令和5年3月24日
このたび,科学技術の理解増進施策の一環として,学習資料「一家に1枚 ウイルス ~小さくて大きな存在~」及び科学技術週間告知ポスターを制作し,ウェブサイトへの掲載を開始します。(令和5年6月5日(月曜日)一部改訂)
科学技術に関し,広く一般国民の関心と理解を深め,我が国の科学技術の振興を図ることを目的に,令和5年4月17日(月曜日)~23日(日曜日)に第64回科学技術週間が実施されます。全国の大学や研究機関,科学館等で,オンラインも活用した研究施設公開や講演会など,多くの関連イベントが開催される予定です。
文部科学省では,この科学技術週間にあわせ,平成17年より,国民に科学技術に触れる機会を増やし,基礎的・普遍的な科学知識の普及を目的とした学習資料「一家に1枚」を制作しています。
この度,第19弾となる,令和5度版学習資料「一家に1枚 ウイルス ~小さくて大きな存在~」(企画:国立研究開発法人理化学研究所,制作監修:「一家に1枚 ウイルス」製作チーム)及び第64回科学技術週間告知ポスターのダウンロード用画像を,文部科学省の科学技術週間のページ(https:/www.mext.go.jp/stw/)に公開しました。
今回の学習資料「一家に1枚」では,昨今の新型コロナウイルス感染症を始め,我が国の社会・経済全体に大きな影響をもたらしてきた「ウイルス」をテーマに,ウイルスが地球上でどのような存在であるのかを人間社会や自然環境の観点で多角的に紹介しています【解説参照】。また紙面の内容をより掘り下げた特設ウェブサイト(※1)も開設します。
今後は,全国の小・中・高等学校,大学等に配布するとともに,配布に御協力いただける全国の科学館,博物館等を通じて科学技術週間中に広く配布を行う予定(※2)です。
(※1)特設ウェブサイト(https://www.ims.riken.jp/poster_virus/)は令和5年度科学技術週間(令和5年4月17日(月曜日)~23日(日曜日))にあわせ,4月11日(火曜日)に公開しました。
(※2)各科学館,博物館等での配布については,科学技術週間の始まる令和5年4月17日(月曜日)以降順次配布される予定です。配布に御協力いただく全国の科学館・博物館等及び科学技術週間協力機関の一覧は文部科学省の科学技術週間のページ(https:/www.mext.go.jp/stw/)にて公開しておりますので,ご覧ください。
<担当> 科学技術・学術政策局人材政策課
課長補佐 川端(内線3884)
科学技術社会連携係
田沼(内線4029),赤松(3833)
電話:03-5253-4111(代表)
国立研究開発法人や大学共同利用機関法人,学会,大学等から御提案いただいた学習資料「一家に1枚」に係る企画(18件応募)について,「一家に1枚」企画選考委員会における審議結果を踏まえ,令和5年度学習資料「一家に1枚」は, 国立研究開発法人理化学研究所に企画いただいたテーマに決定いたしました。
(五十音順・敬称略)
大草 芳江 NPO法人natural science 理事
小川 達也 独立行政法人国立科学博物館 広報・運営戦略課 計画・評価担当 主任
福田 哲也 追手門学院 初等中等部ロボット・プログラミング教育研究推進室 室長/追手門学院大学 特任准教授
三ツ橋 知沙 日本科学未来館 科学コミュニケーション室
武藤 良弘 元公益財団法人ソニー教育財団 理科教育推進室長
また,制作に当たっては,下記の方々及び各機関に御協力いただきました。
国立研究開発法人理化学研究所
「一家に1枚 ウイルス」製作チーム
小嶋 将平 理化学研究所
渡士 幸一 国立感染症研究所・東京理科大学・早稲田大学
渡辺 登喜子 大阪大学
堀江 真行 大阪公立大学
麻生 啓文 京都大学・東京大学
多賀 佳 東京医科歯科大学
川久保 修佑 北海道大学
塩野谷 果歩 国立感染症研究所・東京理科大学
日本ウイルス学会,伊東 潤平(東京大学),岩本 将士(ロックフェラー大学),佐藤 有希代(ケルン大学),高橋 迪子(高知大学),冨高 保弘(農業・食品産業技術総合研究機構),兵頭 究(岡山大学),藤田 滋(東京大学),古瀬 祐気(長崎大学),宮本 翔(国立感染症研究所),望月 智弘(東京工業大学・神戸大学),山崎 雅子(国立感染症研究所・東京理科大学)
国立感染症研究所,奈良県立万葉文化館,National Museum of Health and Medicine,大島 一里(佐賀大学),緒方 博之(京都大学),鈴木 信弘(岡山大学),野田 岳志(京都大学),疋田 弘之(京都大学),増田 税(北海道大学),Hangil Kim(北海道大学),Louisa Howard
