一 地方教育行政

教育委員会制度の運用をめぐる諸問題

 教育委員会制度は我が国の教育制度の中で次第に定着し、今日に至っているが、その運用をめぐって、いくつかの問題が提起された。

 第一は、県費負担教職員の任免の際、市町村教育委員会が都道府県教育委員会に対して行う内申に関する問題である。昭和四十二年九月、日教組の指示を受けた福岡県教職員組合のいわゆる「内申阻止闘争」の結果、福岡県教育委員会の一般的指示にもかかわらず、一部の市町村教育委員会から、争議行為を行った教職員に対する処分内申書が提出されないという事態が発生した。文部省は、四十九年十月、初等中等教育局長通達により、都道府県教育委員会が市町村教育委員会に対し内申を求め、最大限の努力を払ったにもかかわらず、市町村教育委員会が内申をしないというような異常な場合には、市町村教育委員会の内申がなくても任命権を行使することができる旨の解釈を示し、これに基づいて、福岡県教育委員会は、内申がないままで懲戒処分を行った。処分を受けた者は、これを不服として処分取消請求訴訟を提起したが、六十一年三月、最高裁は県教育委員会の処分を認容する判決を行い、この問題の解決が図られた。

 第二は、教育委員の選任方法の問題である。旧教育委員会法下において行われていた教育委員の公選制は、教育の政治的中立性という観点から問題があったことから、現行の地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)においては、地方公共団体の長が議会の同意を得て教育委員の任命を行うこととなっている。ところが、東京都中野区においては、教育委員の選任に際して区民投票を実施し、区長はその結果を尊重しなければならないという、いわゆる「準公選」の実施を求める動きが起こり、五十三年十二月、準公選条例が区議会で可決された。このような条例は、長の専属的な固有の権限である、教育委員候補者の選定権に制約を加えるものであることから、文部省は、五十五年二月に初等中等教育局長通知により是正を指導した。しかし、中野区においては、その後の度重なる指導にもかかわらず、五十六年二月に第一回区民投票を実施し、現在まで三回にわたって区民投票を行ってきているが、回を重ねるごとに投票率は低下してきている。

教育委員会の活性化

 昭和六十一年四月、臨時教育審議会は第二次答申において、教育委員会の状況を見ると、必ずしも制度本来の機能を十分に果たしているとは言い難いとして、その活性化のため、教育長の専任化(市町村)と任期制の導入などの提言を行った。文部省はこれを受け、「教育委員会の活性化に関する調査研究協力者会議」を発足させ、同会議の報告を参考に、六十二年十二月、教育助成局長通知を出し、時代の進展に応じた行政需要にこたえるため、教育委員及び教育長に適材を選任すること、教育委員会の会議の運営の改善を図ること、地域住民の意向等の反映に努めることなど、教育委員会の組織及び運営の改善充実について指導した。また、六十三年三月、教育長の専任制(市町村)及び任期制の導入を内容とする地教行法の一部改正法案を国会に提出したが、審議未了廃案となった。

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