が必要である。一流の芸術の育成は、国民一人一人の心がけでできるものではなく、公的な支えが必要である。
  •   各委員のレポートを持ち寄り、それについて検討を重ねていくことも審議の進め方の一つとして考えられる。
  •   レポートで意見を述べ合うのではなく、皆が集まり、お互い意見を出し合う中で自らの意見も調整・修正していきつつさらに議論を深めていくところに会議の意義がある。
  •   原案のままでは美しい理念の羅列にすぎず、重点的に講ずべきことがらについて具体的に提言していくことが必要ではないか。その最も重要なものとして、教育の問題があると考える。相撲観戦や美術館・博物館に子どもを招待しても、学校の教師が仕事量の増加を理由に引率に消極的であり、文化を大切にするという理解が教師に欠けているのである。また、国立の博物館にある喫茶店の名称が、英語に奇妙な漢字を当てたものであるのに誰も不思議に思わず、クレームもつけない。学校教育において文化を重視していくべきであり、まずは国語の教育を充実させていくことが最重要と考える。
  • 文化の側から、学校の文化化のための具体的な方策や、その実施のために制度上の障害があるのならば、その制度の改正の必要性などについて提言していくことも必要なのではないか。
  •   「4(4)今後の文化行政の方向性」(p21)に挙げられている事項のうち、寄附税制の見直し、国際文化交流のマスタープランの策定については記載に値するが、それ以外の施策は従来どおりのものにすぎない。特に言及してほしいのは、節度のないグローバル化及び市場化は文化の敵となりうるのであり、それに対して一定の歯止めをかけていくということである。日本経済が長期にわたって停滞する中で、唯一最大の国家目標が不況打破となっており、学校教育までがその手段として、グローバル化、市場化の文脈の中で改革されてしまっていることは問題である。
  •   日本語教育は国語の授業だけで行う必要はなく、学校教育全体の中で国語教育を展開していけば、現行でも工夫次第で一定の水準の確保は可能である。このように、今の学校教育の枠内でできることもあるのではないか。
  •   答申としては、社会全体で文化を大切にすべきであるということを打ち出していくべきである。そのために重点的に取り組むべき事項として、国語の授業時間の減少への警鐘など、学校が文化化するための具体的な事項について提言していきたい。学校で美術館に子どもを連れて行くことについて、入試に関係ないから不要といわれる。それなら、入試に入れたらいいと思うのだが、企業に理解されないということがある。
  •   日本固有の短詩型である俳句や短歌に子どものころからごく自然に触れていくことは大切であり、日本人としてのアイデンティティにもつながるものである。そのためには国語の授業を大切にしていかなければならない。
  •   総合的な学習の時間を実効あるものにするには、学校や地域の力が問われてくるが、学校や地域が現状のままでは、効果的な実施は難しいのではないか。
      文化予算を増やしていくことも重要だが、同時に、非効率的な施策など見直すべきところは見直していくことも必要である。
      「(文化施設の再生)」(p20、3つめ○)において、ハコモノが足りないということに重点が置かれているが、既存の施設をいかに有効に活用していくかという視点が重要ではないか。また、公立だけでなく、国立の文化施設のスタッフの充実も必要である。
  •   文化施設を有効に活用させていくためのスタッフの養成が必要である。美術館・博物館では、学校教育で活用してもらおうとしても、そのためのスタッフがいないというのが実態である。日本の国立美術館・博物館の7館の職員の人数は、オルセー美術館1館の半分にも満たない。
  •   文化には社会的に認められていない負の文化もあるが、その中から新たな文化が創造されることもあり、負の文化を正の文化へと転換し、高めていくことについて考えていくことも大切と思われる。
  •   答申においては、訴えるべき内容について、少々過激であっても明確に内容が伝わるような表現を用いて記述していくことが重要であり、ソフトであるが無意味な文章にならないようにしなければならない。
  •   文化を大切にする社会の実現のために記述すべき内容を、自ら記述内容・表現内容に限定をかけることなく、血の通った文章で書いていくことが大切である。
      特に、文化に市場原理をもちこむことについては反対である。
  •   諮問時に示された検討事項例の柱立てのみにとらわれず、それを横断的に超えた重要な課題について総合的に検討していくことも必要である。

(4)  池坊大臣政務官より次のような発言があった。

  言葉は文化の原点であり、審議会でも言葉を大切にしながら審議のまとめを行っていただきたい。
また、学校教育における文化の重視は重要な課題であるが、同時に、学校だけに全てまかせるのではなく、家庭や地域など、社会のあらゆる場において、文化を大切にする教育が行われていくことが必要である。

(5)  事務局より、次回総会の日程についての説明があり、閉会した。

(文化庁政策課)

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