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細胞内構成因子の動態と機能

1.目標名

細胞内構成因子の動態と機能

2.概要

クライオ電子顕微鏡、超解像顕微鏡、高速原子間力顕微鏡等の観測・計測技術の発展により、細胞内の詳細構造や動態について、分子、原子レベルで迫れるようになってきた。そのような中、細胞内においては、細胞小器官間相互作用(オルガネラコンタクト)や、液-液相分離(LLPS: Liquid-Liquid phase separation)による非膜型オルガネラ等の新しい現象が発見され、細胞の概念が見直されつつある。同時に、細胞生物学は細胞内で起こる現象について、結果だけでなくそこに至る過程、反応の場等まで明らかにしようという時空間情報を伴った新しい研究フェーズに発展しつつある。
細胞内のシステムを理解するためには、因子や反応を個別に把握するだけでなく、生体分子等の空間的局在情報と時間的動態情報を網羅的・統合的に取得し、分子と細胞の間の階層である超分子複合体や細胞小器官等をはじめとした細胞内高次複合体の構造や動態と連関させることが必要である。しかしながら、現状の細胞内の観測・計測技術には空間・時間解像度の「空白地帯」に相当する領域が存在し、細胞内高次複合体の動態と機能との因果を十分に理解するに至っていない。
本戦略目標では、この観測・計測技術の「空白地帯」を埋める理論を構築し、革新的な技術を創出することにより、細胞内高次複合体の微小空間での「動態」-動的構造・局在・数量-を観測・計測し、「機能」との因果を解析することにより細胞内のダイナミクスの統合的理解を目指す。

3.達成目標

本戦略目標では、細胞内の観測・計測技術及び分子操作技術、シミュレーション技術等を開発し、それらを組み合わせることにより、細胞内高次複合体の動的構造・局在・数量と機能との関係について、相関にとどまらず因果関係をも明らかにすることで、細胞内で起こる未解明の生命現象の基礎原理を見出し、理論化することを目指す。具体的には、以下の4つの達成を目指す。
(1)細胞内高次複合体の時空間的及び定量的理解のための計測・解析基盤技術の開発
(2)非平衡・複雑系の細胞内環境に共通する原理の解明
(3)細胞内高次複合体の状態を操作・制御する基盤技術の開発
(4)細胞内高次複合体の相互作用や構造-機能相関の理解

4.研究推進の際に見据えるべき将来の社会像

3.「達成目標」の実現を通じ、細胞内構成因子の構造・機能を可視化し、細胞内のダイナミクス全体のモデル化を図り、タンパク質の機能発現の解明をはじめとした研究成果を創出する。これらにより、以下に挙げるような社会の実現に貢献する。
・慢性疾患や老化関連疾患等の根本治療が実現し、健康寿命延伸が実現した社会
・より科学的なエビデンスに基づく治療効果の高い医薬品の効率的な開発が可能な社会
・デザインに基づく超高効率なバイオ生産が可能になる社会

5.具体的な研究例

(1)細胞内高次複合体の時空間的及び定量的理解のための計測・解析基盤技術の開発
細胞を構成する因子を時空間的・定量的に理解するため、超分子複合体、細胞小器官等をはじめとした細胞内高次複合体の動的構造・局在・数量を計測・解析する技術の開発に資する研究を行う。具体的には以下の研究等を想定。
・広域(細胞)と局所(分子等)を同時に見る(原子レベルで細胞を丸ごと可視化する)研究
・多種分子間相互作用を同時に計測する研究
・イメージング結果からゲノム・オミックス状態を推定する研究

(2)非平衡・複雑系の細胞内環境に共通する原理の解明
計測データから構築・検証した数理モデルの利用等により、細胞内動態の研究を行う。具体的には以下の研究等を想定。
・熱力学、統計力学的解析を用いた細胞内現象の理解
・分子動力学法等を用いた細胞内現象のモデル化、シミュレーションによる細胞内動態の推定と検証

(3)細胞内高次複合体の状態を操作・制御する基盤技術の開発
人工的に設計された化合物等により、遺伝子発現や、超分子複合体の形成・分解等を自在に制御することを可能とする技術の開発に資する研究を行う。具体的には以下の研究等を想定。
・細胞内分解機構を自在に制御し、標的とする分子を選択的に分解・排出する研究
・分子複合体を試験管内で再構成することによる細胞の理解
・non-coding RNAとタンパク質の複合体や凝集を操作・制御する研究

(4)細胞内高次複合体の相互作用や構造-機能相関の理解
(1)の手法等により計測した培養細胞株やモデル生物における細胞内動態と機能に対する多面的かつ継時的な解析等により、構造-機能相関を解明する。具体的には以下の研究等を想定。
・LLPS等の非膜型オルガネラの機能に関する研究
・オルガネラコンタクトの生理的意義に関する研究
・細胞小器官の機能不全に関する研究

6.国内外の研究動向

クライオ電子顕微鏡や超解像顕微鏡に代表される細胞内イメージング技術における解像度の飛躍的向上により、分子レベル及び細胞レベルでの生命現象の計測研究が進展し、現在では研究の注目は分子と細胞の中間の階層にある細胞小器官や超分子複合体、もしくは非膜型オルガネラの計測へと移行しつつある。また、生命科学と情報科学・物理学等との異分野融合により、生命現象の階層を超えた包括的な理解に向けた研究が世界的に盛んに行われている。

