教育改革フォーラム(山口)概要


1   日   時:平成15年5月17目(土)13:30~16:00

2   会   場:山口南総合センター

3   次   第:
   (1) 主催者挨拶       河村   建夫   文部科学副大臣
   (2) 基調講演          山本   恒夫   中央教育審議会委員
   (3) パネルディスカッション(敬称略・五十音順)
 
           コーディネーター    上野千奈美    フリーアナウンサー
    吉良   昭治 山口県PTA連合会会長
    城      菊子 フリーディレクター
    広中   平祐 前山口大学長
    山本   恒夫 中央教育審議会委員

4   概   要
(1)河村建夫文部科学副大臣挨拶
   本日は、お忙しい中教育改革フォーラムに御出席いただき、感謝申し上げる。
   今日の世界情勢は、先行き不透明である。このような困難な時代を乗り切るためには,教育が重要であると考えている。日本は、デフレの中で様々な改革に取り組んでいる。
   小泉首相は就任直後の国会での演説で「米百俵」の話をしたが、これは今日食べてしまえばなくなる米を将来のために教育に投資したという話である。だから、小泉改革も最初は、今、我慢をして国民にいろいろお願いするが、最終的には、人づくりに変わらなければならないと思っている。自分としては、小泉改革の起承転結は教育改革に求めるべきであると考えており、小泉総理にもそう申し上げている。世界では、競い合うように教育改革が進んでおり、日本も、教育基本法の改正に取り組もうとしている。
   教育基本法の改正については、なぜ今その必要があるのかという御意見もある。現行の教育基本法は間違ってはいないが、現実の教育できちっとできていない。なぜできないのか、何が足りないのかを国民も真剣に考える必要がある。教育基本法の精神をわかりやすく周知徹底し、問題を根本から解決するために、その改正が必要なのである。
   この問題については、小渕内閣の時代から議論を重ねており、教育改革国民会議、森内閣と引き継いで、小泉内閣で中央教育審議会に諮問をし、この度答申をいただいた。教育基本法の改正は、最終的には立法府の責任だが、教育の在り方を決めるものなので、国民の御意見を伺う必要があると考えている。昨年も中間報告後に中央教育審議会の主催で国民の御意見を伺う場を設けたが、今回は、答申を受けて、文部科学省主催で、改めてそのような場を設けることとした。
   今の教育について特に心配していることは、心の豊かさが失われている点を教育に反映させる必要がある、ということである。例えば、命の大切さを教えるためには、宗教教育が必要である。
   この問題は国会できちんと議論しなければならないが、現在、与党協議会もまとまっていない状況であり、国民からの御意見を並行して聞いていきたい。
   今後、21世紀の教育について本格的に議論していく。本日は,ディスカッションの時間もあるので、皆様から忌憚ない御意見をいただきたいと考えている。

(2)基調講演(山本恒夫中央教育審議会委員)
○教育改革の背景及び状況について
   3月20日の中央教育審議会の答申の背景については、社会の変化が非常に大きい。
   家庭については、1世帯あたりの人数が昭和22年の約5人から約3人になっている。学校については、大学進学率が昭和30年の約1割から5割近くへと変化している。社会については、第三次産業の就業率が昭和25年の約3割から64%になっている。第一次産業については、約5割であったのが、5.1%に減っている。また、18歳以下の人口が、昭和25年の3,600万人から、平成12年には2,400万人になり、50年後には1,400万人になると予測されている。
   一方、教育については多くの課題を抱えている。価値観の変化や青少年が夢を持ちにくくなったことと絡んで、規範意識、道徳心、自律心が低下している。2番目に、いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊などの深刻な問題が依然として存在している。3番目に、小・中・高だけでなく、高等教育の段階まで学ぶ意欲の低下が及んでいる。4番目に、家庭や地域の教育力が低下し、人とあまり接触しない若者が増えている。最後に、世界に伍していくためには、創造性や実践能力に富む人材の育成が必要であり、世界的な水準の大学、大学院づくりが課題になっている。
   これらの教育問題は、日本だけでなく、諸外国でも共通の課題であり、諸外国でも1980年代から教育改革が進められている。
   イギリスでは、1980年からのサッチャー政権の教育改革において、ナショナルカリキュラムの策定や学校評価が実施されるようになり、ブレア政権においても大学改革が進められている。
   アメリカでは、1983年にレーガン大統領のもとで、「A Nation at Risk」という報告書が出され、教育に対する四つの危機とその原因が指摘されている。教育の危機としては、教育の機能の停止、学力の低下、モラルの低下、国家を思う意志と力の低下が指摘されている。
   日本でも、1984年に発足した臨時教育審議会から個性重視や生涯学習体系への移行という内容の答申が出され、教育改革が次々と行われている。
   例えば、平成12年12月に教育改革国民会議から報告書が出され、新しい時代の教育を目指した15の具体的な提案と教育振興基本計画の策定と教育基本法の見直しが提言されている。また、平成13年1月には、「21世紀教育新生プラン」、平成14年には「人間力戦略ビジョン」が文部科学省で策定されている。

