第4条 (義務教育)

第4条 (義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

2 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。

本条の趣旨
憲法第26条第2項の規定を受け、義務教育の年限を9年と定めるとともに、義務教育の無償の意味を国公立義務教育諸学校における授業料不徴収ということで明確にしたもの。

(関係法令)
憲法第26条第2項  すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

「九年の普通教育」
  普通教育とは、通例、全国民に共通の、一般的・基礎的な、職業的・専門的でない教育を指すとされ、義務教育と密接な関連を有する概念である。
  九年の具体的な内訳については、教育基本法は特に規定せず、学校教育法に委ねている。
   
「義務を負う」
  親には、憲法以前の自然権として親の教育権(教育の自由)が存在すると考えられているが、この義務教育は、国家的必要性とともに、このような親の教育権を補完し、また制限するものとして存在している。

「けだし、憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは、単に普通教育が民主国家の存立、繁栄のために必要であるという国家的要請だけによるものではなくして、それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから、親の本来有している子女を教育すべき義務を完うせしめんとする趣旨に出たものである」(昭和39年2月26日最高裁大法廷判決)
(関連条文)
民法第820条  親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
児童の権利に関する条約第18条第1項  (前略)父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。(後略)

「授業料は、これを徴収しない。」
  憲法は「義務教育は、これを無償とする。」と規定しており、この「無償」とは、「子女の保護者に対しその子女に普通教育を受けさせるにつき、その対価を徴収しないことを定めたものであり、教育提供に対する対価とは授業料を意味するものと認められるから、同条項の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である」と解するのが通例である。
  なお、現在は教科書無償措置法等により、義務教育段階においては国公私を通じて教科書も無償となっている。


(参考)我が国の義務教育制度の構造(中等教育学校及び盲・聾・養護学校関係を除く)

1 憲法
  すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
  ……憲法第26条第2項
   
2 就学義務と年限・年齢
  9年間の普通教育の就学義務
  ……教育基本法第4条
    保護者は、子女を満6才から満12才まで小学校に、その修了後満15才まで中学校に就学させる義務を負う。
  ……学校教育法第22条、第39条
   
3 義務教育諸学校の種類と修業年限
  小学校は6年、中学校は3年
  ……学校教育法第19条、第37条
   
4 義務教育諸学校の設置義務
  市町村は、必要な小学校、中学校を設置しなければならない。
  ……学校教育法第29条、第40条
   
5 義務教育の無償
  国、地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
  ……教育基本法第4条
学校教育法第6条



(参考法令)


学校教育法
第6条   学校においては、授業料を徴収することができる。ただし、国立又は公立の小学校及び中学校、これらに準ずる盲学校、聾学校及び養護学校又は中等教育学校の前期課程における義務教育については、これを徴収することができない。
   
第19条   小学校の修業年限は、六年とする。
   
第22条   保護者(子女に対して親権を行う者、親権を行う者のないときは、未成年後見人をいう。以下同じ。)は、子女の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子女が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
2   前項の義務履行の督促その他義務に関し必要な事項は、政令でこれを定める。
   
第29条   市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるに必要な小学校を設置しなければならない。
   
第37条   中学校の修業年限は、三年とする。
   
第39条   保護者は、子女が小学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五才に達した日の属する学年の終わりまで、これを、中学校、中等教育学校の前期課程又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の中学部に就学させる義務を負う。
2   前項の規定によつて保護者が就学させなければならない子女は、これを学齢生徒と称する。
3   第二十二条第二項及び第二十三条の規定は、第一項の規定による義務に、これを準用する。
   
第40条   第十八条の二、第二十一条、第二十五条、第二十六条、第二十八条から第三十二条まで及び第三十四条の規定は、中学校に、これを準用する。この場合において、第十八条の二中「前条各号」とあるのは、「第三十六条各号」と読み替えるものとする。

(参考)帝国議会における第4条(義務教育)に関する主な答弁

【国家の義務と規定すべきであり、国民を主語にするのなら権利ではないのか】
○昭和22年3月14日衆議院教育基本法案委員会
<辻田政府委員>  新憲法26条を受けて、憲法の内容を裏づけてそれぞれの国民の立場から書いたわけでありますが、国民の立場から権利があると同時に、また九年の普通教育を受ける義務教育を負うというふうにしたのであります。
   
【9年の義務教育】
○昭和22年3月14日衆議院教育基本法案委員会
<剣木政府委員>  現在の国力の状態からして、義務教育を九年といたしますことを、適当であると判断されたのであろうと考えます。(中略)まず6・3の9年を実施いたしました上で、将来国力の許す範囲におきましてこれの延長をはかっていきたいと考えております。
   
【無償の範囲】
○昭和22年3月14日衆議院教育基本法案委員会
<辻田政府委員答弁>  各国の立法例等も十分研究いたしましたが、わが国の財政上の都合、その他を考慮いたしまして、今日においては授業料を徴収しないことを、憲法の「無償とする」という内容にいたしたいということにいたしまして、ここにそれらを明らかにした次第でございます。
   
【私立学校が授業料を徴収することも憲法上差し支えないのか。】
○昭和22年3月22日貴族院教育基本法案委員会
<剣木政府委員答弁>  国が致しまする場合は当然無償になる訳であります。併し無償の所に行けるにも拘らず、自分の方で私立学校に入りまして、月謝を出しても宜いと云ふ、受け得る権利を放錯致しまして、私立学校に入つた場合には、其の私立学校で授業料を払つて差支ない、一応斯う云う風に解釈して宜いと云ふことに致したのであります。