二 海外子女教育の充実

海外在留邦人子女の教育機会

 海外に在留する邦人及びその同伴する子女の数は、我が国の国際的諸活動の進展に伴って増加の一途をたどり、義務教育段階相当年齢の児童生徒数は、平成三年度に五万人を超え昭和四十七年度の約四・六倍にもなっている。

 これらの児童生徒のための教育施設(在外教育施設)としては、日本人学校、補習授業校、私立在外教育施設等がある。日本人学校は、国内の小学校又は中学校と同等の教育を行う教育施設である。三十一年にパンコック日本人学校が設置されて以来、アジアを中心に設置されたが、四十六年にデュッセルドルフに日本人学校が設置されてからは、欧米諸国にも設置されるようになり、平成三年度には、合計五七の国等に八六校設置されるに至った。現在約一万八、〇〇〇人の児童生徒がこれらの学校で学んでいる。補習授業校は、現地校、国際学校等に通学している在留邦人子女に対し、土曜日や放課後等を利用して国内の小学校又は中学校の一部の教科について授業を行う教育施設である。昭和三十三年にワシントンに設置されて以来、北米・欧州を中心に増加し、平成三年度には、世界五二か国の一四九校に約二万二、〇〇〇人の児童生徒が学んでいる。また、私立在外教育施設等は、国内の学校法人等が諸外国に設立した教育施設で、小学校、中学校又は高等学校と同等の教育を行うものである。昭和四十七年に立教英国学院が設立されて以来、十数年間設立されなかったが、国際化の進展や外国政府・自治体の誘致などにより六十一年以降毎年設立されるようになり、平成三年度には一四校となっている。

日本人学校等への教員派遣

 海外子女教育に関する国の施策は、昭和三十年代に、外務省において、日本人学校の校舎借料及び現地採用講師謝金が予算措置されたことに始まる。国による教員派遣は、三十七年度、パンコック日本人学校へ国立大学附属学校の教員が派遣されたものが最初である。当時は、例えば、パンコック日本人学校には東京学芸大学附属学校の教員を継続して派遣するという、いわゆる「世話大学方式」であったが、必要教員の数が増加したことから、四十一年度には公立学校の教員からも公募することとなり、また、四十四年度からは、公立学校からの派遣教員について定数措置を講じた。しかし、四十年代後半において、派遣教員数の増加により都道府県教育委員会の財政負担が重くなるなど、その自発的協力が得にくくなり、相当数の欠員を生じてきた。また、派遣期間中の身分も研修、職専免、休職等都道府県により区々であった。このようなことから、五十三年度には、教員派遣に協力する都道府県に対し、派遣教員の国内給与に相当する経費を「在外教育施設派遣教員経費交付金」として交付する制度を創設して、派遣教員の安定的確保及び派遣期間中の身分の統一(研修出張)を図った。さらに、五十六年度からは、教員派遣事業を統一的に処理するため、派遣教員の委嘱者を外務大臣から文部大臣に変更するとともに、それまで外務省において所管していた教員派遣経費(赴任・帰国旅費及び在勤手当)等についても文部省において所管するようになった。このように日本人学校等への教員派遣は制度的にも、また予算的にも充実し、平成三年度には約一、二〇〇人に達している。

日本人学校等の教育の充実

 教員派遣制度のほか、日本人学校等の教育水準の向上を図るための施策として、昭和四十二年度から、在外教育施設教材整備事業及び小・中学校用の教科用図書の無償配布事業が実施された。また、四十六年には、民間の立場から海外子女教育の振興を図ることを目的として財団法人海外子女教育振興財団が発足するとともに、五十三年には、東京学芸大学に全国共同利用施設として海外子女教育センターが設置された。

 さらに、平成二年度から、海外子女教育の新たな展開の一環として、在外教育施設を拠点とした現地社会との国際交流活動を積極的に推進していくための国際交流ディレクターの派遣、派遣教員の登録・事前研修を実施するとともに、在外教育施設と国内関係機関との間をパソコン通信で結ぶ在外教育施設等情報ネットワーク整備のための調査研究等を開始した。また、三年十一月には、在外教育施設における国際化に対応した教育を一層推進するとともに、その適切な運営と教育水準の確保等を図る観点から、在外教育施設文部大臣指定制度を在外教育施設文部大臣認定制度に改めた。指定制度は、昭和四十七年、主に日本人学校の修了者に対し国内の上級学校への入学資格を付与するための救済措置として設けられたものであるが、認定制度により、海外に所在する特色を十分に生かした教育課程が編成できることを明確にするとともに、認定在外教育施設における勤務年数を校長及び教頭の基礎資格である在職年数として認め、大学入学資格検定における受検科目の資格検定を免除するなど、在外教育施設の生徒又は教職員について国内の学校と同様の取扱いを認める措置の拡大を図った。

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