○教育基本法について
   教育基本法は昭和22年3月に憲法施行の1ヵ月前に公布、施行されている。教育の目的、方針、教育の機会均等や義務教育など、教育の基本理念や重要な原則について規定しており、学校教育法や社会教育法などの教育法規の根本法と位置づけられている。制定から56年間、いろいろな社会の変化があった中で、一度も改正されていない。
   中央教育審議会においては、新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について平成13年11月に諮問を受け、総会を15回、基本問題部会を28回開催し、一日中教審(公聴会)を計5回開催して御意見をいただいた上で、平成15年3月に答申を出したところである。

○答申の概要
   日本の教育を根本から見直して、新しい時代にふさわしく再構築することが必要との認識に立ち、5つの目標を掲げた。5つの目標とは、「豊かな心や健やかな体を備えた人間の育成」、「自己実現を目指す自立した人間の育成」、「「知」の世紀をリードする創造性に富んだ人間の育成」、「日本の伝統・文化を基盤として国際社会を生きる教養ある日本人の育成」、「新しい「公共」を創造し、21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成」であり、これらを通じて、「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を目指すこととした。
   教育基本法の改正の視点としては、「個人の尊厳」、「人格の完成」、「平和的な国家及び社会の形成者」というような現行法の基本理念は引き続き継承すべきであり、これに「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を目指す観点から、必要な理念を加えようとしている。

○条文ごとの改正の方向
・教育の基本理念
   教育基本法制定の目的、基本法を貫く理念など、基本的な考え方は引き続き規定し、それに加えて、新たに規定する理念の趣旨を前文又は各条文にわかりやすく簡潔に規定する。
   新たに規定する理念としては、「個人の自己実現と個性・能力の伸長、創造性の涵養」、「感性、自然や環境とのかかわり」、「社会の形成に主体的に参加する「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養」、「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識」、「生涯学習の理念」、「時代や社会の変化への対応」、「職業生活との関連の明確化」、「男女共同参画社会への寄与」の8つがある。
第5条(男女共学)
   「男女は、互いに敬重し、協力し合わなければならない」という部分は、教育の基本理念に関する規定の中に「男女共同参画社会への寄与」という趣旨を盛り込み、明確にすればよく、「男女共学」については、もう当たり前になってきたということで、削除する。
第6条(学校教育)
   学校の基本的な役割について、知、徳、体の調和のとれた教育を行う観点などを入れ、その際、大学・大学院や私立学校の役割の重要性を踏まえて規定する。また、教員が研究と修養に励み資質向上を図ることの必要性についても追加して規定する。
第7条(社会教育)
   家庭教育の役割や学校・家庭・地域社会の連携・協力について新たに規定する。
第8条(政治教育)
   自由で公正な社会の形成者として、国家・社会の諸問題の解決に主体的にかかわっていく意識、態度を涵養することが重要であることを適切に規定する。
第9条(宗教教育)
   特定の宗派とか特定の宗教のための宗教教育を禁止する規定が学校で拡大解釈される傾向があるので、憲法に定める信教の自由や政教分離の原則には十分に配慮しながら、宗教に対する寛容の態度や知識、宗教の持つ意義を尊重することについて規定する。
第10条(教育行政)
   「教育は、不当な支配に服することなく」という現行の規定は引き続き規定し、加えて、国と地方公共団体の適切な役割分担を踏まえて、それぞれの責務について規定する。また、教育振興基本計画を策定する根拠についても規定する。教育基本法に根拠がなくてもできるのではないかという意見があるが、予算一つをとるにしても基本的なところに関係の規定がないと弱い。教育振興基本計画の中においては、確かな学力の育成、良好な教育環境や教育の機会均等の確保、私学における教育研究の振興、就学前教育環境の整備などについて盛り込んではどうかと考えている。

