二 文化財保護行政体制の整備

国における文化財保護行政体制の整備

 国の文化財保護行政体制は、昭和四十三年に、文化庁が設置されたことに伴い、文化財保護委員会が廃止され、文化財保護審議会が設置された。文化庁においては、社会の変化と時代の要請に対応して、文化財保護のための制度の整備、予算の充実、文化財愛護思想の普及等を図るとともに、文化財保護に関する税制上の優遇措置の改善について努力してきている。

国立博物館

 国立博物館は、有形の文化財を収集・保管して、一般に公開するとともに、これに関連する各種の調査研究を行っている。現在、東京、京都、奈良の三館があり、各館において、館蔵品、寄託品を中心に常設展を行うほか、館独自の企画による特別展を行っている。施設面では、昭和五十五年に、京都国立博物館に、我が国初の文化財保存修理専用施設である「文化財保存修理所」を、奈良国立博物館に「仏教美術資料研究センター」を、五十六年には、京都国立博物館に「京都文化資料研究センター」を、五十九年には、東京国立博物館に「資料館」をそれぞれ開設し、研究者に対する情報資料の公開・利用等を図った。

国立文化財研究所

 国立文化財研究所は、文化財に関する調査研究、資料の作成・公表を行っており、現在、東京と奈良の二か所に設置されている。東京国立文化財研究所においては、文化財の保存修復技術等に関する科学的な調査研究を行っているが、近年、中国敦煌莫高窟(とんこうばっこうくつ)壁画の保存修復、米国スミソニアン研究機構との技術協力などの国際交流に関する業務が増加している。また、奈良国立文化財研究所においては、平城宮跡及び飛鳥(あすか)・藤原宮跡の発掘調査を進めるとともに、遺跡や出土品に関する調査研究等を行っているが、昭和四十九年には、「飛鳥資料館」及び「埋蔵文化財センター」を設置し、研究機能の充実を図った。

国立歴史民俗博物館

 明治百年記念事業の一つとして企画が決定された国立歴史民俗博物館は、文化庁においてその構想の具体化を進め、昭和五十六年、大学共同利用機関として千葉県佐倉市に設置され、歴史資料、考古資料及び民俗資料を収集・保管・公開し、調査研究している。

国立劇場

 国立劇場は、伝統芸能の保存・振興の拠点であり、各種伝統芸能の公開や後継者養成事業の拡充に努め、多くの優れた成果をあげてきた。また、施設の拡充にも努めており、昭和五十四年に「演芸資料館」、五十八年に「国立能楽堂」、五十九年には大阪に「国立文楽劇場」をそれぞれ開場し、技の練磨と伝承者養成の場を確保するとともに、国民に対する鑑賞の機会の提供を図った。

地方公共団体における文化財保護行政体制の整備

 文化財は、全国に存在し、平素から周到な注意で保存に当たる必要があり、また、地方文化と密接な関連を有するものであることから、区域内の文化財の保護は、その地方公共団体の本来の任務でもある。

 五十年の法改正もあり、地域の文化財保護に果たす地方公共団体の役割が増大するに伴い、その体制も急速に充実してきた。平成三年五月現在、すべての都道府県及び九四%の市町村が文化財保護条例を制定している。そして、すべての都道府県及び九一%の市町村に文化財保護審議会が設置されている。また、都道府県・市町村に置かれている文化財保護指導委員等も、文化財保護行政の言わば最前線における文化財と地域住民を結ぶ架け橋として活躍している。さらに、伝統文化に対する国民の関心の盛り上がりなどに応じて、各地方公共団体による歴史民俗資料館の建設が進み、文化庁の助成措置もあって、平成三年度までに既に四〇〇館を超える資料館が各地に整備され、地域文化の振興に資している。

文化財愛護施策の充実

 文化財の保護のためには、国民一人一人が文化財を愛護する心を持つことが何よりも重要である。このため、文化庁では、昭和四十一年度から都道府県ごとに一市町村を文化財愛護モデル地区に指定していたが、五十五年度からは、都道府県教育委員会に文化財愛護活動を効果的に行うための実践的研究を委嘱した。これは、都道府県教育委員会管下の市町村教育委員会、小・中・高等学校、博物館、文化財愛護団体等の具体的な活動を通じて研究するもので、特に学校においては、従来からの社会科の授業における文化財学習等のほかに、いわゆるゆとりの時間の中で、地域に伝わる竹細工等の技術の習得、民俗芸能等の体験学習などの事例が増え、学校を中心として地域に根ざした愛護活動が展開されるようになった。

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