令和2年度青少年の体験活動に関する調査研究結果報告 ~21世紀出生児縦断調査を活用した体験活動の効果等分析結果について~

令和3年9月8日

2万人以上の子供を0歳から18歳まで追跡調査したデータを用いて、子供の頃の「体験」が、その後の成長に及ぼす効果を分析しました。

文部科学省では、平成13年に出生した子供とその保護者を18年間追跡した調査データを用いて、時系列的な観点から、体験活動がその後の成長に及ぼす影響を分析し、その関連性を明らかにしました。
特に、子供が置かれている環境を考慮し分析を行った結果、小学生の頃に体験活動の機会に恵まれていると、高校生の頃の自尊感情が高くなる傾向が、家庭の経済状況などに左右されることなく見られるなどのことが分かりました。
「体験」とその効果の関連性を検証した調査研究はこれまでにも実施されてきましたが、今回のような規模(サンプル数2万以上)の追跡調査を用いてその関連性を明らかにする分析は、文部科学省として初めての取組です。

1.調査研究の目的

本調査研究は、「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」の調査データ(サンプル数:各年約2.4万~4.7万 調査頻度:0歳~18歳まで年1回)を用いて時系列的観点から子供の頃の体験とその後の意識等の関係を検証し、子供の頃の体験がその後の成長に及ぼす影響を明らかにすることを目的としました。なお、子供の成長には家庭環境が影響すると考えられることから、子供の置かれている環境(家族構成、収入、親のしつけ、住環境等)の影響についても考慮し、分析を行うこととしました。

これまでの分析方法(一例)

子供の頃を思い返して回答(回顧法)により「体験(頻度など)」と、現在の「意識」との関係を調査。

今回の分析方法

同一の保護者・子供に対して年に1回の頻度で18年間実施された「21世紀出生時縦断調査(平成13年出生児)」調査データを用いる。
時系列の関係を踏まえた分析が可能。
→ 体験がその後の成長に及ぼす影響を、より正確に把握

 

2. 調査・分析方法の概要

(1)「21世紀出生児縦断調査(平成13年度出生児)」における、以下に関する調査データを活用して「体験」と「意識等」との関係性(影響・効果)を分析(クロス集計、回帰分析等)しました。

・子供が0歳から5歳の時期に保護者が回答した「家庭による背景・環境、属性等」(世帯類型、父母の収入、親子のかかわり・しつけ等)に関する回答データ
・子供が6歳から12歳の時期に保護者が回答した子供の「体験」(体験活動、遊び、読書、お手伝い)に関する回答データ
・子供が12歳から18歳の時期に子供本人が回答した現在の「意識等」(自尊感情、向学校的な意識、外向性、精神的回復力、心の健康)に関する回答データ

(2)体験活動の効果について質的な側面の情報を得る観点から、体験活動の実施に関わる指導者等(8団体・10名)を対象に、以下についてヒアリングを実施しました。

・体験活動を実践して実感する効果、なぜそのような効果が得られると考えるか
・体験活動の提供方法、指導・支援方法としてどのようなことが重要であるか
・今後の推進に当たって意識していること、留意点等

 

3.研究結果の概要

(1)小学生の頃に体験活動(自然体験、社会体験、文化的体験)や読書、お手伝いを多くしていた子供は、その後、高校生の時に自尊感情(自分に対して肯定的、自分に満足しているなど)や外向性(自分のことを活発だと思う)、精神的な回復力(新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来に対して前向きなど)といった項目の得点が高くなる傾向が見られました。

(2)小学生の頃に異年齢(年上・年下)の人とよく遊んだり、自然の場所や空き地・路地などでよく遊んだりした経験のある高校生も上記と同様の傾向が見られました。

(3)経験した内容(体験活動や読書、遊び、お手伝い)によって影響が見られる意識や時期が異なることから、一つの経験だけでなく、多様な経験をすることが必要であるということも見えてきました。

(4)小学校の時に体験活動などをよくしていると、家庭の環境に関わらず、高校生の時に自尊感情や外向性、精神的な回復力といった項目の得点が高くなる傾向が見られました。

 

4.研究結果から言えること

今回の研究により、これまで直感的に捉えられてきた「体験活動は、子どもの成長にとって大切な要素だ」という感覚を、確かな分析方法により裏付けることができたと考えます。例えば、キャンプやスポーツ観戦、音楽鑑賞や絵本の読み聞かせなど、様々な体験を子育てに取り入れてこられた家庭の取組や、CSR活動等の一環として教育的事業を実践されてきた企業等の取組が、確かに必要なものであったことを裏付ける結果となりました。

これを契機として、全ての子供たちが置かれている環境に左右されることなく、体験の機会を十分に得られるように、家庭ではお手伝いや読書の習慣を身に付けるようにする、地域では放課後などに地域の大人と遊びを通じて交流する機会を設ける、学校では社会に開かれた教育課程の実現を目指して地域と連携しつつ体験活動の充実を図るなど、地域・学校・家庭が協働し、「多様な体験を土台とした子どもの成長を支える環境づくり」を進めていくことが、よりよい社会創りにつながると考えます。

 

5.今後の対応

文部科学省としては、現在、新型コロナウイルス感染症の影響により青少年の体験活動が減少していることから、短期の自然体験活動における感染症対策に関する調査研究を行うとともに、体験活動の機会の提供、CSR活動等により体験活動の提供を実践する企業の表彰といった取組を通じ、青少年の体験活動の推進に努めていきます。

(参考)21世紀出生児縦断調査(平成13年度出生児)について
本調査は、同一客体を長年にわたって追跡する縦断調査として、平成13年度から実施している統計調査であり、21世紀の初年に出生した子の実態及び経年変化の状況を継続的に観察することにより、少子化対策等の施策の企画立案、実施等のための基礎資料を得ることを目的としています。
平成13年を初年として実施しているものであり、「公的統計の整備に関する基本的な計画」(平成21年3月閣議決定)における、少子高齢化等の進展やワークライフバランス等に対応した統計の整備の一つとして位置づけられているものです。

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