(3)パネルディスカッション
○教育改革の推進・教育基本法の改正について

山本氏)    今回の教育基本法の改正は、明治の学制発布、昭和22年の教育基本法の制定に続いて、明治以来の大きな教育改革として3つ目になる。最初の2つの教育改革は,国の仕組みが変わったので教育の仕組みも変えたものだが、今回の教育改革は、社会の変化に対応させるものであり、平常時の教育改革というのは初めてのことである。審議を重ねてきた中で印象的だった意見は、「教育は学校・家庭・地域社会全体で議論を進めるべき」「これからの時代は生涯学習の観点、理念を取り込んでいく」ということである。

広中氏)    今は、教育基本法を変える時期に来ている。特区に代表される多様化、国から地域や特定組織に権限を委譲する分権化が進んでいる。このように規制緩和が進むと、道徳や人間関係などのいろいろな問題を統率できなくなり、その極端な反動で新しい統制が出てきてしまうことがあるが、それは避けたい。これに対応するには教育以外にない。教育レベルが高ければ、それぞれが違っていても、互いを認め、理解し、協調できること、すべきでないこともわかる。教育の効果は20年後に現れるのだから、今うまくいっている部分も、50年後のことを考えないといけない。社会の組織の硬直化に対する反動として生じた、かつてのアメリカのヒッピーの考え方は、それ自体は間違っていなかったが、子どもの放任教育によって犯罪が増えるなど、次世代に困った事態が生じた。このような反省に立って、今から教育の根本法を見直す必要がある。今の世の中は地政学的なカオスの時代であり、国という単位が重要になってくる。それを子どもに教えることが大切である。

吉良氏)    保護者はまだ教育基本法がよくわかっていないが、それは今までの教育で教えられてこなかったからである。我々自身も、もっと教育基本法を見つめ直す必要がある。子どもを学校に通わせるときに一番不安に思っていることは、ちゃんと学校に行ってくれるか、楽しんでくれるか、ということ。「改革」というのは大事なキーワードであって、社会が変わっているときに教育が変わらないのはだめではないか。また、「改革」には、多大な労力を費やしても議論が必要であるので、今このフォーラムなどで議論されることは好ましいこと。子どもには安心して学校に行って欲しいし、また、学ぶ楽しさを知って欲しい。

城氏)    自分が担当している「はつらつ山口っこ」という番組は昭和48年に始まり、今年で31年目に入る。昭和48年には、石油ショック、核家族化、働く女性の増加などが起こっている。そこで、文部省と県が後押しして、この番組を各県で作った。昭和63年までは、3歳までの家庭教育が大切という視点で番組作成をしていたが、その後、不登校、児童虐待、いじめ、校内暴力などの問題が起こってきたため、平成元年からは、小学生の親を対象とし、学校にも取材を行い、現代問題を取り上げる中で家庭教育を考えるというコンセプト(概念)にした。時代が進むとニーズが変わり、時代にあったものを提供していかなければならない。そういう意味で、教育改革や教育基本法の改正には賛成である。
   しかし、このような改革はどこまで教育現場や家庭に浸透しているのか。改革を現場や家庭に浸透させるための施策が必要である。