ヤマノ印刷株式会社
2020年から世界中で大流行している新型コロナウイルス感染症をきっかけに,ウイルス感染症の制御が我が国のみならず世界が乗り越えるべき社会課題であることが再認識されています。ウイルスを多角的に理解し,より良い未来を拓くきっかけとなることを期待し,学習資料「一家に1枚 ウイルス」を制作いたしました。
ウイルスは細菌よりも小さい病原体として1892年に発見されました。その後科学の発展と共に,様々な病気の原因がウイルスであることが解明され,またウイルス感染症の予防策や治療法が開発されてきました。1980年には世界保健機関(WHO)が天然痘の根絶を宣言し,人類はウイルス感染症の一つに打ち勝ちました。しかし,ウイルス感染症の世界的な大流行はいまだ発生しており,2009年に始まったパンデミックインフルエンザや2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行は社会や経済に大きな影響を与えました。人類は,ウイルス感染症の制御という地球規模の課題に直面しているのです。一方で,自然環境中においてウイルスは生態系の構成要素であり,生態系の維持や生物同士の共生関係の構築などに関わっています。また,ウイルス感染の仕組みを活用することで,病気の治療など人間社会の役に立つこともあります。ウイルスは目に見えない小さな存在ですが,人間社会や地球環境にとっては大きな存在です。この学習資料では,ウイルスが人間社会や自然環境においてどのような存在であるかを6つの視座(以下①~⑥)から多角的に解説しています。
ウイルスが何であるか,ウイルスの形や大きさ,細菌との違いなどのウイルスの基礎知識を解説しています。
山や海,そして熱水などの自然環境中にもたくさんのウイルスが存在しています。自然環境中のウイルスが生態系の構成要素であり,生態系の維持や生物同士の共生関係の構築に関わっていることや,生物の多様性などに関わっていることなどを解説しています。
ウイルス感染症発生の一因が,自然環境から人間社会への原因ウイルスの侵入であることを解説しています。例えば,ウイルスが自然宿主から他の生物へうつることや,カやダニにより生物間でウイルスが媒介されること,また地球温暖化などの気候変動により,ウイルスを保有する動物の生息域が変化していることを解説しています。
ウイルスがヒトに引き起こす病気や,人間の暮らしや農業・畜産業・養殖業などの 産業への影響,そして検疫などの感染症から社会を守る社会基盤を解説しています。 また,自然環境の破壊もウイルス感染症発生に関わることも解説しています。
ウイルスは悪い存在だと思われがちですが,使い方次第で社会の役に立つことを解 説しています。例えば,脳腫瘍の一種である神経膠腫の治療や,iPS細胞の作成など の再生医療研究などに活用されていることを解説しています。
古来,人類はウイルス感染症を経験しており,科学・医学の発展と共に治療法や予防策が開発されてきたことを解説しています。例えば,節分の豆まきや大仏などの疫病退散を願った文化,ウイルスの発見や天然痘の根絶などの歴史的事実を紹介しています。そして,ウイルスを意識した上で暮らしやすい社会とは何かを問いかけます。
また今回の学習資料「一家に1枚 ウイルス」には特設ウェブサイトも用意しています。このサイトでは,各項目のより詳しい解説や,多様なウイルスの電子顕微鏡写真も用意しています。本資料の解説動画もこのサイトから見ることができます。資料中のQRコードからアクセスできますので,ぜひ特設ウェブサイトもご覧ください。
これまでの精力的な研究により,ウイルスや感染症に関する多くの知見が明らかとなり,それらの知見は社会の発展の基盤となり原動力となってきました。昨今次々と出現するウイルス感染症を前に,ウイルス研究の重要性がより一層高まっています。この学習資料「一家に1枚 ウイルス ~小さくて大きな存在~」は,今後の永続的なウイルス研究発展とそれによる社会貢献を期待し,若手研究者を中心に大学や研究所の垣根を越えて多くの方々が携わった結果,制作することができました。本資料を通じて,ウイルスへの理解が広がり,ウイルスへの関心が育ち,より良い社会を考え,そして人類の未来を拓くきっかけになればと心から願っております。
制作に当たり,快く画像や解説を提供していただいた皆様をはじめ,御協力いただいたすべての皆様に改めてお礼申し上げます。
「一家に1枚 ウイルス」製作チーム一同
国立研究開発法人理化学研究所
生命医科学・環境資源科学研究推進室
Email: ims-planning@ml.riken.jp