第8条 (政治教育)

第8条 (政治教育) 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。

2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

本条の趣旨
第1項は、民主主義を実現するためには、国民の政治的教養と政治道徳の向上が必要であることを踏まえ、政治教育において最も尊重されるべき事項を規定するもの。
第2項は、学校教育における政治教育の限界を示し、特定の党派的政治教育を禁止することにより、教育の政治的中立を確保しようとするもの。
   
   
「良識ある」
  単なる常識以上に「十分な知識をもち、健全な批判力を備えた」という意味。
   
「公民」
  国民が公の立場から社会形成に参加していく関係(広義の公民)に、政治的、経済的、社会的生活の3つがあるとして、積極的に政治的な関係に入る場合の国民という意味であり、政治的観点からみた国民の意。
   
「政治的教養」
a. 民主政治、政党、憲法、地方自治等、民主政治上の各種制度についての知識
b. 現実の政治の理解力及びこれに対する公正な批判力
c. 民主国家の公民として必要な政治道徳、政治的信念
   
「教育上尊重する」
a. 政治的教養を養うことは、学校教育においても社会教育においてもこれに努めなければならないこと。
b. 教育行政の面で政治的教養を養うことができるような条件を整えること。
   
「法律に定める学校」
  学校教育法第1条に定める学校を指し、専修学校、各種学校等は含まれない。なお、「学校は」とは、「学校教育活動の主体としての学校自体は」の意であり、学校教育活動として行われる限り、学校内外(家庭訪問等)を問わない。
   
「政党」
  「一定の政治理想の実現のために政治権力への参与を目的とする結社」のことであり、政治権力への参与を目的としない、単に政治に影響を及ぼすことを目的とする政党以外の政治結社は、政党に含まれないとされている。(しかしながら、学校が政治的に中立であるべきということ、及び第10条第1項の規定の趣旨を踏まえれば、「政党」に該当しない政治結社を支持し又は反対するような教育は許されないと考えられる。)
 

(参考)帝国議会における第8条に関する主な答弁

【公民とは何か】
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
<辻田政府委員答弁>  それから第八条の公民でございますが、是は政治的な観点から見た国民と云ふ風な考へ方でございまして、此の第八条は政治に関する教育の点を主として考へました為に、特に政治的観点から国民を眺めて公民と云ふ言葉を使つたのであります。尚従来立憲治下の民を公民と云ふとか、其の他色々法規の上にも公民と云ふ言葉が使はれて居る場合がありまするし、又教育上の公民教育とか色々言はれて居りますが、精神に於ては大体同じやうなことではなかつたかと思ひますが、併し此の基本法に於きましては、只今申しますやうな政治的な立場から見た国民と云ふ風なことにして居るのであります。
   
【政治的教養は教育上これを尊重しなければならないとはどういう意味か。】
○昭和22.3.19  貴・教育基本法案特別委員会
<辻田政府委員答弁>  第八条第一項でございますが、「良識ある公民たるに必要な政治的教養」は、社会教育に於きましても学校教育に於きましても、これを尊重して実施しなければならない、斯う云ふ意味でございます。
   
【学校における政治的活動の限度、基準は何か】
○昭和22.3.14  衆・教育基本法案委員会
<高橋国務大臣答弁>  法律に定める学校というものは、特定の政党を支持し、あるいはこれに反対するところの政治教育、その他政治的活動をしてはならぬという規定が設けられておるのでありまして、むろん思想の自由は尊重いたすのでありますが職場を利用して、ある一定の政党を支持する  (中略)  というようなことがあるならば、断じてこれを許容することはできないと考えておるのでありまして、この点は強硬なる態度をもつて臨みたいと考えておるのでございます。
   
【学校としてではなく学生、生徒、教職員が学園内で行う政治的活動は許されるのか】
○昭和22.3.15  衆・教育基本法案委員会
<高橋国務大臣答弁>  教育活動中におきまして、特定の党派を支持し、またはこれに反対するための政治教育その他政治的活動をいたしますることは、その基本法第八条におきまして、相ならぬことと考えるのであります。学生の場合でありまするが、これは昨日も一言触れたかと思いまするが、思想の自由を尊重いたしまするので、学生が特にある特殊の思想、あるいは政見を研究いたしますることは、むろん自由でありまするしまた進んで運動に移しますることも、決してこれを禁止はしないのでありまするが、しかしながら教育の目的を達成いたしまするがために、学園の秩序を維持するため、一定の制限があることは、申すまでもないことであると存ずるのであります。この制限がいかなる限界を有するものであるかということにつきましては、各段階の学校によりまして、それぞれ差別があることと考えるのであります。この点の判断は、一に学生そのものの自覚と、学校長、学校当局の判断任せられるべきものと考えておるのでございます。
   
【学校で特定の政党の政策を批判することは許されるのか。】
○昭和22.3.22  貴・教育基本法案特別委員会
<日高政府委員答弁>  是は其の場合に依つて多少違ふかと思ひますが、大学等に於て政治学を教へるやうな場合に、或党派の政策を批判するやうなことは私は一向差支ないと思ひます。唯一党一派を支持したり、排斥したりするやうな意味に於て、批判でなしにすると云ふ、其処が抵触するかと思ひますが、是はどの程度でそれが此の条文に抵触するかしないかは、寧ろ学校並びに学校の教員達の判断に委せるより、致し方ないと思ひますが、此の精神は、特定のものを支持したり、特定のものを排斥したりすると云ふやうな、政治的な偏頗な意見を強いる、其処の強いるか強いるに近いやうな態度がいけないと云ふことであつて、自由な批判検討は許さるべきものだと思ひます。