○家庭教育について
吉良氏)    家庭教育ができていないことが、今の困難な状態を生んでいると思う。PTAは現状を解決するために努力していこうと考えている。そこで学校に言いたいのが、「開かれた学校」が参観日、広報誌だけで十分なのかということ。問題点を積極的に開示して、解決のために集まってくれと広報できる学校が、「開かれた学校」ではないのか。自分は小・中学校のPTA会長を8年間務めた。中学校の先生の取組は非常に熱心だと思うが、「守秘義務」を盾に肝心なところを閉ざしてしまい、PTAには踏み込めない感覚があった。そこで、守秘義務のある民間人になろうと思い、保護司、民生委員、主任児童委員になってみた。教育委員会に問いたいのは、教育委員会に民間保護者を入れる取組が進んでいないということ。また、教員の人事はどうして決められているのか、転勤が多かったり少ない教員がいるのはなぜなのか。
   家庭教育については、父親参加を心がけているが、小学校と中学校では、参加の質が違ってくる。中学校の生徒指導は母親任せが多かったが、今は小学校の段階から父親に家庭教育に参加してもらい、中学校からは子離れしながら生徒指導をするように心がけている。

城氏)    家庭教育の中に父親の姿が見えない。母親の子育ての不安は、結局、心の拠り所をどこにおけばいいのか、子どもと向き合う時間が有意義に感じられない、孤立感がある、などといった精神的なものである。今の母親は、高学歴が進み、子どもができて仕事を辞め、ある程度子どもが大きくなったら職場復帰したい、ということで、同じような母親を沢山巻き込んで子育てサークルを作っている。子育て支援、子育てサポーター、子育てコーディネーターによりどころを求める母親も、価値観が同じ人同士で集まってサークルを作っている母親たちも、自分自身の母親に子育て像を求めないことや、説教が嫌いなことは共通している。ただ、このような母親はまだよくて、問題なのは閉じこもって外に出ない密室母子である。

山本氏)    母親のもう一つのタイプは、子育てが嫌で、子どもを学校に預けて仕事や遊びに行ってしまう人達である。学校の先生は、しつけまで我慢してよくやっていると思う。これからは、学校・家庭・地域社会の協力が大切である。今後は、少子高齢化が進む。根本のところで、これからの社会をどうするかを考えないといけない。学校の先生にこれ以上負担をかけるのではなく、みんなで一緒にやっていくべき。

広中氏)    自分は15人兄弟で、母親にそう構われたわけではないが、母親の教えで今も役に立っているのは、「我慢して生きていればいいことがある」ということである。こう考えることによって、どこの国でも生きていけるようになった。

○開かれた学校について
山本氏)    「開かれた学校」とは、具体的には、「学杜融合」、学校教育と社会教育の融合のことである。かつて、学杜連携の究極が学杜融合であるという答申を生涯学習審議会で出してもらい、その後の中教審答申でも「それぞれの施設を大切にしながら機能の融合を図る」と書かれるなど、融合の動きが進んできた。学校の先生は大変であるので、そこへ地域の人々が入って補助をする。例えば、相談相手になったり、雑用なども引き受ける。そうすると、先生も地域に出ていくようになる。そういう具体的な中身で学校を開くことが大切である。

○教員の資質向上について
城氏)    実は、かつて「学級崩壊」をテーマで学校を取材したが困難を極めた。そのような事例が報道されていても、親は自分の子の通う学校は大丈夫と思っているが、今時の一年生は皆そのような状態である。先生も注意をしない。教師も資質を間われる時代である。教育は、授業を教えるだけではなく、行動をもっと厳しく注意することも必要である。問題の起きている現場を取材するのは大変難しい現実があるが、早く問題点を出して一緒に考えていく必要がある。

吉良氏)    先生にお願いしたいのは、PTAを親と同じものとして考えないで欲しい、ということである。PTAは学校の味方であり、学校や先生のバックアップを考えている。PTAには来ないが、学校に文句を言いに行く親がいて困っている。このような親が来たら、PTAにも情報を流し、面談の場にPTAからも同席できるとよいのではないか。