(国内動向)
現在、新学術領域研究「情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理」(平成31~令和5年度)にて、「情報の物理学」理論研究と「生命現象における情報」の実験・計測の融合プロジェクトが開始され、生命科学のための情報物理学構築がなされている。
計測・解析技術の動向として、イメージング技術の支援を目的とした、新学術領域研究・学術研究支援基盤形成 「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」(平成28~令和3年度)事業及び日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)」事業が推進されており、また、金沢大学のナノ生命科学研究所が「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」事業にて、高速原子間力顕微鏡をはじめとしたナノレベル計測技術の拠点形成を行っている。
また、科学技術振興機構(JST)のERATO「水島細胞内分解ダイナミクスプロジェクト」(平成29~令和4年度)にてタンパク質分解機構のダイナミクス解明研究が、ERATO「胡桃坂クロマチンアトラスプロジェクト」(令和元~6年度)にてゲノムDNAの折りたたみ構造と機能解明のための研究が行われており、個々の生命現象において、ダイナミクス解明に着目した研究領域が確立されつつある。

(国外動向)
平成31年4月に、「Imaging Across Scales: Leveraging the Revolution in Resolution」というテーマでキーストーン・シンポジウムが開催されており、クライオ電子顕微鏡、超解像顕微鏡、高速原子間力顕微鏡、イメージングプローブや光-電子相関顕微鏡法(CLEM)について発表がなされ、今後の方向性として、階層を超えたイメージングというキーワードが挙げられている。
米国NIH(National Institute of Health)及びNIGMS(National Institute of General Medical Sciences)にて、クライオ電子顕微鏡を用いた研究推進及びコアファシリティ形成のための「Transformative High Resolution Cryo-Electron Microscopy」プロジェクトで、クライオ電子顕微鏡の技術高度化などが図られている。

7.検討の経緯

「戦略目標の策定の指針」(令和元年7月科学技術・学術審議会基礎研究振興部会決定)に基づき、以下のとおり検討を行った。

1.科学研究費助成事業データベース等を用いた国内の研究動向に関する分析及び研究論文データベースの分析資料を基に、科学技術・学術政策研究所科学技術予測センターの専門家ネットワークに参画している専門家や科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)の各分野ユニット、日本医療研究開発機構(AMED)のプログラムディレクター等を対象として、注目すべき研究動向に関するアンケートを実施した。

2.上記アンケートの結果及び有識者ヒアリング等を参考にして分析を進めた結果、細胞内機能素子の動的構造・局在・数量と機能の相関の解明と革新的技術開発が重要であるとの認識を得て、注目すべき研究動向「アトミック・セル・ダイナミクス」を特定した。

3.令和元年11月に、文部科学省とJSTは共催で、注目すべき研究動向「アトミック・セル・ダイナミクス」に関係する産学の有識者が一堂に会するワークショップを開催し、注目すべき国内外の動向、研究や技術開発の方向性、研究期間中に達成すべき目標等について討論した。ワークショップにおける議論やJST-CRDSのライフサイエンス・臨床医学ユニット等の提案を踏まえ、本戦略目標を作成した。

8.閣議決定文書等における関係記載

「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)
第3章(1)<2> i)
我が国は既に世界に先駆けて超高齢社会を迎えており、我が国の基礎科学研究を展開して医療技術の開発を推進し、その成果を活用した健康寿命の延伸を実現するとともに、医療制度の持続性を確保することが求められている。

「健康・医療戦略」(平成26年7月22日閣議決定、平成29年2月17日一部変更)
2.(1)1)
(中略)我が国の高度な科学技術を活用した各疾患の病態解明及びこれに基づく遺伝子治療等の新たな治療法の確立、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)及び革新的医薬品、医療機器等の開発等、将来の医薬品、医療機器等及び医療技術の実現に向けて期待の高い、新たな画期的シーズの育成に取り組む。

「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日閣議決定)
第2 I-1.(2)iii)
生活習慣病や認知症の予兆を発見できるバイオマーカー・リスクマーカーの研究・開発を促進するとともに、開発されたバイオマーカーの有用性を検証する。また、生活習慣病や認知症の予防等の効果が期待できる医薬品等の研究・開発を進める。

9.その他

本戦略目標に関連する施策として、令和2年度研究開発目標「プロテオスタシスの理解と医療応用」においては、タンパク質の変性・凝集・分解等の動態を細胞から個体レベルで解析することで、疾患発症に至る新たな分子機構を解明することを目指すことから、本戦略目標との技術連携等により効率的・効果的な研究推進が期待される。
本戦略目標の下で行われる研究によって得られたデータや開発された技術等については、領域内外における適切な活用や共有を推進するとともに、新学術領域研究・学術研究支援基盤形成 「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」(平成28~令和3年度)事業や金沢大学のナノ生命科学研究所の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」事業及び日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)」事業等の世界を牽引する計測・解析技術の研究開発基盤との連携が期待される。

お問合せ先

研究振興局基礎研究振興課
金子、濱田
03-5253-4111(内線4120)