1 教育の現状と課題
すべての国民は,一人の人間としてかけがえのない存在であり,自由には規律と責任が伴うこと,個と公のバランスが重要であることの自覚の下に,自立した存在として生涯にわたって成長を続けるとともに,その価値が尊重されなければならない。個人の能力を最大限に引き出すことは,教育の大切な使命である。一人一人が学ぶことの楽しさを知り,基礎的・基本的な知識,技能や学ぶ意欲を身に付け,生涯にわたって自ら学び,自らの能力を高め,自己実現を目指そうとする意欲,態度や自発的精神を育成することが大切である。 豊かな心をはぐくむことを人格形成の基本として一層重視していく必要がある。社会生活を送る上で人間として持つべき最低限の規範意識を青少年期に確実に身に付けさせるとともに,自律心,誠実さ,勤勉さ,公正さ,責任感,倫理観,感謝や思いやりの心,他者の痛みを理解する優しさ,礼儀,自然を愛する心,美しいものに感動する心,生命を大切にする心,自然や崇高なものに対する畏敬の念などを学び身に付ける教育を実現する必要がある。
これからの「知」の世紀においては,情報通信技術の進展等による教育環境の大きな変化も十分に生かしつつ,基礎・基本を習得し,それを基に探究心,発想力や創造力,課題解決能力等を伸ばし,新たな「知」の創造と活用を通じて我が国社会や人類の将来の発展に貢献する人材を育成することが必要である。特に大学・大学院の教育研究機能を飛躍的に高め,国際競争力を強化し,未来への扉を開く鍵となる独創的な学術研究や科学技術の担い手となる人材を様々な分野で豊富に育てていく必要がある。同時に,急速に進展する科学技術をめぐる倫理的な課題を理解し,的確に判断する力を国民一人一人が身に付けることも求められる。
自分たちの力でより良い国づくり,社会づくりに取り組むことは,民主主義社会における国民の責務である。国家や社会の在り方は,その構成員である国民の意思によってより良いものに変わり得るものである。しかしながら,これまで日本人は,ややもすると国や社会は誰かがつくってくれるものとの意識が強かった。これからは,国や社会の問題を自分自身の問題として考え,そのために積極的に行動するという「公共心」を重視する必要がある。
グローバル化の中で,自らが国際社会の一員であることを自覚し,自分とは異なる文化や歴史に立脚する人々と共生していくことが重要な課題となっている。このためには,自らの国や地域の伝統・文化についての理解を深め,尊重する態度を身に付けることにより,人間としての教養の基盤を培い,日本人であることの自覚や,郷土や国を愛し,誇りに思う心をはぐくむことが重要である。こうした自覚や意識があって初めて,他の国や地域の伝統・文化に接した時に,自他の相違を理解し,多様な伝統・文化に敬意を払う態度も身に付けることができる。このような資質を基盤として,国際社会の責任ある構成員としての自覚を持ち,世界を舞台に活躍し,信頼され,世界に貢献できる日本人の育成を目指す必要がある。
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