山本氏)    先生は忙しいので、勉強や社会をみる時間が必要であり、それを制度的に保障できるようにする必要がある。

○いじめ、不登校などの問題と豊かな心と健やかな体を備えた人間の育成について
広中氏)    神奈川のビーチでライオンズクラブの人がゴミ捨いをしてる前で若者がゴミを捨てても、誰も怒らない。ある大学に講演に行ったとき、迎えにきた学生は、自分が両手に荷物を提げているのに、自分が言うまで持とうとはしなかった。アパートでエレベーターを待っていたとき、ドアが開くと自分の後ろにいた子どもが自分より先に乗ってしまう。子ども・若者に悪気があるわけではないのだが、学科以外のもっと大切なことを教えられていない。子どもは叱られてもだめにならないのだから、それを利用して叱るべきである。ただし、子供は愛情を持って叱っているかどうかに敏感なことを知っておくべきである。

城氏)    「誉めて育てる」ということが誤解されている。「子どもが悪いことをしたら叱らなければいけない」ということを番組の中では訴えている。核家族化が進む現在、母親ひとりでは子育てができない時代であり、地域や先輩の力を借りないといけない。防府市の母親にアンケートをとったデータによると、専業主婦の母親の方が子育てで悩み、サークル活動が活発だ。
   もっと、父親も巻き込んだ「ほっとする子育て」を進めるべきであり,父親教育も教育基本法に盛り込んで欲しい。教育は長いサイクルで成果が出てくるものであり、家庭の子育てにもっと目を向けて欲しい。アメリカでは、家庭教育に力を入れる方が、将来犯罪が少なくなるなど社会的コストが低くなるという認識があり、親対象・子ども対象のカウンセリングが盛んである。

吉良氏)    自分がPTAに関わるようになったきっかけは,娘がいじめを受け、不登校になったことであった。不登校やいじめに遭うパターンにはいろいろあり、この解決は本当に難しい。その後、保護司や主任児童委員なども経験し、やっと明かりがみえてきた。しかし、仕事を持ちながら保護司や民生委員などをするのは大変だし、勉強する時間もない。しかし、そこまでやらないと問題解決ができない。何とかならないだろうか。

山本氏)    「豊かな心と健やかな体を備えた人間の育成」というのは、教育問題の1つの解決策になると考えている。平成14年9月30日に、「子どもの体力向上のための総合的な方策について」の答申を中教審で出した。その議論の中で、常に体と心は相互に影響し合うことが言われている。心の豊かさの大切さについては河村副大臣も言及しているが、我々も応援している。別の言葉で言えば、経済的価値と人間的価値のバランスを保つべきということである。このようなことは、今回の答申にも入っている。

○公共心について
広中氏)    公と私の問題については、そろそろ本格的に議論する段階にきている。日本人は国に頼りすぎだが、財政状態の悪化などからわかるようにこれからは頼れなくなるので、自己責任が原則になる。もうかつてのような高度成長はないことを、認識すべきである。

吉良氏)    公共心や国を愛する心は大切である。ボランティアでミャンマーに行ったとき、「お金はありがたいが、日本人の精神はいらない」と現地の僧に言われた。日本人の精神が、そこまで退廃しているということである。ただし,阪神・淡路大震災の時には自分も現地に入り、自分が何をできるかということをボランティアを通じて教えてもらったが、若者が沢山集まっていろいろやってくれたことが印象的であった。今ならまだ公共性は損なわれていないので、今のうちに論じておくことが大切である。

城氏)    公共心というものは、教育によって形成されるものではなく、自発的にできるようになって本物である。それは、家庭や友達との会話、いろいろな情報を吸収していく中で、出てくる気持ちである。学校教育でできないことは家庭で、身近なところから積み重ねていかないとできない。実は、番組の中の「私はこう育てた」というシリーズで、広中氏のお母様を取り上げたことがある。小さい頃の広中氏は、お母様に色々と質問をしたそうだが、お母様はわからないと「明日、○○さんに聞いて見ようね。」と言って、地域の医者や住職などのところに連れていったそうである。これは学校週5日制になって土曜日に生活体験させているのと同じようなもので、教育の知恵というのは時代が変わっても変わらない。子育ては地域のいろいろな人に触れさせていくことが大切であって、公共心もそういう中ではぐくまれていくのだと思う。

山本氏)    関西の過疎化した町では,春の堀掃除に若者が参加しないため、用水の確保も難しくなってしまっている。こういう生活に関わることも公共の問題である。中教審では、このような意識で議論をしてきた。これに関連して、中教審からは「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」答申を出しているので、参考にしていただきたい。

○会場からの意見紹介

・先行き不透明であるというこれからの時代をどのようにイメージしているか。

広中氏)    最悪の状態を想定して、それでも解決策を見つけたときが本当の安心である。その視点でいうと、今後、世界的にカオス的な現象が色々と出てくる。そういう状態の中で生きていける人間をつくるべき。その時にいちばん頼りになるのは、学力(学び取る力、学ぶ意欲)である。そういうものを育てていけば、これからの世の中は面白い。リーダーシップよりも、変化に対応して生きていける力が大切である。

・多くの課題を抱える日本の教育の大きな原因は何であると考えるか。

山本氏)    簡単に言えば,経済的価値と人間的価値のバランスが崩れているせいであると思う。


   

(総論)
これからの日本の教育、社会を改革していくために、様々な手立が必要なのはよくわかるが、なぜ教育基本法自体を改正しなければならないのか、その必要性があまり理解できない。今まで同様、中教審答申に従って、各県でよりよい教育を目指し、方策を練っていけばよいのではないか。
教育基本法については、現行のままで、その精神が生かされるように、教育内容や教育条件の充実・整備に力を注いでほしい。
教育は時代に合わせて変わっていくべきものだと思う。激しく時代が変化し、教育も変化していく中で、法が変わらないのはおかしい。基本法であるから、時代を超えて変わらないものもあるとは思うが、それだけでなく、時代を追って変化していくものがあってもよい。

山本氏)    現行教育基本法に謳われている普遍的理念は変える必要はないが、変化に対応する基本的な考え方というものをしっかり定めることが必要である。

(公共心)
個人の尊厳は、憲法上からも、公共に対して優先されなければならない。
公共は人工的につくられるものというよりも、歴史、文化、伝統を踏まえて成り立っているものであり、教育基本法の改正もその視点でやるべきだ。
戦後教育の最大の問題点は、アメリカから入ってきた自由主義を利己主義と勘違いしている点である。家庭や社会の秩序が前提となって、その中で許容されるものだということを教育の中で徹底して教えることが大切。

広中氏)    法律の1つの側面は規制というネガティブなものだが、ポジティブな側面もある。教育の基本理念がはっきりすれば、政策目標が出てきやすくなり、予算の配分や重点化もできやすくなる。また、法律を変えることで現場の意識が変わるという効果もある。教育基本法を改正し、国会で議論を尽くして見せることが必要である。公共や国は、これから重要になり、自分の故郷を愛することが意味を持ってくる。山口大学の学長をしたのは、郷里に対する思いがあったからである。世界的指揮者の小沢征爾は、自ら「日本人の血を持っている。」と語っており、それがどこの国へ行っても彼らしい態度をつくっている。国旗掲揚も当たり前のことである。これから世界情勢で、国という単位の守りがなかったら、いろいろ厄介な問題が起きる。

(国を愛する心)
国を愛することを子どものときから身に付けている外国の子どもたちと比べると、日本ではおろそかにされている。また、権利と義務は対になっているものだが,権利のみが強調されている。
教育で愛国心を植え付けるのではなく、自然な心情から国民が抱く国となるよう行政は努力すべき。

(その他)
一部のエリートのための改革の内容が読み取れ、改正には強い疑問を感じる。幼いころから選別されることに最大の問題を感じる。
男女の特性を否定するような条文は避けて欲しい。
宗教教育について、拡大解釈がなされないよう引き続き努力をお願いしたい。
宗教的情操の育成について条文を入れてほしい。
教育振興基本計画の策定とその実施が重要である。具体化できることで、改正の意義とその意図が理解される。